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マルテンサイト系ステンレス

  • SUS440Cとは?性質、規格、成分、用途

    SUS440Cは、JIS規格に規定されているステンレス鋼の中で最も硬いステンレス鋼です。マルテンサイト系ステンレス鋼の一種で、熱処理を施し、硬度を高めた状態で利用することが前提とされています。強度や耐摩耗性が必要なベアリングやシャフトなどの機械部品によく採用されるステンレス鋼で、高い強度と耐食性から刃物の用途もあります。しかし、SUS440Cにとって最も重要な硬度、さらにはステンレス鋼の大事な特性である耐食性も、熱処理条件によって変化するため、その取扱いには十分な知識が必要です。この記事では、SUS440Cの性質や規格、物理的性質、耐食性、熱処理条件によって変わる機械的性質などについて解説していきます。SUS440CとはSUS440Cとは、炭素の含有量が0.95〜1.20%と多く、焼入硬化性が特に高いマルテンサイト系ステンレス鋼の一種のことです(上図参照)。焼き入れと焼き戻しによって、ステンレス鋼の中でも最高レベルのHRC58以上という硬度を出すことができます。高硬度であるため、耐摩耗性や疲労強度が高く、引張強さも良好で、機械的性質に優れたステンレス鋼です。価格は、SUS304と同程度か、SUS304よりも少し高いくらいとなっています。参考:マルテンサイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめSUS440Cの耐食性は、クロムを16.0〜18.0%とステンレス鋼の中でも比較的多く含有するため、S45Cなどの炭素鋼やSK材・SKS材といった工具鋼と比べると高くなっています。しかし、炭素含有量が多いため、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304など)やフェライト系ステンレス鋼(SUS430など)、他のマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410やSUS420など)に劣ります。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!SUS440Cの被削性は、焼き入れ前(焼き鈍し後の状態)であれば、普通鋼やフェライト系ステンレス鋼と同程度で、オーステナイト系ステンレス鋼よりは良好です。しかし、焼き入れ・焼き戻し後の被削性は悪いため、焼き入れ前に最終的な形状まで成形することが多くなっています。ただし、焼き入れ・焼き戻し後にも加工を行う場合は、硬度に関係なく加工ができる放電加工を採用したり、難削材用の工具を使用したりする必要があります。なお、JIS規格には、SUS440Cに硫黄を添加して被削性を改善したSUS440Fが存在します(上図参照)。SUS440Cの焼入硬化性は特に良好で、焼き入れ・焼き戻しの適用が前提とされているステンレス鋼です。下表は、JIS規格(JIS G 4303:2021)に記載してある焼き鈍し・焼き入れ・焼き戻しの熱処理条件の例ですが、この条件以外の熱処理条件が用いられることもよくあります。熱処理方法焼き鈍し焼き入れ焼き戻し温度 (℃)800~9201010~1070100~180冷却方法徐冷油冷空冷・徐冷…炉の停止後、鋼材を炉内に入れたままにし、炉が冷えるのに合わせて鉄鋼を冷却する方法・油冷…炉の停止後、鋼材を炉から取り出し、油中に入れて冷却する方法・空冷…炉の停止後、鋼材を炉から取り出して、常温の空気中で冷却する方法参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!SUS440Cの用途SUS440Cの用途は、以下のように、優れた硬度や耐摩耗性、比較的良好な耐食性を活かしたものが多くなっています。・ベアリング(軸受)…回転・往復運動する部品を支持する部品のこと。荷重に対する形状不変性や摩擦に対する耐性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。・刃物…包丁やハサミ、カミソリ、医療用メスなどの刃のこと。高い硬度と防錆性が必要であることから、SUS440Cがよく採用されています。・ゲージ…製品検査で形状や精度などの検証に使用する測定・検査ゲージのこと。形状不変性や防錆性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。・金型…耐摩耗性が必要。プラスチックの射出成形用の金型にSUS440Cが採用されることがあります。そのほか、ノズルやシャフト、ポンプ部品などの強度を要する機械部品に用いられています。SUS440Cの規格SUS440Cは、以下のJIS規格に定められています。・JIS G 4303:2021「ステンレス鋼棒」・JIS G 4308:2013「ステンレス鋼線材」・JIS G 4309:2013「ステンレス鋼線」・JIS G 4318:2016「冷間仕上ステンレス鋼棒」SUS440Cの板材の規格はありませんが、市場には出回っています。なお、炭素含有量だけがSUS440Cと異なる、SUS440Aの板材については、以下のJIS規格に記載があります。・JIS G 4304:2021「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」・JIS G 4305:2021「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」また、SUS440CのJIS規格以外の規格との対応は以下の通りです。規格記号JISISOENASTM規格名日本産業規格国際標準化機構欧州標準化委員会米国試験材料協会鋼種名SUS440CX110Cr171.4023S44004SUS440Cの機械的性質焼き鈍し状態の硬さ焼き入れ・焼き戻し状態の硬さHBWHRCHVHBWHRCHV269以下28以下284以下−58以上653以上SUS440Cの硬度は、「JIS G 4303:2021」にて上表のように規定されています。ただし、必ずしもこれらの硬度になるわけではなく、特に焼き入れ後と焼き戻し後の硬さは熱処理条件によって大きく変わります。例えば、様々な焼き入れ温度に対する焼き入れ後(焼き戻し前)の硬度は、以下のような値が報告されています。焼き入れ温度900℃950℃1000℃1050℃1150℃硬度 (HRC)4753596142参照元:シリコロイ ラボ「SUS440C」株式会社シリコロイラボ焼き入れ・焼き戻し状態については、下表のように、様々な焼き戻し温度における多種の機械的性質のデータがあります。焼き戻し温度引張強さ0.2%耐力伸び硬さMPaMPa%HRC焼き鈍し状態7584481427.71 (269HB)204℃20301900459260℃19601830457316℃18601740456371℃17901660456参照元:Penn Stainless「440C STAINLESS STEEL」Penn Stainless Products Inc1020℃で焼き入れを行い、冷却方法として油冷を採用した場合では、焼き戻し後の硬度は、下図のような値になるとのこと。引用元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.SUS440Cの物理的性質密度熱伝導率比熱*比電気抵抗*×10-8磁性*g/cm3W/(m・K)J/(g・℃)Ω・m7.7824.30.4660強磁性参照元:シリコロイ ラボ「物理的性質」株式会社シリコロイラボ、*製品カタログ・技術情報「ステンレス鋼」愛知製鋼株式会社SUS440Cの主な物理的性質は、上表の通りです。ヤング率は、温度によって値が変化しますが、下表の通りとなっています。温度 (℃)20100200300400ヤング率 (GPa)215212205200190参照元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.温度範囲によって値が変わる熱膨張係数は、下表の通りです。温度範囲 (℃)20~10020~20020~30020~40020~500熱膨張係数 ×10-6 (℃)10.410.811.211.612.0参照元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.マルテンサイト系に言えることですが、SUS440Cの物理的性質は、フェライト系と類似しており、オーステナイト系とは異なる点が多くあります。SUS440Cは、普通鋼と同じく強磁性で、この点、SUS304などのオーステナイト系と異なります。比熱や電気抵抗率、熱膨張係数は、オーステナイト系の値よりも低く、密度や熱伝導率、ヤング率は、オーステナイト系の値よりも高くなっています。SUS440Cの成分(単位:%)炭素ケイ素マンガンリン硫黄ニッケルクロムモリブデンCSiMnPSNiCrMo0.95~1.201.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440Cの化学成分は、JIS規格によって上表のように定められています。SUS440Cは、ステンレス鋼の硬度や強度、焼入性に効果がある炭素の含有量が多く、焼入性のほか、耐食性や耐熱性を向上させるクロムの含有量も比較的多いステンレス鋼です。クロムは、防錆性の源となる酸化皮膜を形成し、焼き入れ後には、炭素と結合してクロム炭化物となり、SUS440Cの硬度や強度に寄与します。SUS440Cの耐食性SUS440Cは、上述したように、酸化皮膜の素となるクロムを多く含むため、良好な耐食性を示します。しかし、焼き入れ・焼き戻しによって、クロム炭化物が析出するため、周囲のクロム含有量が減少し、耐食性が低下します。ただし、その耐食性は、焼き戻しの熱処理条件によって異なり、焼き戻し温度が高いほど、クロム炭化物の析出量が多くなるため、耐食性は低くなります。一方、焼き入れ後の耐食性が最も高く、焼き戻し温度が低いほど、耐食性の低下は抑えられます。SUS440Cの腐食耐性は、代表的なステンレス鋼と比べると下表のようになります。腐食条件代表的なステンレス鋼の腐食度 (g/(m2・hr))SUS440CSUS420J2SUS304SUS430SUS630水*0.18-0.08-0.08塩酸 (5%)10.105934.13130.439012.25680.4772硝酸 (5%)18.88310.3100    0.01370.00580.0071硫酸 (5%)15.599122.12870.40628.78070.2707塩酸性塩化第二鉄 (6%)17.119415.90904.1834-7.5868塩水 (5%)0.01290.00670.0000-0.0000参照元:シリコロイ ラボ「耐食性比較表」株式会社シリコロイラボ、*シリコロイ ラボ「耐食性の一例」株式会社シリコロイラボSUS440Cの局所的な腐食耐性は、代表的なステンレス鋼と比べると下表の通りです。孔食は点状に生じ、内部深くに侵食する腐食のことで、孔食電位は孔食の発生する下限の電位で値が小さいほど孔食が生じやすくなっています。腐食条件代表的なステンレス鋼の孔食電位 (mV)SUS440CSUS420J2SUS304SUS430SUS630塩水 (3.5%)-30020-120100参照元:シリコロイ ラボ「耐食性比較表」株式会社シリコロイラボSUS440A、SUS440Bとの違い(単位:%)鋼種炭素ケイ素マンガンリン硫黄ニッケルクロムモリブデンCSiMnPSNiCrMoSUS440A0.60~0.751.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440B0.75~0.951.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440C0.95~1.201.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下そもそも、SUS440CはSUS440Bに炭素を加えて焼入硬化性の向上を図ったもの、SUS440BはSUS440Aに炭素を加えて焼入硬化性の向上を図ったものであり、これらの間の違いは炭素含有量だけです(上表参照)。従って、これらの硬度・靭性・耐食性の関係は、以下のようになります。・硬度:SUS440C > SUS440B > SUS440A・靭性:SUS440A > SUS440B > SUS440C・耐食性:SUS440A > SUS440B > SUS440Cなお、これらの硬度の値は、「JIS G 4303:2021」にて下表のように規定されています。鋼種焼き鈍し状態の硬さ焼き入れ・焼き戻し状態の硬さHBWHRCHVHBWHRCHVSUS440A255以下25以下269以下−54以上577以上SUS440B255以下25以下269以下−56以上613以上SUS440C269以下28以下284以下−58以上653以上

  • マルテンサイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    マルテンサイト系ステンレス鋼とは、13%のクロムを含むSUS403・SUS410を代表とした、常温でマルテンサイトの組織を持つステンレス鋼です。マルテンサイト系ステンレス鋼は、フェライト系とオーステナイト系には劣りますが、耐食性を持ちます。炭素を多く含んでいるため、焼入れにより硬化させることも可能です。また、大気中で加熱した場合の耐酸化性にも優れ、500℃程度までの温度下でも強度があまり低下しないため、耐熱性も良好です。なお、マルテンサイト系ステンレス鋼は全ての材料で磁性を持ちます。材料の形状は、棒鋼・平鋼で使われることがほとんどです。参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!マルテンサイト系ステンレスの組成・成分表:各マルテンサイト系ステンレス鋼(品種)における組成と特性SUS410SUS403SUS410S 耐食性・加工性SUS410F2 被削性SUS416 被削性SUS420J1 焼入硬化SUS420J2 焼入硬化SUS440A 焼入硬化SUS440B 焼入硬化SUS440C 焼入硬化SUS440F 被削性SUS420F 被削性SUS420F2 被削性SUS431 耐食性・靭性マルテンサイト系ステンレス鋼は炭素の含有量が多く、焼入れによって高い強度を得られ、焼戻しにより耐摩耗性や靭性を得ることができます。ただし不働態皮膜を形成するのに必要なクロムの含有量は少ないため、他のステンレス鋼よりも耐食性には劣ります。また、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて、高価な材料であるニッケルの含有量が少なく、値段も比較的安価です。参考:錆びにくい金属について解説【錆びない金属はありません】参考:オーステナイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめマルテンサイト系ステンレスの物理的性質と磁性<マルテンサイト系ステンレスの物理的性質>種類の記号ヤング率kN/mm2密度g/cm3比熱J/g・℃熱伝導率W/m・℃比電気抵抗Ωm(10-8)平均熱膨張係数10-6/℃室温室温0-100℃100℃500℃室温650℃0-100℃0-316℃0-538℃0-649℃0-816℃SUS403SUS4102007.750.4624.925.7571099.910.111.511.7-引用元:ステンレス協会(元データはステンレス鋼データブック「家電編」他)上表は、ステンレス協会の公式サイトに記述されているデータの一部を抜粋したものです。マルテンサイト系ステンレス鋼の物理的性質は、概ねフェライト系ステンレス鋼と近い数値で、オーステナイト系と比べると密度・比熱・比電気抵抗・熱膨張係数は小さい数値を表しています。また、オーステナイト系ステンレス鋼と違い、磁性を持つのも特徴です。参考:フェライト系ステンレス鋼の基礎知識まとめマルテンサイト系ステンレスの機械的性質<マルテンサイト系ステンレスの焼入焼戻し状態の機械的性質>種類の記号耐力Mpa(N/mm2)引張強さMpa(N/mm2)伸び絞り硬さHBWHRBS又はHRBWHRCHVSUS403390以上590以上25以上55以上170以上87以上-178以上SUS410345以上540以上25以上55以上159以上84以上-166以上SUS410J1490以上690以上20以上60以上192以上92以上-200以上SUS410F2345以上540以上18以上50以上159以上84以上-166以上SUS416345以上540以上17以上45以上159以上84以上-166以上SUS420J1440以上640以上20以上50以上192以上92以上-200以上SUS420J2540以上740以上12以上40以上217以上95以上-220以上SUS420F540以上740以上8以上35以上217以上95以上-220以上SUS420F2540以上740以上5以上35以上217以上95以上-220以上SUS431590以上780以上15以上40以上229以上98以上-241以上SUS440A------54以上577以上SUS440B------56以上613以上SUS440C------58以上653以上SUS440F------58以上653以上引用元:JIS G 4303:2012上表は【JIS G 4303:2012 ステンレス鋼棒】に記述されている、マルテンサイト系ステンレス鋼(焼入焼戻し状態)の機械的性質を抜粋したものです。マルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入れを施すことで高い強度が得られます。焼入れした後は最も高い強度が得られますが、そのままでは脆い状態です。そのため、基本的に焼入れもセットで行い、靭性を与えて使用されています。マルテンサイト系ステンレスと応力腐食割れ・耐食性・錆応力腐食割れは、ステンレス鋼の内、オーステナイト系において起こりやすいものとされていますが、マルテンサイト系でも起こるトラブルです。応力腐食割れを避けたい場合、高温焼戻しをすることで鋭敏化を避け、応力腐食割れを防止できます。マルテンサイト系ステンレス鋼は、フェライト系とオーステナイト系よりも耐食性は劣るものの、室内等の腐食が強くない環境であれば充分な耐食性を持ちます。しかし、酸環境や塩水環境のような場所では錆びが発生しやすいため、使用場所には注意が必要です。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法マルテンサイト系ステンレスと加工熱処理マルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入れ処理だけでは脆いため、焼戻しを行うことで耐摩耗性や靭性を付与します。マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れは、全体的にマルテンサイト組織には変態せず、ある程度のオーステナイトが残留(残留オーステナイト)する点に注意が必要です。残留オーステナイトは室温でもマルテンサイト変態し、体積が膨張することで歪みや割れを発生させることがあります。また、残留オーステナイトはマルテンサイトよりも柔らかい分、残留オーステナイトが多いと求める硬さが出せません。これを防ぐためには、焼戻しやサブゼロ処理を行います。サブゼロ処理は、焼入れ直後に0℃以下に冷却することで、刃物のような耐摩耗性を必要とするものに対して行われることが多い処理方法です。マルテンサイト系ステンレス鋼の焼戻しは、150~200℃程度で保持して空冷する低温焼戻しと、600~750℃程度で保持して急冷する高温焼戻しがあります。低温焼戻しは耐摩耗性を付与する場合に、高温焼戻しは靭性を付与する場合に行われます。また、焼戻しには「475℃脆化」と呼ばれる、475℃付近で急速に延性や靭性が低下する現象が起きる場合があるので、475℃付近での焼戻しは避ける必要があります。参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!溶接マルテンサイト系ステンレス鋼は、拡散性水素による低温割れや遅れ割れが発生する場合があります。低温割れとは、200~300℃以下で発生する割れのことです。遅れ割れは、低温割れのなかでも溶接後に多くの時間経過後に起こるもののことを指します。低温割れを防止するには、予熱により母材の温度を200~400℃程度に上げることで、材料の冷却速度を遅くするのが有効です。遅れ割れは、電極・溶加材・母材に大気中の水分が取り込まれないよう、乾燥した環境下で溶接したり、溶接機材や材料を乾燥・清浄化したりするのが有効です。参考:ステンレス溶接の種類や溶接方法を銅種別に徹底解説!塑性加工マルテンサイト系ステンレス鋼の塑性加工・切削加工を行う場合は、800~900℃からの徐冷による焼なましを行います。これは、焼なましを行わないと材料が硬く、加工がしにくいためです。より成形性を求める場合はSUS410Sを、被削性を求める場合は、SUS416・SUS410F2・SUS440F・SUS420F・SUS420F2を採用することで、それぞれの特性を向上できます。参考:ステンレス板の曲げ加工について加工事例と共に徹底解説!マルテンサイト系ステンレスの主な用途マルテンサイト系ステンレス鋼は、他の種類に比べて安価かつ、強度・耐食性・耐熱性に優れているのが特徴です。主な用途としては、これらの特徴を必要とする機械構造用部品(シャフト・ボルト・バルブシートなど)やプラスチック射出成用の金型などに採用されています。また、SUS440系はクロムと炭素の含有量が多く、ステンレス鋼のなかでも最も硬い材料であることから、刃物・外科用器具・ベアリングなどに用いられます。

  • SUS440Cとは?性質、規格、成分、用途

    SUS440Cは、JIS規格に規定されているステンレス鋼の中で最も硬いステンレス鋼です。マルテンサイト系ステンレス鋼の一種で、熱処理を施し、硬度を高めた状態で利用することが前提とされています。強度や耐摩耗性が必要なベアリングやシャフトなどの機械部品によく採用されるステンレス鋼で、高い強度と耐食性から刃物の用途もあります。しかし、SUS440Cにとって最も重要な硬度、さらにはステンレス鋼の大事な特性である耐食性も、熱処理条件によって変化するため、その取扱いには十分な知識が必要です。この記事では、SUS440Cの性質や規格、物理的性質、耐食性、熱処理条件によって変わる機械的性質などについて解説していきます。SUS440CとはSUS440Cとは、炭素の含有量が0.95〜1.20%と多く、焼入硬化性が特に高いマルテンサイト系ステンレス鋼の一種のことです(上図参照)。焼き入れと焼き戻しによって、ステンレス鋼の中でも最高レベルのHRC58以上という硬度を出すことができます。高硬度であるため、耐摩耗性や疲労強度が高く、引張強さも良好で、機械的性質に優れたステンレス鋼です。価格は、SUS304と同程度か、SUS304よりも少し高いくらいとなっています。参考:マルテンサイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめSUS440Cの耐食性は、クロムを16.0〜18.0%とステンレス鋼の中でも比較的多く含有するため、S45Cなどの炭素鋼やSK材・SKS材といった工具鋼と比べると高くなっています。しかし、炭素含有量が多いため、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304など)やフェライト系ステンレス鋼(SUS430など)、他のマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410やSUS420など)に劣ります。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!SUS440Cの被削性は、焼き入れ前(焼き鈍し後の状態)であれば、普通鋼やフェライト系ステンレス鋼と同程度で、オーステナイト系ステンレス鋼よりは良好です。しかし、焼き入れ・焼き戻し後の被削性は悪いため、焼き入れ前に最終的な形状まで成形することが多くなっています。ただし、焼き入れ・焼き戻し後にも加工を行う場合は、硬度に関係なく加工ができる放電加工を採用したり、難削材用の工具を使用したりする必要があります。なお、JIS規格には、SUS440Cに硫黄を添加して被削性を改善したSUS440Fが存在します(上図参照)。SUS440Cの焼入硬化性は特に良好で、焼き入れ・焼き戻しの適用が前提とされているステンレス鋼です。下表は、JIS規格(JIS G 4303:2021)に記載してある焼き鈍し・焼き入れ・焼き戻しの熱処理条件の例ですが、この条件以外の熱処理条件が用いられることもよくあります。熱処理方法焼き鈍し焼き入れ焼き戻し温度 (℃)800~9201010~1070100~180冷却方法徐冷油冷空冷・徐冷…炉の停止後、鋼材を炉内に入れたままにし、炉が冷えるのに合わせて鉄鋼を冷却する方法・油冷…炉の停止後、鋼材を炉から取り出し、油中に入れて冷却する方法・空冷…炉の停止後、鋼材を炉から取り出して、常温の空気中で冷却する方法参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!SUS440Cの用途SUS440Cの用途は、以下のように、優れた硬度や耐摩耗性、比較的良好な耐食性を活かしたものが多くなっています。・ベアリング(軸受)…回転・往復運動する部品を支持する部品のこと。荷重に対する形状不変性や摩擦に対する耐性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。・刃物…包丁やハサミ、カミソリ、医療用メスなどの刃のこと。高い硬度と防錆性が必要であることから、SUS440Cがよく採用されています。・ゲージ…製品検査で形状や精度などの検証に使用する測定・検査ゲージのこと。形状不変性や防錆性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。・金型…耐摩耗性が必要。プラスチックの射出成形用の金型にSUS440Cが採用されることがあります。そのほか、ノズルやシャフト、ポンプ部品などの強度を要する機械部品に用いられています。SUS440Cの規格SUS440Cは、以下のJIS規格に定められています。・JIS G 4303:2021「ステンレス鋼棒」・JIS G 4308:2013「ステンレス鋼線材」・JIS G 4309:2013「ステンレス鋼線」・JIS G 4318:2016「冷間仕上ステンレス鋼棒」SUS440Cの板材の規格はありませんが、市場には出回っています。なお、炭素含有量だけがSUS440Cと異なる、SUS440Aの板材については、以下のJIS規格に記載があります。・JIS G 4304:2021「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」・JIS G 4305:2021「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」また、SUS440CのJIS規格以外の規格との対応は以下の通りです。規格記号JISISOENASTM規格名日本産業規格国際標準化機構欧州標準化委員会米国試験材料協会鋼種名SUS440CX110Cr171.4023S44004SUS440Cの機械的性質焼き鈍し状態の硬さ焼き入れ・焼き戻し状態の硬さHBWHRCHVHBWHRCHV269以下28以下284以下−58以上653以上SUS440Cの硬度は、「JIS G 4303:2021」にて上表のように規定されています。ただし、必ずしもこれらの硬度になるわけではなく、特に焼き入れ後と焼き戻し後の硬さは熱処理条件によって大きく変わります。例えば、様々な焼き入れ温度に対する焼き入れ後(焼き戻し前)の硬度は、以下のような値が報告されています。焼き入れ温度900℃950℃1000℃1050℃1150℃硬度 (HRC)4753596142参照元:シリコロイ ラボ「SUS440C」株式会社シリコロイラボ焼き入れ・焼き戻し状態については、下表のように、様々な焼き戻し温度における多種の機械的性質のデータがあります。焼き戻し温度引張強さ0.2%耐力伸び硬さMPaMPa%HRC焼き鈍し状態7584481427.71 (269HB)204℃20301900459260℃19601830457316℃18601740456371℃17901660456参照元:Penn Stainless「440C STAINLESS STEEL」Penn Stainless Products Inc1020℃で焼き入れを行い、冷却方法として油冷を採用した場合では、焼き戻し後の硬度は、下図のような値になるとのこと。引用元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.SUS440Cの物理的性質密度熱伝導率比熱*比電気抵抗*×10-8磁性*g/cm3W/(m・K)J/(g・℃)Ω・m7.7824.30.4660強磁性参照元:シリコロイ ラボ「物理的性質」株式会社シリコロイラボ、*製品カタログ・技術情報「ステンレス鋼」愛知製鋼株式会社SUS440Cの主な物理的性質は、上表の通りです。ヤング率は、温度によって値が変化しますが、下表の通りとなっています。温度 (℃)20100200300400ヤング率 (GPa)215212205200190参照元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.温度範囲によって値が変わる熱膨張係数は、下表の通りです。温度範囲 (℃)20~10020~20020~30020~40020~500熱膨張係数 ×10-6 (℃)10.410.811.211.612.0参照元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.マルテンサイト系に言えることですが、SUS440Cの物理的性質は、フェライト系と類似しており、オーステナイト系とは異なる点が多くあります。SUS440Cは、普通鋼と同じく強磁性で、この点、SUS304などのオーステナイト系と異なります。比熱や電気抵抗率、熱膨張係数は、オーステナイト系の値よりも低く、密度や熱伝導率、ヤング率は、オーステナイト系の値よりも高くなっています。SUS440Cの成分(単位:%)炭素ケイ素マンガンリン硫黄ニッケルクロムモリブデンCSiMnPSNiCrMo0.95~1.201.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440Cの化学成分は、JIS規格によって上表のように定められています。SUS440Cは、ステンレス鋼の硬度や強度、焼入性に効果がある炭素の含有量が多く、焼入性のほか、耐食性や耐熱性を向上させるクロムの含有量も比較的多いステンレス鋼です。クロムは、防錆性の源となる酸化皮膜を形成し、焼き入れ後には、炭素と結合してクロム炭化物となり、SUS440Cの硬度や強度に寄与します。SUS440Cの耐食性SUS440Cは、上述したように、酸化皮膜の素となるクロムを多く含むため、良好な耐食性を示します。しかし、焼き入れ・焼き戻しによって、クロム炭化物が析出するため、周囲のクロム含有量が減少し、耐食性が低下します。ただし、その耐食性は、焼き戻しの熱処理条件によって異なり、焼き戻し温度が高いほど、クロム炭化物の析出量が多くなるため、耐食性は低くなります。一方、焼き入れ後の耐食性が最も高く、焼き戻し温度が低いほど、耐食性の低下は抑えられます。SUS440Cの腐食耐性は、代表的なステンレス鋼と比べると下表のようになります。腐食条件代表的なステンレス鋼の腐食度 (g/(m2・hr))SUS440CSUS420J2SUS304SUS430SUS630水*0.18-0.08-0.08塩酸 (5%)10.105934.13130.439012.25680.4772硝酸 (5%)18.88310.3100    0.01370.00580.0071硫酸 (5%)15.599122.12870.40628.78070.2707塩酸性塩化第二鉄 (6%)17.119415.90904.1834-7.5868塩水 (5%)0.01290.00670.0000-0.0000参照元:シリコロイ ラボ「耐食性比較表」株式会社シリコロイラボ、*シリコロイ ラボ「耐食性の一例」株式会社シリコロイラボSUS440Cの局所的な腐食耐性は、代表的なステンレス鋼と比べると下表の通りです。孔食は点状に生じ、内部深くに侵食する腐食のことで、孔食電位は孔食の発生する下限の電位で値が小さいほど孔食が生じやすくなっています。腐食条件代表的なステンレス鋼の孔食電位 (mV)SUS440CSUS420J2SUS304SUS430SUS630塩水 (3.5%)-30020-120100参照元:シリコロイ ラボ「耐食性比較表」株式会社シリコロイラボSUS440A、SUS440Bとの違い(単位:%)鋼種炭素ケイ素マンガンリン硫黄ニッケルクロムモリブデンCSiMnPSNiCrMoSUS440A0.60~0.751.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440B0.75~0.951.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440C0.95~1.201.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下そもそも、SUS440CはSUS440Bに炭素を加えて焼入硬化性の向上を図ったもの、SUS440BはSUS440Aに炭素を加えて焼入硬化性の向上を図ったものであり、これらの間の違いは炭素含有量だけです(上表参照)。従って、これらの硬度・靭性・耐食性の関係は、以下のようになります。・硬度:SUS440C > SUS440B > SUS440A・靭性:SUS440A > SUS440B > SUS440C・耐食性:SUS440A > SUS440B > SUS440Cなお、これらの硬度の値は、「JIS G 4303:2021」にて下表のように規定されています。鋼種焼き鈍し状態の硬さ焼き入れ・焼き戻し状態の硬さHBWHRCHVHBWHRCHVSUS440A255以下25以下269以下−54以上577以上SUS440B255以下25以下269以下−56以上613以上SUS440C269以下28以下284以下−58以上653以上

  • マルテンサイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    マルテンサイト系ステンレス鋼とは、13%のクロムを含むSUS403・SUS410を代表とした、常温でマルテンサイトの組織を持つステンレス鋼です。マルテンサイト系ステンレス鋼は、フェライト系とオーステナイト系には劣りますが、耐食性を持ちます。炭素を多く含んでいるため、焼入れにより硬化させることも可能です。また、大気中で加熱した場合の耐酸化性にも優れ、500℃程度までの温度下でも強度があまり低下しないため、耐熱性も良好です。なお、マルテンサイト系ステンレス鋼は全ての材料で磁性を持ちます。材料の形状は、棒鋼・平鋼で使われることがほとんどです。参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!マルテンサイト系ステンレスの組成・成分表:各マルテンサイト系ステンレス鋼(品種)における組成と特性SUS410SUS403SUS410S 耐食性・加工性SUS410F2 被削性SUS416 被削性SUS420J1 焼入硬化SUS420J2 焼入硬化SUS440A 焼入硬化SUS440B 焼入硬化SUS440C 焼入硬化SUS440F 被削性SUS420F 被削性SUS420F2 被削性SUS431 耐食性・靭性マルテンサイト系ステンレス鋼は炭素の含有量が多く、焼入れによって高い強度を得られ、焼戻しにより耐摩耗性や靭性を得ることができます。ただし不働態皮膜を形成するのに必要なクロムの含有量は少ないため、他のステンレス鋼よりも耐食性には劣ります。また、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて、高価な材料であるニッケルの含有量が少なく、値段も比較的安価です。参考:錆びにくい金属について解説【錆びない金属はありません】参考:オーステナイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめマルテンサイト系ステンレスの物理的性質と磁性<マルテンサイト系ステンレスの物理的性質>種類の記号ヤング率kN/mm2密度g/cm3比熱J/g・℃熱伝導率W/m・℃比電気抵抗Ωm(10-8)平均熱膨張係数10-6/℃室温室温0-100℃100℃500℃室温650℃0-100℃0-316℃0-538℃0-649℃0-816℃SUS403SUS4102007.750.4624.925.7571099.910.111.511.7-引用元:ステンレス協会(元データはステンレス鋼データブック「家電編」他)上表は、ステンレス協会の公式サイトに記述されているデータの一部を抜粋したものです。マルテンサイト系ステンレス鋼の物理的性質は、概ねフェライト系ステンレス鋼と近い数値で、オーステナイト系と比べると密度・比熱・比電気抵抗・熱膨張係数は小さい数値を表しています。また、オーステナイト系ステンレス鋼と違い、磁性を持つのも特徴です。参考:フェライト系ステンレス鋼の基礎知識まとめマルテンサイト系ステンレスの機械的性質<マルテンサイト系ステンレスの焼入焼戻し状態の機械的性質>種類の記号耐力Mpa(N/mm2)引張強さMpa(N/mm2)伸び絞り硬さHBWHRBS又はHRBWHRCHVSUS403390以上590以上25以上55以上170以上87以上-178以上SUS410345以上540以上25以上55以上159以上84以上-166以上SUS410J1490以上690以上20以上60以上192以上92以上-200以上SUS410F2345以上540以上18以上50以上159以上84以上-166以上SUS416345以上540以上17以上45以上159以上84以上-166以上SUS420J1440以上640以上20以上50以上192以上92以上-200以上SUS420J2540以上740以上12以上40以上217以上95以上-220以上SUS420F540以上740以上8以上35以上217以上95以上-220以上SUS420F2540以上740以上5以上35以上217以上95以上-220以上SUS431590以上780以上15以上40以上229以上98以上-241以上SUS440A------54以上577以上SUS440B------56以上613以上SUS440C------58以上653以上SUS440F------58以上653以上引用元:JIS G 4303:2012上表は【JIS G 4303:2012 ステンレス鋼棒】に記述されている、マルテンサイト系ステンレス鋼(焼入焼戻し状態)の機械的性質を抜粋したものです。マルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入れを施すことで高い強度が得られます。焼入れした後は最も高い強度が得られますが、そのままでは脆い状態です。そのため、基本的に焼入れもセットで行い、靭性を与えて使用されています。マルテンサイト系ステンレスと応力腐食割れ・耐食性・錆応力腐食割れは、ステンレス鋼の内、オーステナイト系において起こりやすいものとされていますが、マルテンサイト系でも起こるトラブルです。応力腐食割れを避けたい場合、高温焼戻しをすることで鋭敏化を避け、応力腐食割れを防止できます。マルテンサイト系ステンレス鋼は、フェライト系とオーステナイト系よりも耐食性は劣るものの、室内等の腐食が強くない環境であれば充分な耐食性を持ちます。しかし、酸環境や塩水環境のような場所では錆びが発生しやすいため、使用場所には注意が必要です。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法マルテンサイト系ステンレスと加工熱処理マルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入れ処理だけでは脆いため、焼戻しを行うことで耐摩耗性や靭性を付与します。マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れは、全体的にマルテンサイト組織には変態せず、ある程度のオーステナイトが残留(残留オーステナイト)する点に注意が必要です。残留オーステナイトは室温でもマルテンサイト変態し、体積が膨張することで歪みや割れを発生させることがあります。また、残留オーステナイトはマルテンサイトよりも柔らかい分、残留オーステナイトが多いと求める硬さが出せません。これを防ぐためには、焼戻しやサブゼロ処理を行います。サブゼロ処理は、焼入れ直後に0℃以下に冷却することで、刃物のような耐摩耗性を必要とするものに対して行われることが多い処理方法です。マルテンサイト系ステンレス鋼の焼戻しは、150~200℃程度で保持して空冷する低温焼戻しと、600~750℃程度で保持して急冷する高温焼戻しがあります。低温焼戻しは耐摩耗性を付与する場合に、高温焼戻しは靭性を付与する場合に行われます。また、焼戻しには「475℃脆化」と呼ばれる、475℃付近で急速に延性や靭性が低下する現象が起きる場合があるので、475℃付近での焼戻しは避ける必要があります。参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!溶接マルテンサイト系ステンレス鋼は、拡散性水素による低温割れや遅れ割れが発生する場合があります。低温割れとは、200~300℃以下で発生する割れのことです。遅れ割れは、低温割れのなかでも溶接後に多くの時間経過後に起こるもののことを指します。低温割れを防止するには、予熱により母材の温度を200~400℃程度に上げることで、材料の冷却速度を遅くするのが有効です。遅れ割れは、電極・溶加材・母材に大気中の水分が取り込まれないよう、乾燥した環境下で溶接したり、溶接機材や材料を乾燥・清浄化したりするのが有効です。参考:ステンレス溶接の種類や溶接方法を銅種別に徹底解説!塑性加工マルテンサイト系ステンレス鋼の塑性加工・切削加工を行う場合は、800~900℃からの徐冷による焼なましを行います。これは、焼なましを行わないと材料が硬く、加工がしにくいためです。より成形性を求める場合はSUS410Sを、被削性を求める場合は、SUS416・SUS410F2・SUS440F・SUS420F・SUS420F2を採用することで、それぞれの特性を向上できます。参考:ステンレス板の曲げ加工について加工事例と共に徹底解説!マルテンサイト系ステンレスの主な用途マルテンサイト系ステンレス鋼は、他の種類に比べて安価かつ、強度・耐食性・耐熱性に優れているのが特徴です。主な用途としては、これらの特徴を必要とする機械構造用部品(シャフト・ボルト・バルブシートなど)やプラスチック射出成用の金型などに採用されています。また、SUS440系はクロムと炭素の含有量が多く、ステンレス鋼のなかでも最も硬い材料であることから、刃物・外科用器具・ベアリングなどに用いられます。