今回は、PEEKの基礎知識について解説します。
PEEKは、スーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれる、熱可塑性樹脂の一種で、エンジニアリングプラスチックに比べて高い性能を有しています。
多くのメリットを持つプラスチックであるため、安全性が求められる製品や、金属部品の代わりとして多く採用されています。
この記事で、PEEKの特徴や用途などについて詳しく見てみましょう。
PEEKとは
PEEK(ピーク)とは、Poly Ether Ether Ketone(ポリエーテルエーテルケトン)と呼ばれる樹脂の略称で、PAEK(ポリアリールエーテルケトン)、あるいは芳香族ポリエーテルケトンと呼ばれるポリマー群の一種です。
PAEKは、アリール基・エーテル基・ケトン基から構成されるポリマー群で、これらの官能基の組み合わせや配列などにより、さまざまな種類の樹脂が存在します。そのなかでもPEEKは豊富なメリットを持つため、PAEKの代表的な樹脂として採用されています。
また、PEEKは、熱可塑性樹脂のスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)に該当する樹脂で、スーパーエンプラのなかでも代表的な樹脂として扱われています。
スーパーエンプラは、工業用として耐熱性や機械的強度を向上させていますが、PEEKは特に耐熱性や耐薬品性などに優れています。
PEEKのメリットとデメリット
メリット
●耐熱性・耐高温性・耐加水分解性
PEEKは、スーパーエンジニアリングプラスチックのなかでも、耐熱性・耐高温性・耐加水分解性が非常に優れた材料です。連続使用温度は250℃程度とされており、熱老朽にも強い特徴があります。
耐熱水性にも優れており、200~250℃のスチームの中でも連続使用が可能です。そのためスチーム滅菌も可能で、短時間であれば300℃の高温にも耐えられる性能を有しています。
●耐薬品性
PEEKは、非常に優れた耐薬品性を有しています。多くの酸やアルカリ、有機溶媒に対して耐性があり、高温化でも耐えられるプラスチックです。ただし濃硫酸などの強酸には耐えられないので注意してください。
●機械特性・クリープ特性・耐摩耗性
PEEKは、広い温度範囲において高い強度と剛性を示し、機械特性にも優れたプラスチックです。強度については、ガラス繊維やカーボン繊維によって、さらに強化されます。また、クリープ特性や耐摩耗性にも優れており、金属の代替品としても活用されています。
●耐放射線性
熱加工性を持つ一般的な樹脂は、電磁波や放射線の影響により、脆くなる特徴があります。しかし、PEEKは科学的構造が安定しているため、電磁波や放射線のある環境下でも使うことが可能です。
●難燃性
PEEKは、難燃性の材料であるため、摩擦熱などの熱で燃える可能性が、他のプラスチックに比べて少ないです。また、燃焼時の発煙や腐食性ガス、有毒ガスなどが極めて少ないのもメリットです。
デメリット
●コストが高い
PEEKは豊富なメリットを持ちますが、他のプラスチックに比べてコストが高いです。
PEEKの用途
PEEKは、豊富なメリットを持つことから、航空・宇宙・自動車産業、食品加工産業、医療分野、電子産業など、さまざまな業界で採用されています。
金属の代替品として使われることもあり、自動車の性能向上や軽量化、コスト削減のために、金属部品の代わりとして多用されています。
ギア・ワッシャー・ベアリングなどのパーツ類もPEEKにて製造が可能で、高温時でも優れた機械的性能や耐摩耗性、耐薬品性などを要する場合にPEEKが用いられます。
PEEKの種類
一般的にPEEKと呼ばれているものは、さまざまなグレードがあるうちのひとつである、基本グレードのことを指しています。ここでは基本グレードにさらに特性を付与した他のグレードについて、いくつかご紹介します。
摺動グレード
摺動グレードは、基本グレードに炭素繊維・グラファイト・四フッ化エチレン(PTFE)を充填したグレードで、基本グレードに比べて耐摩耗性や摺動性に優れています。
用途としては、軸受やライナーなどの摺動部品に採用されています。
ガラス繊維強化グレード
ガラス繊維強化グレードは、基本グレードに比べて高い剛性と耐クリープ性を持ちます。また、寸法安定性も良好です。
主に静的荷重が長時間かかる場所に使用されています。
カーボン繊維強化・導電グレード
カーボン繊維強化・導電グレードは、ガラス繊維強化グレードに比べてより高い剛性を持つほか、機械的強度やクリープ性、耐摩耗性にも優れています。カーボン繊維を採用していることから、基本グレードに比べて約3.5倍高い熱伝導率も有しており、部品に発生した熱を素早く放散します。
用途としては、静電気やほこりなどを嫌う環境で採用されています。
PEEKの物理的・機械的性質
<PEEKの物理的・機械的性質>
比重 | 引張強さ (MPa) | 破断時伸び (%) | 圧縮強さ (MPa) | 曲げ強さ (MPa) | 衝撃強さ (アイゾット ノッチ付) (J/m) |
1.3 | 71-103 | 30-150 | 125 | 110 | 85 |
引用元:株式会社KDA PEEK(ピーク)樹脂の物性物性表1 ※引用資料「プラスチック読本」(プラスチックス・エージ発行)
PEEKの熱的性質・成形時の性質・吸水性
<PEEKの熱的性質・成形時の性質・吸水性>
線膨張率 (×10-5/℃) | 荷重たわみ温度 (1.81MPa) (℃) | 成形温度 (射出成形) ℃ | 成形温度 (押出成形) ℃ | 吸水率 (24h) (重量%) |
4.0-4.7 (<150℃) | 160 | 350-400 | 350-380 | 0.10-0.14 |
引用元:株式会社KDA PEEK(ピーク)樹脂の物性物性表1 ※引用資料「プラスチック読本」(プラスチックス・エージ発行)