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  • リップ溝形鋼とは?強度、材質、成分、規格、寸法を解説

    リップ溝形鋼とは、Cチャンネルとも呼ばれる、断面がC字型の薄肉の鋼材のことです。軽量かつ高強度で、曲がりにくく、たわみにくいため、建築分野の様々な用途で使用されています。主に鉄骨造の建物の補強材として用いられますが、高層ビル・橋梁などの構造材や基礎杭に用いられるH形鋼と比べると低強度です。しかし、背中合わせに組み合わせることで、強度の向上が図れることから、軽量鉄骨造の建物の柱や梁などに用いられることがあります。この記事では、リップ溝形鋼とは何かというところから、リップ溝形鋼の規格や寸法、断面性能、強度、成分などについて解説していきます。リップ溝形鋼とは引用元:製品案内「軽量形鋼」中山三星建材株式会社リップ溝形鋼とは、上図のような、C字型の断面形状を持つ薄肉の鋼材のことです。その形状から、「Cチャンネル」とも呼ばれます。軽量である割に強度が高く、加工性や施工性に優れていることから、重量鉄骨造の補足材や軽量鉄骨造の構造体などに用いられています。ただし、薄肉のために溶接が難しく、ボルトで接合することが多くなっています。リップ溝形鋼は、H字型やL字型、C字型などの様々な断面形状を持つ「形鋼(かたこう)」と呼ばれる鋼材の一種です。その形鋼の中でも、肉厚が薄い「一般構造用軽量形鋼」に分類されます。その軽量形鋼の中には、軽溝形鋼や軽山形鋼、ハット形鋼などがありますが、リップ溝形鋼は、軽溝形鋼に断面が唇形状となるような、「リップ」と呼ばれる部位が付いた断面形状となっています(下図参照)。ちなみに、リップは補強材として役割があり、リップ溝形鋼は、同一の高さや幅、板厚の軽溝形鋼に比べて、断面性能が高くなっています。リップ溝形鋼の具体的な用途としては、以下が挙げられます。●建築・建設…工場・倉庫・学校・体育館・病院などの重量鉄骨造である建築物の下地材(胴縁や母屋など)。事務所・住宅・プレハブ住宅・店舗・車庫などの軽量鉄骨造である建築物の構造材や下地材。●農業関係…ビニールハウス・鶏舎などの骨組み材。●その他…ラック・棚・仮設材・エアコン架台・パレットなどの各種材料。また、リップ溝形鋼の多くは表面処理が施されていて、赤い錆止め塗料が塗布されているものや溶融亜鉛メッキされて白いものが流通しています。酸化皮膜に覆われた黒皮品など、表面処理されていないものもありますが、その場合は、錆止めのための塗装仕上げなどが必要です。参考:亜鉛メッキ鋼板について専門家が解説!特徴や用途についてご紹介!リップ溝形鋼の規格と寸法リップ溝形鋼は、一般構造用軽量形鋼の一種としてJIS規格(JIS G 3350:2021)に規定されています。その中で、断面の標準的な寸法、断面積および単位質量が、以下として記載されています。なお、断面の角部の曲率半径は、板厚(t)の中心線で、通常「1.5t」とされています。寸法 (mm)断面積(cm^2)単位質量(kg/m)高さ [H]辺 [A]リップ [C]厚さ [t]25075254.518.9214.920075254.516.6713.14.014.9511.73.212.139.52204.516.2212.74.014.5511.43.211.819.2715075254.514.4211.34.012.9510.23.210.538.27204.513.9711.04.012.559.853.210.218.0165204.011.759.223.29.5677.512.37.0125.5050204.511.729.203.28.6076.762.36.3224.9612550204.510.598.324.09.5487.503.27.8076.132.35.7474.5112060254.511.729.20203.28.2876.512.36.0924.7840203.27.0075.5010050204.59.4697.434.08.5486.713.27.0075.502.35.1724.061.63.6722.887545152.34.1373.252.03.6372.861.62.9522.326030102.32.8722.251.62.0721.63リップ溝形鋼の形状及び寸法の許容差さらに、形状および寸法の許容範囲も下表のように定められています。形状・寸法の区分形状・寸法の許容差高さ [H]150mm未満±1.5mm150mm~300mm±2.0mm300mm以上±3.0mm辺 [A]30mm~75mm±1.5mmリップ [C]10mm~25mm±2.0mm隣接する平板間の角度※90°±1.5°長さ7m以下+40mm7m超1m増すごとに+5mm長さ方向の曲がり全長の0.2%以下厚さ [t]1.6mm~2.0mm±0.22mm2.0mm~2.5mm±0.25mm2.5mm~3.15mm±0.28mm3.15mm~4.0mm±0.30mm4.0mm~5.0mm±0.45mm5.0mm~6.0mm±0.60mm※平板とは、下図の塗り潰し部分のことです。リップ溝形鋼の断面性能リップ溝形鋼は、上述したように、軽溝形鋼にリップを付けることで断面性能を向上させた鋼材です。断面性能は、以下で説明している、重心位置や断面二次モーメント、断面二次半径、断面係数、せん断中心のような断面の性質によって特徴づけられます。●重心位置…断面を薄い板状の物体と捉え、その物体を水平に保持したときの重力のつりあいが取れる位置のことです。●断面二次モーメント…断面と平行方向の荷重が作用するときの曲げ変形に対する抵抗性のことで、この値が大きいほど曲げにくくなります。●断面二次半径…断面二次モーメントが、ある軸の回りに断面の面積が分布したときと等しくなるように、断面の全面積を一点に集中をさせたときのその点と軸との間の距離のことです。断面と垂直方向の荷重が作用するときの座屈(荷重と垂直方向にたわむ現象のこと)変形に対する抵抗性を示し、この値が大きいほどたわみにくくなります。●断面係数…断面と平行方向の荷重が作用するときの曲げ変形に対する材質に依らない抵抗性のことで、この値が大きいほど曲げにくくなります。●せん断中心…断面と平行方向の荷重が作用するとき、断面にねじれが生じず、曲げ変形のみが発生するようなせん断力の作用点のこと。断面性能は、JIS規格にて、規定されている寸法ごとに算出された値が記載されており、それぞれのパラメータを以下のように定義すると、下図および下表の通りとなっています。<断面性能を表すパラメータの定義>Cx, Cy:x方向、y方向の重心位置Ix, Iy:x軸、y軸回りの断面二次モーメントRx, Ry:x軸、y軸回りの断面二次半径Zx, Zy:x軸、y軸回りの断面係数Sx, Sy:x方向、y方向のせん断中心の位置S.C.:せん断中心(Shear Center)寸法 (mm)重心位置(cm)断面二次モーメント(cm^4)断面二次半径(cm)断面係数(cm^3)せん断中心(cm)H×A×CtCxCyIxIyRxRyZxZySxSy250×75×254.502.0716901299.442.6213523.85.10200×75×254.502.329901217.612.6999.023.35.604.002.328951107.742.7289.521.35.703.202.3373692.37.702.7673.617.85.70200×75×204.502.199631097.712.6096.320.65.304.002.198711007.742.6287.118.95.303.202.1971684.17.792.6771.615.85.40150×75×254.502.655011095.902.7566.922.56.304.002.6545599.85.932.7860.620.66.303.202.6637583.65.972.8250.017.36.40150×75×204.502.5048999.25.922.6665.219.86.004.002.5144591.05.952.6959.318.25.803.202.5136676.45.992.7448.915.35.10150×65×204.002.1140163.75.842.3353.514.55.003.202.1133253.85.892.3744.312.25.102.302.1224841.15.942.4233.09.375.20150×50×204.501.5436835.75.601.7549.010.53.703.201.5428028.35.711.8137.48.193.802.301.5521021.95.771.8628.06.333.80125×50×204.501.6823833.54.741.7838.010.04.004.001.6821733.14.771.8134.79.384.003.201.6818126.64.821.8529.08.024.002.301.6913720.64.881.8921.96.224.10120×60×254.502.2515258.04.632.2241.915.55.30120×60×203.202.1218640.94.742.2231.310.54.902.302.1314031.34.792.2723.38.105.10120×40×203.201.3214415.34.531.4824.05.713.40100×50×204.501.8613930.93.821.8127.79.824.304.001.8612728.73.851.8325.49.134.303.201.8610724.53.901.8721.37.814.402.301.8680.719.03.951.9216.16.064.401.601.8758.414.03.991.9511.74.474.5075×45×152.301.7237.111.83.001.699.904.244.002.001.7233.010.53.011.708.793.764.001.601.7227.18.713.031.727.243.134.1060×30×102.301.0615.63.322.331.075.201.712.501.601.0611.62.562.371.113.881.322.50リップ溝形鋼は、同一寸法の軽溝形鋼と比べると、断面性能が高くなっています。例えば、軽溝形鋼においては、200×75×4.5(高さ[H]×辺[A]×厚さ[t])の断面性能のパラメータは、以下の通りで、リップ溝形鋼よりも値が低くなっています。・断面二次モーメント…(881cm^4, 78.0cm^4)・断面二次半径…(7.64cm, 2.27cm)・断面係数…(88.1cm^3, 13.7cm^3)リップ溝形鋼の機械的性質鋼種記号厚さの区分(mm)降伏点又は耐力(N/mm^2)引張強さ(N/mm^2)伸び%SSC4001.6~5.0245以上400~54021以上5.0~6.017以上リップ溝形鋼の機械的性質は、JIS規格にて上表のように規定されています。リップ溝形鋼は、SS400とほぼ同じ化学成分を持つ材質から、熱間圧延や冷間圧延によって製造されます。そのため、SS400とほぼ同じ強度を持ちます。また、比較のため、SUS304の機械的性質を挙げると、以下の通りとなっています。<SUS304の機械的性質>・耐力…205 N/mm^2 以上・引張強さ…520 N/mm^2 以上・伸び…40 % 以上リップ溝形鋼は、SUS304に比べて、近い強度を持っていますが、延性は低めです。参考:一般構造用圧延鋼材(SS材)とは?【専門家が解説】素人でも3分で判りますリップ溝形鋼の化学成分鋼種記号化学成分 (%)炭素 (C)リン (P)硫黄 (S)SSC4000.25以下0.050以下0.050以下リップ溝形鋼の化学成分は、JIS規格にて上表のように規定されています。ただし、必要に応じて、炭素、リンおよび硫黄以外の合金元素を添加することが許されています。なお、リップ溝形鋼はSS400とほぼ同じ化学成分を持っていますが、SS400には、リンと硫黄の規定しかなく、炭素の含有量は決まっていません。リップ溝形鋼とCチャンネルの違いリップ溝形鋼とCチャンネルに違いはなく、同じ鋼材のことを示しています。JIS規格で規定されているように、リップ溝形鋼が正式名称で、この鋼材のことは、鋼材メーカーでもリップ溝形鋼と呼びます。一方、Cチャンネルは、一般的に形鋼がチャンネルと呼ばれていることと、リップ溝形鋼の断面形状がC字型であることから用いられている呼び名です。建築分野では、Cチャンネルと呼ぶことが一般的となっています。

  • SUS440Cとは?性質、規格、成分、用途

    SUS440Cは、JIS規格に規定されているステンレス鋼の中で最も硬いステンレス鋼です。マルテンサイト系ステンレス鋼の一種で、熱処理を施し、硬度を高めた状態で利用することが前提とされています。強度や耐摩耗性が必要なベアリングやシャフトなどの機械部品によく採用されるステンレス鋼で、高い強度と耐食性から刃物の用途もあります。しかし、SUS440Cにとって最も重要な硬度、さらにはステンレス鋼の大事な特性である耐食性も、熱処理条件によって変化するため、その取扱いには十分な知識が必要です。この記事では、SUS440Cの性質や規格、物理的性質、耐食性、熱処理条件によって変わる機械的性質などについて解説していきます。SUS440CとはSUS440Cとは、炭素の含有量が0.95〜1.20%と多く、焼入硬化性が特に高いマルテンサイト系ステンレス鋼の一種のことです(上図参照)。焼き入れと焼き戻しによって、ステンレス鋼の中でも最高レベルのHRC58以上という硬度を出すことができます。高硬度であるため、耐摩耗性や疲労強度が高く、引張強さも良好で、機械的性質に優れたステンレス鋼です。価格は、SUS304と同程度か、SUS304よりも少し高いくらいとなっています。参考:マルテンサイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめSUS440Cの耐食性は、クロムを16.0〜18.0%とステンレス鋼の中でも比較的多く含有するため、S45Cなどの炭素鋼やSK材・SKS材といった工具鋼と比べると高くなっています。しかし、炭素含有量が多いため、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304など)やフェライト系ステンレス鋼(SUS430など)、他のマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410やSUS420など)に劣ります。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!SUS440Cの被削性は、焼き入れ前(焼き鈍し後の状態)であれば、普通鋼やフェライト系ステンレス鋼と同程度で、オーステナイト系ステンレス鋼よりは良好です。しかし、焼き入れ・焼き戻し後の被削性は悪いため、焼き入れ前に最終的な形状まで成形することが多くなっています。ただし、焼き入れ・焼き戻し後にも加工を行う場合は、硬度に関係なく加工ができる放電加工を採用したり、難削材用の工具を使用したりする必要があります。なお、JIS規格には、SUS440Cに硫黄を添加して被削性を改善したSUS440Fが存在します(上図参照)。SUS440Cの焼入硬化性は特に良好で、焼き入れ・焼き戻しの適用が前提とされているステンレス鋼です。下表は、JIS規格(JIS G 4303:2021)に記載してある焼き鈍し・焼き入れ・焼き戻しの熱処理条件の例ですが、この条件以外の熱処理条件が用いられることもよくあります。熱処理方法焼き鈍し焼き入れ焼き戻し温度 (℃)800~9201010~1070100~180冷却方法徐冷油冷空冷・徐冷…炉の停止後、鋼材を炉内に入れたままにし、炉が冷えるのに合わせて鉄鋼を冷却する方法・油冷…炉の停止後、鋼材を炉から取り出し、油中に入れて冷却する方法・空冷…炉の停止後、鋼材を炉から取り出して、常温の空気中で冷却する方法参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!SUS440Cの用途SUS440Cの用途は、以下のように、優れた硬度や耐摩耗性、比較的良好な耐食性を活かしたものが多くなっています。・ベアリング(軸受)…回転・往復運動する部品を支持する部品のこと。荷重に対する形状不変性や摩擦に対する耐性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。・刃物…包丁やハサミ、カミソリ、医療用メスなどの刃のこと。高い硬度と防錆性が必要であることから、SUS440Cがよく採用されています。・ゲージ…製品検査で形状や精度などの検証に使用する測定・検査ゲージのこと。形状不変性や防錆性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。・金型…耐摩耗性が必要。プラスチックの射出成形用の金型にSUS440Cが採用されることがあります。そのほか、ノズルやシャフト、ポンプ部品などの強度を要する機械部品に用いられています。SUS440Cの規格SUS440Cは、以下のJIS規格に定められています。・JIS G 4303:2021「ステンレス鋼棒」・JIS G 4308:2013「ステンレス鋼線材」・JIS G 4309:2013「ステンレス鋼線」・JIS G 4318:2016「冷間仕上ステンレス鋼棒」SUS440Cの板材の規格はありませんが、市場には出回っています。なお、炭素含有量だけがSUS440Cと異なる、SUS440Aの板材については、以下のJIS規格に記載があります。・JIS G 4304:2021「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」・JIS G 4305:2021「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」また、SUS440CのJIS規格以外の規格との対応は以下の通りです。規格記号JISISOENASTM規格名日本産業規格国際標準化機構欧州標準化委員会米国試験材料協会鋼種名SUS440CX110Cr171.4023S44004SUS440Cの機械的性質焼き鈍し状態の硬さ焼き入れ・焼き戻し状態の硬さHBWHRCHVHBWHRCHV269以下28以下284以下−58以上653以上SUS440Cの硬度は、「JIS G 4303:2021」にて上表のように規定されています。ただし、必ずしもこれらの硬度になるわけではなく、特に焼き入れ後と焼き戻し後の硬さは熱処理条件によって大きく変わります。例えば、様々な焼き入れ温度に対する焼き入れ後(焼き戻し前)の硬度は、以下のような値が報告されています。焼き入れ温度900℃950℃1000℃1050℃1150℃硬度 (HRC)4753596142参照元:シリコロイ ラボ「SUS440C」株式会社シリコロイラボ焼き入れ・焼き戻し状態については、下表のように、様々な焼き戻し温度における多種の機械的性質のデータがあります。焼き戻し温度引張強さ0.2%耐力伸び硬さMPaMPa%HRC焼き鈍し状態7584481427.71 (269HB)204℃20301900459260℃19601830457316℃18601740456371℃17901660456参照元:Penn Stainless「440C STAINLESS STEEL」Penn Stainless Products Inc1020℃で焼き入れを行い、冷却方法として油冷を採用した場合では、焼き戻し後の硬度は、下図のような値になるとのこと。引用元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.SUS440Cの物理的性質密度熱伝導率比熱*比電気抵抗*×10-8磁性*g/cm3W/(m・K)J/(g・℃)Ω・m7.7824.30.4660強磁性参照元:シリコロイ ラボ「物理的性質」株式会社シリコロイラボ、*製品カタログ・技術情報「ステンレス鋼」愛知製鋼株式会社SUS440Cの主な物理的性質は、上表の通りです。ヤング率は、温度によって値が変化しますが、下表の通りとなっています。温度 (℃)20100200300400ヤング率 (GPa)215212205200190参照元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.温度範囲によって値が変わる熱膨張係数は、下表の通りです。温度範囲 (℃)20~10020~20020~30020~40020~500熱膨張係数 ×10-6 (℃)10.410.811.211.612.0参照元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.マルテンサイト系に言えることですが、SUS440Cの物理的性質は、フェライト系と類似しており、オーステナイト系とは異なる点が多くあります。SUS440Cは、普通鋼と同じく強磁性で、この点、SUS304などのオーステナイト系と異なります。比熱や電気抵抗率、熱膨張係数は、オーステナイト系の値よりも低く、密度や熱伝導率、ヤング率は、オーステナイト系の値よりも高くなっています。SUS440Cの成分(単位:%)炭素ケイ素マンガンリン硫黄ニッケルクロムモリブデンCSiMnPSNiCrMo0.95~1.201.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440Cの化学成分は、JIS規格によって上表のように定められています。SUS440Cは、ステンレス鋼の硬度や強度、焼入性に効果がある炭素の含有量が多く、焼入性のほか、耐食性や耐熱性を向上させるクロムの含有量も比較的多いステンレス鋼です。クロムは、防錆性の源となる酸化皮膜を形成し、焼き入れ後には、炭素と結合してクロム炭化物となり、SUS440Cの硬度や強度に寄与します。SUS440Cの耐食性SUS440Cは、上述したように、酸化皮膜の素となるクロムを多く含むため、良好な耐食性を示します。しかし、焼き入れ・焼き戻しによって、クロム炭化物が析出するため、周囲のクロム含有量が減少し、耐食性が低下します。ただし、その耐食性は、焼き戻しの熱処理条件によって異なり、焼き戻し温度が高いほど、クロム炭化物の析出量が多くなるため、耐食性は低くなります。一方、焼き入れ後の耐食性が最も高く、焼き戻し温度が低いほど、耐食性の低下は抑えられます。SUS440Cの腐食耐性は、代表的なステンレス鋼と比べると下表のようになります。腐食条件代表的なステンレス鋼の腐食度 (g/(m2・hr))SUS440CSUS420J2SUS304SUS430SUS630水*0.18-0.08-0.08塩酸 (5%)10.105934.13130.439012.25680.4772硝酸 (5%)18.88310.3100    0.01370.00580.0071硫酸 (5%)15.599122.12870.40628.78070.2707塩酸性塩化第二鉄 (6%)17.119415.90904.1834-7.5868塩水 (5%)0.01290.00670.0000-0.0000参照元:シリコロイ ラボ「耐食性比較表」株式会社シリコロイラボ、*シリコロイ ラボ「耐食性の一例」株式会社シリコロイラボSUS440Cの局所的な腐食耐性は、代表的なステンレス鋼と比べると下表の通りです。孔食は点状に生じ、内部深くに侵食する腐食のことで、孔食電位は孔食の発生する下限の電位で値が小さいほど孔食が生じやすくなっています。腐食条件代表的なステンレス鋼の孔食電位 (mV)SUS440CSUS420J2SUS304SUS430SUS630塩水 (3.5%)-30020-120100参照元:シリコロイ ラボ「耐食性比較表」株式会社シリコロイラボSUS440A、SUS440Bとの違い(単位:%)鋼種炭素ケイ素マンガンリン硫黄ニッケルクロムモリブデンCSiMnPSNiCrMoSUS440A0.60~0.751.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440B0.75~0.951.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440C0.95~1.201.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下そもそも、SUS440CはSUS440Bに炭素を加えて焼入硬化性の向上を図ったもの、SUS440BはSUS440Aに炭素を加えて焼入硬化性の向上を図ったものであり、これらの間の違いは炭素含有量だけです(上表参照)。従って、これらの硬度・靭性・耐食性の関係は、以下のようになります。・硬度:SUS440C > SUS440B > SUS440A・靭性:SUS440A > SUS440B > SUS440C・耐食性:SUS440A > SUS440B > SUS440Cなお、これらの硬度の値は、「JIS G 4303:2021」にて下表のように規定されています。鋼種焼き鈍し状態の硬さ焼き入れ・焼き戻し状態の硬さHBWHRCHVHBWHRCHVSUS440A255以下25以下269以下−54以上577以上SUS440B255以下25以下269以下−56以上613以上SUS440C269以下28以下284以下−58以上653以上

  • SKD11とは?硬度、成分、規格、処理、加工方法まとめ

    SKD11は、プレス加工の金型などに用いられている合金工具鋼です。金型は、特定の部品や製品の型となる工具のことで、金属材料などを強い圧力で挟み込むことで成形します。そのため、金型の材料には、強度や耐摩耗性、形状不変性などが必要であり、SKD11はこれらの特性に優れています。しかし、SKD11の高い強度や耐摩耗性は、焼き入れを施さないと得られません。さらに、SDK11は、焼き入れ後に難削材となってしまうなどの取り扱いの難しさもあります。この記事では、SKD11とはどのような合金鋼なのかというところから、用途、特徴、規格、物理的・化学的性質、熱処理の詳細、加工方法などについて解説していきます。SKD11とはSKD11とは、炭素工具鋼にクロムやモリブデン、バナジウムを添加した合金工具鋼のことです。0.55〜1.50%の炭素を含有し、ケイ素とマンガンの含有量を調整した炭素工具鋼に、各種元素を添加して性質の向上を図ったものです。耐摩耗性に優れ、熱処理歪みが少なく、熱処理によって硬度を上げることができます。JIS規格(JIS G 4404:2015)に規定されている鋼材で、冷間金型用として分類されていることからダイス鋼とも呼ばれます。なお、SKDは、「Steel Kougu Dice」の略で、「Steel」は鉄鋼、「Kougu」は工具、「Dice」は金型を意味します。また、SKD11の「11」には、特に意味はなく、開発された順序を示しているようです。冷間金型用として主流の鋼材で、多くの鉄鋼メーカーからDC11(大同特殊鋼)やSLD(日立金属)などといった相当材が販売されています。さらに近年では、SKD11を改良したDC53(大同特殊鋼)やSLD8(日立金属)などの合金工具鋼が数多く開発されています。参考:【金型製作】金型の種類と基礎や流れについて徹底解説!!SKD11の用途SKD11は、主にプレス機械などの中量から多量生産用の金型に用いられていますが、以下のような用途にも使われています。・転造ダイス…転造盤用の金型のことです(下図参照)。SKD11の高い硬度と優れた耐摩耗性から、SKD11が転造ダイスの材質に選ばれることがあります。なお、転造は、圧力を加えながら転がすことで円筒状の金属材料を成形する加工法で、ネジのネジ山の成形などに用いられます。引用元:工具「C131647 転造丸ダイス 田野井 9M1H/8」小林機械株式会社・フォーミングロール…ロール成形用の回転工具のことです(下図参照)。硬度や耐摩耗性が必要であるため、材質にSKD11が選定されることがあります。なお、ロール成形は、帯状の鋼板を複数のフォーミングロールが組み込まれた機械に通すことで成形する加工法です。引用元:お知らせ「第20回 機械要素技術展に出展しました。」株式会社英田エンジニアリング・シャー刃…鉄板などの切断に用いられる切断機(シャーリングマシン)の刃のことです。SKD11は、焼き入れによって高い硬度が得られ、精度も維持できることから、シャー刃の材質に適しています。・治具…耐摩耗性が必要な治具の材料にSKD11を用いることがあります。・ゲージ…製品の検査工程で形状や精度などを検証するために用いられる測定ゲージ・検査ゲージのことです。SKD11は、摩耗に強い上に、形状が変化しにくく、耐食性も比較的高いことから、各種検査ゲージの材料に用いられます。・金属刃物…SKD11は、包丁の刃金の部分に使用されることがあります。刃金とは、包丁の芯となり、刃となる部分のことです。SKD11を刃金に用い、それをサビに強く、安価なステンレス鋼で挟み込んだものが多く流通しています。参考:プレス金型とは?金型の機能・名称に関しても解説!SKD11の特徴とメリット・デメリットSKD11の特徴は、上述したように、高硬度と優れた耐摩耗性です。ただし、これらの特徴は、熱処理を加えることで現れるため、成形加工後に焼き入れ焼き戻しを行うのが一般的です。SKD11を用いるメリットとしては、以下が挙げられます。●SKD11を用いるメリット・耐摩耗性に優れる・熱処理後には、HRC58~63程度の高い硬度が得られる・熱処理後の変形が小さく、精密な製品の材料に適す・冷間金型の材料の中では、流通性が良く、入手しやすい・冷間加工用であるものの、熱間強度が高く、500℃程度までなら使用に耐えうる比較のため、他の金属材料の硬度を挙げると、SUS304がHRC11(HV200)、焼きならし後のS45CがHRC4.63〜20.64(HBW167〜229)、焼き入れ焼き戻し後のS45CがHRC13.5〜27.71(HBW201~269)、焼き入れ焼き戻し後のSUS440CがHRC55〜61程度となっています。一方、SKD11を用いる際のデメリットとしては、以下が挙げられます。●SKD11を用いるデメリット・熱処理後の硬度が高く、被削性が悪い・熱処理前も、硬度(焼きなまし硬さ)がHRC25(HBW255)程度と比較的高く、被削性が良いわけではない・熱処理後には、金属組織に粗大な炭化物が分散して、高速の摺動摩耗に弱くなる・粗大な炭化物の存在によって被削性がさらに低下する・粗大な炭化物の存在によって靭性が低下し、亀裂や割れが生じやすくなる・溶接時に割れが生じやすく、350〜450℃程度の予熱と後熱が必要・焼き入れ温度が1030℃程度と高い・焼き入れ温度と焼き戻し温度によって硬度が変化するため、熱処理時には、適切な温度管理を要する(下図は焼き入れ温度975℃・1000℃・1025℃・1050℃の焼き戻し硬さ曲線)引用元:F-SDK11 テクニカルデータ「熱処理特性」双葉電子工業株式会社SKD11の性質物理的性質比重密度(g/cm3)熱伝導率(W/mK)熱膨張係数(×10-6/℃)20〜100℃縦弾性係数(GPa)磁性7.807.8026.112.0207あり参照元:特性「物理的性質」株式会社 シリコロイラボSKD11の物理的性質は、上表の通りです。SKD11は、密度や縦弾性係数(ヤング率)の値について、SS400やS45C、SUS304と大きな違いはありません。一方、SKD11の熱伝導率については、SS400の58W/mKやS45Cの41W/mKと比べると低く、SUS304の16W/mKと比べると高くなっています。熱膨張係数については、SS400やS45Cとほぼ同等の値で、SUS304の17.2×10-6/℃と比べると若干低目の値です。このように、SKD11の高温特性は、優れた耐熱材料であるステンレス鋼に近く、熱膨張係数についてはSUS304よりも低いことから、温度変化に対する形状変化も小さくなっています。そのため、プレス機械の金型などに用いる場合でも摩擦熱の影響を受けにくく、また検査ゲージなどの形状不変性が要求される材料に適しています。しかし、熱伝導率の低さから、切削加工に伴う熱が拡散しにくく、切削工具が損傷しやすくなります。化学的性質(単位:%)炭素ケイ素マンガンリン硫黄クロムモリブデンバナジウムCSiMnPSCrMoV1.40〜1.600.40以下0.60以下0.030以下0.030以下11.00〜13.000.80〜1.200.20〜0.50SKD11の化学成分は、JIS規格(JIS G 4404:2015)で規定されており、上表の通りとなっています。ただし、SKD11の化学成分の注意点として、タングステン(W)は意図的に添加してはなりません。また、上表に記載の化学成分以外の含有元素は鉄(Fe)であり、その含有量はおよそ83.4〜86.6%です。SKD11は、クロムを11~13%含有しており、そのクロム含有量はマルテンサイト系ステンレス鋼と同程度です。しかし、ステンレス鋼は、クロム含有量が10.5%以上で炭素含有量が 1.2%以下の鉄鋼のことなので、炭素含有量が1.2%超のSKD11はステンレス鋼に分類されません。また、ステンレス鋼の耐食性は、クロムの存在によって実現されているため、SKD11も比較的耐食性に優れていますが、炭素含有量が多いため、ステンレス鋼ほどの耐食性はありません。その一方、SKD11は、炭素含有量が多い分、硬度が高くなるとともに、焼き入れ性が良くなっています。さらに、モリブデンの添加は、耐摩耗性や焼入硬化性の向上に、バナジウムの添加は、耐摩耗性の向上に寄与しています。SKD11の硬度ここでは、SKD11の熱処理前と熱処理後の硬度についてご紹介します。参考:鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!焼きなましの熱処理温度と硬度焼きなまし焼きなまし硬さ温度冷却方法HRCHBWHV830〜880℃徐冷25.33以下255以下268以下上表は、JIS規格にて規定されているSKD11の焼きなまし条件と焼きなまし硬度です。SKD11は、通常、鉄鋼メーカーにより焼きなましを行った後の状態で出荷されるので、金属加工メーカーにとっては、上表の硬度が熱処理前の硬度となります。なお、焼きなましとは、鉄鋼を高い温度で維持することによって、金属組織を均一化するとともに、鉄鋼を軟らかくし、加工しやすくする熱処理のことです。また、上表の冷却方法にある「徐冷」は、炉の停止後も鉄鋼を炉内に入れたままにし、炉が冷えるのに合わせて鉄鋼を冷却する方法です。焼き入れ焼き戻しの熱処理温度と硬度焼き入れ焼き戻し焼き入れ焼き戻し硬さ温度冷却方法温度冷却方法HRCHBWHV1030℃空冷180℃空冷58以上615以上653以上上表は、SKD11に対して、焼き入れ及び焼き戻しを行った後のJIS規格にて規定されているSKD11の硬度です。SKD11は、通常、成形加工後に熱処理を行うことから、上表の硬度が加工品の使用時の硬度となります。なお、焼き入れは、鉄鋼を硬くするため、焼き戻しは、鉄鋼の硬度を調整して靭性を高めるために行われる熱処理のことです。また、上表の冷却方法にある「空冷」は、炉の停止後、鉄鋼を炉から取り出して、常温の空気中で冷えるのを待つ方法です。近年では、熱処理後のSKD11に放電加工などを行うことがあることから、様々な条件で熱処理を行うことが多くなっています。例えば、焼き入れでは、以下のような熱処理条件が採用されています。●焼き入れの熱処理条件・980〜1010℃ 油冷・1010〜1030℃ 油冷・1000〜1030℃ 空冷・1030〜1050℃ 空冷油冷は、炉の停止後、鉄鋼を炉から取り出して、油中で冷却する方法です。空冷と比較すると、迅速な冷却が可能で、硬度が高くなりますが、靭性は低くなって割れやすくなり、熱処理歪みも大きくなる傾向があります。また、焼き入れ温度によっても、鉄鋼の性質は変わります。焼き入れ温度が高いほど、焼き戻し後の硬度が高くなりますが、靭性は低くなり、熱処理歪みも大きくなります。焼き戻しの熱処理条件によっても、下表のように鉄鋼の硬度は変わります。焼き戻し焼き入れ焼き戻し硬さ温度冷却方法HRCHBWHV150〜200℃空冷60〜63654 〜 705697 〜 772200〜250℃57〜60595 〜 654633 〜 697500℃以上57以下595以下633以下焼き戻しは、焼き入れとは逆に、焼き戻し温度が高いほど、硬度や耐摩耗性は低下し、代わりに靭性が向上します。加工方法SKD11の代表的な加工方法は、切削加工と放電加工です。切削加工SKD11は、熱処理前に切削加工で成形し、熱処理後に研削加工で仕上げを行うという方法がよく採用されます。SKD11は、熱処理前でも、S45Cなどの炭素鋼よりも被削性に劣りますが、切削加工が難しいわけではありません。一方、熱処理後は、硬度が高くなるため、切削加工を行うのは困難です。そのため、熱処理前の切削加工によって、成形を完了させてしまうことがよくあります。しかし、熱処理によって変形が生じることがあるため、高い精度が必要な場合は、熱処理後に研削加工などで仕上げを行います。ただし、熱処理後のSKD11は、研削加工も困難であるため、熱処理後の加工が最小限となるよう、熱処理前の切削加工をしっかり行っておくことが重要です。放電加工SKD11は、放電加工による変形が少ないために放電加工の加工性が良く、熱処理後の加工方法として放電加工がよく採用されます。放電加工は、材料と電極との間でアーク放電を発生させ、材料表面を溶かして除去することで成形する加工法です。硬度によらない加工法であるため、高硬度である熱処理後のSKD11でも問題なく加工することができます。ただし、放電加工を行う場合は、150〜200℃の焼き戻し(低温焼き戻し)ではなく、500℃以上の焼き戻し(高温焼き戻し)を行うことが推奨されます。それは、低温焼き戻しでは、焼き入れによって金属内部に生じた炭化物や応力などが多く残留し、炭化物や残留応力が放電加工による熱影響を受けて亀裂や変形の原因となることがあるからです。しかし、高温焼き戻しを行う場合は、硬度がHRC57以下と低いため、加工品の寿命が短くなるという欠点もあります。参考:放電加工(EDM)の基礎知識(原理、メリット・デメリット、電極)表面処理方法SKD11には、表面特性を向上させるため、めっきや表面改質熱処理を適用することがあります。めっきSKD11は、クロムをマルテンサイト系ステンレス鋼と同程度含有しているので、SS400やS45Cと比べると、錆びにくい材質です。しかし、炭素量が1.4~1.6%と高いことから、ステンレス鋼ほどの耐食性はなく、めっきなどによって防サビ対策を取ることが推奨されます。SKD11に対しては、硬質クロムめっきを施すことが多く、このめっきによって耐摩耗性の向上なども期待できます。参考:クロムメッキとは【中の人が解説】特徴や加工方法について詳細をお伝えします!熱処理SKD11には、さらなる硬度や耐摩耗性を得るためや高温焼き戻しによる硬度の低下を補うために、以下のような表面改質熱処理を行うことがあります。・窒化処理…高温焼き戻し温度程度まで加熱した窒素またはアンモニアガスの雰囲気中にSKD11を保持することで、表面に窒素を浸透させて、表面を硬化します。HV1000以上の表面硬さも実現可能な方法です。・PVD(物理蒸着)…真空中で高温焼き戻し温度程度まで加熱した成膜物質(窒化チタンなど)を付着させて、SKD11の耐摩耗性や耐食性の向上を図る方法です。・CVD(化学蒸着)…真空中または大気中で焼き入れ温度程度まで成膜の元となる物質を加熱し、化学反応を励起・促進してSKD11表面に薄膜を形成する方法です。この方法もまた、耐摩耗性や耐食性の向上が期待できます。ただし、これらの方法では、SKD11を高温に暴露することになるため、熱による変形などに注意する必要があります。

  • FC250とは?特徴、規格、性質、成分まとめ

    今回は、FC250の特徴や規格値などについて解説します。FC250とは、ねずみ鋳鉄の一種で、鋳造用の材料として採用されている材質です。鋳造性に優れた材質のため、SS材やSC材などの鉄材では成形しにくい複雑な形状の製品に適しています。鋳鉄にはFCのほかにFCDがあります。今回は、FCとFCDの違いについても見てみましょう。参考:鉄・鋼・鋳鉄の違いは炭素の量|鋳物の特徴などFC250とは?FC250とは、ねずみ鋳鉄と呼ばれる鋳鉄品の一種です。ねずみ鋳鉄は破面がねずみ色であったことに由来します。鋳鉄とは、溶かした金属を型に流し込んで成形したもののことで、FC250を含むねずみ鋳鉄は、鋳物の材料として使われています。鋳鉄は複雑な形状の型に対しても材料が流れるように、炭素量を多く含有しています。FC250を含むねずみ鋳鉄品は、【JIS G 5501-1995:ねずみ鋳鉄品】にて規格が定められています。FCのあとに続く数字は100・150・200・250・300・350の6種類があります。これらの数値は、FC250の引張強さが250N/mm2以上であるように、JIS規格にて定められた別鋳込み供試材の機械的性質での引張強さを表します。FC250の特徴と用途FC250を含むねずみ鋳鉄の特徴は、耐摩耗性・振動吸収性・鋳造性などに優れている点です。一方で、鋳造ではないS45Cなどの炭素鋼と比べると、粘り気がなく脆い傾向にあります。また、炭素を多く含むため、塑性加工や溶接も不向きです。鋳鉄は複雑な形状でも成形しやすいことから、切削などの金属加工では作りにくい部品に重宝します。そのほかにも耐久性が求められる箇所や、揺れや振れが問題となる箇所に多く採用されています。用途としては、溝蓋・自動車部品・工作機械のベッドなどが代表的です。FC250の成分FC250は、【JIS G 5501-1995:ねずみ鋳鉄品】の規格では化学成分が定められておらず、受渡当事者間の協定によるものとしています。以下は、新潟県工業技術総合研究所にて記述しているFCの化学成分の参考値を示しています。・FCCEを亜共晶(4.3%未満)にする。(炭素当量 CE=C+Si/3)FC250は3.4C%以上、FC300は3.25C%以上が目安。Siはチルが出ない範囲で少ない方がよい。Si量が少ないと高強度になり、肉厚感受性も小さくなり、引けも出にくい。引けと肉厚感受性をともに小さくする配合の理想は、3.2~3.25%C、1.1~1.2%Si。硫黄(S)は0.06~0.08%。引用元:新潟県工業技術総合研究所 鋳鉄の化学成分FC250の規格と機械的性質FC250はJIS規格によると、機械的性質(引張強さ・硬度)についてのみ規定されています。なお、FCは低応力域から局部的な降伏、塑性変形、部分的な破壊が多く発生するなどの理由から、降伏点についても明確な数値が規定されておりません。参考:公益社団法人 日本鋳造工学会 鋳鉄の引張り試験を行ったとき、明瞭な降伏(弾性限)が認められないのはなぜですか?以下の物理的性質については、鋳物メーカーの参考値を記載しています。・FC250 別鋳込み供試材の機械的性質(JIS規格)種類の記号引張強さN/mm2硬さHBFC250250以上241以下引用元:JIS G 5501-1995:ねずみ鋳鉄品・FC250 物理的性質比重 密度 重さ:7.2ヤング率(E/Gpa):100比熱(cal/g℃):0.16~0.17ポアソン比:0.27引用元:友鉄工業株式会社 ねずみ鋳鉄 減衰能 潤滑性 切削性 FC250FCDとの違いFCDとはダクタイル鋳鉄と呼ばれるもので、FCと比べて耐摩耗性や機械的強度に優れています。FCは片状の黒鉛を含有しているのに対して、FCDは球状の黒鉛を含むことから、球状黒鉛鋳鉄とも呼ばれています。FCDはJIS規格にて、350~800までの記号があり、数値の大きいものほど引張強さと硬さの値が大きくなります。FCD700ほどまで硬いものだと、FCに比べて削りにくくなるので、加工の際は注意が必要です。FCDは、FCよりも耐摩耗性や強度を必要とする溝蓋や自動車部品などに加えて、マンホール蓋や上下水道用ダクタイル鋳鉄管、ストリートファニチャーなどの幅広い用途に採用されています。

  • NAK55の特徴、性質、成分、処理、加工方法まとめ

    今回はNAK55の特徴や性質についてご紹介します。NAK55とは、大同特殊鋼株式会社が取り扱う製品である快削性プリハードン鋼の一種です。プリハードン鋼とは、あらかじめ中程度の硬度に熱処理をした鋼材のことで、鋼材メーカーによってNAK**やHPM**といった名称で取り扱われています。大同特殊鋼株式会社が取り扱う快削性プリハードン鋼は、NAK55と似た特性の金属としてNAK80もラインナップしています。今回はNAK55とNAK80の違いについても見てみましょう。参考:プリハードン鋼の解説!デメリット・用途などNAK55の特徴NAK55は、プラスチック金型用鋼のことで、最適条件で37~43HRCの硬さを有しており、そのまま型彫加工を行えます。また、Ni-Al-Cu系時効硬化型の鋼であることから、被削性や肉盛溶接性が良好です。切削加工後や放電加工後の研磨も容易に行えます。使用時の歪みが少ないのもポイントで、精密性を必要とする金型に適している材料です。NAK55の用途は、高性能・精密プラスチック金型、ゴム金型、プレス金型、産業機器等各種部品が代表的です。NAK55の成分記号JIS等該当記号化学成分CSiMnNiCuMoAl快削元素NAK55-0.150.3適量3.01.00.31.0S添加引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80NAK55の規格、比重、降伏点、ヤング率・熱膨張係数(×10-6/℃)記号20~100℃20~200℃20~300℃NAK55NAK8011.312.513.4引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80・熱伝導率(W/m・K)記号25℃100℃200℃300℃400℃NAK55NAK8029.531.433.032.832.1引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80・磁気特性記号最大比透磁率飽和磁束密度(T)残留磁束密度(T)保持力(A/m)NAK55NAK803801.6350.8501100引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80・機械的特性採取方向硬さHRC0.2%耐力N/mm2(kgf/mm2)引張強さN/mm2(kgf/mm2)伸び%絞り%シャルピー衝撃値J/cm2(kgf・m/cm2)L40981(100)1,255(128)154018(1.8)T40981(100)1,275(130)143812(1.2)引張試験片:JIS4号衝撃試験片:2mmUノッチ衝撃試験温度:293K(20℃)引用元:メカトロネット事務局 NAK55 テクニカルデータ・ヤング率(縦弾性係数):201,000N/mm2(20℃)・比重:7.80g/cm3(20℃)・比熱:481J/(kg・°C)(20℃)引用元:メカトロネット事務局 NAK55 テクニカルデータ NAK55の加工方法NAK55は高い硬度を持ちながらも被削性に優れた鋼材で、金型用の材料として多く活用されています。切削時のポイントとしては、加工面の精度を向上させたい場合、切削速度を上げるのが有効です。切込み量と送り量は、加工精度に応じた調整を行います。ツールホルダの振れは、切削面の精度に大きな影響を及ぼすため、定期的にホルダの点検および取替えを行いましょう。NAK55の処理NAK55は、アルマイト処理以外であれば、どのようなめっき処理でも対応が可能です。めっき処理方法は、特別な前処理を必要とせず、通常の鉄材と同様の方法で行います。熱処理については、NAK55が時効硬化型の鋼で、HRC40程度の硬度しか入らない材料のため、焼入れ焼戻しで硬度を上げられない点に注意が必要です。硬度を上げたい場合は、窒化処理を行うことで、加工後に表面の硬度を上げられます。NAK55の長所と短所NAK55の長所●被削性が良好37~43HRCの硬さを有するものの、およそ18HRCの硬さをもつS53Cとほぼ同等かつ、30HRCのSCM440よりも遥かに被削性に優れています。●放電加工後の研磨が容易放電加工後は、加工面の硬さが上昇せず、研磨が容易に行えます。●優れた鏡面仕上げ性切削加工面が優れているため、研磨が容易に行えるほか、ピンホールが出にくくて鏡面の光沢が出やすい特徴があります。●優れた肉盛溶接性肉盛溶接部の硬さ上昇がなく良好。溶接後は時効処理を施すことで、均一なシボ加工面が得られます。●型寿命に優れている硬さがある材料のため、耐摩耗性と耐圧性に優れ、長期の型寿命を実現しています。●錆びにくいNAK55は水にさらされるプラスチック金型にも採用される材料で、錆びにくい特徴があります。NAK55の短所●焼入れ焼戻しをしても硬度が上がらないNAK55は、時効硬化による方法で硬度を上げている鋼材です。これにより、焼入れ焼戻しにより硬度を上げることができません。時効硬化とは、急冷した合金の時間経過で常温化し、合金元素を析出させて材料を硬くすることを指します。硬度を上げたい場合は、鋼の表面に窒素をしみ込ませて硬くする窒化処理を行う必要があります。NAK80との違いNAK80は、NAK55と同じく、大同特殊鋼株式会社が取り扱う快削性プリハードン鋼です。NAK80はNAK55の特徴に加えて、鏡面みがき性に優れています。また、放電加工肌は緻密で美麗なため、梨地シボの代用が可能です。ただしNAK55よりも若干被削性に劣ります。

  • SKD61とは?性質、用途、処理、加工方法まとめ

    今回はSKD61の性質や用途などについて解説します。SKD61とは、【JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材】に規定されている、熱間金型用の合金鋼のことです。SKDの記号は、S:Steel(銅)、Kougu(工具)、Dies(金型)の意味を持ちます。SKD61は、耐熱性や耐摩耗性などに優れていますが、加工性には乏しい特徴がある材料です。SKD61とはSKD61とは、「ダイス鋼」とも呼ばれる熱間金型用の合金鋼のことで、炭素工具鋼にタングステン、モリブデン、クロム、バナジウム等を添加しています。SKD61は、耐熱性・耐ヒートショック性に優れていることから、主にプレス型・ダイカスト型・押出工具・シャーブレードなどの用途で採用されています。メーカーによっては、相当鋼種としてDHA1やDACなどの名称で扱われているほか、改良鋼種として特性が異なる場合もあります。SKDの代表成分は以下の通りです。・SKD61の化学成分種類の記号CSiMnPSCrMoVSKD610.35~0.420.80~1.200.25~0.500.030以下0.020以下4.80~5.501.00~1.500.80~1.15引用元:JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材SKD61は、モリブデンの量が多いことから高温下での引張強さに優れているほか、バナジウムにより靭性も備えています。また、耐熱性も良好なことから、熱による亀裂が発生しにくいのも特徴です。しかし硬度が高く、耐摩耗性に優れている一方で、加工性には乏しいデメリットがあります。SKD61の硬度焼なましの温度と硬度種類の記号焼なまし温度(℃)焼なまし硬さ(HBW)SKD61820~870229以下引用元:JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材焼入れ焼戻し熱処理温度と硬度種類の記号熱処理温度及び冷却方法(℃)焼入焼戻し硬さHRC焼入れ焼戻しSKD611020 空冷550 空冷50以上引用元:セキイハガネ 汎用熱間ダイス鋼(SKD61)SKD61は、焼入れ焼戻しを行うと高い硬度を示しますが、熱処理における寸法変化や歪みが発生しやすい傾向があります。熱処理後の硬度はHRC53~56程度です。SKD61の機械的性質・熱伝導率 ※硬さ:45HRC熱伝導率 W/(m・℃)(cal/cm・sec・℃)20℃200℃400℃500℃700℃30.5(0.073)30.1(0.072)29.3(0.070)28.9(0.069)28.0(0.067)・ヤング率(縦弾性係数)※硬さ:45HRC熱伝導率 W/(m・℃)(cal/cm・sec・℃)20℃200℃300℃400℃500℃600℃700℃206,000(21,000)196,000(20,000)191,000(19,500)178,000(18,200)167,000(17,000)137,000(14,000)98,000(10,000)・比重:7.73g/cm3(硬さ48HRC 熱処理品 20℃時)引用元:メカトロネット事務局 SKD61 テクニカルデータSKD61の加工方法SKD61は、硬度が高くて耐摩耗性に優れた材質のため、加工性には乏しい特徴があります。このことから、工具選びを誤ると刃が摩耗が激しくなったり、破損したりする恐れがあるので注意してください。加工は主に研削加工が採用されています。SKD61の処理方法熱処理ダイス鋼は、一般的に加工後に熱処理を施して硬度を得ます。熱処理の方法は、真空熱処理が適しています。真空熱処理は、真空中で製品を加熱したり、ガスもしくは油で冷却したりする熱処理方法のことで、鋼材の表面が酸化しないことや、脱炭層が発生しないメリットがあります。脱炭層とは、空気中の酸素と鋼材表面の炭素が結合して、炭素を失う現象のことを指します。また、寸法変化や硬度のバラツキが少ないのもポイントです。めっき処理一般的にダイス鋼は錆びやすい特徴があるので、防錆力を上げるためにはめっき処理が必要です。しかしダイス鋼は炭素が多く、酸化皮膜を形成するとめっきを施しにくくなるので、前処理には注意が必要です。ダイス鋼は耐摩耗性が求められる用途で使用するため、工業用硬質クロムめっきや無電解ニッケルめっきが多く活用されています。SKD61とSKD11の違いSKD11は、冷間金型用のダイス鋼で、ゲージ・ねじ転造ダイス・金属刃物・プレス型などの用途で採用されている材質です。熱処理後の硬度は、SKD61がHRC53~56程度に対し、SKD11はHRC58~62程度と高い数値を示します。一方で、靭性と熱間引張強度については、300℃の環境下でSKD11は強度が急激に低下するのに対し、SKD61は一定の強度を保ちます。

  • SK3の基本!性質や特徴を解説(成分・硬度)

    SK3は、JIS規格(JISG4401)で規定されている炭素工具鋼材(SK材)のうち、炭素含有量が1.00~1.10%の材質を指します。特に、硬度・耐摩耗性に優れ、刃物やさまざまな工具などに利用されています。SK3の特徴(硬度、耐摩耗性)と用途SK材は炭素工具鋼材(Steel Kogu)と呼ばれ、炭素(C)含有量が0.55〜1.5%で、特別にCr(クロム)やMo(モリブデン)などの合金元素を添加していない高炭素鋼を指します。特に、工具鋼として利用されています。中でもSK3は、炭素(C)を1.00~1.10%含有するSK材です。2000年にJIS規格が改訂され、「SK3」という材料記号は、「SK105」という材料記号に変更されています。そのため、SK3は、SK105と表記されることもあります。また、SK3材はSK材の中でも比較的炭素含有量が高い鋼種で、硬度及び耐摩耗性に優れるという特徴を持ちます。そのため、切れ味を必要とする刃物などの工具に利用されています。一般にSK材は、高温で使用すると硬度が低下するという特徴があるため、熱の発生が少ない工具などに多く使用されています。例えば、SK3はプレス金型として用いられますが、プレス抜き加工のような加工熱の発生が多い箇所には使われず、少量生産用のパンチやダイに使用されます。<SK3の主な用途>ハクソー・たがね・ゲージ・ ぜんまい・プレス型・治工具・ 刃物SK3の化学成分<SK3の成分、組成(単位:%)>材料記号CSiMnPSSK3(SK105)1.00~1.100.10~0.350.10~0.500.030以下0.030以下引用元:JISG4401:炭素工具鋼鋼材SK3の化学成分は上表の通りです。SK3の機械的性質<鋼材の焼なまし硬さ(除く鋼板及び鋼帯)>材料記号焼なまし温度℃焼なまし硬さHBWSK3(SK105)750〜780 徐冷212以下引用元:JISG4401:炭素工具鋼鋼材SK3の機械的性質は上表の通りです。SK3の物理的性質<熱間圧延鋼板及び鋼帯並びに冷間圧延鋼板及び鋼帯の硬さ>材料記号熱間圧延鋼板及び鋼帯冷間圧延鋼板及び鋼帯熱間圧延まま硬さ焼なまし硬さ焼なまし硬さ冷間圧延まま硬さHRCHRBHRCHvHv (参考値)SK3(SK105)ーー31以下220以下(220〜310)引用元:JISG4401:炭素工具鋼鋼材SK3の物理的性質は上表の通りです。SK3・SK4・SK5の違いSK材の中でも、SK3、SK4、SK5は特に代表的な鋼種です。この3鋼種における成分上の違いは、炭素(C)含有量のみで、SK3が1.00~1.10%なのに対し、SK4は0.90~1.00%、SK5は0.80~0.90%となっています。一般にSK材において炭素量が減少すると、硬度は低下する一方で、靭性、耐衝撃性が向上します。そのため、SK4やSK5では耐衝撃性を必要とする用途、例えば斧や木工用のきり、ペン先などに利用されています。SK3・SKS3の違い前述した通り、SK3は炭素工具鋼材(Steel Kogu)に分類されるのに対し、SKS3は低合金工具鋼材(Steel Kogu Special)に分類され、SKS材と呼ばれます。この2つの鋼材における成分上の最大の違いは、特殊合金の添加の有無です。SK材には特殊合金は含有されていませんが、SKS材にはMn(マンガン)、Cr(クロム)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、V(バナジウム)などの合金が添加されています。SKS3は、Cr(クロム)及びW(タングステン)を含有し、SK3と比較してより焼入れ硬さや耐摩耗性に優れています。また、SK3とSKS3では熱処理方法も異なります。SK3では水で冷却して焼入れを行うのに対し、SKS3では油で冷却して焼入れを行います。これは、焼入れによる硬度の入りやすさの違いによります。SK3は、SKS3と比較して硬度が入りにくい、つまり材質の芯部まで焼入れが入りにくくなっています。

  • STKM(機械構造用炭素鋼鋼管)とは?規格・特徴・比重

    STKMは機械構造用炭素鋼鋼管のことで、代表的なものとして自動車部品・家具部品・家電・支柱などの用途で採用されています。一口にSTKMといっても、種類が豊富にあり、各種類で化学成分や機械的性質が異なります。また、サイズについても、継目無し鋼管や電気抵抗溶接鋼管などの種類によって違いがあります。この記事では「STKMとはどういうもの?」といった疑問にお答えするほか、比重や分類についても解説します。STKMとは?STKMとは、機械構造用炭素鋼鋼管のことを指します。STKMの記号は、S=Steel、T=Tube、K=構造、M=Machineを意味しています。STKMはパイプ状の構造であるため、棒鋼よりも軽量に抑えられるほか、サイズのラインナップも豊富です。また、STKMは細かく種類分けがされており、【JIS G 3445:2021 機械構造用炭素鋼鋼管】の規格にて、機械的性質の異なる22種類が規定されています。STKMの種類は、「STKM11A」のように、STKMの記号の後ろに11~20の数字とA~Cのアルファベットが付随することで判別されています。STKMの比重STKMの比重は、鉄鋼と同様に7.85の値となりますが、厳密には成分の違いによって多少の違いが出てきます。STKMの分類STKMは製法により大きく分けて【継目無し鋼管・電気抵抗溶接鋼管・鍛接鋼管】の3種類に分類されています。ここからさらに、仕上げ方法【熱間仕上げ・冷間仕上げ・電気抵抗溶接したまま】の違いにより細かく分類されます。これらの分類は“種類の記号”の後ろに“製造方法を表す記号”を付けることで、具体的な種類が判別できるようになっています。詳細については下記表の通りです。<種類の記号及び製造方法を表す記号>種類種類の記号製造方法を表す記号製管方法仕上方法11種ASTKM11A継目無し:S電気抵抗溶接:E鍛接:B熱間仕上げ:H冷間仕上げ:C電気抵抗溶接まま:G12種ASTKM12ABSTKM12BCSTKM12C13種ASTKM13ABSTKM13BCSTKM13C14種ASTKM14A継目無し:S電気抵抗溶接:E熱間仕上げ:H冷間仕上げ:C電気抵抗溶接まま:GBSTKM14BCSTKM14C15種ASTKM15ACSTKM15C16種ASTKM16ACSTKM16C17種ASTKM17ACSTKM17C18種ASTKM18ABSTKM18BCSTKM18C19種ASTKM19ACSTKM19C20種ASTKM20A※製造方法を表す記号は、次による。ただし、“-”は空白でもよい。1.熱間仕上継目無鋼管:-S-H2.冷間仕上継目無鋼管:-S-C3.電気抵抗溶接まま鋼管:-E-G4.熱間仕上電気抵抗溶接鋼管:-E-H5.冷間仕上電気抵抗溶接鋼管:-E-C6.鍛接鋼管:-B引用元:JIS G 3445:2021 機械構造用炭素鋼鋼管例えば、STKM13Aの機械構造用炭素鋼鋼管かつ、継目無鋼管の熱間仕上げのものについては、“STKM13A-S-H”もしくは、“STKM13A S H”で表記されるということになります。次に各種製管方法の特徴についても見てみましょう。●継目無し鋼管(シームレス鋼管)継目無し鋼管は、別名「シームレス鋼管」とも呼ばれているもので、その名前の通り継目(seam)が無い(less)ことを表しています。継目無し鋼管は溶接部がなく、全周にわたり凹凸がない均一性のある形状です。これによりねじれに強い特性をもちます。また、溶接では製造が難しい厚肉の鋼管を製造できるのもポイントです。なお、継目無し鋼管は、鋼の塊をくり抜いて管を製造しています。●電気抵抗溶接鋼管(電縫鋼管)電気抵抗溶接鋼管は、別名「電縫鋼管」とも呼ばれているもので、鋼板をまるめてパイプ状にしてから継目を電気抵抗溶接で接合したもののことです。電気抵抗溶接鋼管は比較的生産性が高いのが特徴で、小径から中径サイズの製造が可能です。また、鍛接鋼管に比べて継目の強度が高い傾向にあります。一方で溶接ビードができてしまうので、用途によってはビードを削りとる必要があります。●鍛接鋼管鍛接鋼管は、継目を鍛接によって接合したもののことです。鍛接鋼管は、大量生産に適している点がメリット。一方で熱間加工による成形のため、鋼管の内側と外側に酸化鉄の皮膜が付着してしまい、表面性状に劣ります。

  • 合金鋼の種類と特徴、性質

    合金鋼とは、鉄と炭素以外の合金元素を一定量以上含む鋼のことです。鋼の五元素と呼ばれる炭素やケイ素、マンガン、リン、硫黄を規定量以上含む合金や、その他の元素を一定量以上含有する鋼のことを指します。ステンレス鋼も合金鋼の一種であり、高張力鋼や工具鋼の一部も合金鋼に分類されます。その特徴は、種類によって様々であり、耐食性や耐熱性に優れるもの、強度が高いもの、加工性が良好なものなどがあります。この記事では、合金鋼の詳細や種類、種類によって異なる性質を解説していきます。合金鋼とは?特徴について合金鋼とは、炭素量が0.02~2.14%である炭素鋼に炭素以外の合金元素が一定量以上加えられた鋼のことです。化学成分による分類では、炭素鋼の対となる鋼であるとも言えます。普通鋼に対する特殊鋼を合金鋼と同一視することもあります。ISOでは、下表のように合金鋼が含む添加元素の含有率の下限が定められており、一つ又は複数の元素の含有率が下表の値を超える場合に合金鋼と呼びます。ただし、優れた効果を持つ元素であれば、下表の元素以外を含む場合でも合金鋼と呼ぶことがあります。(単位:%)アルミニウム(Al)ホウ素(B)コバルト(Co)クロム(Cr)銅(Cu)ランタン(La)モリブデン(Mo)ニオブ(Nb)0.10.00080.10.30.40.050.080.06ニッケル(Ni)鉛(Pb)セレン(Se)テルル(Te)チタン(Ti)バナジウム(V)タングステン(W)ジルコニウム(Zr)0.30.40.10.10.050.10.10.05参照元:国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)合金鋼は、含有する合金元素の総量によって、以下のように分類することがあります。●低合金鋼:5%以下●中合金鋼:5~10%●高合金鋼:10%以上合金鋼の意味は幅広く、耐熱鋼などの特定の機能を持つ高機能鋼や、高張力鋼(ハイテン)などの高強度鋼、マンガン鋼やニッケル鋼などの特定の元素を多量に含む鋼なども合金鋼です。よく知られたステンレス鋼も合金鋼に含まれます。したがって、その特徴は合金鋼の種類によって大きく異なり、耐食性や耐熱性が高いものや高い強度を持つもの、加工性が良いものなどと様々です。ただし、合金鋼に共通することとして、炭素鋼と比べて高価であり、市場に出回っている形状や寸法のバリエーションも貧弱であることが挙げられます。参考:鉄と鋼の違い(強度・重さ・硬さ)参考:鉄・鋼・鋳鉄の違いは炭素の量|鋳物の特徴など合金鋼の種類合金鋼には、様々な種類がありますが、ここでは代表的な合金鋼について紹介します。ステンレス鋼ステンレス鋼は、キッチンのシンクなどに使われている優れた腐食耐性を持つ合金鋼です。クロムの含有量が10.5%以上の鋼と定義されているため、高合金鋼に分類されます。クロムを多量に含有するものや、クロムとニッケルを多量に含有するものなど、その種類は多様です。耐食性に加えて、耐熱性に優れた鋼種や加工性を向上させた鋼種、孔食や応力腐食割れなどの一部のステンレス鋼の欠点を補った鋼種などがあります。耐熱鋼耐熱鋼とは、高温環境下においても優れた耐酸化性や強度、腐食耐性を保持する合金鋼のことです。エンジン部品や炉の材料などに用いられます。JIS規格においては、SUH(Steel Use Heat Resisting)で始まる「SUH31」などが耐熱鋼として規定されていますが、それらも化学成分上はステンレス鋼の一種です。「SUS304」などのオーステナイト系ステンレス鋼の一部も耐熱鋼に分類されています。そのほか、モリブデンを数パーセント含むモリブデン鋼や、クロムとモリブデンをわずかに含むクロムモリブデン鋼も耐熱鋼と呼ばれることがあります。高張力鋼(ハイテン)高張力鋼とは、高い引張強さを持つ合金鋼のことです。引張強さがおよそ490 MPa以上のものを指します。特に高強度のものでは1000 MPaを超えるものもあり、超高張力鋼と呼ばれます。なお、代表的な炭素鋼である「SS400」の引張強さは、400 MPaです。シリコンやマンガンなどの合金元素の添加や、金属組織の制御などを行うことで高い強度を実現しています。高圧容器や橋梁、建築のほか、船舶や鉄道車両、自動車のボディなどの材料に用いられます。特に、自動車向けには、高強度である分だけ薄くできるため、自動車の軽量化に役立っています。合金工具鋼・高速度工具鋼合金工具鋼と高速度工具鋼は、工作機械に用いられる工具鋼のうち、炭素工具鋼と呼ばれる炭素鋼が材料ではない工具鋼のことです。合金工具鋼は、炭素工具鋼では硬度や靭性、耐摩耗性などが不足する場合に、工具の材料として選ばれます。一方、高速度工具鋼は、ハイスとも呼ばれ、高温下の硬度や耐軟化性に強みがある工具の材料です。合金工具鋼と高速度工具鋼はそれぞれ、タングステンやクロム、モリブデン、バナジウムなどの合金元素を加えるなどして性質を調整したものです。クロムモリブデン鋼クロムモリブデン鋼とは、クロムを1%程度、モリブデンを0.15~0.45%含む合金鋼のことです。クロムとモリブデンの含有量は少なく、低合金鋼に分類されます。高い強度と靭性を示し、耐熱性にも優れています。溶接が容易で、焼入れを行いやすい素材です。クロムなどの鉄鋼の耐食性に貢献する化学成分を含みますが、それらの量は少なく、ステンレスほどの耐食性はありません。ボルトナット類やエンジン部品、自転車のフレームなどの用途がある合金鋼です。参考:SCM435(クロムモリブデン鋼)材質、硬度、強度、比重、用途合金鋼と錆金や白金などを除くほとんどの金属は、空気中の酸素や水分と反応して錆を生じます。その中でも鉄は、比較的錆びやすく、表面に酸化物の皮膜を生じて金属特有の光沢が失われます。この酸化物の皮膜が、錆と言われるものです。しかし、ステンレス鋼では、空気中においてクロムによって形成された数ナノメートルの酸化皮膜が表面を覆うことで金属内部の腐食を保護しています。さらに、その酸化皮膜が透明であり、外観がほとんど変化しないことから、ステンレスの酸化皮膜は錆と認識されていません。また、酸化皮膜の耐食性は、クロムの含有量が多いほど高くなり、12%程度に達するまで耐食性は向上します(下図左図)。もちろん、この酸化皮膜が破れると、そこから錆が生じる可能性があります。しかし、鋼中のクロムはその傷を自己修復する機能があるため、皮膜は瞬時に再生されます(下図右図)。引用元:日本製鉄株式会社(2005)「モノづくりの原点 科学の世界VOL.22」p2

  • SUS304-HL(ヘアライン材)特徴、用途

    強度が高くサビに強いステンレスは、日常生活はもちろん、産業や工業においても欠かせない金属です。その中でも、SUS304は、最も代表的なステンレス鋼であり、強度や耐食性のみならず、耐熱性にも優れ、低価格で入手できる有用性の高い素材です。SUS304-HLは、そのSUS304の表面に細かい筋目模様を付けた素材であり、適度につや消しされた金属的な質感を強調した美しい外観を持ちます。傷が目立ちにくいなどの特徴もあることから、使い勝手の良い材料として、建材やキッチン、家電や機械など、様々な用途で用いられています。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!SUS304-HLとはSUS304にヘアライン加工をした素材引用元:レコサポート株式会社SUS304-HLとは、上の写真ような、最も流通量の多いステンレス鋼であるSUS304の表面に髪の毛(ヘアライン)のような単一方向の細かい傷を付けるヘアライン加工を施した素材です。ステンレスの種類を示す「SUS304」と素材に対する最終的な仕上げを示す質別記号の「HL (Hairline)」によって表現されます。その外観は、光の当たり方で多様な表情を持つ鈍い光沢を示し、高級感のあるマットな質感を与えます。ヘアライン加工による仕上げは、鏡のように磨き上げる「鏡面仕上げ」よりも傷が目立ちにくいため、外観品質の維持に効果的です。滑り止めの効果もあります。ただし、線模様の方向と直角方向の傷が目立ちやすく、線模様が経年変化によって薄れてきます。その場合、再研磨することで元の美しさと機能を回復できますので、必要性があれば業者に依頼すると良いでしょう。ヘアライン模様はベルト研磨機やサンドペーパーで付けますが、SUS304-HLは通常、P150~P240番の砥粒研磨ベルトで一定方向に磨いたものを指します。しかし、近年では、粗い線模様を付けたハードHLや短く連続した線模様のスクラッチHL、縦横に線模様を付けたクロスHL(下の写真)なども存在します。引用元:三和タジマ株式会社参考:ヘアライン仕上げとは【専門家が語る】製品事例もご紹介!参考:ステンレスのヘアライン加工の種類や特徴について専門家が解説!SUS304-HLの主な用途SUS304-HLの主な用途は、建材、厨房機器、家電製品です。そのほか、インテリアや装飾品、輸送機器、精密機械などにも用いられています。SUS304-HLの用途の例としては、システムキッチンのシンクやワークトップ、パソコンの筐体、エスカレーターの側板、建築物の外装パネルなどが挙げられます。特に、ステンレス製の建築部材としては最も一般的で、階段の側板、手摺り、自動ドアのフレームなど、金属的な質感を持つ多くの建築部材がSUS304-HLです。産業機械の筐体や鉄道車両、腕時計のベルトなどにも採用されています。

  • リップ溝形鋼とは?強度、材質、成分、規格、寸法を解説

    リップ溝形鋼とは、Cチャンネルとも呼ばれる、断面がC字型の薄肉の鋼材のことです。軽量かつ高強度で、曲がりにくく、たわみにくいため、建築分野の様々な用途で使用されています。主に鉄骨造の建物の補強材として用いられますが、高層ビル・橋梁などの構造材や基礎杭に用いられるH形鋼と比べると低強度です。しかし、背中合わせに組み合わせることで、強度の向上が図れることから、軽量鉄骨造の建物の柱や梁などに用いられることがあります。この記事では、リップ溝形鋼とは何かというところから、リップ溝形鋼の規格や寸法、断面性能、強度、成分などについて解説していきます。リップ溝形鋼とは引用元:製品案内「軽量形鋼」中山三星建材株式会社リップ溝形鋼とは、上図のような、C字型の断面形状を持つ薄肉の鋼材のことです。その形状から、「Cチャンネル」とも呼ばれます。軽量である割に強度が高く、加工性や施工性に優れていることから、重量鉄骨造の補足材や軽量鉄骨造の構造体などに用いられています。ただし、薄肉のために溶接が難しく、ボルトで接合することが多くなっています。リップ溝形鋼は、H字型やL字型、C字型などの様々な断面形状を持つ「形鋼(かたこう)」と呼ばれる鋼材の一種です。その形鋼の中でも、肉厚が薄い「一般構造用軽量形鋼」に分類されます。その軽量形鋼の中には、軽溝形鋼や軽山形鋼、ハット形鋼などがありますが、リップ溝形鋼は、軽溝形鋼に断面が唇形状となるような、「リップ」と呼ばれる部位が付いた断面形状となっています(下図参照)。ちなみに、リップは補強材として役割があり、リップ溝形鋼は、同一の高さや幅、板厚の軽溝形鋼に比べて、断面性能が高くなっています。リップ溝形鋼の具体的な用途としては、以下が挙げられます。●建築・建設…工場・倉庫・学校・体育館・病院などの重量鉄骨造である建築物の下地材(胴縁や母屋など)。事務所・住宅・プレハブ住宅・店舗・車庫などの軽量鉄骨造である建築物の構造材や下地材。●農業関係…ビニールハウス・鶏舎などの骨組み材。●その他…ラック・棚・仮設材・エアコン架台・パレットなどの各種材料。また、リップ溝形鋼の多くは表面処理が施されていて、赤い錆止め塗料が塗布されているものや溶融亜鉛メッキされて白いものが流通しています。酸化皮膜に覆われた黒皮品など、表面処理されていないものもありますが、その場合は、錆止めのための塗装仕上げなどが必要です。参考:亜鉛メッキ鋼板について専門家が解説!特徴や用途についてご紹介!リップ溝形鋼の規格と寸法リップ溝形鋼は、一般構造用軽量形鋼の一種としてJIS規格(JIS G 3350:2021)に規定されています。その中で、断面の標準的な寸法、断面積および単位質量が、以下として記載されています。なお、断面の角部の曲率半径は、板厚(t)の中心線で、通常「1.5t」とされています。寸法 (mm)断面積(cm^2)単位質量(kg/m)高さ [H]辺 [A]リップ [C]厚さ [t]25075254.518.9214.920075254.516.6713.14.014.9511.73.212.139.52204.516.2212.74.014.5511.43.211.819.2715075254.514.4211.34.012.9510.23.210.538.27204.513.9711.04.012.559.853.210.218.0165204.011.759.223.29.5677.512.37.0125.5050204.511.729.203.28.6076.762.36.3224.9612550204.510.598.324.09.5487.503.27.8076.132.35.7474.5112060254.511.729.20203.28.2876.512.36.0924.7840203.27.0075.5010050204.59.4697.434.08.5486.713.27.0075.502.35.1724.061.63.6722.887545152.34.1373.252.03.6372.861.62.9522.326030102.32.8722.251.62.0721.63リップ溝形鋼の形状及び寸法の許容差さらに、形状および寸法の許容範囲も下表のように定められています。形状・寸法の区分形状・寸法の許容差高さ [H]150mm未満±1.5mm150mm~300mm±2.0mm300mm以上±3.0mm辺 [A]30mm~75mm±1.5mmリップ [C]10mm~25mm±2.0mm隣接する平板間の角度※90°±1.5°長さ7m以下+40mm7m超1m増すごとに+5mm長さ方向の曲がり全長の0.2%以下厚さ [t]1.6mm~2.0mm±0.22mm2.0mm~2.5mm±0.25mm2.5mm~3.15mm±0.28mm3.15mm~4.0mm±0.30mm4.0mm~5.0mm±0.45mm5.0mm~6.0mm±0.60mm※平板とは、下図の塗り潰し部分のことです。リップ溝形鋼の断面性能リップ溝形鋼は、上述したように、軽溝形鋼にリップを付けることで断面性能を向上させた鋼材です。断面性能は、以下で説明している、重心位置や断面二次モーメント、断面二次半径、断面係数、せん断中心のような断面の性質によって特徴づけられます。●重心位置…断面を薄い板状の物体と捉え、その物体を水平に保持したときの重力のつりあいが取れる位置のことです。●断面二次モーメント…断面と平行方向の荷重が作用するときの曲げ変形に対する抵抗性のことで、この値が大きいほど曲げにくくなります。●断面二次半径…断面二次モーメントが、ある軸の回りに断面の面積が分布したときと等しくなるように、断面の全面積を一点に集中をさせたときのその点と軸との間の距離のことです。断面と垂直方向の荷重が作用するときの座屈(荷重と垂直方向にたわむ現象のこと)変形に対する抵抗性を示し、この値が大きいほどたわみにくくなります。●断面係数…断面と平行方向の荷重が作用するときの曲げ変形に対する材質に依らない抵抗性のことで、この値が大きいほど曲げにくくなります。●せん断中心…断面と平行方向の荷重が作用するとき、断面にねじれが生じず、曲げ変形のみが発生するようなせん断力の作用点のこと。断面性能は、JIS規格にて、規定されている寸法ごとに算出された値が記載されており、それぞれのパラメータを以下のように定義すると、下図および下表の通りとなっています。<断面性能を表すパラメータの定義>Cx, Cy:x方向、y方向の重心位置Ix, Iy:x軸、y軸回りの断面二次モーメントRx, Ry:x軸、y軸回りの断面二次半径Zx, Zy:x軸、y軸回りの断面係数Sx, Sy:x方向、y方向のせん断中心の位置S.C.:せん断中心(Shear Center)寸法 (mm)重心位置(cm)断面二次モーメント(cm^4)断面二次半径(cm)断面係数(cm^3)せん断中心(cm)H×A×CtCxCyIxIyRxRyZxZySxSy250×75×254.502.0716901299.442.6213523.85.10200×75×254.502.329901217.612.6999.023.35.604.002.328951107.742.7289.521.35.703.202.3373692.37.702.7673.617.85.70200×75×204.502.199631097.712.6096.320.65.304.002.198711007.742.6287.118.95.303.202.1971684.17.792.6771.615.85.40150×75×254.502.655011095.902.7566.922.56.304.002.6545599.85.932.7860.620.66.303.202.6637583.65.972.8250.017.36.40150×75×204.502.5048999.25.922.6665.219.86.004.002.5144591.05.952.6959.318.25.803.202.5136676.45.992.7448.915.35.10150×65×204.002.1140163.75.842.3353.514.55.003.202.1133253.85.892.3744.312.25.102.302.1224841.15.942.4233.09.375.20150×50×204.501.5436835.75.601.7549.010.53.703.201.5428028.35.711.8137.48.193.802.301.5521021.95.771.8628.06.333.80125×50×204.501.6823833.54.741.7838.010.04.004.001.6821733.14.771.8134.79.384.003.201.6818126.64.821.8529.08.024.002.301.6913720.64.881.8921.96.224.10120×60×254.502.2515258.04.632.2241.915.55.30120×60×203.202.1218640.94.742.2231.310.54.902.302.1314031.34.792.2723.38.105.10120×40×203.201.3214415.34.531.4824.05.713.40100×50×204.501.8613930.93.821.8127.79.824.304.001.8612728.73.851.8325.49.134.303.201.8610724.53.901.8721.37.814.402.301.8680.719.03.951.9216.16.064.401.601.8758.414.03.991.9511.74.474.5075×45×152.301.7237.111.83.001.699.904.244.002.001.7233.010.53.011.708.793.764.001.601.7227.18.713.031.727.243.134.1060×30×102.301.0615.63.322.331.075.201.712.501.601.0611.62.562.371.113.881.322.50リップ溝形鋼は、同一寸法の軽溝形鋼と比べると、断面性能が高くなっています。例えば、軽溝形鋼においては、200×75×4.5(高さ[H]×辺[A]×厚さ[t])の断面性能のパラメータは、以下の通りで、リップ溝形鋼よりも値が低くなっています。・断面二次モーメント…(881cm^4, 78.0cm^4)・断面二次半径…(7.64cm, 2.27cm)・断面係数…(88.1cm^3, 13.7cm^3)リップ溝形鋼の機械的性質鋼種記号厚さの区分(mm)降伏点又は耐力(N/mm^2)引張強さ(N/mm^2)伸び%SSC4001.6~5.0245以上400~54021以上5.0~6.017以上リップ溝形鋼の機械的性質は、JIS規格にて上表のように規定されています。リップ溝形鋼は、SS400とほぼ同じ化学成分を持つ材質から、熱間圧延や冷間圧延によって製造されます。そのため、SS400とほぼ同じ強度を持ちます。また、比較のため、SUS304の機械的性質を挙げると、以下の通りとなっています。<SUS304の機械的性質>・耐力…205 N/mm^2 以上・引張強さ…520 N/mm^2 以上・伸び…40 % 以上リップ溝形鋼は、SUS304に比べて、近い強度を持っていますが、延性は低めです。参考:一般構造用圧延鋼材(SS材)とは?【専門家が解説】素人でも3分で判りますリップ溝形鋼の化学成分鋼種記号化学成分 (%)炭素 (C)リン (P)硫黄 (S)SSC4000.25以下0.050以下0.050以下リップ溝形鋼の化学成分は、JIS規格にて上表のように規定されています。ただし、必要に応じて、炭素、リンおよび硫黄以外の合金元素を添加することが許されています。なお、リップ溝形鋼はSS400とほぼ同じ化学成分を持っていますが、SS400には、リンと硫黄の規定しかなく、炭素の含有量は決まっていません。リップ溝形鋼とCチャンネルの違いリップ溝形鋼とCチャンネルに違いはなく、同じ鋼材のことを示しています。JIS規格で規定されているように、リップ溝形鋼が正式名称で、この鋼材のことは、鋼材メーカーでもリップ溝形鋼と呼びます。一方、Cチャンネルは、一般的に形鋼がチャンネルと呼ばれていることと、リップ溝形鋼の断面形状がC字型であることから用いられている呼び名です。建築分野では、Cチャンネルと呼ぶことが一般的となっています。

  • SUS440Cとは?性質、規格、成分、用途

    SUS440Cは、JIS規格に規定されているステンレス鋼の中で最も硬いステンレス鋼です。マルテンサイト系ステンレス鋼の一種で、熱処理を施し、硬度を高めた状態で利用することが前提とされています。強度や耐摩耗性が必要なベアリングやシャフトなどの機械部品によく採用されるステンレス鋼で、高い強度と耐食性から刃物の用途もあります。しかし、SUS440Cにとって最も重要な硬度、さらにはステンレス鋼の大事な特性である耐食性も、熱処理条件によって変化するため、その取扱いには十分な知識が必要です。この記事では、SUS440Cの性質や規格、物理的性質、耐食性、熱処理条件によって変わる機械的性質などについて解説していきます。SUS440CとはSUS440Cとは、炭素の含有量が0.95〜1.20%と多く、焼入硬化性が特に高いマルテンサイト系ステンレス鋼の一種のことです(上図参照)。焼き入れと焼き戻しによって、ステンレス鋼の中でも最高レベルのHRC58以上という硬度を出すことができます。高硬度であるため、耐摩耗性や疲労強度が高く、引張強さも良好で、機械的性質に優れたステンレス鋼です。価格は、SUS304と同程度か、SUS304よりも少し高いくらいとなっています。参考:マルテンサイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめSUS440Cの耐食性は、クロムを16.0〜18.0%とステンレス鋼の中でも比較的多く含有するため、S45Cなどの炭素鋼やSK材・SKS材といった工具鋼と比べると高くなっています。しかし、炭素含有量が多いため、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304など)やフェライト系ステンレス鋼(SUS430など)、他のマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410やSUS420など)に劣ります。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!SUS440Cの被削性は、焼き入れ前(焼き鈍し後の状態)であれば、普通鋼やフェライト系ステンレス鋼と同程度で、オーステナイト系ステンレス鋼よりは良好です。しかし、焼き入れ・焼き戻し後の被削性は悪いため、焼き入れ前に最終的な形状まで成形することが多くなっています。ただし、焼き入れ・焼き戻し後にも加工を行う場合は、硬度に関係なく加工ができる放電加工を採用したり、難削材用の工具を使用したりする必要があります。なお、JIS規格には、SUS440Cに硫黄を添加して被削性を改善したSUS440Fが存在します(上図参照)。SUS440Cの焼入硬化性は特に良好で、焼き入れ・焼き戻しの適用が前提とされているステンレス鋼です。下表は、JIS規格(JIS G 4303:2021)に記載してある焼き鈍し・焼き入れ・焼き戻しの熱処理条件の例ですが、この条件以外の熱処理条件が用いられることもよくあります。熱処理方法焼き鈍し焼き入れ焼き戻し温度 (℃)800~9201010~1070100~180冷却方法徐冷油冷空冷・徐冷…炉の停止後、鋼材を炉内に入れたままにし、炉が冷えるのに合わせて鉄鋼を冷却する方法・油冷…炉の停止後、鋼材を炉から取り出し、油中に入れて冷却する方法・空冷…炉の停止後、鋼材を炉から取り出して、常温の空気中で冷却する方法参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!SUS440Cの用途SUS440Cの用途は、以下のように、優れた硬度や耐摩耗性、比較的良好な耐食性を活かしたものが多くなっています。・ベアリング(軸受)…回転・往復運動する部品を支持する部品のこと。荷重に対する形状不変性や摩擦に対する耐性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。・刃物…包丁やハサミ、カミソリ、医療用メスなどの刃のこと。高い硬度と防錆性が必要であることから、SUS440Cがよく採用されています。・ゲージ…製品検査で形状や精度などの検証に使用する測定・検査ゲージのこと。形状不変性や防錆性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。・金型…耐摩耗性が必要。プラスチックの射出成形用の金型にSUS440Cが採用されることがあります。そのほか、ノズルやシャフト、ポンプ部品などの強度を要する機械部品に用いられています。SUS440Cの規格SUS440Cは、以下のJIS規格に定められています。・JIS G 4303:2021「ステンレス鋼棒」・JIS G 4308:2013「ステンレス鋼線材」・JIS G 4309:2013「ステンレス鋼線」・JIS G 4318:2016「冷間仕上ステンレス鋼棒」SUS440Cの板材の規格はありませんが、市場には出回っています。なお、炭素含有量だけがSUS440Cと異なる、SUS440Aの板材については、以下のJIS規格に記載があります。・JIS G 4304:2021「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」・JIS G 4305:2021「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」また、SUS440CのJIS規格以外の規格との対応は以下の通りです。規格記号JISISOENASTM規格名日本産業規格国際標準化機構欧州標準化委員会米国試験材料協会鋼種名SUS440CX110Cr171.4023S44004SUS440Cの機械的性質焼き鈍し状態の硬さ焼き入れ・焼き戻し状態の硬さHBWHRCHVHBWHRCHV269以下28以下284以下−58以上653以上SUS440Cの硬度は、「JIS G 4303:2021」にて上表のように規定されています。ただし、必ずしもこれらの硬度になるわけではなく、特に焼き入れ後と焼き戻し後の硬さは熱処理条件によって大きく変わります。例えば、様々な焼き入れ温度に対する焼き入れ後(焼き戻し前)の硬度は、以下のような値が報告されています。焼き入れ温度900℃950℃1000℃1050℃1150℃硬度 (HRC)4753596142参照元:シリコロイ ラボ「SUS440C」株式会社シリコロイラボ焼き入れ・焼き戻し状態については、下表のように、様々な焼き戻し温度における多種の機械的性質のデータがあります。焼き戻し温度引張強さ0.2%耐力伸び硬さMPaMPa%HRC焼き鈍し状態7584481427.71 (269HB)204℃20301900459260℃19601830457316℃18601740456371℃17901660456参照元:Penn Stainless「440C STAINLESS STEEL」Penn Stainless Products Inc1020℃で焼き入れを行い、冷却方法として油冷を採用した場合では、焼き戻し後の硬度は、下図のような値になるとのこと。引用元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.SUS440Cの物理的性質密度熱伝導率比熱*比電気抵抗*×10-8磁性*g/cm3W/(m・K)J/(g・℃)Ω・m7.7824.30.4660強磁性参照元:シリコロイ ラボ「物理的性質」株式会社シリコロイラボ、*製品カタログ・技術情報「ステンレス鋼」愛知製鋼株式会社SUS440Cの主な物理的性質は、上表の通りです。ヤング率は、温度によって値が変化しますが、下表の通りとなっています。温度 (℃)20100200300400ヤング率 (GPa)215212205200190参照元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.温度範囲によって値が変わる熱膨張係数は、下表の通りです。温度範囲 (℃)20~10020~20020~30020~40020~500熱膨張係数 ×10-6 (℃)10.410.811.211.612.0参照元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.マルテンサイト系に言えることですが、SUS440Cの物理的性質は、フェライト系と類似しており、オーステナイト系とは異なる点が多くあります。SUS440Cは、普通鋼と同じく強磁性で、この点、SUS304などのオーステナイト系と異なります。比熱や電気抵抗率、熱膨張係数は、オーステナイト系の値よりも低く、密度や熱伝導率、ヤング率は、オーステナイト系の値よりも高くなっています。SUS440Cの成分(単位:%)炭素ケイ素マンガンリン硫黄ニッケルクロムモリブデンCSiMnPSNiCrMo0.95~1.201.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440Cの化学成分は、JIS規格によって上表のように定められています。SUS440Cは、ステンレス鋼の硬度や強度、焼入性に効果がある炭素の含有量が多く、焼入性のほか、耐食性や耐熱性を向上させるクロムの含有量も比較的多いステンレス鋼です。クロムは、防錆性の源となる酸化皮膜を形成し、焼き入れ後には、炭素と結合してクロム炭化物となり、SUS440Cの硬度や強度に寄与します。SUS440Cの耐食性SUS440Cは、上述したように、酸化皮膜の素となるクロムを多く含むため、良好な耐食性を示します。しかし、焼き入れ・焼き戻しによって、クロム炭化物が析出するため、周囲のクロム含有量が減少し、耐食性が低下します。ただし、その耐食性は、焼き戻しの熱処理条件によって異なり、焼き戻し温度が高いほど、クロム炭化物の析出量が多くなるため、耐食性は低くなります。一方、焼き入れ後の耐食性が最も高く、焼き戻し温度が低いほど、耐食性の低下は抑えられます。SUS440Cの腐食耐性は、代表的なステンレス鋼と比べると下表のようになります。腐食条件代表的なステンレス鋼の腐食度 (g/(m2・hr))SUS440CSUS420J2SUS304SUS430SUS630水*0.18-0.08-0.08塩酸 (5%)10.105934.13130.439012.25680.4772硝酸 (5%)18.88310.3100    0.01370.00580.0071硫酸 (5%)15.599122.12870.40628.78070.2707塩酸性塩化第二鉄 (6%)17.119415.90904.1834-7.5868塩水 (5%)0.01290.00670.0000-0.0000参照元:シリコロイ ラボ「耐食性比較表」株式会社シリコロイラボ、*シリコロイ ラボ「耐食性の一例」株式会社シリコロイラボSUS440Cの局所的な腐食耐性は、代表的なステンレス鋼と比べると下表の通りです。孔食は点状に生じ、内部深くに侵食する腐食のことで、孔食電位は孔食の発生する下限の電位で値が小さいほど孔食が生じやすくなっています。腐食条件代表的なステンレス鋼の孔食電位 (mV)SUS440CSUS420J2SUS304SUS430SUS630塩水 (3.5%)-30020-120100参照元:シリコロイ ラボ「耐食性比較表」株式会社シリコロイラボSUS440A、SUS440Bとの違い(単位:%)鋼種炭素ケイ素マンガンリン硫黄ニッケルクロムモリブデンCSiMnPSNiCrMoSUS440A0.60~0.751.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440B0.75~0.951.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440C0.95~1.201.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下そもそも、SUS440CはSUS440Bに炭素を加えて焼入硬化性の向上を図ったもの、SUS440BはSUS440Aに炭素を加えて焼入硬化性の向上を図ったものであり、これらの間の違いは炭素含有量だけです(上表参照)。従って、これらの硬度・靭性・耐食性の関係は、以下のようになります。・硬度:SUS440C > SUS440B > SUS440A・靭性:SUS440A > SUS440B > SUS440C・耐食性:SUS440A > SUS440B > SUS440Cなお、これらの硬度の値は、「JIS G 4303:2021」にて下表のように規定されています。鋼種焼き鈍し状態の硬さ焼き入れ・焼き戻し状態の硬さHBWHRCHVHBWHRCHVSUS440A255以下25以下269以下−54以上577以上SUS440B255以下25以下269以下−56以上613以上SUS440C269以下28以下284以下−58以上653以上

  • SKD11とは?硬度、成分、規格、処理、加工方法まとめ

    SKD11は、プレス加工の金型などに用いられている合金工具鋼です。金型は、特定の部品や製品の型となる工具のことで、金属材料などを強い圧力で挟み込むことで成形します。そのため、金型の材料には、強度や耐摩耗性、形状不変性などが必要であり、SKD11はこれらの特性に優れています。しかし、SKD11の高い強度や耐摩耗性は、焼き入れを施さないと得られません。さらに、SDK11は、焼き入れ後に難削材となってしまうなどの取り扱いの難しさもあります。この記事では、SKD11とはどのような合金鋼なのかというところから、用途、特徴、規格、物理的・化学的性質、熱処理の詳細、加工方法などについて解説していきます。SKD11とはSKD11とは、炭素工具鋼にクロムやモリブデン、バナジウムを添加した合金工具鋼のことです。0.55〜1.50%の炭素を含有し、ケイ素とマンガンの含有量を調整した炭素工具鋼に、各種元素を添加して性質の向上を図ったものです。耐摩耗性に優れ、熱処理歪みが少なく、熱処理によって硬度を上げることができます。JIS規格(JIS G 4404:2015)に規定されている鋼材で、冷間金型用として分類されていることからダイス鋼とも呼ばれます。なお、SKDは、「Steel Kougu Dice」の略で、「Steel」は鉄鋼、「Kougu」は工具、「Dice」は金型を意味します。また、SKD11の「11」には、特に意味はなく、開発された順序を示しているようです。冷間金型用として主流の鋼材で、多くの鉄鋼メーカーからDC11(大同特殊鋼)やSLD(日立金属)などといった相当材が販売されています。さらに近年では、SKD11を改良したDC53(大同特殊鋼)やSLD8(日立金属)などの合金工具鋼が数多く開発されています。参考:【金型製作】金型の種類と基礎や流れについて徹底解説!!SKD11の用途SKD11は、主にプレス機械などの中量から多量生産用の金型に用いられていますが、以下のような用途にも使われています。・転造ダイス…転造盤用の金型のことです(下図参照)。SKD11の高い硬度と優れた耐摩耗性から、SKD11が転造ダイスの材質に選ばれることがあります。なお、転造は、圧力を加えながら転がすことで円筒状の金属材料を成形する加工法で、ネジのネジ山の成形などに用いられます。引用元:工具「C131647 転造丸ダイス 田野井 9M1H/8」小林機械株式会社・フォーミングロール…ロール成形用の回転工具のことです(下図参照)。硬度や耐摩耗性が必要であるため、材質にSKD11が選定されることがあります。なお、ロール成形は、帯状の鋼板を複数のフォーミングロールが組み込まれた機械に通すことで成形する加工法です。引用元:お知らせ「第20回 機械要素技術展に出展しました。」株式会社英田エンジニアリング・シャー刃…鉄板などの切断に用いられる切断機(シャーリングマシン)の刃のことです。SKD11は、焼き入れによって高い硬度が得られ、精度も維持できることから、シャー刃の材質に適しています。・治具…耐摩耗性が必要な治具の材料にSKD11を用いることがあります。・ゲージ…製品の検査工程で形状や精度などを検証するために用いられる測定ゲージ・検査ゲージのことです。SKD11は、摩耗に強い上に、形状が変化しにくく、耐食性も比較的高いことから、各種検査ゲージの材料に用いられます。・金属刃物…SKD11は、包丁の刃金の部分に使用されることがあります。刃金とは、包丁の芯となり、刃となる部分のことです。SKD11を刃金に用い、それをサビに強く、安価なステンレス鋼で挟み込んだものが多く流通しています。参考:プレス金型とは?金型の機能・名称に関しても解説!SKD11の特徴とメリット・デメリットSKD11の特徴は、上述したように、高硬度と優れた耐摩耗性です。ただし、これらの特徴は、熱処理を加えることで現れるため、成形加工後に焼き入れ焼き戻しを行うのが一般的です。SKD11を用いるメリットとしては、以下が挙げられます。●SKD11を用いるメリット・耐摩耗性に優れる・熱処理後には、HRC58~63程度の高い硬度が得られる・熱処理後の変形が小さく、精密な製品の材料に適す・冷間金型の材料の中では、流通性が良く、入手しやすい・冷間加工用であるものの、熱間強度が高く、500℃程度までなら使用に耐えうる比較のため、他の金属材料の硬度を挙げると、SUS304がHRC11(HV200)、焼きならし後のS45CがHRC4.63〜20.64(HBW167〜229)、焼き入れ焼き戻し後のS45CがHRC13.5〜27.71(HBW201~269)、焼き入れ焼き戻し後のSUS440CがHRC55〜61程度となっています。一方、SKD11を用いる際のデメリットとしては、以下が挙げられます。●SKD11を用いるデメリット・熱処理後の硬度が高く、被削性が悪い・熱処理前も、硬度(焼きなまし硬さ)がHRC25(HBW255)程度と比較的高く、被削性が良いわけではない・熱処理後には、金属組織に粗大な炭化物が分散して、高速の摺動摩耗に弱くなる・粗大な炭化物の存在によって被削性がさらに低下する・粗大な炭化物の存在によって靭性が低下し、亀裂や割れが生じやすくなる・溶接時に割れが生じやすく、350〜450℃程度の予熱と後熱が必要・焼き入れ温度が1030℃程度と高い・焼き入れ温度と焼き戻し温度によって硬度が変化するため、熱処理時には、適切な温度管理を要する(下図は焼き入れ温度975℃・1000℃・1025℃・1050℃の焼き戻し硬さ曲線)引用元:F-SDK11 テクニカルデータ「熱処理特性」双葉電子工業株式会社SKD11の性質物理的性質比重密度(g/cm3)熱伝導率(W/mK)熱膨張係数(×10-6/℃)20〜100℃縦弾性係数(GPa)磁性7.807.8026.112.0207あり参照元:特性「物理的性質」株式会社 シリコロイラボSKD11の物理的性質は、上表の通りです。SKD11は、密度や縦弾性係数(ヤング率)の値について、SS400やS45C、SUS304と大きな違いはありません。一方、SKD11の熱伝導率については、SS400の58W/mKやS45Cの41W/mKと比べると低く、SUS304の16W/mKと比べると高くなっています。熱膨張係数については、SS400やS45Cとほぼ同等の値で、SUS304の17.2×10-6/℃と比べると若干低目の値です。このように、SKD11の高温特性は、優れた耐熱材料であるステンレス鋼に近く、熱膨張係数についてはSUS304よりも低いことから、温度変化に対する形状変化も小さくなっています。そのため、プレス機械の金型などに用いる場合でも摩擦熱の影響を受けにくく、また検査ゲージなどの形状不変性が要求される材料に適しています。しかし、熱伝導率の低さから、切削加工に伴う熱が拡散しにくく、切削工具が損傷しやすくなります。化学的性質(単位:%)炭素ケイ素マンガンリン硫黄クロムモリブデンバナジウムCSiMnPSCrMoV1.40〜1.600.40以下0.60以下0.030以下0.030以下11.00〜13.000.80〜1.200.20〜0.50SKD11の化学成分は、JIS規格(JIS G 4404:2015)で規定されており、上表の通りとなっています。ただし、SKD11の化学成分の注意点として、タングステン(W)は意図的に添加してはなりません。また、上表に記載の化学成分以外の含有元素は鉄(Fe)であり、その含有量はおよそ83.4〜86.6%です。SKD11は、クロムを11~13%含有しており、そのクロム含有量はマルテンサイト系ステンレス鋼と同程度です。しかし、ステンレス鋼は、クロム含有量が10.5%以上で炭素含有量が 1.2%以下の鉄鋼のことなので、炭素含有量が1.2%超のSKD11はステンレス鋼に分類されません。また、ステンレス鋼の耐食性は、クロムの存在によって実現されているため、SKD11も比較的耐食性に優れていますが、炭素含有量が多いため、ステンレス鋼ほどの耐食性はありません。その一方、SKD11は、炭素含有量が多い分、硬度が高くなるとともに、焼き入れ性が良くなっています。さらに、モリブデンの添加は、耐摩耗性や焼入硬化性の向上に、バナジウムの添加は、耐摩耗性の向上に寄与しています。SKD11の硬度ここでは、SKD11の熱処理前と熱処理後の硬度についてご紹介します。参考:鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!焼きなましの熱処理温度と硬度焼きなまし焼きなまし硬さ温度冷却方法HRCHBWHV830〜880℃徐冷25.33以下255以下268以下上表は、JIS規格にて規定されているSKD11の焼きなまし条件と焼きなまし硬度です。SKD11は、通常、鉄鋼メーカーにより焼きなましを行った後の状態で出荷されるので、金属加工メーカーにとっては、上表の硬度が熱処理前の硬度となります。なお、焼きなましとは、鉄鋼を高い温度で維持することによって、金属組織を均一化するとともに、鉄鋼を軟らかくし、加工しやすくする熱処理のことです。また、上表の冷却方法にある「徐冷」は、炉の停止後も鉄鋼を炉内に入れたままにし、炉が冷えるのに合わせて鉄鋼を冷却する方法です。焼き入れ焼き戻しの熱処理温度と硬度焼き入れ焼き戻し焼き入れ焼き戻し硬さ温度冷却方法温度冷却方法HRCHBWHV1030℃空冷180℃空冷58以上615以上653以上上表は、SKD11に対して、焼き入れ及び焼き戻しを行った後のJIS規格にて規定されているSKD11の硬度です。SKD11は、通常、成形加工後に熱処理を行うことから、上表の硬度が加工品の使用時の硬度となります。なお、焼き入れは、鉄鋼を硬くするため、焼き戻しは、鉄鋼の硬度を調整して靭性を高めるために行われる熱処理のことです。また、上表の冷却方法にある「空冷」は、炉の停止後、鉄鋼を炉から取り出して、常温の空気中で冷えるのを待つ方法です。近年では、熱処理後のSKD11に放電加工などを行うことがあることから、様々な条件で熱処理を行うことが多くなっています。例えば、焼き入れでは、以下のような熱処理条件が採用されています。●焼き入れの熱処理条件・980〜1010℃ 油冷・1010〜1030℃ 油冷・1000〜1030℃ 空冷・1030〜1050℃ 空冷油冷は、炉の停止後、鉄鋼を炉から取り出して、油中で冷却する方法です。空冷と比較すると、迅速な冷却が可能で、硬度が高くなりますが、靭性は低くなって割れやすくなり、熱処理歪みも大きくなる傾向があります。また、焼き入れ温度によっても、鉄鋼の性質は変わります。焼き入れ温度が高いほど、焼き戻し後の硬度が高くなりますが、靭性は低くなり、熱処理歪みも大きくなります。焼き戻しの熱処理条件によっても、下表のように鉄鋼の硬度は変わります。焼き戻し焼き入れ焼き戻し硬さ温度冷却方法HRCHBWHV150〜200℃空冷60〜63654 〜 705697 〜 772200〜250℃57〜60595 〜 654633 〜 697500℃以上57以下595以下633以下焼き戻しは、焼き入れとは逆に、焼き戻し温度が高いほど、硬度や耐摩耗性は低下し、代わりに靭性が向上します。加工方法SKD11の代表的な加工方法は、切削加工と放電加工です。切削加工SKD11は、熱処理前に切削加工で成形し、熱処理後に研削加工で仕上げを行うという方法がよく採用されます。SKD11は、熱処理前でも、S45Cなどの炭素鋼よりも被削性に劣りますが、切削加工が難しいわけではありません。一方、熱処理後は、硬度が高くなるため、切削加工を行うのは困難です。そのため、熱処理前の切削加工によって、成形を完了させてしまうことがよくあります。しかし、熱処理によって変形が生じることがあるため、高い精度が必要な場合は、熱処理後に研削加工などで仕上げを行います。ただし、熱処理後のSKD11は、研削加工も困難であるため、熱処理後の加工が最小限となるよう、熱処理前の切削加工をしっかり行っておくことが重要です。放電加工SKD11は、放電加工による変形が少ないために放電加工の加工性が良く、熱処理後の加工方法として放電加工がよく採用されます。放電加工は、材料と電極との間でアーク放電を発生させ、材料表面を溶かして除去することで成形する加工法です。硬度によらない加工法であるため、高硬度である熱処理後のSKD11でも問題なく加工することができます。ただし、放電加工を行う場合は、150〜200℃の焼き戻し(低温焼き戻し)ではなく、500℃以上の焼き戻し(高温焼き戻し)を行うことが推奨されます。それは、低温焼き戻しでは、焼き入れによって金属内部に生じた炭化物や応力などが多く残留し、炭化物や残留応力が放電加工による熱影響を受けて亀裂や変形の原因となることがあるからです。しかし、高温焼き戻しを行う場合は、硬度がHRC57以下と低いため、加工品の寿命が短くなるという欠点もあります。参考:放電加工(EDM)の基礎知識(原理、メリット・デメリット、電極)表面処理方法SKD11には、表面特性を向上させるため、めっきや表面改質熱処理を適用することがあります。めっきSKD11は、クロムをマルテンサイト系ステンレス鋼と同程度含有しているので、SS400やS45Cと比べると、錆びにくい材質です。しかし、炭素量が1.4~1.6%と高いことから、ステンレス鋼ほどの耐食性はなく、めっきなどによって防サビ対策を取ることが推奨されます。SKD11に対しては、硬質クロムめっきを施すことが多く、このめっきによって耐摩耗性の向上なども期待できます。参考:クロムメッキとは【中の人が解説】特徴や加工方法について詳細をお伝えします!熱処理SKD11には、さらなる硬度や耐摩耗性を得るためや高温焼き戻しによる硬度の低下を補うために、以下のような表面改質熱処理を行うことがあります。・窒化処理…高温焼き戻し温度程度まで加熱した窒素またはアンモニアガスの雰囲気中にSKD11を保持することで、表面に窒素を浸透させて、表面を硬化します。HV1000以上の表面硬さも実現可能な方法です。・PVD(物理蒸着)…真空中で高温焼き戻し温度程度まで加熱した成膜物質(窒化チタンなど)を付着させて、SKD11の耐摩耗性や耐食性の向上を図る方法です。・CVD(化学蒸着)…真空中または大気中で焼き入れ温度程度まで成膜の元となる物質を加熱し、化学反応を励起・促進してSKD11表面に薄膜を形成する方法です。この方法もまた、耐摩耗性や耐食性の向上が期待できます。ただし、これらの方法では、SKD11を高温に暴露することになるため、熱による変形などに注意する必要があります。

  • FC250とは?特徴、規格、性質、成分まとめ

    今回は、FC250の特徴や規格値などについて解説します。FC250とは、ねずみ鋳鉄の一種で、鋳造用の材料として採用されている材質です。鋳造性に優れた材質のため、SS材やSC材などの鉄材では成形しにくい複雑な形状の製品に適しています。鋳鉄にはFCのほかにFCDがあります。今回は、FCとFCDの違いについても見てみましょう。参考:鉄・鋼・鋳鉄の違いは炭素の量|鋳物の特徴などFC250とは?FC250とは、ねずみ鋳鉄と呼ばれる鋳鉄品の一種です。ねずみ鋳鉄は破面がねずみ色であったことに由来します。鋳鉄とは、溶かした金属を型に流し込んで成形したもののことで、FC250を含むねずみ鋳鉄は、鋳物の材料として使われています。鋳鉄は複雑な形状の型に対しても材料が流れるように、炭素量を多く含有しています。FC250を含むねずみ鋳鉄品は、【JIS G 5501-1995:ねずみ鋳鉄品】にて規格が定められています。FCのあとに続く数字は100・150・200・250・300・350の6種類があります。これらの数値は、FC250の引張強さが250N/mm2以上であるように、JIS規格にて定められた別鋳込み供試材の機械的性質での引張強さを表します。FC250の特徴と用途FC250を含むねずみ鋳鉄の特徴は、耐摩耗性・振動吸収性・鋳造性などに優れている点です。一方で、鋳造ではないS45Cなどの炭素鋼と比べると、粘り気がなく脆い傾向にあります。また、炭素を多く含むため、塑性加工や溶接も不向きです。鋳鉄は複雑な形状でも成形しやすいことから、切削などの金属加工では作りにくい部品に重宝します。そのほかにも耐久性が求められる箇所や、揺れや振れが問題となる箇所に多く採用されています。用途としては、溝蓋・自動車部品・工作機械のベッドなどが代表的です。FC250の成分FC250は、【JIS G 5501-1995:ねずみ鋳鉄品】の規格では化学成分が定められておらず、受渡当事者間の協定によるものとしています。以下は、新潟県工業技術総合研究所にて記述しているFCの化学成分の参考値を示しています。・FCCEを亜共晶(4.3%未満)にする。(炭素当量 CE=C+Si/3)FC250は3.4C%以上、FC300は3.25C%以上が目安。Siはチルが出ない範囲で少ない方がよい。Si量が少ないと高強度になり、肉厚感受性も小さくなり、引けも出にくい。引けと肉厚感受性をともに小さくする配合の理想は、3.2~3.25%C、1.1~1.2%Si。硫黄(S)は0.06~0.08%。引用元:新潟県工業技術総合研究所 鋳鉄の化学成分FC250の規格と機械的性質FC250はJIS規格によると、機械的性質(引張強さ・硬度)についてのみ規定されています。なお、FCは低応力域から局部的な降伏、塑性変形、部分的な破壊が多く発生するなどの理由から、降伏点についても明確な数値が規定されておりません。参考:公益社団法人 日本鋳造工学会 鋳鉄の引張り試験を行ったとき、明瞭な降伏(弾性限)が認められないのはなぜですか?以下の物理的性質については、鋳物メーカーの参考値を記載しています。・FC250 別鋳込み供試材の機械的性質(JIS規格)種類の記号引張強さN/mm2硬さHBFC250250以上241以下引用元:JIS G 5501-1995:ねずみ鋳鉄品・FC250 物理的性質比重 密度 重さ:7.2ヤング率(E/Gpa):100比熱(cal/g℃):0.16~0.17ポアソン比:0.27引用元:友鉄工業株式会社 ねずみ鋳鉄 減衰能 潤滑性 切削性 FC250FCDとの違いFCDとはダクタイル鋳鉄と呼ばれるもので、FCと比べて耐摩耗性や機械的強度に優れています。FCは片状の黒鉛を含有しているのに対して、FCDは球状の黒鉛を含むことから、球状黒鉛鋳鉄とも呼ばれています。FCDはJIS規格にて、350~800までの記号があり、数値の大きいものほど引張強さと硬さの値が大きくなります。FCD700ほどまで硬いものだと、FCに比べて削りにくくなるので、加工の際は注意が必要です。FCDは、FCよりも耐摩耗性や強度を必要とする溝蓋や自動車部品などに加えて、マンホール蓋や上下水道用ダクタイル鋳鉄管、ストリートファニチャーなどの幅広い用途に採用されています。

  • NAK55の特徴、性質、成分、処理、加工方法まとめ

    今回はNAK55の特徴や性質についてご紹介します。NAK55とは、大同特殊鋼株式会社が取り扱う製品である快削性プリハードン鋼の一種です。プリハードン鋼とは、あらかじめ中程度の硬度に熱処理をした鋼材のことで、鋼材メーカーによってNAK**やHPM**といった名称で取り扱われています。大同特殊鋼株式会社が取り扱う快削性プリハードン鋼は、NAK55と似た特性の金属としてNAK80もラインナップしています。今回はNAK55とNAK80の違いについても見てみましょう。参考:プリハードン鋼の解説!デメリット・用途などNAK55の特徴NAK55は、プラスチック金型用鋼のことで、最適条件で37~43HRCの硬さを有しており、そのまま型彫加工を行えます。また、Ni-Al-Cu系時効硬化型の鋼であることから、被削性や肉盛溶接性が良好です。切削加工後や放電加工後の研磨も容易に行えます。使用時の歪みが少ないのもポイントで、精密性を必要とする金型に適している材料です。NAK55の用途は、高性能・精密プラスチック金型、ゴム金型、プレス金型、産業機器等各種部品が代表的です。NAK55の成分記号JIS等該当記号化学成分CSiMnNiCuMoAl快削元素NAK55-0.150.3適量3.01.00.31.0S添加引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80NAK55の規格、比重、降伏点、ヤング率・熱膨張係数(×10-6/℃)記号20~100℃20~200℃20~300℃NAK55NAK8011.312.513.4引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80・熱伝導率(W/m・K)記号25℃100℃200℃300℃400℃NAK55NAK8029.531.433.032.832.1引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80・磁気特性記号最大比透磁率飽和磁束密度(T)残留磁束密度(T)保持力(A/m)NAK55NAK803801.6350.8501100引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80・機械的特性採取方向硬さHRC0.2%耐力N/mm2(kgf/mm2)引張強さN/mm2(kgf/mm2)伸び%絞り%シャルピー衝撃値J/cm2(kgf・m/cm2)L40981(100)1,255(128)154018(1.8)T40981(100)1,275(130)143812(1.2)引張試験片:JIS4号衝撃試験片:2mmUノッチ衝撃試験温度:293K(20℃)引用元:メカトロネット事務局 NAK55 テクニカルデータ・ヤング率(縦弾性係数):201,000N/mm2(20℃)・比重:7.80g/cm3(20℃)・比熱:481J/(kg・°C)(20℃)引用元:メカトロネット事務局 NAK55 テクニカルデータ NAK55の加工方法NAK55は高い硬度を持ちながらも被削性に優れた鋼材で、金型用の材料として多く活用されています。切削時のポイントとしては、加工面の精度を向上させたい場合、切削速度を上げるのが有効です。切込み量と送り量は、加工精度に応じた調整を行います。ツールホルダの振れは、切削面の精度に大きな影響を及ぼすため、定期的にホルダの点検および取替えを行いましょう。NAK55の処理NAK55は、アルマイト処理以外であれば、どのようなめっき処理でも対応が可能です。めっき処理方法は、特別な前処理を必要とせず、通常の鉄材と同様の方法で行います。熱処理については、NAK55が時効硬化型の鋼で、HRC40程度の硬度しか入らない材料のため、焼入れ焼戻しで硬度を上げられない点に注意が必要です。硬度を上げたい場合は、窒化処理を行うことで、加工後に表面の硬度を上げられます。NAK55の長所と短所NAK55の長所●被削性が良好37~43HRCの硬さを有するものの、およそ18HRCの硬さをもつS53Cとほぼ同等かつ、30HRCのSCM440よりも遥かに被削性に優れています。●放電加工後の研磨が容易放電加工後は、加工面の硬さが上昇せず、研磨が容易に行えます。●優れた鏡面仕上げ性切削加工面が優れているため、研磨が容易に行えるほか、ピンホールが出にくくて鏡面の光沢が出やすい特徴があります。●優れた肉盛溶接性肉盛溶接部の硬さ上昇がなく良好。溶接後は時効処理を施すことで、均一なシボ加工面が得られます。●型寿命に優れている硬さがある材料のため、耐摩耗性と耐圧性に優れ、長期の型寿命を実現しています。●錆びにくいNAK55は水にさらされるプラスチック金型にも採用される材料で、錆びにくい特徴があります。NAK55の短所●焼入れ焼戻しをしても硬度が上がらないNAK55は、時効硬化による方法で硬度を上げている鋼材です。これにより、焼入れ焼戻しにより硬度を上げることができません。時効硬化とは、急冷した合金の時間経過で常温化し、合金元素を析出させて材料を硬くすることを指します。硬度を上げたい場合は、鋼の表面に窒素をしみ込ませて硬くする窒化処理を行う必要があります。NAK80との違いNAK80は、NAK55と同じく、大同特殊鋼株式会社が取り扱う快削性プリハードン鋼です。NAK80はNAK55の特徴に加えて、鏡面みがき性に優れています。また、放電加工肌は緻密で美麗なため、梨地シボの代用が可能です。ただしNAK55よりも若干被削性に劣ります。

  • SKD61とは?性質、用途、処理、加工方法まとめ

    今回はSKD61の性質や用途などについて解説します。SKD61とは、【JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材】に規定されている、熱間金型用の合金鋼のことです。SKDの記号は、S:Steel(銅)、Kougu(工具)、Dies(金型)の意味を持ちます。SKD61は、耐熱性や耐摩耗性などに優れていますが、加工性には乏しい特徴がある材料です。SKD61とはSKD61とは、「ダイス鋼」とも呼ばれる熱間金型用の合金鋼のことで、炭素工具鋼にタングステン、モリブデン、クロム、バナジウム等を添加しています。SKD61は、耐熱性・耐ヒートショック性に優れていることから、主にプレス型・ダイカスト型・押出工具・シャーブレードなどの用途で採用されています。メーカーによっては、相当鋼種としてDHA1やDACなどの名称で扱われているほか、改良鋼種として特性が異なる場合もあります。SKDの代表成分は以下の通りです。・SKD61の化学成分種類の記号CSiMnPSCrMoVSKD610.35~0.420.80~1.200.25~0.500.030以下0.020以下4.80~5.501.00~1.500.80~1.15引用元:JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材SKD61は、モリブデンの量が多いことから高温下での引張強さに優れているほか、バナジウムにより靭性も備えています。また、耐熱性も良好なことから、熱による亀裂が発生しにくいのも特徴です。しかし硬度が高く、耐摩耗性に優れている一方で、加工性には乏しいデメリットがあります。SKD61の硬度焼なましの温度と硬度種類の記号焼なまし温度(℃)焼なまし硬さ(HBW)SKD61820~870229以下引用元:JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材焼入れ焼戻し熱処理温度と硬度種類の記号熱処理温度及び冷却方法(℃)焼入焼戻し硬さHRC焼入れ焼戻しSKD611020 空冷550 空冷50以上引用元:セキイハガネ 汎用熱間ダイス鋼(SKD61)SKD61は、焼入れ焼戻しを行うと高い硬度を示しますが、熱処理における寸法変化や歪みが発生しやすい傾向があります。熱処理後の硬度はHRC53~56程度です。SKD61の機械的性質・熱伝導率 ※硬さ:45HRC熱伝導率 W/(m・℃)(cal/cm・sec・℃)20℃200℃400℃500℃700℃30.5(0.073)30.1(0.072)29.3(0.070)28.9(0.069)28.0(0.067)・ヤング率(縦弾性係数)※硬さ:45HRC熱伝導率 W/(m・℃)(cal/cm・sec・℃)20℃200℃300℃400℃500℃600℃700℃206,000(21,000)196,000(20,000)191,000(19,500)178,000(18,200)167,000(17,000)137,000(14,000)98,000(10,000)・比重:7.73g/cm3(硬さ48HRC 熱処理品 20℃時)引用元:メカトロネット事務局 SKD61 テクニカルデータSKD61の加工方法SKD61は、硬度が高くて耐摩耗性に優れた材質のため、加工性には乏しい特徴があります。このことから、工具選びを誤ると刃が摩耗が激しくなったり、破損したりする恐れがあるので注意してください。加工は主に研削加工が採用されています。SKD61の処理方法熱処理ダイス鋼は、一般的に加工後に熱処理を施して硬度を得ます。熱処理の方法は、真空熱処理が適しています。真空熱処理は、真空中で製品を加熱したり、ガスもしくは油で冷却したりする熱処理方法のことで、鋼材の表面が酸化しないことや、脱炭層が発生しないメリットがあります。脱炭層とは、空気中の酸素と鋼材表面の炭素が結合して、炭素を失う現象のことを指します。また、寸法変化や硬度のバラツキが少ないのもポイントです。めっき処理一般的にダイス鋼は錆びやすい特徴があるので、防錆力を上げるためにはめっき処理が必要です。しかしダイス鋼は炭素が多く、酸化皮膜を形成するとめっきを施しにくくなるので、前処理には注意が必要です。ダイス鋼は耐摩耗性が求められる用途で使用するため、工業用硬質クロムめっきや無電解ニッケルめっきが多く活用されています。SKD61とSKD11の違いSKD11は、冷間金型用のダイス鋼で、ゲージ・ねじ転造ダイス・金属刃物・プレス型などの用途で採用されている材質です。熱処理後の硬度は、SKD61がHRC53~56程度に対し、SKD11はHRC58~62程度と高い数値を示します。一方で、靭性と熱間引張強度については、300℃の環境下でSKD11は強度が急激に低下するのに対し、SKD61は一定の強度を保ちます。

  • SK3の基本!性質や特徴を解説(成分・硬度)

    SK3は、JIS規格(JISG4401)で規定されている炭素工具鋼材(SK材)のうち、炭素含有量が1.00~1.10%の材質を指します。特に、硬度・耐摩耗性に優れ、刃物やさまざまな工具などに利用されています。SK3の特徴(硬度、耐摩耗性)と用途SK材は炭素工具鋼材(Steel Kogu)と呼ばれ、炭素(C)含有量が0.55〜1.5%で、特別にCr(クロム)やMo(モリブデン)などの合金元素を添加していない高炭素鋼を指します。特に、工具鋼として利用されています。中でもSK3は、炭素(C)を1.00~1.10%含有するSK材です。2000年にJIS規格が改訂され、「SK3」という材料記号は、「SK105」という材料記号に変更されています。そのため、SK3は、SK105と表記されることもあります。また、SK3材はSK材の中でも比較的炭素含有量が高い鋼種で、硬度及び耐摩耗性に優れるという特徴を持ちます。そのため、切れ味を必要とする刃物などの工具に利用されています。一般にSK材は、高温で使用すると硬度が低下するという特徴があるため、熱の発生が少ない工具などに多く使用されています。例えば、SK3はプレス金型として用いられますが、プレス抜き加工のような加工熱の発生が多い箇所には使われず、少量生産用のパンチやダイに使用されます。<SK3の主な用途>ハクソー・たがね・ゲージ・ ぜんまい・プレス型・治工具・ 刃物SK3の化学成分<SK3の成分、組成(単位:%)>材料記号CSiMnPSSK3(SK105)1.00~1.100.10~0.350.10~0.500.030以下0.030以下引用元:JISG4401:炭素工具鋼鋼材SK3の化学成分は上表の通りです。SK3の機械的性質<鋼材の焼なまし硬さ(除く鋼板及び鋼帯)>材料記号焼なまし温度℃焼なまし硬さHBWSK3(SK105)750〜780 徐冷212以下引用元:JISG4401:炭素工具鋼鋼材SK3の機械的性質は上表の通りです。SK3の物理的性質<熱間圧延鋼板及び鋼帯並びに冷間圧延鋼板及び鋼帯の硬さ>材料記号熱間圧延鋼板及び鋼帯冷間圧延鋼板及び鋼帯熱間圧延まま硬さ焼なまし硬さ焼なまし硬さ冷間圧延まま硬さHRCHRBHRCHvHv (参考値)SK3(SK105)ーー31以下220以下(220〜310)引用元:JISG4401:炭素工具鋼鋼材SK3の物理的性質は上表の通りです。SK3・SK4・SK5の違いSK材の中でも、SK3、SK4、SK5は特に代表的な鋼種です。この3鋼種における成分上の違いは、炭素(C)含有量のみで、SK3が1.00~1.10%なのに対し、SK4は0.90~1.00%、SK5は0.80~0.90%となっています。一般にSK材において炭素量が減少すると、硬度は低下する一方で、靭性、耐衝撃性が向上します。そのため、SK4やSK5では耐衝撃性を必要とする用途、例えば斧や木工用のきり、ペン先などに利用されています。SK3・SKS3の違い前述した通り、SK3は炭素工具鋼材(Steel Kogu)に分類されるのに対し、SKS3は低合金工具鋼材(Steel Kogu Special)に分類され、SKS材と呼ばれます。この2つの鋼材における成分上の最大の違いは、特殊合金の添加の有無です。SK材には特殊合金は含有されていませんが、SKS材にはMn(マンガン)、Cr(クロム)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、V(バナジウム)などの合金が添加されています。SKS3は、Cr(クロム)及びW(タングステン)を含有し、SK3と比較してより焼入れ硬さや耐摩耗性に優れています。また、SK3とSKS3では熱処理方法も異なります。SK3では水で冷却して焼入れを行うのに対し、SKS3では油で冷却して焼入れを行います。これは、焼入れによる硬度の入りやすさの違いによります。SK3は、SKS3と比較して硬度が入りにくい、つまり材質の芯部まで焼入れが入りにくくなっています。

  • STKM(機械構造用炭素鋼鋼管)とは?規格・特徴・比重

    STKMは機械構造用炭素鋼鋼管のことで、代表的なものとして自動車部品・家具部品・家電・支柱などの用途で採用されています。一口にSTKMといっても、種類が豊富にあり、各種類で化学成分や機械的性質が異なります。また、サイズについても、継目無し鋼管や電気抵抗溶接鋼管などの種類によって違いがあります。この記事では「STKMとはどういうもの?」といった疑問にお答えするほか、比重や分類についても解説します。STKMとは?STKMとは、機械構造用炭素鋼鋼管のことを指します。STKMの記号は、S=Steel、T=Tube、K=構造、M=Machineを意味しています。STKMはパイプ状の構造であるため、棒鋼よりも軽量に抑えられるほか、サイズのラインナップも豊富です。また、STKMは細かく種類分けがされており、【JIS G 3445:2021 機械構造用炭素鋼鋼管】の規格にて、機械的性質の異なる22種類が規定されています。STKMの種類は、「STKM11A」のように、STKMの記号の後ろに11~20の数字とA~Cのアルファベットが付随することで判別されています。STKMの比重STKMの比重は、鉄鋼と同様に7.85の値となりますが、厳密には成分の違いによって多少の違いが出てきます。STKMの分類STKMは製法により大きく分けて【継目無し鋼管・電気抵抗溶接鋼管・鍛接鋼管】の3種類に分類されています。ここからさらに、仕上げ方法【熱間仕上げ・冷間仕上げ・電気抵抗溶接したまま】の違いにより細かく分類されます。これらの分類は“種類の記号”の後ろに“製造方法を表す記号”を付けることで、具体的な種類が判別できるようになっています。詳細については下記表の通りです。<種類の記号及び製造方法を表す記号>種類種類の記号製造方法を表す記号製管方法仕上方法11種ASTKM11A継目無し:S電気抵抗溶接:E鍛接:B熱間仕上げ:H冷間仕上げ:C電気抵抗溶接まま:G12種ASTKM12ABSTKM12BCSTKM12C13種ASTKM13ABSTKM13BCSTKM13C14種ASTKM14A継目無し:S電気抵抗溶接:E熱間仕上げ:H冷間仕上げ:C電気抵抗溶接まま:GBSTKM14BCSTKM14C15種ASTKM15ACSTKM15C16種ASTKM16ACSTKM16C17種ASTKM17ACSTKM17C18種ASTKM18ABSTKM18BCSTKM18C19種ASTKM19ACSTKM19C20種ASTKM20A※製造方法を表す記号は、次による。ただし、“-”は空白でもよい。1.熱間仕上継目無鋼管:-S-H2.冷間仕上継目無鋼管:-S-C3.電気抵抗溶接まま鋼管:-E-G4.熱間仕上電気抵抗溶接鋼管:-E-H5.冷間仕上電気抵抗溶接鋼管:-E-C6.鍛接鋼管:-B引用元:JIS G 3445:2021 機械構造用炭素鋼鋼管例えば、STKM13Aの機械構造用炭素鋼鋼管かつ、継目無鋼管の熱間仕上げのものについては、“STKM13A-S-H”もしくは、“STKM13A S H”で表記されるということになります。次に各種製管方法の特徴についても見てみましょう。●継目無し鋼管(シームレス鋼管)継目無し鋼管は、別名「シームレス鋼管」とも呼ばれているもので、その名前の通り継目(seam)が無い(less)ことを表しています。継目無し鋼管は溶接部がなく、全周にわたり凹凸がない均一性のある形状です。これによりねじれに強い特性をもちます。また、溶接では製造が難しい厚肉の鋼管を製造できるのもポイントです。なお、継目無し鋼管は、鋼の塊をくり抜いて管を製造しています。●電気抵抗溶接鋼管(電縫鋼管)電気抵抗溶接鋼管は、別名「電縫鋼管」とも呼ばれているもので、鋼板をまるめてパイプ状にしてから継目を電気抵抗溶接で接合したもののことです。電気抵抗溶接鋼管は比較的生産性が高いのが特徴で、小径から中径サイズの製造が可能です。また、鍛接鋼管に比べて継目の強度が高い傾向にあります。一方で溶接ビードができてしまうので、用途によってはビードを削りとる必要があります。●鍛接鋼管鍛接鋼管は、継目を鍛接によって接合したもののことです。鍛接鋼管は、大量生産に適している点がメリット。一方で熱間加工による成形のため、鋼管の内側と外側に酸化鉄の皮膜が付着してしまい、表面性状に劣ります。

  • 合金鋼の種類と特徴、性質

    合金鋼とは、鉄と炭素以外の合金元素を一定量以上含む鋼のことです。鋼の五元素と呼ばれる炭素やケイ素、マンガン、リン、硫黄を規定量以上含む合金や、その他の元素を一定量以上含有する鋼のことを指します。ステンレス鋼も合金鋼の一種であり、高張力鋼や工具鋼の一部も合金鋼に分類されます。その特徴は、種類によって様々であり、耐食性や耐熱性に優れるもの、強度が高いもの、加工性が良好なものなどがあります。この記事では、合金鋼の詳細や種類、種類によって異なる性質を解説していきます。合金鋼とは?特徴について合金鋼とは、炭素量が0.02~2.14%である炭素鋼に炭素以外の合金元素が一定量以上加えられた鋼のことです。化学成分による分類では、炭素鋼の対となる鋼であるとも言えます。普通鋼に対する特殊鋼を合金鋼と同一視することもあります。ISOでは、下表のように合金鋼が含む添加元素の含有率の下限が定められており、一つ又は複数の元素の含有率が下表の値を超える場合に合金鋼と呼びます。ただし、優れた効果を持つ元素であれば、下表の元素以外を含む場合でも合金鋼と呼ぶことがあります。(単位:%)アルミニウム(Al)ホウ素(B)コバルト(Co)クロム(Cr)銅(Cu)ランタン(La)モリブデン(Mo)ニオブ(Nb)0.10.00080.10.30.40.050.080.06ニッケル(Ni)鉛(Pb)セレン(Se)テルル(Te)チタン(Ti)バナジウム(V)タングステン(W)ジルコニウム(Zr)0.30.40.10.10.050.10.10.05参照元:国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)合金鋼は、含有する合金元素の総量によって、以下のように分類することがあります。●低合金鋼:5%以下●中合金鋼:5~10%●高合金鋼:10%以上合金鋼の意味は幅広く、耐熱鋼などの特定の機能を持つ高機能鋼や、高張力鋼(ハイテン)などの高強度鋼、マンガン鋼やニッケル鋼などの特定の元素を多量に含む鋼なども合金鋼です。よく知られたステンレス鋼も合金鋼に含まれます。したがって、その特徴は合金鋼の種類によって大きく異なり、耐食性や耐熱性が高いものや高い強度を持つもの、加工性が良いものなどと様々です。ただし、合金鋼に共通することとして、炭素鋼と比べて高価であり、市場に出回っている形状や寸法のバリエーションも貧弱であることが挙げられます。参考:鉄と鋼の違い(強度・重さ・硬さ)参考:鉄・鋼・鋳鉄の違いは炭素の量|鋳物の特徴など合金鋼の種類合金鋼には、様々な種類がありますが、ここでは代表的な合金鋼について紹介します。ステンレス鋼ステンレス鋼は、キッチンのシンクなどに使われている優れた腐食耐性を持つ合金鋼です。クロムの含有量が10.5%以上の鋼と定義されているため、高合金鋼に分類されます。クロムを多量に含有するものや、クロムとニッケルを多量に含有するものなど、その種類は多様です。耐食性に加えて、耐熱性に優れた鋼種や加工性を向上させた鋼種、孔食や応力腐食割れなどの一部のステンレス鋼の欠点を補った鋼種などがあります。耐熱鋼耐熱鋼とは、高温環境下においても優れた耐酸化性や強度、腐食耐性を保持する合金鋼のことです。エンジン部品や炉の材料などに用いられます。JIS規格においては、SUH(Steel Use Heat Resisting)で始まる「SUH31」などが耐熱鋼として規定されていますが、それらも化学成分上はステンレス鋼の一種です。「SUS304」などのオーステナイト系ステンレス鋼の一部も耐熱鋼に分類されています。そのほか、モリブデンを数パーセント含むモリブデン鋼や、クロムとモリブデンをわずかに含むクロムモリブデン鋼も耐熱鋼と呼ばれることがあります。高張力鋼(ハイテン)高張力鋼とは、高い引張強さを持つ合金鋼のことです。引張強さがおよそ490 MPa以上のものを指します。特に高強度のものでは1000 MPaを超えるものもあり、超高張力鋼と呼ばれます。なお、代表的な炭素鋼である「SS400」の引張強さは、400 MPaです。シリコンやマンガンなどの合金元素の添加や、金属組織の制御などを行うことで高い強度を実現しています。高圧容器や橋梁、建築のほか、船舶や鉄道車両、自動車のボディなどの材料に用いられます。特に、自動車向けには、高強度である分だけ薄くできるため、自動車の軽量化に役立っています。合金工具鋼・高速度工具鋼合金工具鋼と高速度工具鋼は、工作機械に用いられる工具鋼のうち、炭素工具鋼と呼ばれる炭素鋼が材料ではない工具鋼のことです。合金工具鋼は、炭素工具鋼では硬度や靭性、耐摩耗性などが不足する場合に、工具の材料として選ばれます。一方、高速度工具鋼は、ハイスとも呼ばれ、高温下の硬度や耐軟化性に強みがある工具の材料です。合金工具鋼と高速度工具鋼はそれぞれ、タングステンやクロム、モリブデン、バナジウムなどの合金元素を加えるなどして性質を調整したものです。クロムモリブデン鋼クロムモリブデン鋼とは、クロムを1%程度、モリブデンを0.15~0.45%含む合金鋼のことです。クロムとモリブデンの含有量は少なく、低合金鋼に分類されます。高い強度と靭性を示し、耐熱性にも優れています。溶接が容易で、焼入れを行いやすい素材です。クロムなどの鉄鋼の耐食性に貢献する化学成分を含みますが、それらの量は少なく、ステンレスほどの耐食性はありません。ボルトナット類やエンジン部品、自転車のフレームなどの用途がある合金鋼です。参考:SCM435(クロムモリブデン鋼)材質、硬度、強度、比重、用途合金鋼と錆金や白金などを除くほとんどの金属は、空気中の酸素や水分と反応して錆を生じます。その中でも鉄は、比較的錆びやすく、表面に酸化物の皮膜を生じて金属特有の光沢が失われます。この酸化物の皮膜が、錆と言われるものです。しかし、ステンレス鋼では、空気中においてクロムによって形成された数ナノメートルの酸化皮膜が表面を覆うことで金属内部の腐食を保護しています。さらに、その酸化皮膜が透明であり、外観がほとんど変化しないことから、ステンレスの酸化皮膜は錆と認識されていません。また、酸化皮膜の耐食性は、クロムの含有量が多いほど高くなり、12%程度に達するまで耐食性は向上します(下図左図)。もちろん、この酸化皮膜が破れると、そこから錆が生じる可能性があります。しかし、鋼中のクロムはその傷を自己修復する機能があるため、皮膜は瞬時に再生されます(下図右図)。引用元:日本製鉄株式会社(2005)「モノづくりの原点 科学の世界VOL.22」p2

  • SUS304-HL(ヘアライン材)特徴、用途

    強度が高くサビに強いステンレスは、日常生活はもちろん、産業や工業においても欠かせない金属です。その中でも、SUS304は、最も代表的なステンレス鋼であり、強度や耐食性のみならず、耐熱性にも優れ、低価格で入手できる有用性の高い素材です。SUS304-HLは、そのSUS304の表面に細かい筋目模様を付けた素材であり、適度につや消しされた金属的な質感を強調した美しい外観を持ちます。傷が目立ちにくいなどの特徴もあることから、使い勝手の良い材料として、建材やキッチン、家電や機械など、様々な用途で用いられています。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!SUS304-HLとはSUS304にヘアライン加工をした素材引用元:レコサポート株式会社SUS304-HLとは、上の写真ような、最も流通量の多いステンレス鋼であるSUS304の表面に髪の毛(ヘアライン)のような単一方向の細かい傷を付けるヘアライン加工を施した素材です。ステンレスの種類を示す「SUS304」と素材に対する最終的な仕上げを示す質別記号の「HL (Hairline)」によって表現されます。その外観は、光の当たり方で多様な表情を持つ鈍い光沢を示し、高級感のあるマットな質感を与えます。ヘアライン加工による仕上げは、鏡のように磨き上げる「鏡面仕上げ」よりも傷が目立ちにくいため、外観品質の維持に効果的です。滑り止めの効果もあります。ただし、線模様の方向と直角方向の傷が目立ちやすく、線模様が経年変化によって薄れてきます。その場合、再研磨することで元の美しさと機能を回復できますので、必要性があれば業者に依頼すると良いでしょう。ヘアライン模様はベルト研磨機やサンドペーパーで付けますが、SUS304-HLは通常、P150~P240番の砥粒研磨ベルトで一定方向に磨いたものを指します。しかし、近年では、粗い線模様を付けたハードHLや短く連続した線模様のスクラッチHL、縦横に線模様を付けたクロスHL(下の写真)なども存在します。引用元:三和タジマ株式会社参考:ヘアライン仕上げとは【専門家が語る】製品事例もご紹介!参考:ステンレスのヘアライン加工の種類や特徴について専門家が解説!SUS304-HLの主な用途SUS304-HLの主な用途は、建材、厨房機器、家電製品です。そのほか、インテリアや装飾品、輸送機器、精密機械などにも用いられています。SUS304-HLの用途の例としては、システムキッチンのシンクやワークトップ、パソコンの筐体、エスカレーターの側板、建築物の外装パネルなどが挙げられます。特に、ステンレス製の建築部材としては最も一般的で、階段の側板、手摺り、自動ドアのフレームなど、金属的な質感を持つ多くの建築部材がSUS304-HLです。産業機械の筐体や鉄道車両、腕時計のベルトなどにも採用されています。