Category

二相系ステンレス

  • 二相系(オーステナイト・フェライト系)ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    二相系ステンレス鋼とは、オーステナイト系ステンレスとフェライト系ステンレスのそれぞれの金属組織を混合させたステンレス鋼のことです。オーステナイト系と比べて、高い強度と同等以上の耐食性を示し、オーステナイト系の弱点となる孔食や応力腐食割れに対する耐性を持ちます。ただし、高温強度が弱く、フェライト系の弱点である高温環境下での脆化も起こりやすくなっているため、高温用途には向いていません。耐食性の向上を志向した鋼種と、高価なニッケルを減量して低コスト化を図った鋼種があり、用途に応じて使い分けられています。耐孔食性に優れ、海水などの塩化物環境への耐性が高いことから、海洋構造物や淡水化装置の材料などにも用いられています。二相系ステンレスの組織・成分二相系ステンレスは、金属組織が「フェライト相」と「オーステナイト相」から構成され、その構成比がおおよそ1:1となるステンレスです。フェライト相は、フェライト系ステンレスの主要相で、炭素をほぼ含有しない組織です。磁性を示し、軟らかく変形しやすいという特徴があります。一方、オーステナイト相は、オーステナイト系ステンレスの主要相で、およそ2%までの炭素を含むことができます。非磁性の組織ですが、熱処理や塑性加工によって、磁性を持つマルテンサイト相に変化します。二相系ステンレスは、クロムとニッケルを主要な添加元素として含むクロム・ニッケル系ステンレス鋼に分類されます。主要成分として、鉄以外にクロムを約20〜30%、ニッケルを1〜10%程度含有し、鋼種によってはモリブデンや窒素、銅などを含みます。オーステナイト系よりもニッケルの含有量が少なく、フェライト系が含有しないニッケルを少量含むステンレスとなっています。引用元:International Molybdenum Association (IMOA)二相系ステンレスの種類二相系ステンレスには、様々な鋼種がありますが、含有する化学成分と耐食性を代表する耐孔食指数(PREN)によって以下の種類に分類されます。なお、耐孔食指数は、表面の穴から進行する腐食に対する耐性を示す指数で、オーステナイト系の代表鋼種であるSUS304で18、耐食性の高いSUS316で26となっています。参考:オーステナイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ(1) 汎用二相系ステンレス<単位 %>鋼種名CSiMnPSNiCrMoNSUS329J10.08以下1.00以下1.50以下0.040以下0.030以下3.00〜6.0023.00〜28.001.00〜3.00 −SUS329J3L0.030以下1.00以下2.00以下0.040以下0.030以下4.50〜6.5021.00〜24.002.50〜 3.500.08〜0.20 SUS329J4L0.030以下1.05以下1.50以下0.040以下0.030以下5.50〜7.5024.00〜26.002.50〜3.50 0.08〜 0.30汎用二相系ステンレスは、上表のJIS規格(JIS G 4305:2015)で規定された鋼種を含む二相系ステンレスです。PRENが35前後で、耐海水腐食性に優れています。参考:SUS329J1(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質参考:SUS329J4L(ステンレス鋼)加工性、磁性、化学成分(2)スーパー二相系ステンレス<単位 %>鋼種名CSiMnPSNiCrMoCuNSUS327L10.030以下0.80以下1.20以下0.035以下0.020以下6.00〜8.0024.00〜26.003.00〜5.00 0.50以下 0.24〜0.32 スーパー二相系ステンレスは、PRENが40〜45の二相系ステンレスで、JIS規格には上表の「SUS327L1」が規定されています。汎用二相系ステンレスに比べ、耐食性が向上していますが、高価なニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)を多く含むため、高コストとなります。(3)ハイパー二相系ステンレスハイパー二相系ステンレスは、PRENが45以上の二相系ステンレスで、JIS規格に規定されている鋼種はありません。アメリカのUNS規格では、「S32707」や「S33207」などの鋼種があり、スーパー二相系ステンレスよりもクロム含有量が多くなっています。(4)リーン二相系ステンレス(省合金ステンレス)<単位 %>鋼種名CSiMnPSNiCrMoCuNSUS821L10.030以下0.75以下2.00〜4.000.040以下0.020以下1.50〜2.5020.50〜21.500.60 以下0.50〜1.50 0.15〜0.20 SUS323L0.030以下1.00以下2.50以下0.040以下0.030以下3.00〜5.5021.50〜24.500.60 以下0.50〜1.50 0.15〜0.20 リーン二相系ステンレスは、モリブデンをほぼ添加しないことで低コスト化を図った二相系ステンレスです。JIS規格では、上表の2鋼種が規定されています。SUS304やSUS316といったオーステナイト系ステンレスの代替材料として設計された鋼種です。SUS304と同等以上の耐食性を示し、PRENは25〜30程度と良好な耐孔食性を有します。SUS304と比べて、応力腐食割れが生じにくく、高価なニッケルの含有量も少ないため、コストパフォーマンスに優れています。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法二相系ステンレスの機械的性質鋼種名耐力MPa引張強さMPa伸び%絞り%硬さ厚さ2.0mm以下厚さ2.0mm超HBWHRBS又はHRBWHVSUS821L1400以上600以上20以上25以上−290以下32以下310以下SUS323L400以上600以上20以上25以上−290以下32以下310以下SUS329J1390以上590以上18以上40以上277以下 29以下292以下SUS329J3L450以上620以上18以上40以上302以下 32以下320以下SUS329J4L450以上620以上18以上40以上302以下 32以下320以下SUS327L1550以上795以上15以上−310以下 32以下330以下二相系ステンレスの機械的性質は、JIS規格によって上表のように規定されています。二相系ステンレスは、耐力と引張強さが共にオーステナイト系やフェライト系よりも高く、強度に優れます。一方、延性や靭性については、オーステナイト系よりも劣り、フェライト系よりは優れる傾向にあります。フェライト相を含むことから、低温で靭性が急激に低下する「延性-脆性遷移」が起きます。ただし、フェライト系の延性-脆性遷移よりは緩やかに起こるため、−40℃程度まではある程度の靭性を維持することが可能です。また、高温では強度が低下するため、耐熱用には適していません。フェライト系で問題となる「475℃脆化」や「σ相脆化」も起こるため、溶接や熱処理を施す際には注意が必要となります。参考:フェライト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ二相系ステンレスの物理的性質と磁性鋼種名密度g/cm3比熱J(kg・K)熱膨張係数(0~100℃)10-6/K熱伝導率(100℃)W/(m・K)電気抵抗(室温)μΩ・cmヤング率MPaSUS329J4L7.804713.020.979196,000参照元:山陽特殊製鋼株式会社二相系ステンレスは、オーステナイト系とフェライト系の中間的な物理的性質を示します。その値は上表の通りで、それぞれの値はオーステナイト系とフェライト系の中間的な値となっています。また、二相系ステンレスは、磁性を持つフェライト相を含むことから、磁性を示します。その磁性は、フェライト量の比率が大きいほど強くなります。二相系ステンレスの加工熱処理鋼種名固溶化処理の熱処理条件(℃)SUS821L1940〜1100SUS323L950〜1100SUS329J1950〜1100SUS329J3L950〜1100SUS329J4L950〜1100SUS327L11025〜1125二相系ステンレスは、常温の強度が高いため、強度向上を目的とした焼入れなどを行うことはほとんどなく、靭性・延性を最大限に発揮できる固溶化熱処理後のものが使用されます。その固溶化熱処理では、上表(JIS規格の参考値)の温度に加熱して保持し、急冷します。二相系ステンレスへ熱処理を行う際には、σ相脆化と475℃脆化の発生に注意する必要があります。σ相脆化は、700〜1000℃でゆっくりと冷却すると起こりやすく、σ相の析出部では耐孔食性が低下します。一方、475℃脆化は、475℃近辺で長時間保持することで起こり、靭性と耐食性の低下に繋がります。固溶化熱処理のみを行う通常の製造過程では問題とはなりませんが、応力除去熱処理を行う際には475℃の周辺温度は避ける必要があります。溶接二相系ステンレスに対する溶接では、溶接部の冷却速度によって、オーステナイト相とフェライト相のバランスが変化し、耐食性や靭性が低下するので注意が必要です。冷却速度が速くなり過ぎると、オーステナイト相が十分に形成されず、クロム窒化物やクロム炭化物が析出して耐食性が低下します。逆に、冷却速度が遅くなり過ぎると、金属化合物や窒化物が析出したりσ相脆化が起きたりするため、耐食性や靭性が低下します。切削加工二相系ステンレスは、高強度かつ高硬度であるために被削性が悪く、難削材として知られています。また、オーステナイト系に匹敵する加工硬化性を示すことから、加工が進展するほど切削が難しくなります。切削加工性は、合金元素を多く含むスーパー二相系やハイパー二相系の方がより悪くなります。一方、リーン二相系の切削性は、オーステナイト系と比べても良好です。参考:加工硬化とはどんな現象?仕組み・影響・扱い方をご紹介!塑性加工二相系ステンレスの塑性加工性は、熱間では良好であるものの、冷間ではあまり良くありません。二相系ステンレスは、高温強度が低く、固溶化温度付近では特に軟らかくなるため、熱間で容易に変形させることが可能です。実際の熱間成形加工では、固溶化温度付近において加工した後、固溶化熱処理と同等の処置を施すことで靭性や耐食性を回復させます。一方、二相系ステンレスは、常温の強度が高く、加工硬化も生じやすいことから、冷間成形加工に多大なエネルギーを要します。また、変形部が元に戻ってしまうスプリングバックが生じやすく、曲げ加工やプレス加工で問題となります。二相系ステンレスの主な用途二相系ステンレスの用途は、以下のように種類によって異なります。汎用二相系汎用二相系ステンレスには、高強度と塩化物環境における耐性を活かした、海岸周辺の構造物や橋梁、海水ポンプや海水淡水化装置の材料としての用途があります。また、汎用二相系は、オーステナイト系でよく問題となる応力腐食割れが起きやすい箇所での代替材料としても用いられます。例えば、石油生産設備の熱交換器では、応力腐食割れや局所腐食の発生が想定されるため、二相系の使用が有効です。そのほか、耐荷重性能が必要な土木・建築分野の構造材、高耐食性の材料が必要な化学プラントやエネルギー関連プラントの設備・機器などにも用いられています。スーパー二相系、ハイパー二相系スーパー・ハイパー二相系ステンレスは、より高い耐食性を持つことから、より厳しい腐食環境下で採用されます。主な用途として、海に浸漬する海洋構造物や水淡水化装置部品、様々な化学物質に曝される公害防止機器などが挙げられます。リーン二相系リーン二相系ステンレスは、オーステナイト系ステンレスのSUS304やSUS316の代替材料として主に用いられています。建材や機械の構造材、貯蔵タンクの材料としてなど、多様な用途があります。汎用二相系と同じく、オーステナイト系で応力腐食割れが懸念される箇所の代替としても用いられます。耐孔食性もSUS304よりは良好で、価格も大きな違いはないため、需要が高まっています。

  • SUS329J1(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質

    SUS329J1は、オーステナイト相とフェライト相の両方の組織を持つ、二相系のステンレス鋼です。二相系ステンレス鋼は、JIS規格では「オーステナイト・フェライト系」と記述されているステンレス鋼に該当します。SUS329J1は、SUS304のようなオーステナイト系ステンレス鋼と比べて、クロム(Cr)の含有量が多く、ニッケル(Ni)の含有量が少なめです。クロムの含有量が多いため、比較的に耐食性に優れているほか、レアメタルであるニッケルが少ないことから、価格高騰の影響を受けにくい特徴があります。参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!SUS329J1の特性、磁性SUS329J1は、優れた耐食性(耐孔食性と耐応力腐食割れ性)を持つのが特徴です。オーステナイト系に加えてフェライト系の組織を持つため、磁性があります。SUS329J1は、耐孔食性に強いステンレス鋼であるため、孔食のリスクを軽減できます。この特性により、工業用水や海水を扱う部品や機器などに多く採用されています。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法孔食とは、孔が開いたかのように、深い箇所まで腐食することをいいます。孔食の原因は、サビを防ぐための不働態皮膜が、塩素イオンなどの作用により局部的に破壊されてしまうためです。一般的にステンレス鋼が形成する不働態皮膜は、傷がついても再び形成されますが、孔食は連続的に発生し、深くまで腐食してしまいます。また、SUS329J1は、強度にも優れたステンレス鋼です。オーステナイト系ステンレス鋼の代表であるSUS304に比べて、2倍近い耐力があり、引張強度もやや高めです。SUS329J1は、耐食性と強度に優れているだけでなく、高価な材料であるニッケルの含有量も少ないため、価格高騰の影響を受けにくい材料です。加えて、強度で肉厚が決まる構造体の場合は、肉厚を薄くできる分、材料のコストを削減できます。SUS329J1の用途SUS329J1は、工業用水や海水に強い材料であることから、主に海水用ポンプシャフト・水門・排煙脱硫装置などの用途として使われています。SUS329J1の化学成分<SUS329J1の化学成分(単位:%)>種類の記号CSiMnPSNiCrMoNSUS329J10.08以下1.00以下1.50以下0.040以下0.030以下3.00~6.0023.00~28.001.00~3.00-※この表に規定されていないCu、W及びNのうち一つ又は複数の元素を必要によって添加した場合、その含有率を報告しなければならない。引用元:JIS G 4303:2012上表は、JIS規格の【ステンレス鋼棒 JIS G 4303】から抜粋したものです。SUS329J1は、SUS304と比べてクロム(Cr)の含有量が多く、モリブデン(Mo)も含有していることから、不働態皮膜を形成しやすい特徴があります。SUS329J1の機械的性質<SUS329J1の固溶化熱処理状態の機械的性質>種類の記号耐力MPa(N/mm2)引張強さMPa(N/mm2)伸び絞り硬さHBWHRCHVSUS329J1390以上590以上18以上40以上277以下29以下292以下引用元:JIS G 4303:2012SUS329J1は、強度にも優れたステンレス鋼です。SUS304の耐力は205MPa以上、引張強さは520MPa以上であるのに対し、SUS329J1の耐力は390MPa以上、引張強さは590MPa以上と高い数値を示しています。伸びに関してはフェライト系ステンレス鋼と同等の数値になりますが、靭性や溶接性はフェライト系よりも優れている特徴があります。

  • 二相系(オーステナイト・フェライト系)ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    二相系ステンレス鋼とは、オーステナイト系ステンレスとフェライト系ステンレスのそれぞれの金属組織を混合させたステンレス鋼のことです。オーステナイト系と比べて、高い強度と同等以上の耐食性を示し、オーステナイト系の弱点となる孔食や応力腐食割れに対する耐性を持ちます。ただし、高温強度が弱く、フェライト系の弱点である高温環境下での脆化も起こりやすくなっているため、高温用途には向いていません。耐食性の向上を志向した鋼種と、高価なニッケルを減量して低コスト化を図った鋼種があり、用途に応じて使い分けられています。耐孔食性に優れ、海水などの塩化物環境への耐性が高いことから、海洋構造物や淡水化装置の材料などにも用いられています。二相系ステンレスの組織・成分二相系ステンレスは、金属組織が「フェライト相」と「オーステナイト相」から構成され、その構成比がおおよそ1:1となるステンレスです。フェライト相は、フェライト系ステンレスの主要相で、炭素をほぼ含有しない組織です。磁性を示し、軟らかく変形しやすいという特徴があります。一方、オーステナイト相は、オーステナイト系ステンレスの主要相で、およそ2%までの炭素を含むことができます。非磁性の組織ですが、熱処理や塑性加工によって、磁性を持つマルテンサイト相に変化します。二相系ステンレスは、クロムとニッケルを主要な添加元素として含むクロム・ニッケル系ステンレス鋼に分類されます。主要成分として、鉄以外にクロムを約20〜30%、ニッケルを1〜10%程度含有し、鋼種によってはモリブデンや窒素、銅などを含みます。オーステナイト系よりもニッケルの含有量が少なく、フェライト系が含有しないニッケルを少量含むステンレスとなっています。引用元:International Molybdenum Association (IMOA)二相系ステンレスの種類二相系ステンレスには、様々な鋼種がありますが、含有する化学成分と耐食性を代表する耐孔食指数(PREN)によって以下の種類に分類されます。なお、耐孔食指数は、表面の穴から進行する腐食に対する耐性を示す指数で、オーステナイト系の代表鋼種であるSUS304で18、耐食性の高いSUS316で26となっています。参考:オーステナイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ(1) 汎用二相系ステンレス<単位 %>鋼種名CSiMnPSNiCrMoNSUS329J10.08以下1.00以下1.50以下0.040以下0.030以下3.00〜6.0023.00〜28.001.00〜3.00 −SUS329J3L0.030以下1.00以下2.00以下0.040以下0.030以下4.50〜6.5021.00〜24.002.50〜 3.500.08〜0.20 SUS329J4L0.030以下1.05以下1.50以下0.040以下0.030以下5.50〜7.5024.00〜26.002.50〜3.50 0.08〜 0.30汎用二相系ステンレスは、上表のJIS規格(JIS G 4305:2015)で規定された鋼種を含む二相系ステンレスです。PRENが35前後で、耐海水腐食性に優れています。参考:SUS329J1(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質参考:SUS329J4L(ステンレス鋼)加工性、磁性、化学成分(2)スーパー二相系ステンレス<単位 %>鋼種名CSiMnPSNiCrMoCuNSUS327L10.030以下0.80以下1.20以下0.035以下0.020以下6.00〜8.0024.00〜26.003.00〜5.00 0.50以下 0.24〜0.32 スーパー二相系ステンレスは、PRENが40〜45の二相系ステンレスで、JIS規格には上表の「SUS327L1」が規定されています。汎用二相系ステンレスに比べ、耐食性が向上していますが、高価なニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)を多く含むため、高コストとなります。(3)ハイパー二相系ステンレスハイパー二相系ステンレスは、PRENが45以上の二相系ステンレスで、JIS規格に規定されている鋼種はありません。アメリカのUNS規格では、「S32707」や「S33207」などの鋼種があり、スーパー二相系ステンレスよりもクロム含有量が多くなっています。(4)リーン二相系ステンレス(省合金ステンレス)<単位 %>鋼種名CSiMnPSNiCrMoCuNSUS821L10.030以下0.75以下2.00〜4.000.040以下0.020以下1.50〜2.5020.50〜21.500.60 以下0.50〜1.50 0.15〜0.20 SUS323L0.030以下1.00以下2.50以下0.040以下0.030以下3.00〜5.5021.50〜24.500.60 以下0.50〜1.50 0.15〜0.20 リーン二相系ステンレスは、モリブデンをほぼ添加しないことで低コスト化を図った二相系ステンレスです。JIS規格では、上表の2鋼種が規定されています。SUS304やSUS316といったオーステナイト系ステンレスの代替材料として設計された鋼種です。SUS304と同等以上の耐食性を示し、PRENは25〜30程度と良好な耐孔食性を有します。SUS304と比べて、応力腐食割れが生じにくく、高価なニッケルの含有量も少ないため、コストパフォーマンスに優れています。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法二相系ステンレスの機械的性質鋼種名耐力MPa引張強さMPa伸び%絞り%硬さ厚さ2.0mm以下厚さ2.0mm超HBWHRBS又はHRBWHVSUS821L1400以上600以上20以上25以上−290以下32以下310以下SUS323L400以上600以上20以上25以上−290以下32以下310以下SUS329J1390以上590以上18以上40以上277以下 29以下292以下SUS329J3L450以上620以上18以上40以上302以下 32以下320以下SUS329J4L450以上620以上18以上40以上302以下 32以下320以下SUS327L1550以上795以上15以上−310以下 32以下330以下二相系ステンレスの機械的性質は、JIS規格によって上表のように規定されています。二相系ステンレスは、耐力と引張強さが共にオーステナイト系やフェライト系よりも高く、強度に優れます。一方、延性や靭性については、オーステナイト系よりも劣り、フェライト系よりは優れる傾向にあります。フェライト相を含むことから、低温で靭性が急激に低下する「延性-脆性遷移」が起きます。ただし、フェライト系の延性-脆性遷移よりは緩やかに起こるため、−40℃程度まではある程度の靭性を維持することが可能です。また、高温では強度が低下するため、耐熱用には適していません。フェライト系で問題となる「475℃脆化」や「σ相脆化」も起こるため、溶接や熱処理を施す際には注意が必要となります。参考:フェライト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ二相系ステンレスの物理的性質と磁性鋼種名密度g/cm3比熱J(kg・K)熱膨張係数(0~100℃)10-6/K熱伝導率(100℃)W/(m・K)電気抵抗(室温)μΩ・cmヤング率MPaSUS329J4L7.804713.020.979196,000参照元:山陽特殊製鋼株式会社二相系ステンレスは、オーステナイト系とフェライト系の中間的な物理的性質を示します。その値は上表の通りで、それぞれの値はオーステナイト系とフェライト系の中間的な値となっています。また、二相系ステンレスは、磁性を持つフェライト相を含むことから、磁性を示します。その磁性は、フェライト量の比率が大きいほど強くなります。二相系ステンレスの加工熱処理鋼種名固溶化処理の熱処理条件(℃)SUS821L1940〜1100SUS323L950〜1100SUS329J1950〜1100SUS329J3L950〜1100SUS329J4L950〜1100SUS327L11025〜1125二相系ステンレスは、常温の強度が高いため、強度向上を目的とした焼入れなどを行うことはほとんどなく、靭性・延性を最大限に発揮できる固溶化熱処理後のものが使用されます。その固溶化熱処理では、上表(JIS規格の参考値)の温度に加熱して保持し、急冷します。二相系ステンレスへ熱処理を行う際には、σ相脆化と475℃脆化の発生に注意する必要があります。σ相脆化は、700〜1000℃でゆっくりと冷却すると起こりやすく、σ相の析出部では耐孔食性が低下します。一方、475℃脆化は、475℃近辺で長時間保持することで起こり、靭性と耐食性の低下に繋がります。固溶化熱処理のみを行う通常の製造過程では問題とはなりませんが、応力除去熱処理を行う際には475℃の周辺温度は避ける必要があります。溶接二相系ステンレスに対する溶接では、溶接部の冷却速度によって、オーステナイト相とフェライト相のバランスが変化し、耐食性や靭性が低下するので注意が必要です。冷却速度が速くなり過ぎると、オーステナイト相が十分に形成されず、クロム窒化物やクロム炭化物が析出して耐食性が低下します。逆に、冷却速度が遅くなり過ぎると、金属化合物や窒化物が析出したりσ相脆化が起きたりするため、耐食性や靭性が低下します。切削加工二相系ステンレスは、高強度かつ高硬度であるために被削性が悪く、難削材として知られています。また、オーステナイト系に匹敵する加工硬化性を示すことから、加工が進展するほど切削が難しくなります。切削加工性は、合金元素を多く含むスーパー二相系やハイパー二相系の方がより悪くなります。一方、リーン二相系の切削性は、オーステナイト系と比べても良好です。参考:加工硬化とはどんな現象?仕組み・影響・扱い方をご紹介!塑性加工二相系ステンレスの塑性加工性は、熱間では良好であるものの、冷間ではあまり良くありません。二相系ステンレスは、高温強度が低く、固溶化温度付近では特に軟らかくなるため、熱間で容易に変形させることが可能です。実際の熱間成形加工では、固溶化温度付近において加工した後、固溶化熱処理と同等の処置を施すことで靭性や耐食性を回復させます。一方、二相系ステンレスは、常温の強度が高く、加工硬化も生じやすいことから、冷間成形加工に多大なエネルギーを要します。また、変形部が元に戻ってしまうスプリングバックが生じやすく、曲げ加工やプレス加工で問題となります。二相系ステンレスの主な用途二相系ステンレスの用途は、以下のように種類によって異なります。汎用二相系汎用二相系ステンレスには、高強度と塩化物環境における耐性を活かした、海岸周辺の構造物や橋梁、海水ポンプや海水淡水化装置の材料としての用途があります。また、汎用二相系は、オーステナイト系でよく問題となる応力腐食割れが起きやすい箇所での代替材料としても用いられます。例えば、石油生産設備の熱交換器では、応力腐食割れや局所腐食の発生が想定されるため、二相系の使用が有効です。そのほか、耐荷重性能が必要な土木・建築分野の構造材、高耐食性の材料が必要な化学プラントやエネルギー関連プラントの設備・機器などにも用いられています。スーパー二相系、ハイパー二相系スーパー・ハイパー二相系ステンレスは、より高い耐食性を持つことから、より厳しい腐食環境下で採用されます。主な用途として、海に浸漬する海洋構造物や水淡水化装置部品、様々な化学物質に曝される公害防止機器などが挙げられます。リーン二相系リーン二相系ステンレスは、オーステナイト系ステンレスのSUS304やSUS316の代替材料として主に用いられています。建材や機械の構造材、貯蔵タンクの材料としてなど、多様な用途があります。汎用二相系と同じく、オーステナイト系で応力腐食割れが懸念される箇所の代替としても用いられます。耐孔食性もSUS304よりは良好で、価格も大きな違いはないため、需要が高まっています。

  • SUS329J1(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質

    SUS329J1は、オーステナイト相とフェライト相の両方の組織を持つ、二相系のステンレス鋼です。二相系ステンレス鋼は、JIS規格では「オーステナイト・フェライト系」と記述されているステンレス鋼に該当します。SUS329J1は、SUS304のようなオーステナイト系ステンレス鋼と比べて、クロム(Cr)の含有量が多く、ニッケル(Ni)の含有量が少なめです。クロムの含有量が多いため、比較的に耐食性に優れているほか、レアメタルであるニッケルが少ないことから、価格高騰の影響を受けにくい特徴があります。参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!SUS329J1の特性、磁性SUS329J1は、優れた耐食性(耐孔食性と耐応力腐食割れ性)を持つのが特徴です。オーステナイト系に加えてフェライト系の組織を持つため、磁性があります。SUS329J1は、耐孔食性に強いステンレス鋼であるため、孔食のリスクを軽減できます。この特性により、工業用水や海水を扱う部品や機器などに多く採用されています。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法孔食とは、孔が開いたかのように、深い箇所まで腐食することをいいます。孔食の原因は、サビを防ぐための不働態皮膜が、塩素イオンなどの作用により局部的に破壊されてしまうためです。一般的にステンレス鋼が形成する不働態皮膜は、傷がついても再び形成されますが、孔食は連続的に発生し、深くまで腐食してしまいます。また、SUS329J1は、強度にも優れたステンレス鋼です。オーステナイト系ステンレス鋼の代表であるSUS304に比べて、2倍近い耐力があり、引張強度もやや高めです。SUS329J1は、耐食性と強度に優れているだけでなく、高価な材料であるニッケルの含有量も少ないため、価格高騰の影響を受けにくい材料です。加えて、強度で肉厚が決まる構造体の場合は、肉厚を薄くできる分、材料のコストを削減できます。SUS329J1の用途SUS329J1は、工業用水や海水に強い材料であることから、主に海水用ポンプシャフト・水門・排煙脱硫装置などの用途として使われています。SUS329J1の化学成分<SUS329J1の化学成分(単位:%)>種類の記号CSiMnPSNiCrMoNSUS329J10.08以下1.00以下1.50以下0.040以下0.030以下3.00~6.0023.00~28.001.00~3.00-※この表に規定されていないCu、W及びNのうち一つ又は複数の元素を必要によって添加した場合、その含有率を報告しなければならない。引用元:JIS G 4303:2012上表は、JIS規格の【ステンレス鋼棒 JIS G 4303】から抜粋したものです。SUS329J1は、SUS304と比べてクロム(Cr)の含有量が多く、モリブデン(Mo)も含有していることから、不働態皮膜を形成しやすい特徴があります。SUS329J1の機械的性質<SUS329J1の固溶化熱処理状態の機械的性質>種類の記号耐力MPa(N/mm2)引張強さMPa(N/mm2)伸び絞り硬さHBWHRCHVSUS329J1390以上590以上18以上40以上277以下29以下292以下引用元:JIS G 4303:2012SUS329J1は、強度にも優れたステンレス鋼です。SUS304の耐力は205MPa以上、引張強さは520MPa以上であるのに対し、SUS329J1の耐力は390MPa以上、引張強さは590MPa以上と高い数値を示しています。伸びに関してはフェライト系ステンレス鋼と同等の数値になりますが、靭性や溶接性はフェライト系よりも優れている特徴があります。