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  • SKD11とは?硬度、成分、規格、処理、加工方法まとめ

    SKD11は、プレス加工の金型などに用いられている合金工具鋼です。金型は、特定の部品や製品の型となる工具のことで、金属材料などを強い圧力で挟み込むことで成形します。そのため、金型の材料には、強度や耐摩耗性、形状不変性などが必要であり、SKD11はこれらの特性に優れています。しかし、SKD11の高い強度や耐摩耗性は、焼き入れを施さないと得られません。さらに、SDK11は、焼き入れ後に難削材となってしまうなどの取り扱いの難しさもあります。この記事では、SKD11とはどのような合金鋼なのかというところから、用途、特徴、規格、物理的・化学的性質、熱処理の詳細、加工方法などについて解説していきます。SKD11とはSKD11とは、炭素工具鋼にクロムやモリブデン、バナジウムを添加した合金工具鋼のことです。0.55〜1.50%の炭素を含有し、ケイ素とマンガンの含有量を調整した炭素工具鋼に、各種元素を添加して性質の向上を図ったものです。耐摩耗性に優れ、熱処理歪みが少なく、熱処理によって硬度を上げることができます。JIS規格(JIS G 4404:2015)に規定されている鋼材で、冷間金型用として分類されていることからダイス鋼とも呼ばれます。なお、SKDは、「Steel Kougu Dice」の略で、「Steel」は鉄鋼、「Kougu」は工具、「Dice」は金型を意味します。また、SKD11の「11」には、特に意味はなく、開発された順序を示しているようです。冷間金型用として主流の鋼材で、多くの鉄鋼メーカーからDC11(大同特殊鋼)やSLD(日立金属)などといった相当材が販売されています。さらに近年では、SKD11を改良したDC53(大同特殊鋼)やSLD8(日立金属)などの合金工具鋼が数多く開発されています。参考:【金型製作】金型の種類と基礎や流れについて徹底解説!!SKD11の用途SKD11は、主にプレス機械などの中量から多量生産用の金型に用いられていますが、以下のような用途にも使われています。・転造ダイス…転造盤用の金型のことです(下図参照)。SKD11の高い硬度と優れた耐摩耗性から、SKD11が転造ダイスの材質に選ばれることがあります。なお、転造は、圧力を加えながら転がすことで円筒状の金属材料を成形する加工法で、ネジのネジ山の成形などに用いられます。引用元:工具「C131647 転造丸ダイス 田野井 9M1H/8」小林機械株式会社・フォーミングロール…ロール成形用の回転工具のことです(下図参照)。硬度や耐摩耗性が必要であるため、材質にSKD11が選定されることがあります。なお、ロール成形は、帯状の鋼板を複数のフォーミングロールが組み込まれた機械に通すことで成形する加工法です。引用元:お知らせ「第20回 機械要素技術展に出展しました。」株式会社英田エンジニアリング・シャー刃…鉄板などの切断に用いられる切断機(シャーリングマシン)の刃のことです。SKD11は、焼き入れによって高い硬度が得られ、精度も維持できることから、シャー刃の材質に適しています。・治具…耐摩耗性が必要な治具の材料にSKD11を用いることがあります。・ゲージ…製品の検査工程で形状や精度などを検証するために用いられる測定ゲージ・検査ゲージのことです。SKD11は、摩耗に強い上に、形状が変化しにくく、耐食性も比較的高いことから、各種検査ゲージの材料に用いられます。・金属刃物…SKD11は、包丁の刃金の部分に使用されることがあります。刃金とは、包丁の芯となり、刃となる部分のことです。SKD11を刃金に用い、それをサビに強く、安価なステンレス鋼で挟み込んだものが多く流通しています。参考:プレス金型とは?金型の機能・名称に関しても解説!SKD11の特徴とメリット・デメリットSKD11の特徴は、上述したように、高硬度と優れた耐摩耗性です。ただし、これらの特徴は、熱処理を加えることで現れるため、成形加工後に焼き入れ焼き戻しを行うのが一般的です。SKD11を用いるメリットとしては、以下が挙げられます。●SKD11を用いるメリット・耐摩耗性に優れる・熱処理後には、HRC58~63程度の高い硬度が得られる・熱処理後の変形が小さく、精密な製品の材料に適す・冷間金型の材料の中では、流通性が良く、入手しやすい・冷間加工用であるものの、熱間強度が高く、500℃程度までなら使用に耐えうる比較のため、他の金属材料の硬度を挙げると、SUS304がHRC11(HV200)、焼きならし後のS45CがHRC4.63〜20.64(HBW167〜229)、焼き入れ焼き戻し後のS45CがHRC13.5〜27.71(HBW201~269)、焼き入れ焼き戻し後のSUS440CがHRC55〜61程度となっています。一方、SKD11を用いる際のデメリットとしては、以下が挙げられます。●SKD11を用いるデメリット・熱処理後の硬度が高く、被削性が悪い・熱処理前も、硬度(焼きなまし硬さ)がHRC25(HBW255)程度と比較的高く、被削性が良いわけではない・熱処理後には、金属組織に粗大な炭化物が分散して、高速の摺動摩耗に弱くなる・粗大な炭化物の存在によって被削性がさらに低下する・粗大な炭化物の存在によって靭性が低下し、亀裂や割れが生じやすくなる・溶接時に割れが生じやすく、350〜450℃程度の予熱と後熱が必要・焼き入れ温度が1030℃程度と高い・焼き入れ温度と焼き戻し温度によって硬度が変化するため、熱処理時には、適切な温度管理を要する(下図は焼き入れ温度975℃・1000℃・1025℃・1050℃の焼き戻し硬さ曲線)引用元:F-SDK11 テクニカルデータ「熱処理特性」双葉電子工業株式会社SKD11の性質物理的性質比重密度(g/cm3)熱伝導率(W/mK)熱膨張係数(×10-6/℃)20〜100℃縦弾性係数(GPa)磁性7.807.8026.112.0207あり参照元:特性「物理的性質」株式会社 シリコロイラボSKD11の物理的性質は、上表の通りです。SKD11は、密度や縦弾性係数(ヤング率)の値について、SS400やS45C、SUS304と大きな違いはありません。一方、SKD11の熱伝導率については、SS400の58W/mKやS45Cの41W/mKと比べると低く、SUS304の16W/mKと比べると高くなっています。熱膨張係数については、SS400やS45Cとほぼ同等の値で、SUS304の17.2×10-6/℃と比べると若干低目の値です。このように、SKD11の高温特性は、優れた耐熱材料であるステンレス鋼に近く、熱膨張係数についてはSUS304よりも低いことから、温度変化に対する形状変化も小さくなっています。そのため、プレス機械の金型などに用いる場合でも摩擦熱の影響を受けにくく、また検査ゲージなどの形状不変性が要求される材料に適しています。しかし、熱伝導率の低さから、切削加工に伴う熱が拡散しにくく、切削工具が損傷しやすくなります。化学的性質(単位:%)炭素ケイ素マンガンリン硫黄クロムモリブデンバナジウムCSiMnPSCrMoV1.40〜1.600.40以下0.60以下0.030以下0.030以下11.00〜13.000.80〜1.200.20〜0.50SKD11の化学成分は、JIS規格(JIS G 4404:2015)で規定されており、上表の通りとなっています。ただし、SKD11の化学成分の注意点として、タングステン(W)は意図的に添加してはなりません。また、上表に記載の化学成分以外の含有元素は鉄(Fe)であり、その含有量はおよそ83.4〜86.6%です。SKD11は、クロムを11~13%含有しており、そのクロム含有量はマルテンサイト系ステンレス鋼と同程度です。しかし、ステンレス鋼は、クロム含有量が10.5%以上で炭素含有量が 1.2%以下の鉄鋼のことなので、炭素含有量が1.2%超のSKD11はステンレス鋼に分類されません。また、ステンレス鋼の耐食性は、クロムの存在によって実現されているため、SKD11も比較的耐食性に優れていますが、炭素含有量が多いため、ステンレス鋼ほどの耐食性はありません。その一方、SKD11は、炭素含有量が多い分、硬度が高くなるとともに、焼き入れ性が良くなっています。さらに、モリブデンの添加は、耐摩耗性や焼入硬化性の向上に、バナジウムの添加は、耐摩耗性の向上に寄与しています。SKD11の硬度ここでは、SKD11の熱処理前と熱処理後の硬度についてご紹介します。参考:鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!焼きなましの熱処理温度と硬度焼きなまし焼きなまし硬さ温度冷却方法HRCHBWHV830〜880℃徐冷25.33以下255以下268以下上表は、JIS規格にて規定されているSKD11の焼きなまし条件と焼きなまし硬度です。SKD11は、通常、鉄鋼メーカーにより焼きなましを行った後の状態で出荷されるので、金属加工メーカーにとっては、上表の硬度が熱処理前の硬度となります。なお、焼きなましとは、鉄鋼を高い温度で維持することによって、金属組織を均一化するとともに、鉄鋼を軟らかくし、加工しやすくする熱処理のことです。また、上表の冷却方法にある「徐冷」は、炉の停止後も鉄鋼を炉内に入れたままにし、炉が冷えるのに合わせて鉄鋼を冷却する方法です。焼き入れ焼き戻しの熱処理温度と硬度焼き入れ焼き戻し焼き入れ焼き戻し硬さ温度冷却方法温度冷却方法HRCHBWHV1030℃空冷180℃空冷58以上615以上653以上上表は、SKD11に対して、焼き入れ及び焼き戻しを行った後のJIS規格にて規定されているSKD11の硬度です。SKD11は、通常、成形加工後に熱処理を行うことから、上表の硬度が加工品の使用時の硬度となります。なお、焼き入れは、鉄鋼を硬くするため、焼き戻しは、鉄鋼の硬度を調整して靭性を高めるために行われる熱処理のことです。また、上表の冷却方法にある「空冷」は、炉の停止後、鉄鋼を炉から取り出して、常温の空気中で冷えるのを待つ方法です。近年では、熱処理後のSKD11に放電加工などを行うことがあることから、様々な条件で熱処理を行うことが多くなっています。例えば、焼き入れでは、以下のような熱処理条件が採用されています。●焼き入れの熱処理条件・980〜1010℃ 油冷・1010〜1030℃ 油冷・1000〜1030℃ 空冷・1030〜1050℃ 空冷油冷は、炉の停止後、鉄鋼を炉から取り出して、油中で冷却する方法です。空冷と比較すると、迅速な冷却が可能で、硬度が高くなりますが、靭性は低くなって割れやすくなり、熱処理歪みも大きくなる傾向があります。また、焼き入れ温度によっても、鉄鋼の性質は変わります。焼き入れ温度が高いほど、焼き戻し後の硬度が高くなりますが、靭性は低くなり、熱処理歪みも大きくなります。焼き戻しの熱処理条件によっても、下表のように鉄鋼の硬度は変わります。焼き戻し焼き入れ焼き戻し硬さ温度冷却方法HRCHBWHV150〜200℃空冷60〜63654 〜 705697 〜 772200〜250℃57〜60595 〜 654633 〜 697500℃以上57以下595以下633以下焼き戻しは、焼き入れとは逆に、焼き戻し温度が高いほど、硬度や耐摩耗性は低下し、代わりに靭性が向上します。加工方法SKD11の代表的な加工方法は、切削加工と放電加工です。切削加工SKD11は、熱処理前に切削加工で成形し、熱処理後に研削加工で仕上げを行うという方法がよく採用されます。SKD11は、熱処理前でも、S45Cなどの炭素鋼よりも被削性に劣りますが、切削加工が難しいわけではありません。一方、熱処理後は、硬度が高くなるため、切削加工を行うのは困難です。そのため、熱処理前の切削加工によって、成形を完了させてしまうことがよくあります。しかし、熱処理によって変形が生じることがあるため、高い精度が必要な場合は、熱処理後に研削加工などで仕上げを行います。ただし、熱処理後のSKD11は、研削加工も困難であるため、熱処理後の加工が最小限となるよう、熱処理前の切削加工をしっかり行っておくことが重要です。放電加工SKD11は、放電加工による変形が少ないために放電加工の加工性が良く、熱処理後の加工方法として放電加工がよく採用されます。放電加工は、材料と電極との間でアーク放電を発生させ、材料表面を溶かして除去することで成形する加工法です。硬度によらない加工法であるため、高硬度である熱処理後のSKD11でも問題なく加工することができます。ただし、放電加工を行う場合は、150〜200℃の焼き戻し(低温焼き戻し)ではなく、500℃以上の焼き戻し(高温焼き戻し)を行うことが推奨されます。それは、低温焼き戻しでは、焼き入れによって金属内部に生じた炭化物や応力などが多く残留し、炭化物や残留応力が放電加工による熱影響を受けて亀裂や変形の原因となることがあるからです。しかし、高温焼き戻しを行う場合は、硬度がHRC57以下と低いため、加工品の寿命が短くなるという欠点もあります。参考:放電加工(EDM)の基礎知識(原理、メリット・デメリット、電極)表面処理方法SKD11には、表面特性を向上させるため、めっきや表面改質熱処理を適用することがあります。めっきSKD11は、クロムをマルテンサイト系ステンレス鋼と同程度含有しているので、SS400やS45Cと比べると、錆びにくい材質です。しかし、炭素量が1.4~1.6%と高いことから、ステンレス鋼ほどの耐食性はなく、めっきなどによって防サビ対策を取ることが推奨されます。SKD11に対しては、硬質クロムめっきを施すことが多く、このめっきによって耐摩耗性の向上なども期待できます。参考:クロムメッキとは【中の人が解説】特徴や加工方法について詳細をお伝えします!熱処理SKD11には、さらなる硬度や耐摩耗性を得るためや高温焼き戻しによる硬度の低下を補うために、以下のような表面改質熱処理を行うことがあります。・窒化処理…高温焼き戻し温度程度まで加熱した窒素またはアンモニアガスの雰囲気中にSKD11を保持することで、表面に窒素を浸透させて、表面を硬化します。HV1000以上の表面硬さも実現可能な方法です。・PVD(物理蒸着)…真空中で高温焼き戻し温度程度まで加熱した成膜物質(窒化チタンなど)を付着させて、SKD11の耐摩耗性や耐食性の向上を図る方法です。・CVD(化学蒸着)…真空中または大気中で焼き入れ温度程度まで成膜の元となる物質を加熱し、化学反応を励起・促進してSKD11表面に薄膜を形成する方法です。この方法もまた、耐摩耗性や耐食性の向上が期待できます。ただし、これらの方法では、SKD11を高温に暴露することになるため、熱による変形などに注意する必要があります。

  • FC250とは?特徴、規格、性質、成分まとめ

    今回は、FC250の特徴や規格値などについて解説します。FC250とは、ねずみ鋳鉄の一種で、鋳造用の材料として採用されている材質です。鋳造性に優れた材質のため、SS材やSC材などの鉄材では成形しにくい複雑な形状の製品に適しています。鋳鉄にはFCのほかにFCDがあります。今回は、FCとFCDの違いについても見てみましょう。参考:鉄・鋼・鋳鉄の違いは炭素の量|鋳物の特徴などFC250とは?FC250とは、ねずみ鋳鉄と呼ばれる鋳鉄品の一種です。ねずみ鋳鉄は破面がねずみ色であったことに由来します。鋳鉄とは、溶かした金属を型に流し込んで成形したもののことで、FC250を含むねずみ鋳鉄は、鋳物の材料として使われています。鋳鉄は複雑な形状の型に対しても材料が流れるように、炭素量を多く含有しています。FC250を含むねずみ鋳鉄品は、【JIS G 5501-1995:ねずみ鋳鉄品】にて規格が定められています。FCのあとに続く数字は100・150・200・250・300・350の6種類があります。これらの数値は、FC250の引張強さが250N/mm2以上であるように、JIS規格にて定められた別鋳込み供試材の機械的性質での引張強さを表します。FC250の特徴と用途FC250を含むねずみ鋳鉄の特徴は、耐摩耗性・振動吸収性・鋳造性などに優れている点です。一方で、鋳造ではないS45Cなどの炭素鋼と比べると、粘り気がなく脆い傾向にあります。また、炭素を多く含むため、塑性加工や溶接も不向きです。鋳鉄は複雑な形状でも成形しやすいことから、切削などの金属加工では作りにくい部品に重宝します。そのほかにも耐久性が求められる箇所や、揺れや振れが問題となる箇所に多く採用されています。用途としては、溝蓋・自動車部品・工作機械のベッドなどが代表的です。FC250の成分FC250は、【JIS G 5501-1995:ねずみ鋳鉄品】の規格では化学成分が定められておらず、受渡当事者間の協定によるものとしています。以下は、新潟県工業技術総合研究所にて記述しているFCの化学成分の参考値を示しています。・FCCEを亜共晶(4.3%未満)にする。(炭素当量 CE=C+Si/3)FC250は3.4C%以上、FC300は3.25C%以上が目安。Siはチルが出ない範囲で少ない方がよい。Si量が少ないと高強度になり、肉厚感受性も小さくなり、引けも出にくい。引けと肉厚感受性をともに小さくする配合の理想は、3.2~3.25%C、1.1~1.2%Si。硫黄(S)は0.06~0.08%。引用元:新潟県工業技術総合研究所 鋳鉄の化学成分FC250の規格と機械的性質FC250はJIS規格によると、機械的性質(引張強さ・硬度)についてのみ規定されています。なお、FCは低応力域から局部的な降伏、塑性変形、部分的な破壊が多く発生するなどの理由から、降伏点についても明確な数値が規定されておりません。参考:公益社団法人 日本鋳造工学会 鋳鉄の引張り試験を行ったとき、明瞭な降伏(弾性限)が認められないのはなぜですか?以下の物理的性質については、鋳物メーカーの参考値を記載しています。・FC250 別鋳込み供試材の機械的性質(JIS規格)種類の記号引張強さN/mm2硬さHBFC250250以上241以下引用元:JIS G 5501-1995:ねずみ鋳鉄品・FC250 物理的性質比重 密度 重さ:7.2ヤング率(E/Gpa):100比熱(cal/g℃):0.16~0.17ポアソン比:0.27引用元:友鉄工業株式会社 ねずみ鋳鉄 減衰能 潤滑性 切削性 FC250FCDとの違いFCDとはダクタイル鋳鉄と呼ばれるもので、FCと比べて耐摩耗性や機械的強度に優れています。FCは片状の黒鉛を含有しているのに対して、FCDは球状の黒鉛を含むことから、球状黒鉛鋳鉄とも呼ばれています。FCDはJIS規格にて、350~800までの記号があり、数値の大きいものほど引張強さと硬さの値が大きくなります。FCD700ほどまで硬いものだと、FCに比べて削りにくくなるので、加工の際は注意が必要です。FCDは、FCよりも耐摩耗性や強度を必要とする溝蓋や自動車部品などに加えて、マンホール蓋や上下水道用ダクタイル鋳鉄管、ストリートファニチャーなどの幅広い用途に採用されています。

  • NAK55の特徴、性質、成分、処理、加工方法まとめ

    今回はNAK55の特徴や性質についてご紹介します。NAK55とは、大同特殊鋼株式会社が取り扱う製品である快削性プリハードン鋼の一種です。プリハードン鋼とは、あらかじめ中程度の硬度に熱処理をした鋼材のことで、鋼材メーカーによってNAK**やHPM**といった名称で取り扱われています。大同特殊鋼株式会社が取り扱う快削性プリハードン鋼は、NAK55と似た特性の金属としてNAK80もラインナップしています。今回はNAK55とNAK80の違いについても見てみましょう。参考:プリハードン鋼の解説!デメリット・用途などNAK55の特徴NAK55は、プラスチック金型用鋼のことで、最適条件で37~43HRCの硬さを有しており、そのまま型彫加工を行えます。また、Ni-Al-Cu系時効硬化型の鋼であることから、被削性や肉盛溶接性が良好です。切削加工後や放電加工後の研磨も容易に行えます。使用時の歪みが少ないのもポイントで、精密性を必要とする金型に適している材料です。NAK55の用途は、高性能・精密プラスチック金型、ゴム金型、プレス金型、産業機器等各種部品が代表的です。NAK55の成分記号JIS等該当記号化学成分CSiMnNiCuMoAl快削元素NAK55-0.150.3適量3.01.00.31.0S添加引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80NAK55の規格、比重、降伏点、ヤング率・熱膨張係数(×10-6/℃)記号20~100℃20~200℃20~300℃NAK55NAK8011.312.513.4引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80・熱伝導率(W/m・K)記号25℃100℃200℃300℃400℃NAK55NAK8029.531.433.032.832.1引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80・磁気特性記号最大比透磁率飽和磁束密度(T)残留磁束密度(T)保持力(A/m)NAK55NAK803801.6350.8501100引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80・機械的特性採取方向硬さHRC0.2%耐力N/mm2(kgf/mm2)引張強さN/mm2(kgf/mm2)伸び%絞り%シャルピー衝撃値J/cm2(kgf・m/cm2)L40981(100)1,255(128)154018(1.8)T40981(100)1,275(130)143812(1.2)引張試験片:JIS4号衝撃試験片:2mmUノッチ衝撃試験温度:293K(20℃)引用元:メカトロネット事務局 NAK55 テクニカルデータ・ヤング率(縦弾性係数):201,000N/mm2(20℃)・比重:7.80g/cm3(20℃)・比熱:481J/(kg・°C)(20℃)引用元:メカトロネット事務局 NAK55 テクニカルデータ NAK55の加工方法NAK55は高い硬度を持ちながらも被削性に優れた鋼材で、金型用の材料として多く活用されています。切削時のポイントとしては、加工面の精度を向上させたい場合、切削速度を上げるのが有効です。切込み量と送り量は、加工精度に応じた調整を行います。ツールホルダの振れは、切削面の精度に大きな影響を及ぼすため、定期的にホルダの点検および取替えを行いましょう。NAK55の処理NAK55は、アルマイト処理以外であれば、どのようなめっき処理でも対応が可能です。めっき処理方法は、特別な前処理を必要とせず、通常の鉄材と同様の方法で行います。熱処理については、NAK55が時効硬化型の鋼で、HRC40程度の硬度しか入らない材料のため、焼入れ焼戻しで硬度を上げられない点に注意が必要です。硬度を上げたい場合は、窒化処理を行うことで、加工後に表面の硬度を上げられます。NAK55の長所と短所NAK55の長所●被削性が良好37~43HRCの硬さを有するものの、およそ18HRCの硬さをもつS53Cとほぼ同等かつ、30HRCのSCM440よりも遥かに被削性に優れています。●放電加工後の研磨が容易放電加工後は、加工面の硬さが上昇せず、研磨が容易に行えます。●優れた鏡面仕上げ性切削加工面が優れているため、研磨が容易に行えるほか、ピンホールが出にくくて鏡面の光沢が出やすい特徴があります。●優れた肉盛溶接性肉盛溶接部の硬さ上昇がなく良好。溶接後は時効処理を施すことで、均一なシボ加工面が得られます。●型寿命に優れている硬さがある材料のため、耐摩耗性と耐圧性に優れ、長期の型寿命を実現しています。●錆びにくいNAK55は水にさらされるプラスチック金型にも採用される材料で、錆びにくい特徴があります。NAK55の短所●焼入れ焼戻しをしても硬度が上がらないNAK55は、時効硬化による方法で硬度を上げている鋼材です。これにより、焼入れ焼戻しにより硬度を上げることができません。時効硬化とは、急冷した合金の時間経過で常温化し、合金元素を析出させて材料を硬くすることを指します。硬度を上げたい場合は、鋼の表面に窒素をしみ込ませて硬くする窒化処理を行う必要があります。NAK80との違いNAK80は、NAK55と同じく、大同特殊鋼株式会社が取り扱う快削性プリハードン鋼です。NAK80はNAK55の特徴に加えて、鏡面みがき性に優れています。また、放電加工肌は緻密で美麗なため、梨地シボの代用が可能です。ただしNAK55よりも若干被削性に劣ります。

  • SKD61とは?性質、用途、処理、加工方法まとめ

    今回はSKD61の性質や用途などについて解説します。SKD61とは、【JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材】に規定されている、熱間金型用の合金鋼のことです。SKDの記号は、S:Steel(銅)、Kougu(工具)、Dies(金型)の意味を持ちます。SKD61は、耐熱性や耐摩耗性などに優れていますが、加工性には乏しい特徴がある材料です。SKD61とはSKD61とは、「ダイス鋼」とも呼ばれる熱間金型用の合金鋼のことで、炭素工具鋼にタングステン、モリブデン、クロム、バナジウム等を添加しています。SKD61は、耐熱性・耐ヒートショック性に優れていることから、主にプレス型・ダイカスト型・押出工具・シャーブレードなどの用途で採用されています。メーカーによっては、相当鋼種としてDHA1やDACなどの名称で扱われているほか、改良鋼種として特性が異なる場合もあります。SKDの代表成分は以下の通りです。・SKD61の化学成分種類の記号CSiMnPSCrMoVSKD610.35~0.420.80~1.200.25~0.500.030以下0.020以下4.80~5.501.00~1.500.80~1.15引用元:JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材SKD61は、モリブデンの量が多いことから高温下での引張強さに優れているほか、バナジウムにより靭性も備えています。また、耐熱性も良好なことから、熱による亀裂が発生しにくいのも特徴です。しかし硬度が高く、耐摩耗性に優れている一方で、加工性には乏しいデメリットがあります。SKD61の硬度焼なましの温度と硬度種類の記号焼なまし温度(℃)焼なまし硬さ(HBW)SKD61820~870229以下引用元:JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材焼入れ焼戻し熱処理温度と硬度種類の記号熱処理温度及び冷却方法(℃)焼入焼戻し硬さHRC焼入れ焼戻しSKD611020 空冷550 空冷50以上引用元:セキイハガネ 汎用熱間ダイス鋼(SKD61)SKD61は、焼入れ焼戻しを行うと高い硬度を示しますが、熱処理における寸法変化や歪みが発生しやすい傾向があります。熱処理後の硬度はHRC53~56程度です。SKD61の機械的性質・熱伝導率 ※硬さ:45HRC熱伝導率 W/(m・℃)(cal/cm・sec・℃)20℃200℃400℃500℃700℃30.5(0.073)30.1(0.072)29.3(0.070)28.9(0.069)28.0(0.067)・ヤング率(縦弾性係数)※硬さ:45HRC熱伝導率 W/(m・℃)(cal/cm・sec・℃)20℃200℃300℃400℃500℃600℃700℃206,000(21,000)196,000(20,000)191,000(19,500)178,000(18,200)167,000(17,000)137,000(14,000)98,000(10,000)・比重:7.73g/cm3(硬さ48HRC 熱処理品 20℃時)引用元:メカトロネット事務局 SKD61 テクニカルデータSKD61の加工方法SKD61は、硬度が高くて耐摩耗性に優れた材質のため、加工性には乏しい特徴があります。このことから、工具選びを誤ると刃が摩耗が激しくなったり、破損したりする恐れがあるので注意してください。加工は主に研削加工が採用されています。SKD61の処理方法熱処理ダイス鋼は、一般的に加工後に熱処理を施して硬度を得ます。熱処理の方法は、真空熱処理が適しています。真空熱処理は、真空中で製品を加熱したり、ガスもしくは油で冷却したりする熱処理方法のことで、鋼材の表面が酸化しないことや、脱炭層が発生しないメリットがあります。脱炭層とは、空気中の酸素と鋼材表面の炭素が結合して、炭素を失う現象のことを指します。また、寸法変化や硬度のバラツキが少ないのもポイントです。めっき処理一般的にダイス鋼は錆びやすい特徴があるので、防錆力を上げるためにはめっき処理が必要です。しかしダイス鋼は炭素が多く、酸化皮膜を形成するとめっきを施しにくくなるので、前処理には注意が必要です。ダイス鋼は耐摩耗性が求められる用途で使用するため、工業用硬質クロムめっきや無電解ニッケルめっきが多く活用されています。SKD61とSKD11の違いSKD11は、冷間金型用のダイス鋼で、ゲージ・ねじ転造ダイス・金属刃物・プレス型などの用途で採用されている材質です。熱処理後の硬度は、SKD61がHRC53~56程度に対し、SKD11はHRC58~62程度と高い数値を示します。一方で、靭性と熱間引張強度については、300℃の環境下でSKD11は強度が急激に低下するのに対し、SKD61は一定の強度を保ちます。

  • SKD11とは?硬度、成分、規格、処理、加工方法まとめ

    SKD11は、プレス加工の金型などに用いられている合金工具鋼です。金型は、特定の部品や製品の型となる工具のことで、金属材料などを強い圧力で挟み込むことで成形します。そのため、金型の材料には、強度や耐摩耗性、形状不変性などが必要であり、SKD11はこれらの特性に優れています。しかし、SKD11の高い強度や耐摩耗性は、焼き入れを施さないと得られません。さらに、SDK11は、焼き入れ後に難削材となってしまうなどの取り扱いの難しさもあります。この記事では、SKD11とはどのような合金鋼なのかというところから、用途、特徴、規格、物理的・化学的性質、熱処理の詳細、加工方法などについて解説していきます。SKD11とはSKD11とは、炭素工具鋼にクロムやモリブデン、バナジウムを添加した合金工具鋼のことです。0.55〜1.50%の炭素を含有し、ケイ素とマンガンの含有量を調整した炭素工具鋼に、各種元素を添加して性質の向上を図ったものです。耐摩耗性に優れ、熱処理歪みが少なく、熱処理によって硬度を上げることができます。JIS規格(JIS G 4404:2015)に規定されている鋼材で、冷間金型用として分類されていることからダイス鋼とも呼ばれます。なお、SKDは、「Steel Kougu Dice」の略で、「Steel」は鉄鋼、「Kougu」は工具、「Dice」は金型を意味します。また、SKD11の「11」には、特に意味はなく、開発された順序を示しているようです。冷間金型用として主流の鋼材で、多くの鉄鋼メーカーからDC11(大同特殊鋼)やSLD(日立金属)などといった相当材が販売されています。さらに近年では、SKD11を改良したDC53(大同特殊鋼)やSLD8(日立金属)などの合金工具鋼が数多く開発されています。参考:【金型製作】金型の種類と基礎や流れについて徹底解説!!SKD11の用途SKD11は、主にプレス機械などの中量から多量生産用の金型に用いられていますが、以下のような用途にも使われています。・転造ダイス…転造盤用の金型のことです(下図参照)。SKD11の高い硬度と優れた耐摩耗性から、SKD11が転造ダイスの材質に選ばれることがあります。なお、転造は、圧力を加えながら転がすことで円筒状の金属材料を成形する加工法で、ネジのネジ山の成形などに用いられます。引用元:工具「C131647 転造丸ダイス 田野井 9M1H/8」小林機械株式会社・フォーミングロール…ロール成形用の回転工具のことです(下図参照)。硬度や耐摩耗性が必要であるため、材質にSKD11が選定されることがあります。なお、ロール成形は、帯状の鋼板を複数のフォーミングロールが組み込まれた機械に通すことで成形する加工法です。引用元:お知らせ「第20回 機械要素技術展に出展しました。」株式会社英田エンジニアリング・シャー刃…鉄板などの切断に用いられる切断機(シャーリングマシン)の刃のことです。SKD11は、焼き入れによって高い硬度が得られ、精度も維持できることから、シャー刃の材質に適しています。・治具…耐摩耗性が必要な治具の材料にSKD11を用いることがあります。・ゲージ…製品の検査工程で形状や精度などを検証するために用いられる測定ゲージ・検査ゲージのことです。SKD11は、摩耗に強い上に、形状が変化しにくく、耐食性も比較的高いことから、各種検査ゲージの材料に用いられます。・金属刃物…SKD11は、包丁の刃金の部分に使用されることがあります。刃金とは、包丁の芯となり、刃となる部分のことです。SKD11を刃金に用い、それをサビに強く、安価なステンレス鋼で挟み込んだものが多く流通しています。参考:プレス金型とは?金型の機能・名称に関しても解説!SKD11の特徴とメリット・デメリットSKD11の特徴は、上述したように、高硬度と優れた耐摩耗性です。ただし、これらの特徴は、熱処理を加えることで現れるため、成形加工後に焼き入れ焼き戻しを行うのが一般的です。SKD11を用いるメリットとしては、以下が挙げられます。●SKD11を用いるメリット・耐摩耗性に優れる・熱処理後には、HRC58~63程度の高い硬度が得られる・熱処理後の変形が小さく、精密な製品の材料に適す・冷間金型の材料の中では、流通性が良く、入手しやすい・冷間加工用であるものの、熱間強度が高く、500℃程度までなら使用に耐えうる比較のため、他の金属材料の硬度を挙げると、SUS304がHRC11(HV200)、焼きならし後のS45CがHRC4.63〜20.64(HBW167〜229)、焼き入れ焼き戻し後のS45CがHRC13.5〜27.71(HBW201~269)、焼き入れ焼き戻し後のSUS440CがHRC55〜61程度となっています。一方、SKD11を用いる際のデメリットとしては、以下が挙げられます。●SKD11を用いるデメリット・熱処理後の硬度が高く、被削性が悪い・熱処理前も、硬度(焼きなまし硬さ)がHRC25(HBW255)程度と比較的高く、被削性が良いわけではない・熱処理後には、金属組織に粗大な炭化物が分散して、高速の摺動摩耗に弱くなる・粗大な炭化物の存在によって被削性がさらに低下する・粗大な炭化物の存在によって靭性が低下し、亀裂や割れが生じやすくなる・溶接時に割れが生じやすく、350〜450℃程度の予熱と後熱が必要・焼き入れ温度が1030℃程度と高い・焼き入れ温度と焼き戻し温度によって硬度が変化するため、熱処理時には、適切な温度管理を要する(下図は焼き入れ温度975℃・1000℃・1025℃・1050℃の焼き戻し硬さ曲線)引用元:F-SDK11 テクニカルデータ「熱処理特性」双葉電子工業株式会社SKD11の性質物理的性質比重密度(g/cm3)熱伝導率(W/mK)熱膨張係数(×10-6/℃)20〜100℃縦弾性係数(GPa)磁性7.807.8026.112.0207あり参照元:特性「物理的性質」株式会社 シリコロイラボSKD11の物理的性質は、上表の通りです。SKD11は、密度や縦弾性係数(ヤング率)の値について、SS400やS45C、SUS304と大きな違いはありません。一方、SKD11の熱伝導率については、SS400の58W/mKやS45Cの41W/mKと比べると低く、SUS304の16W/mKと比べると高くなっています。熱膨張係数については、SS400やS45Cとほぼ同等の値で、SUS304の17.2×10-6/℃と比べると若干低目の値です。このように、SKD11の高温特性は、優れた耐熱材料であるステンレス鋼に近く、熱膨張係数についてはSUS304よりも低いことから、温度変化に対する形状変化も小さくなっています。そのため、プレス機械の金型などに用いる場合でも摩擦熱の影響を受けにくく、また検査ゲージなどの形状不変性が要求される材料に適しています。しかし、熱伝導率の低さから、切削加工に伴う熱が拡散しにくく、切削工具が損傷しやすくなります。化学的性質(単位:%)炭素ケイ素マンガンリン硫黄クロムモリブデンバナジウムCSiMnPSCrMoV1.40〜1.600.40以下0.60以下0.030以下0.030以下11.00〜13.000.80〜1.200.20〜0.50SKD11の化学成分は、JIS規格(JIS G 4404:2015)で規定されており、上表の通りとなっています。ただし、SKD11の化学成分の注意点として、タングステン(W)は意図的に添加してはなりません。また、上表に記載の化学成分以外の含有元素は鉄(Fe)であり、その含有量はおよそ83.4〜86.6%です。SKD11は、クロムを11~13%含有しており、そのクロム含有量はマルテンサイト系ステンレス鋼と同程度です。しかし、ステンレス鋼は、クロム含有量が10.5%以上で炭素含有量が 1.2%以下の鉄鋼のことなので、炭素含有量が1.2%超のSKD11はステンレス鋼に分類されません。また、ステンレス鋼の耐食性は、クロムの存在によって実現されているため、SKD11も比較的耐食性に優れていますが、炭素含有量が多いため、ステンレス鋼ほどの耐食性はありません。その一方、SKD11は、炭素含有量が多い分、硬度が高くなるとともに、焼き入れ性が良くなっています。さらに、モリブデンの添加は、耐摩耗性や焼入硬化性の向上に、バナジウムの添加は、耐摩耗性の向上に寄与しています。SKD11の硬度ここでは、SKD11の熱処理前と熱処理後の硬度についてご紹介します。参考:鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!焼きなましの熱処理温度と硬度焼きなまし焼きなまし硬さ温度冷却方法HRCHBWHV830〜880℃徐冷25.33以下255以下268以下上表は、JIS規格にて規定されているSKD11の焼きなまし条件と焼きなまし硬度です。SKD11は、通常、鉄鋼メーカーにより焼きなましを行った後の状態で出荷されるので、金属加工メーカーにとっては、上表の硬度が熱処理前の硬度となります。なお、焼きなましとは、鉄鋼を高い温度で維持することによって、金属組織を均一化するとともに、鉄鋼を軟らかくし、加工しやすくする熱処理のことです。また、上表の冷却方法にある「徐冷」は、炉の停止後も鉄鋼を炉内に入れたままにし、炉が冷えるのに合わせて鉄鋼を冷却する方法です。焼き入れ焼き戻しの熱処理温度と硬度焼き入れ焼き戻し焼き入れ焼き戻し硬さ温度冷却方法温度冷却方法HRCHBWHV1030℃空冷180℃空冷58以上615以上653以上上表は、SKD11に対して、焼き入れ及び焼き戻しを行った後のJIS規格にて規定されているSKD11の硬度です。SKD11は、通常、成形加工後に熱処理を行うことから、上表の硬度が加工品の使用時の硬度となります。なお、焼き入れは、鉄鋼を硬くするため、焼き戻しは、鉄鋼の硬度を調整して靭性を高めるために行われる熱処理のことです。また、上表の冷却方法にある「空冷」は、炉の停止後、鉄鋼を炉から取り出して、常温の空気中で冷えるのを待つ方法です。近年では、熱処理後のSKD11に放電加工などを行うことがあることから、様々な条件で熱処理を行うことが多くなっています。例えば、焼き入れでは、以下のような熱処理条件が採用されています。●焼き入れの熱処理条件・980〜1010℃ 油冷・1010〜1030℃ 油冷・1000〜1030℃ 空冷・1030〜1050℃ 空冷油冷は、炉の停止後、鉄鋼を炉から取り出して、油中で冷却する方法です。空冷と比較すると、迅速な冷却が可能で、硬度が高くなりますが、靭性は低くなって割れやすくなり、熱処理歪みも大きくなる傾向があります。また、焼き入れ温度によっても、鉄鋼の性質は変わります。焼き入れ温度が高いほど、焼き戻し後の硬度が高くなりますが、靭性は低くなり、熱処理歪みも大きくなります。焼き戻しの熱処理条件によっても、下表のように鉄鋼の硬度は変わります。焼き戻し焼き入れ焼き戻し硬さ温度冷却方法HRCHBWHV150〜200℃空冷60〜63654 〜 705697 〜 772200〜250℃57〜60595 〜 654633 〜 697500℃以上57以下595以下633以下焼き戻しは、焼き入れとは逆に、焼き戻し温度が高いほど、硬度や耐摩耗性は低下し、代わりに靭性が向上します。加工方法SKD11の代表的な加工方法は、切削加工と放電加工です。切削加工SKD11は、熱処理前に切削加工で成形し、熱処理後に研削加工で仕上げを行うという方法がよく採用されます。SKD11は、熱処理前でも、S45Cなどの炭素鋼よりも被削性に劣りますが、切削加工が難しいわけではありません。一方、熱処理後は、硬度が高くなるため、切削加工を行うのは困難です。そのため、熱処理前の切削加工によって、成形を完了させてしまうことがよくあります。しかし、熱処理によって変形が生じることがあるため、高い精度が必要な場合は、熱処理後に研削加工などで仕上げを行います。ただし、熱処理後のSKD11は、研削加工も困難であるため、熱処理後の加工が最小限となるよう、熱処理前の切削加工をしっかり行っておくことが重要です。放電加工SKD11は、放電加工による変形が少ないために放電加工の加工性が良く、熱処理後の加工方法として放電加工がよく採用されます。放電加工は、材料と電極との間でアーク放電を発生させ、材料表面を溶かして除去することで成形する加工法です。硬度によらない加工法であるため、高硬度である熱処理後のSKD11でも問題なく加工することができます。ただし、放電加工を行う場合は、150〜200℃の焼き戻し(低温焼き戻し)ではなく、500℃以上の焼き戻し(高温焼き戻し)を行うことが推奨されます。それは、低温焼き戻しでは、焼き入れによって金属内部に生じた炭化物や応力などが多く残留し、炭化物や残留応力が放電加工による熱影響を受けて亀裂や変形の原因となることがあるからです。しかし、高温焼き戻しを行う場合は、硬度がHRC57以下と低いため、加工品の寿命が短くなるという欠点もあります。参考:放電加工(EDM)の基礎知識(原理、メリット・デメリット、電極)表面処理方法SKD11には、表面特性を向上させるため、めっきや表面改質熱処理を適用することがあります。めっきSKD11は、クロムをマルテンサイト系ステンレス鋼と同程度含有しているので、SS400やS45Cと比べると、錆びにくい材質です。しかし、炭素量が1.4~1.6%と高いことから、ステンレス鋼ほどの耐食性はなく、めっきなどによって防サビ対策を取ることが推奨されます。SKD11に対しては、硬質クロムめっきを施すことが多く、このめっきによって耐摩耗性の向上なども期待できます。参考:クロムメッキとは【中の人が解説】特徴や加工方法について詳細をお伝えします!熱処理SKD11には、さらなる硬度や耐摩耗性を得るためや高温焼き戻しによる硬度の低下を補うために、以下のような表面改質熱処理を行うことがあります。・窒化処理…高温焼き戻し温度程度まで加熱した窒素またはアンモニアガスの雰囲気中にSKD11を保持することで、表面に窒素を浸透させて、表面を硬化します。HV1000以上の表面硬さも実現可能な方法です。・PVD(物理蒸着)…真空中で高温焼き戻し温度程度まで加熱した成膜物質(窒化チタンなど)を付着させて、SKD11の耐摩耗性や耐食性の向上を図る方法です。・CVD(化学蒸着)…真空中または大気中で焼き入れ温度程度まで成膜の元となる物質を加熱し、化学反応を励起・促進してSKD11表面に薄膜を形成する方法です。この方法もまた、耐摩耗性や耐食性の向上が期待できます。ただし、これらの方法では、SKD11を高温に暴露することになるため、熱による変形などに注意する必要があります。

  • FC250とは?特徴、規格、性質、成分まとめ

    今回は、FC250の特徴や規格値などについて解説します。FC250とは、ねずみ鋳鉄の一種で、鋳造用の材料として採用されている材質です。鋳造性に優れた材質のため、SS材やSC材などの鉄材では成形しにくい複雑な形状の製品に適しています。鋳鉄にはFCのほかにFCDがあります。今回は、FCとFCDの違いについても見てみましょう。参考:鉄・鋼・鋳鉄の違いは炭素の量|鋳物の特徴などFC250とは?FC250とは、ねずみ鋳鉄と呼ばれる鋳鉄品の一種です。ねずみ鋳鉄は破面がねずみ色であったことに由来します。鋳鉄とは、溶かした金属を型に流し込んで成形したもののことで、FC250を含むねずみ鋳鉄は、鋳物の材料として使われています。鋳鉄は複雑な形状の型に対しても材料が流れるように、炭素量を多く含有しています。FC250を含むねずみ鋳鉄品は、【JIS G 5501-1995:ねずみ鋳鉄品】にて規格が定められています。FCのあとに続く数字は100・150・200・250・300・350の6種類があります。これらの数値は、FC250の引張強さが250N/mm2以上であるように、JIS規格にて定められた別鋳込み供試材の機械的性質での引張強さを表します。FC250の特徴と用途FC250を含むねずみ鋳鉄の特徴は、耐摩耗性・振動吸収性・鋳造性などに優れている点です。一方で、鋳造ではないS45Cなどの炭素鋼と比べると、粘り気がなく脆い傾向にあります。また、炭素を多く含むため、塑性加工や溶接も不向きです。鋳鉄は複雑な形状でも成形しやすいことから、切削などの金属加工では作りにくい部品に重宝します。そのほかにも耐久性が求められる箇所や、揺れや振れが問題となる箇所に多く採用されています。用途としては、溝蓋・自動車部品・工作機械のベッドなどが代表的です。FC250の成分FC250は、【JIS G 5501-1995:ねずみ鋳鉄品】の規格では化学成分が定められておらず、受渡当事者間の協定によるものとしています。以下は、新潟県工業技術総合研究所にて記述しているFCの化学成分の参考値を示しています。・FCCEを亜共晶(4.3%未満)にする。(炭素当量 CE=C+Si/3)FC250は3.4C%以上、FC300は3.25C%以上が目安。Siはチルが出ない範囲で少ない方がよい。Si量が少ないと高強度になり、肉厚感受性も小さくなり、引けも出にくい。引けと肉厚感受性をともに小さくする配合の理想は、3.2~3.25%C、1.1~1.2%Si。硫黄(S)は0.06~0.08%。引用元:新潟県工業技術総合研究所 鋳鉄の化学成分FC250の規格と機械的性質FC250はJIS規格によると、機械的性質(引張強さ・硬度)についてのみ規定されています。なお、FCは低応力域から局部的な降伏、塑性変形、部分的な破壊が多く発生するなどの理由から、降伏点についても明確な数値が規定されておりません。参考:公益社団法人 日本鋳造工学会 鋳鉄の引張り試験を行ったとき、明瞭な降伏(弾性限)が認められないのはなぜですか?以下の物理的性質については、鋳物メーカーの参考値を記載しています。・FC250 別鋳込み供試材の機械的性質(JIS規格)種類の記号引張強さN/mm2硬さHBFC250250以上241以下引用元:JIS G 5501-1995:ねずみ鋳鉄品・FC250 物理的性質比重 密度 重さ:7.2ヤング率(E/Gpa):100比熱(cal/g℃):0.16~0.17ポアソン比:0.27引用元:友鉄工業株式会社 ねずみ鋳鉄 減衰能 潤滑性 切削性 FC250FCDとの違いFCDとはダクタイル鋳鉄と呼ばれるもので、FCと比べて耐摩耗性や機械的強度に優れています。FCは片状の黒鉛を含有しているのに対して、FCDは球状の黒鉛を含むことから、球状黒鉛鋳鉄とも呼ばれています。FCDはJIS規格にて、350~800までの記号があり、数値の大きいものほど引張強さと硬さの値が大きくなります。FCD700ほどまで硬いものだと、FCに比べて削りにくくなるので、加工の際は注意が必要です。FCDは、FCよりも耐摩耗性や強度を必要とする溝蓋や自動車部品などに加えて、マンホール蓋や上下水道用ダクタイル鋳鉄管、ストリートファニチャーなどの幅広い用途に採用されています。

  • NAK55の特徴、性質、成分、処理、加工方法まとめ

    今回はNAK55の特徴や性質についてご紹介します。NAK55とは、大同特殊鋼株式会社が取り扱う製品である快削性プリハードン鋼の一種です。プリハードン鋼とは、あらかじめ中程度の硬度に熱処理をした鋼材のことで、鋼材メーカーによってNAK**やHPM**といった名称で取り扱われています。大同特殊鋼株式会社が取り扱う快削性プリハードン鋼は、NAK55と似た特性の金属としてNAK80もラインナップしています。今回はNAK55とNAK80の違いについても見てみましょう。参考:プリハードン鋼の解説!デメリット・用途などNAK55の特徴NAK55は、プラスチック金型用鋼のことで、最適条件で37~43HRCの硬さを有しており、そのまま型彫加工を行えます。また、Ni-Al-Cu系時効硬化型の鋼であることから、被削性や肉盛溶接性が良好です。切削加工後や放電加工後の研磨も容易に行えます。使用時の歪みが少ないのもポイントで、精密性を必要とする金型に適している材料です。NAK55の用途は、高性能・精密プラスチック金型、ゴム金型、プレス金型、産業機器等各種部品が代表的です。NAK55の成分記号JIS等該当記号化学成分CSiMnNiCuMoAl快削元素NAK55-0.150.3適量3.01.00.31.0S添加引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80NAK55の規格、比重、降伏点、ヤング率・熱膨張係数(×10-6/℃)記号20~100℃20~200℃20~300℃NAK55NAK8011.312.513.4引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80・熱伝導率(W/m・K)記号25℃100℃200℃300℃400℃NAK55NAK8029.531.433.032.832.1引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80・磁気特性記号最大比透磁率飽和磁束密度(T)残留磁束密度(T)保持力(A/m)NAK55NAK803801.6350.8501100引用元:大同特殊鋼株式会社 NAK55 NAK80・機械的特性採取方向硬さHRC0.2%耐力N/mm2(kgf/mm2)引張強さN/mm2(kgf/mm2)伸び%絞り%シャルピー衝撃値J/cm2(kgf・m/cm2)L40981(100)1,255(128)154018(1.8)T40981(100)1,275(130)143812(1.2)引張試験片:JIS4号衝撃試験片:2mmUノッチ衝撃試験温度:293K(20℃)引用元:メカトロネット事務局 NAK55 テクニカルデータ・ヤング率(縦弾性係数):201,000N/mm2(20℃)・比重:7.80g/cm3(20℃)・比熱:481J/(kg・°C)(20℃)引用元:メカトロネット事務局 NAK55 テクニカルデータ NAK55の加工方法NAK55は高い硬度を持ちながらも被削性に優れた鋼材で、金型用の材料として多く活用されています。切削時のポイントとしては、加工面の精度を向上させたい場合、切削速度を上げるのが有効です。切込み量と送り量は、加工精度に応じた調整を行います。ツールホルダの振れは、切削面の精度に大きな影響を及ぼすため、定期的にホルダの点検および取替えを行いましょう。NAK55の処理NAK55は、アルマイト処理以外であれば、どのようなめっき処理でも対応が可能です。めっき処理方法は、特別な前処理を必要とせず、通常の鉄材と同様の方法で行います。熱処理については、NAK55が時効硬化型の鋼で、HRC40程度の硬度しか入らない材料のため、焼入れ焼戻しで硬度を上げられない点に注意が必要です。硬度を上げたい場合は、窒化処理を行うことで、加工後に表面の硬度を上げられます。NAK55の長所と短所NAK55の長所●被削性が良好37~43HRCの硬さを有するものの、およそ18HRCの硬さをもつS53Cとほぼ同等かつ、30HRCのSCM440よりも遥かに被削性に優れています。●放電加工後の研磨が容易放電加工後は、加工面の硬さが上昇せず、研磨が容易に行えます。●優れた鏡面仕上げ性切削加工面が優れているため、研磨が容易に行えるほか、ピンホールが出にくくて鏡面の光沢が出やすい特徴があります。●優れた肉盛溶接性肉盛溶接部の硬さ上昇がなく良好。溶接後は時効処理を施すことで、均一なシボ加工面が得られます。●型寿命に優れている硬さがある材料のため、耐摩耗性と耐圧性に優れ、長期の型寿命を実現しています。●錆びにくいNAK55は水にさらされるプラスチック金型にも採用される材料で、錆びにくい特徴があります。NAK55の短所●焼入れ焼戻しをしても硬度が上がらないNAK55は、時効硬化による方法で硬度を上げている鋼材です。これにより、焼入れ焼戻しにより硬度を上げることができません。時効硬化とは、急冷した合金の時間経過で常温化し、合金元素を析出させて材料を硬くすることを指します。硬度を上げたい場合は、鋼の表面に窒素をしみ込ませて硬くする窒化処理を行う必要があります。NAK80との違いNAK80は、NAK55と同じく、大同特殊鋼株式会社が取り扱う快削性プリハードン鋼です。NAK80はNAK55の特徴に加えて、鏡面みがき性に優れています。また、放電加工肌は緻密で美麗なため、梨地シボの代用が可能です。ただしNAK55よりも若干被削性に劣ります。

  • SKD61とは?性質、用途、処理、加工方法まとめ

    今回はSKD61の性質や用途などについて解説します。SKD61とは、【JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材】に規定されている、熱間金型用の合金鋼のことです。SKDの記号は、S:Steel(銅)、Kougu(工具)、Dies(金型)の意味を持ちます。SKD61は、耐熱性や耐摩耗性などに優れていますが、加工性には乏しい特徴がある材料です。SKD61とはSKD61とは、「ダイス鋼」とも呼ばれる熱間金型用の合金鋼のことで、炭素工具鋼にタングステン、モリブデン、クロム、バナジウム等を添加しています。SKD61は、耐熱性・耐ヒートショック性に優れていることから、主にプレス型・ダイカスト型・押出工具・シャーブレードなどの用途で採用されています。メーカーによっては、相当鋼種としてDHA1やDACなどの名称で扱われているほか、改良鋼種として特性が異なる場合もあります。SKDの代表成分は以下の通りです。・SKD61の化学成分種類の記号CSiMnPSCrMoVSKD610.35~0.420.80~1.200.25~0.500.030以下0.020以下4.80~5.501.00~1.500.80~1.15引用元:JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材SKD61は、モリブデンの量が多いことから高温下での引張強さに優れているほか、バナジウムにより靭性も備えています。また、耐熱性も良好なことから、熱による亀裂が発生しにくいのも特徴です。しかし硬度が高く、耐摩耗性に優れている一方で、加工性には乏しいデメリットがあります。SKD61の硬度焼なましの温度と硬度種類の記号焼なまし温度(℃)焼なまし硬さ(HBW)SKD61820~870229以下引用元:JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材焼入れ焼戻し熱処理温度と硬度種類の記号熱処理温度及び冷却方法(℃)焼入焼戻し硬さHRC焼入れ焼戻しSKD611020 空冷550 空冷50以上引用元:セキイハガネ 汎用熱間ダイス鋼(SKD61)SKD61は、焼入れ焼戻しを行うと高い硬度を示しますが、熱処理における寸法変化や歪みが発生しやすい傾向があります。熱処理後の硬度はHRC53~56程度です。SKD61の機械的性質・熱伝導率 ※硬さ:45HRC熱伝導率 W/(m・℃)(cal/cm・sec・℃)20℃200℃400℃500℃700℃30.5(0.073)30.1(0.072)29.3(0.070)28.9(0.069)28.0(0.067)・ヤング率(縦弾性係数)※硬さ:45HRC熱伝導率 W/(m・℃)(cal/cm・sec・℃)20℃200℃300℃400℃500℃600℃700℃206,000(21,000)196,000(20,000)191,000(19,500)178,000(18,200)167,000(17,000)137,000(14,000)98,000(10,000)・比重:7.73g/cm3(硬さ48HRC 熱処理品 20℃時)引用元:メカトロネット事務局 SKD61 テクニカルデータSKD61の加工方法SKD61は、硬度が高くて耐摩耗性に優れた材質のため、加工性には乏しい特徴があります。このことから、工具選びを誤ると刃が摩耗が激しくなったり、破損したりする恐れがあるので注意してください。加工は主に研削加工が採用されています。SKD61の処理方法熱処理ダイス鋼は、一般的に加工後に熱処理を施して硬度を得ます。熱処理の方法は、真空熱処理が適しています。真空熱処理は、真空中で製品を加熱したり、ガスもしくは油で冷却したりする熱処理方法のことで、鋼材の表面が酸化しないことや、脱炭層が発生しないメリットがあります。脱炭層とは、空気中の酸素と鋼材表面の炭素が結合して、炭素を失う現象のことを指します。また、寸法変化や硬度のバラツキが少ないのもポイントです。めっき処理一般的にダイス鋼は錆びやすい特徴があるので、防錆力を上げるためにはめっき処理が必要です。しかしダイス鋼は炭素が多く、酸化皮膜を形成するとめっきを施しにくくなるので、前処理には注意が必要です。ダイス鋼は耐摩耗性が求められる用途で使用するため、工業用硬質クロムめっきや無電解ニッケルめっきが多く活用されています。SKD61とSKD11の違いSKD11は、冷間金型用のダイス鋼で、ゲージ・ねじ転造ダイス・金属刃物・プレス型などの用途で採用されている材質です。熱処理後の硬度は、SKD61がHRC53~56程度に対し、SKD11はHRC58~62程度と高い数値を示します。一方で、靭性と熱間引張強度については、300℃の環境下でSKD11は強度が急激に低下するのに対し、SKD61は一定の強度を保ちます。