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  • 粉体塗装とは?特徴、種類、メリット・デメリット

    粉体塗装とは、パウダー状の塗料を金属に直接付着させて加熱し、乾燥させて固めることで塗膜とする塗装法です。一般的な塗装に用いられる有機溶剤を全く使用しないため、環境や人体への影響が小さく、環境保全や健康増進への取り組みが強化されている現在、注目が集まっています。また、省資源性にも優れるほか、自動化しやすいという特徴もあります。これらの理由から、溶剤塗装からの転換が進んでおり、その市場は拡大しています。この記事では、粉体塗装とは何かというところから、その方法や種類、特徴、メリット・デメリットまで、詳しく解説していきます。粉体塗装とは粉体塗装とは、パウダーコーティングとも呼ばれる、粉末状の塗料を用いる塗装のことです。細かく粉砕して粉状にした塗料(粉体塗料)を、塗装対象物に直接付着させ、高温で溶かしてから、乾燥させて固めることで塗膜を形成します。加熱して固化させることで塗膜を形成することから、焼付塗装の一種でもあります。参考:焼付塗装ならMitsuri!1コ〜お受けいたします!粉体塗料には、エポキシやポリエステルなどを含む熱硬化性のものと、ポリエチレンやナイロンなどを含む熱可塑性のものがあります。粉体塗料は、これら樹脂のほか、顔料、添加剤をパウダー状にしたものから構成されており、溶剤塗料や水性塗料の成分である有機溶剤や水などの溶媒は含みません。なお、ここでの添加剤とは、硬化剤や乾燥剤、消泡剤、フィラー(充填剤)などで、塗料の流動性・湿潤性の調整や塗料の脱気(空気を除去すること)などの機能を持ちます。粉体塗装は、他の種類の塗装と同じく、塗装対象物の防錆や着色、耐候性向上、美観向上、機能性付与などが目的です。また、溶剤塗装に比べて、環境汚染や健康被害、火災などのリスクが低いため、溶剤塗装からの転換が進んでいます。参考:溶剤塗装とは?特徴や粉体塗装との違いについて専門家が解説!粉体塗装の方法粉体塗装の方法には、静電粉体塗装法と流動浸漬塗装法があります。●静電粉体塗装法参照元:粉体塗装とは? > 粉体塗装の紹介「塗装工程と塗装法」日本パウダーコーティング協同組合静電粉体塗装法は、アースに繋げてプラスに帯電させた塗装対象物へ、スプレーガンにてマイナスに帯電させた粉体塗料を噴射することで、塗料を静電的に対象物へ付着させる方法です。この塗装法では、一般的に熱硬化性粉体塗料を使用し、加熱によって架橋と呼ばれる化学反応を誘起することで硬い塗膜を形成します。一度硬化した塗料は、再度加熱しても硬いままで、軟化・流動することはありません。この塗装法では、以下の工程に従って塗装を行います。1. 前処理…油脂成分を除去するアルカリ脱脂処理や錆を落とす酸洗処理、薬液などを洗い流す水洗処理を実施する処理工程。塗装の密着性向上を目的としており、素材によっては、塗膜のさらなる品質向上のために化成処理なども行う。2. 水切り乾燥…乾燥炉で塗装対象物に付着した水分を完全に除去する処理工程。ブリスター(塗装膜下に残存した水分によって生じる気泡)と呼ばれる外観不良の発生を防止する。3. 粉体塗装…粉体塗料を静電引力によって対象物に付着させる処理工程。4. 焼付乾燥…塗装対象物に付着した塗料を180~200℃の高温に加熱した焼付炉で焼き付け乾燥させる処理工程。5. 冷却…冷却して塗膜を形成する処理工程。静電粉体塗装法は、流動浸漬塗装法と比較すると、以下のような特徴を持ちます。・塗装対象物の形状やサイズに対してあまり制約がない。・均一な膜厚が得やすい。・膜厚の調節が可能(30〜150μm)。・電気を通さない素材には塗装できない。参考:塗装前処理とは?目的や工程の流れについて専門家が解説!●流動浸漬塗装法参照元:粉体塗装とは? > 粉体塗装の紹介「塗装工程と塗装法」日本パウダーコーティング協同組合流動浸漬塗装法は、事前に加熱した塗装対象物を、粉体塗料を圧縮空気によって流動させた流動浸漬槽と呼ばれる容器に入れることで、塗料を対象物の熱で溶かして付着させる方法です。この塗装法では、一般的に熱可塑性粉体塗料が使用されます。熱可塑性粉体塗料は、加熱によって軟化・溶融して形状を変えることができ、冷却によって固化して塗膜とすることができる塗料です。化学変化を伴わないため、再度加熱して冷却すると、再び軟化・溶融して固化します。この塗装の工程は、以下の通りです。1. 前処理…塗装の密着性向上を目的に、脱脂処理や酸洗処理、化成処理、水洗処理などを行う処理工程。2. 予備加熱…塗装対象物を塗料の融点以上の温度に予熱する処理工程。3. 流動浸漬…予熱した対象物を流動浸漬槽に入れることで、粉体塗料を対象物に接触させて溶かし付着させる処理工程。4. 後加熱…塗膜の平滑性向上を目的に、塗装対象物に付着した塗料を融点以上の温度に加熱する処理工程。5. 冷却…冷却して塗膜を形成する処理工程。流動浸漬塗装法は、静電粉体塗装法と比べて、以下のような特徴を持ちます。・塗装対象物のサイズが流動浸漬槽のサイズ以下に制限される・塗装対象物が複雑な形状である場合、膜厚が不均一になりやすい。・厚膜が一度の塗装で得られる(200〜1500μm)。・厚膜の塗装が容易。・粉体塗料の回収装置が不要。・予熱を必要とする。・膜厚の調節が難しい。・電気を通さない素材にも塗装できる。粉体塗装の用途粉体塗装は、金属素材の製品を中心に、様々な分野で採用されています。その使用分野は、下図に見られるように、金属家具や電気機器、建設・産業機械、機械・器具の割合が大きくなっています。粉体塗装の具体的な使用例は、下表の通りとなっており、特に工業塗装に多く採用されています。<粉体塗装の分野別使用例>使用分野使用例金属家具机, 椅子, 陳列棚, 書架, ロッカー, 業務用ワゴン, ベッド電気機器分電盤, 配電盤, ラジエーター, 柱上トランス, 電力計, 発電機, モーター, ガス給湯器建設・産業機械パワーショベル, フォークリフト, FA機器, 工作機械, 包装機, ボンベ, 農業機械機械・器具医療用品, 現像機, 精密機器, IT機器, 事務機家電製品レンジ, レンジフード, エアコン, 冷蔵庫, 洗濯機, 暖房機, ミシン, 照明器具, 電話機道路資材ガードレール, ガードパイプ, 橋梁手摺り, 欄干, 標識用ポール, 信号機, 照明柱水道資材鋼管, 鋳鉄管, 異形管, ニップル, 仕切弁, 継ぎ手, 水栓金具, メーター建築資材フェンス, 門扉, 手摺り, 面格子, 住宅鉄骨, シャッター, カーテン, ウォール, パーテーション, 雨樋金具, 鉄筋バー自動車部品ボディー, ワイパー, バンパー, スプリング, ホイール, ブレーキドラム, ブレーキパッド, オイルフィルター, エンジンブロック, ルーフレール, ドライブシャフト, トラック荷台部分, その他農業資材, 家庭用品, 消火器, ガーデニング用品粉体塗装の特徴粉体塗装には、様々な特徴があります。ここでは、溶剤塗装や水性塗装と比較したときの粉体塗装の特徴について説明します。参考:金属加工の板金塗装の見積りについて解説!塗装の種類ごとについてもご紹介!塗膜の強度と耐久性が高い粉体塗装は、塗膜の強度および耐久性が高いという特徴があります。粉体塗装では、一度の塗装で厚膜の塗膜を形成することができます。その膜厚は、静電粉体塗装法で最大150μm、流動浸漬塗装法では最大1500μmにも達します。それは、一度の溶剤塗装による塗膜の厚さ約20μmと比較すると、数倍から数十倍の厚みに相当します。また、焼付塗装の一種であることから、塗膜自体の強度が高く、柔軟性にも優れます。つまり、粉体塗装では、高強度で柔軟な分厚い塗膜が得られるのです。従って、粉体塗装の塗膜は、傷が付きにくい上、温度・湿度変化が激しい環境でも、伸縮しやすいことにより、ヒビ割れや剥離などが発生しにくくなっています。それは、耐久性に優れ、寿命も長くなることを意味します。塗膜の性能が高い粉体塗装の塗膜は、耐食性や耐候性、耐薬品性などの性能にも優れます。粉体塗装では、その塗装方法から、塗装ムラが起きにくく、ピンホール(塗装面に生じる小穴)も発生しにくい塗膜となります。さらに、塗膜が分厚く、高い強度と耐久性を持つことも相まって、塗膜下の金属が空気に触れにくく、降雨なども塗膜下に浸透しにくくなっています。そのため、粉体塗装の塗膜は、防錆性能をはじめとする塗装対象物の保護機能を高いレベルで発揮するのです。塗料に溶媒を含まない参照元:粉体塗装について「粉体塗装(パウダーコーティング)とは?」有限会社シリウス粉体塗料は、溶媒を含まないという特徴があります。溶剤塗装や水性塗装の塗料は、顔料・樹脂・添加剤といった塗膜を形成する成分以外に、これらの成分を溶解または分散させるシンナーなどの有機溶剤や水分を含んでいます。これらの溶媒は、塗料を塗装対象物に接着する役割を持っており、焼き付けや乾燥などの過程で揮発します(上右図参照)。一方、粉体塗料は、塗膜を形成する成分のみから構成されています。そして、塗装の際には、溶媒の代わりに電気や熱の効果を利用することで、塗装対象物に付着させているのです(上左図参照)。塗料の回収・再利用が可能粉体塗装では、塗装時に塗装対象物に付着しなかった塗料を回収して再利用することが可能です。粉体塗料は、溶剤塗料の有機溶剤や水性塗料の水のような揮発成分を含まないため、熱影響を受けなければ、変質することはほとんどありません。そのため、静電粉体塗装で噴射した塗料も、流動浸漬塗装法で流動させた塗料も回収すれば、再度使用することができます。その点、溶剤塗料や水性塗料は、溶媒が揮発すると塗料が変質してしまうことがあり、多くの場合、変質してしまった塗料は再度使用することはできません。しかし、塗料を調整して揮発性を低下させても、乾燥して硬化するまでの時間が長くなり、作業性が下がってしまいます。塗料に揮発性有機化合物(VOC)を含まない引用元:低VOC塗料の現状と今後「塗料からの溶剤(VOC)の蒸発」経済産業省 近畿経済産業局粉体塗料は、大気汚染や健康被害の原因となる揮発性有機化合物(VOC)を全く含みません。VOCは、揮発性を有し、大気中で気体状となる有機化合物のことで、溶剤塗料には20~60%、水性塗料には0~10%含まれている物質です。溶剤塗料には、塗料に対して5~50%がさらに投入され、希釈溶剤(シンナー)として使用されます(上図参照)。その種類は、下表のように多様で、溶解する樹脂や用途に応じて塗料に混合されています。<溶剤塗料や水性塗料に含まれる代表的なVOCの種類と性質・用途>VOCの分類VOCの種類性質・用途アルコール系メタノール, エタノール, イソプロピルアルコール(IPA), イソブタノールラッカー塗料や添加剤などの溶解ケトン系アセトン, メチルエチルケトン(MEK), メチルイソブチルケトン(MIBK), シクロヘキサノン樹脂を強力に溶解エステル系酢酸エチル, 酢酸ブチル樹脂を比較的強く溶解エーテル系ブチルセロソルブ, ブチルカルビトール焼付塗料の仕上り向上・水性塗料にも使用炭化水素系脂肪族系ミネラルスピリット樹脂を比較的弱く溶解芳香族系トルエン, エチルベンゼン, キシレン多種類の樹脂を溶解、溶解性と乾燥性のバランスが良い混合系ソルベントナフサ焼付塗料用しかし、VOCは、以下のように大気汚染の原因となり、人体にも有害です。●大気環境への影響VOCは、大気中に拡散されると、光化学反応などを起こして変質します。変質したVOCは、光化学スモッグの原因となるほか、浮遊粒子状物質(SPM)を生成して、目や呼吸器などに悪影響を及ぼし、喘息やアレルギー疾患のリスクを増大させることが知られています。●室内環境における人体への影響VOCは、住宅の建材などから発生して、室内の空気を汚染し、シックハウス症候群や化学物質過敏症を引き起こすことがあります。●作業環境における人体への影響VOCは、塗装に従事する作業者に下表のような様々な症状を引き起こすことが報告されています。ただし、近年においては、毒性の高いVOCの使用が制限されており、以前よりも塗料の安全性は確保されています。<毒性の高いVOCによって引き起こされる症状>VOCの種類急性毒性慢性毒性メタノール粘膜刺激, 麻酔作用咳, めまい, 頭痛, 嘔吐, 脱力感, 眠気, 不眠, 視力障害, 神経系障害IPA皮膚刺激, 粘膜刺激眠気, 頭痛, 協調運動不能, 皮膚炎, 神経系障害, 腎臓障害, 血管障害, 肝臓障害, 脾臓障害MEK皮膚刺激, 粘膜刺激, 麻酔作用呼吸器刺激, 咳, 息切れ, 頭痛, めまい, 視野狭窄, 嘔吐, 下痢, 意識喪失, 神経系障害, 腎臓障害酢酸エチル粘膜刺激呼吸器刺激, 眠気, めまい, 咽頭痛, 咳, 頭痛, 意識混濁トルエン皮膚刺激, 粘膜刺激, 麻酔作用咳, 咽頭痛, めまい, 意識混濁, 頭痛, 嘔吐, 意識喪失, 神経系障害, 腎臓障害, 肝臓障害エチルベンゼン皮膚刺激, 粘膜刺激咳, めまい, 意識混濁, 頭痛呼吸器障害, 神経系障害キシレン皮膚刺激, 粘膜刺激, 麻酔作用めまい, 意識混濁, 頭痛, 嘔吐, 呼吸器障害, 神経系障害塗装に器具・設備が必要粉体塗装は、静電粉体塗装法と流動浸漬塗装法の双方について、いくつかの器具・設備が必要です。<静電粉体塗装法の器具・設備>・浸漬方式の洗浄設備(洗浄槽など)・粉体塗装ブース・静電粉体塗装機(静電ガン、静電コントローラー、ホース類など)・粉体塗料回収装置・焼付乾燥炉・防塵マスクや防塵ゴーグル、静電服、静電靴などの保護具・換気装置(塗装ブース用と建屋全体用の装置設置を推奨)<流動浸漬塗装法の器具・設備>・浸漬方式の洗浄設備(洗浄槽など)・流動浸漬槽・加熱炉・防塵マスクや防塵ゴーグル、静電服、静電靴などの保護具・換気装置(建屋全体用の装置設置を推奨)なお、静電服と静電靴は、静電気による粉体塗料の着火によって発生する粉塵爆発の防止に必要な保護具です。粉塵爆発を防止するため、機器類の接地が必須であり、静電気対策床の設置なども推奨されます。現場施工が困難粉体塗装は、以下の理由から、工場などで施工しなくてはならず、現場での施工は現状の方法ではできません。・据え置き型の設備が必要・前処理に確実な洗浄や乾燥が必要・塗装処理時に粉塵対策が必須・焼き付け温度が高く、炉での加熱や乾燥が必要塗装作業の機械化・自動化に適している粉体塗装は、工場での施工が標準的であることもあり、機械化や自動化に向いた塗装法です。粉体塗装は、浸漬洗浄、炉での乾燥・加熱、静電引力や空気流動を利用した静電粉体塗装や流動浸漬塗装など、主要な処理工程の人手を排することが可能です。そのため、塗装対象物をフックに吊り下げるなどして、順番に洗浄槽、乾燥炉、塗装ブース、焼付乾燥炉と流していくことで、主要工程を完了させることができます。粉体塗料の種類粉体塗装では、様々な塗料が用いられますが、その塗料は、含有樹脂の熱に対する反応性から、熱硬化性粉体塗料と熱可塑性粉体塗料の2種類に分類されます。熱硬化性粉体塗料熱硬化性粉体塗料は、加熱によって架橋反応を誘起することで、硬化する塗料です。一度硬化した塗料は、再度加熱しても硬いままで、軟化・流動しないという特徴があります。主に静電粉体塗装法で用いられる粉体塗料です。熱硬化性粉体塗料は、含有する樹脂の系統によって特徴や塗装条件が異なるため、用途に応じた塗料を選ぶことができます。下表は、代表的な樹脂系ごとの塗装条件や特徴、用途をまとめたものです。<代表的な熱硬化性粉体塗料の樹脂系ごとの塗装条件・特徴・用途>樹脂系焼付温度焼付時間特徴用途エポキシ系130~200℃5~50分高耐食性, 高耐薬品性, 高密着性, 高耐水性, 高硬度, 絶縁性低耐候性家電, 自動車部品, 上下水道管, 電気部品, 重電機器, 船舶, エポキシポリエステル系150~200℃10~50分高耐食性, 高作業性, 高加工性, 高経済性低耐候性鋼製家具, 家電, 自動車部品, 建築資材, 事務機器, 家庭用品, 電気部品ポリエステル系140~230℃5~60分高耐候性, 高耐水性, 高作業性, 高加工性, 高経済性家電, 自動車部品, 道路資材, 建築資材, 鋼製家具, 重電機器, 建設機械, 農機具, 家庭用品アクリル系150~200℃8~50分高耐候性, 高耐汚染性, 高鮮映性, 低温硬化性家電, 自動車部品, 道路資材, 建築資材フッ素系160~360℃15~30分高耐候性、高耐光性、高耐薬品性, 高耐摩耗性、高耐熱性高層建築外装, 工業用部品, 家電, 厨房器具熱可塑性粉体塗料熱可塑性粉体塗料は、加熱によって軟化・溶融して変形し、冷却によって固化する塗料です。化学変化を伴わないため、再度加熱して冷却すれば、再び軟化・溶融して固化するという特徴があります。主に流動浸漬塗装法で用いられる粉体塗料です。熱可塑性粉体塗料もまた、下表のように、いくつかの樹脂系があります。<代表的な熱可塑性樹脂の樹脂系ごとの塗装条件・特徴・用途>樹脂系予熱温度後加熱温度特徴用途塩化ビニル系230~290℃200~320℃高耐候性, 高耐薬品性, 高耐食性, 高耐水性, 被覆性, 厚膜美装性道路資材, 建築資材ポリエチレン系260〜320℃200〜320℃高耐食性, 高耐候性, 高耐水性, 高耐久性, 高耐摩耗性, 被覆性家電, 上水道管, 建築資材, 道路資材, 重電機器, 家庭用品ナイロン系340〜430℃340〜370℃高耐油性, 高密着性, 耐摩耗性, 高耐衝撃性, 耐熱性, 絶縁性, 被覆性家電部品, 自動車部品, 配管, 機械部品, 鉄道部材, 家庭用品, 医療機器, 飲料水容器粉体塗装のメリット上述したように、粉体塗装には他の塗装法とは異なる多様な特徴がありますが、ここではその中でもメリットとなる特徴について紹介します。<塗膜について>・塗膜の強度が高い・塗膜の耐久性が高い・塗膜の性能が優れる・厚い塗膜の形成が可能・錆が発生しにくい<方法について>・一度の塗装で厚い塗膜を形成可能・塗料の回収・再利用が可能・塗装環境(温度・湿度など)の影響を受けにくい・塗料の焼付処理が短時間で済む・塗装の機械化・自動化が容易<塗料について>・塗料に有機溶剤(VOC)を含有しない・臭気がない(有機溶剤は臭気を放つ)<経済性について>・塗料を無駄なく使用できる・耐用年数が長い(15~20年)<安全性について>・VOCによる大気汚染や健康被害については考慮不要・VOCによる火災の発生リスクがない粉体塗装のデメリット一方、粉体塗装には、以下のようなデメリットがあります。<方法について>・薄い塗膜の形成が困難(一般に30μm以上)・焼付温度や予熱・加熱温度が高い・塗装後に色の調整ができない・色の微調整が難しい・現場施工が困難・塗り替えが困難<経済性について>・塗装設備が必要であるため、初期投資が掛かる<安全性について>・粉塵による健康被害のリスクがある・粉塵爆発の発生リスクがある

  • バフ研磨とは?用途、種類、メリット・デメリット

    バフ研磨とは、金属や樹脂などの表面を磨き上げて、滑らかに仕上げる研磨加工の一種です。例えばグレードの高いステンレス製品は、ピカピカに磨かれているものがありますが、このような製品の研磨はバフ研磨が採用されています。バフ研磨は、使用しているバフや研磨剤によって対応できる材質や用途が異なります。ここでは、バフ研磨の用途や種類、メリット・デメリットなどについて詳しく見てみましょう。参考:研磨加工とは?種類と加工手順、除去加工まで専門家が解説!バフ研磨とは引用元:日東金属工業株式会社 バフ研磨とはバフ研磨とは、金属の表面を研磨する手法の一種です。バフ研磨に使われる「バフ」とは、綿やウールなどの素材でできたホイール状の研磨道具を指します。バフは研磨剤を付けて高速で回転させ、ワークに接触させると研磨できます。バフは、磨いて輝かせるという意味を持つ英語の「buff」が由来です。バフ研磨の用途バフ研磨は、ワークの表面を磨いて凹凸を少なくし、滑らかにするために使われます。製品の表面が滑らかになるほどキレイになり、良好な精度や外観が得られます。研磨後は表面がツルツルになっているわけではなく、表面に微細な傷がついた状態になっています。細かい目で研磨すれば、ワークの表面に光沢が生まれるのも特徴です。また、ワークの表面に付いたホコリや汚れを除去したい場合にもバフ研磨が使われます。そのため、めっきや塗装加工前に、製品表面をバフ研磨して平滑にすることが多いです。バフ研磨を必要とする製品は、タンク・配管・装飾品・半導体部品・真空チャンバー・精密機械などが代表的です。バフ研磨の種類バフは数字で「○○番」または「#○○」と種類分けされていて、数字が大きいほど目の粗さが細かく、キレイに仕上がります。細かい目で研磨する場合は、基本的に粗磨きとして目の小さいもので研磨し、徐々に大きな番手を使って仕上げます。最終的に800番や1000番の目で研磨すると材料の表面に光沢が得られます。また、バフは番手以外にも材質により特徴が異なります。バフの材質は、麻バフ・綿バフ・ウールバフ・スポンジバフなどがあります。●麻バフ:主に粗研磨に使用するバフ。●綿バフ:麻バフに比べて当たりが柔らかく、中研磨や仕上げ研磨に使用するバフ。●ウールバフ:素材のキメが細かく、厚みがあるバフ。研磨力が高く、表面を均一に磨くことが可能で、表面の傷などを目立たなくするコンパウンドやツヤ出し、仕上げ研磨に使用。●スポンジバフ:ウールバフよりも研磨力が小さく、磨き傷がつきにくいバフ。車やバイクなど、塗装した箇所の仕上げやワックス用として使用。バフ研磨剤は、油脂類とアルミナや酸化クロムなどの研磨材を配合したものです。研磨剤の種類によって、金属用・非金属用・樹脂用などがあります。研磨剤の種類については、固形研磨剤と液状研磨剤のものがあります。引用元:サンライズ研磨材 青棒 BM840固形研磨剤は、白棒・赤棒・青棒などと呼ばれるものが代表的です。白棒は中研磨から仕上げ研磨まで幅広く使われています。赤棒は粒度が粗いので粗研磨にぴったりです。青棒は主に鏡面仕上げに適しています。液状研磨剤は、主に粘度の高いエマルジョン性が採用されています。液状研磨剤は、水分を含んでいるため、固形研磨剤に比べて研磨力は劣る傾向にあります。バフ研磨のメリット・デメリットメリット・製品表面の凹凸を少なくしてバリや傷の除去できる・製品表面を高精度かつ美しくするバフ研磨は、加工した製品にある表面の凹凸を少なくして平滑化できるほか、バリや傷、溶接ビードなどを除去できます。微細な加工を行うと、製品表面の精度が高くなり、美しい外観が得られます。デメリット・手作業で行うため、他の表面仕上げ処理に比べてコストがかかる・微細な傷の隙間に研磨剤が付着する・加工技術の差によりバラツキが出るバフ研磨は手作業で行うため、他の表面仕上げ加工と比べるとコストが高くなる傾向にあります。高度な処理を行う場合、作業者の加工技術の違いにより、仕上がりにバラツキが出る点もデメリットです。また、製品のバリや傷は除去できても、微細な傷の隙間に研磨剤が付着してしまいます。付着した研磨剤は、研磨後に洗浄を行っても完全に除去できるわけではないので注意が必要です。バフ研磨可能な材質バフ研磨は、各種金属や樹脂に対して研磨できます。ただし使用する研磨剤などにより、適した材質が異なるので注意が必要です。代表的な材質は、鉄・ステンレス・アルミ・チタン・プラスチックなどが挙げられます。生活のなかでよく見るステンレスは光沢がありますが、ステンレスの光沢は材質そのものの特性ではなく、バフ研磨により得られたものになります。

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    話題の防錆剤とは?種類や成分、おすすめ商品を紹介

    この記事を監修する専門家オフィス村元合同会社代表 村元弘和 氏(元 ㈱村元工作所 タイ地域責任者)錆とは、金属が酸素や水と反応し、生成される腐食物。金属製品を在庫保管する際、海外へ輸出する際など、製品劣化を防ぐために防錆は必須条件です。これまでの一般的な防錆対策は、グリースや防錆油を金属製品の表面に塗布する方法でしたが、作業コストの低減、環境負荷の低減といった観点で見直しが図られているテーマでもあります。さらに、金属製品の精密化、高度化によって、フィルムやシート状の防錆剤のみならず、気化性の防錆剤やノンウェットのスプレー防錆剤など、新たな防錆剤も開発されています。そこで今回は、さまざまな種類がある防錆剤を詳しくご紹介します。防錆剤とは?金属製品の錆を防ぐ防錆剤は、主に鉄に用いられる薬剤のことを指します。鉄以外の金属に対する薬剤は、錆ではなく腐食を防ぐという意味から腐食防止剤、防食剤と呼ばれます。防錆剤には、用途や製品などに応じて使用法が異なるため、さまざまな種類があります。最も多い種類としては、金属の表面に皮膜を形成するもの。一般的に市販されている防錆スプレーなどもこの系統になります。それ以外にも還元剤や酸素を除去する補足剤など、さまざまな種類があります。防錆剤の種類錆の発生を防ぐのは、水や酸素による影響をいかに遮断するかにかかっています。一般的に金属製品の錆を防止するために施されるコーティングの方法としてメッキを用いた金属皮膜、合成処理などを使った無機皮膜、油やゴム、プラスチックなどでコーティングする有機皮膜の3種類に大別されます。いずれの処理を用いても、永久的に錆を防ぐことは困難で、あくまでも一定期間、錆びにくい環境を作り出しているにすぎません。そのため、防錆の良し悪しによって金属部品の防錆期間が決められ、一定期間を経過すると再度防錆処理を行わなければ錆が発生してしまいます。錆止め油錆止め油は、金属の表面に油や添加剤で防護膜を形成することで、酸素や水を遮断する防錆剤のこと。めっき加工以外の手段では最も広く浸透している防錆方法です。JISK2246には、指紋除去形防錆油、潤滑油形防錆油、溶剤希釈形防錆油、防錆ペトロラタム及び気化性防錆油の5種類に分かれています。錆止め剤油以外に用いられる防錆剤として、気化性、水溶性を持つものを錆止め剤と呼んでいます。気化性防錆剤には、鉄鋼や鉄合金以外に、銅や銅合金、他の非鉄金属にも用いられます。鉄鋼用として代表的なものはジシクロヘキシルアンモニュームナイトライトやジイソプロピルアンモニュームナイトライトなどがある。それ以外に、さまざまなアミンのカプレート、ラウレート、カーボネートなどがあります。銅用はベンゾトリアゾールやアルキルベンゾトリアゾールなど、鉄とは異なるものが用いられます。錆止め紙・錆止めフィルム錆止めの中には、錆止め紙や錆止めフィルムが用いられることがあります。金属を防虫剤のように紙やフィルムでコーティングすることで錆から防ぐことができます。防錆油などを使用しなくても、紙やフィルムで包むだけで高温多湿・結露の心配のある金属製品を錆から守ってくれるので、製品の輸送などに主に用いられます。一般的に、時間経過によって防錆性能が落ちることはありませんが、使用方法や保存方法を誤ると防錆効果を発揮できない場合があるので、取り扱いには注意が必要です。その他の錆止め剤上記3種類以外にも、可剥性プラスチックスや、シリカゲルをはじめとする乾燥剤や脱酸素剤、インヒビターやキレート化合物なども防錆剤として活用されます。中でも可剥性プラスチックスには浸漬またはスプレーでコーティングする塗装形や、加熱溶融してコーティングする熱間浸漬形の2種類があります。防錆剤の成分防錆剤にはさまざまな成分が使用されます。揮発性の防錆剤として用いられる吸着型の防錆剤は、アミン系の有機化合物、アミン類の亜硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩などが用いられます。循環冷却水などの密閉水中環境において用いられる防錆剤として、リン酸塩やケイ酸塩、メタケイ酸塩などが使用されます。また、銅にはベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカトベンゾチアゾール等があります。配管系の炭素鋼に使われる不動態型の防錆剤は、亜硝酸塩やモリブデン塩酸、タングステン塩酸などが用いられます。酸素を除去することで防錆効果を発揮する脱酸素型の防錆剤はヒドラジン、亜硫酸塩などが使われます。その他、湿気を取り除くことで腐食の発生を抑える手段として、生石灰やシリカゲル、塩化カルシウムやシリカアルミナゲル、デシクレイ、合成ゼオライト、水酸化ナトリウムなどがあります。おすすめの防錆剤を紹介防錆剤はニッチな業界、且つ製造の技術障壁が高く、世界的にも防錆剤メーカーは限られます。その中でも網羅的な製品ラインナップのある大和化成株式会社の製品を3種類、ご紹介します。一般的な防錆油による処理と比較してトータルコストが廉価で、自社工場内が清潔に保たれるだけでなく、納入先での洗浄や組み直し作業が発生しないため、取引先に喜ばれる防錆剤です。VERZONEメタシードKメタシードは、気化性防錆剤を溶剤に溶かしたスプレータイプの防錆剤。べたつきのない防錆剤で主に油分を嫌う金型や計測器、ジグ等、工具に用いられる防錆剤で、金型においては使用時に樹脂による熱で成分が気化するため、金型に使用しても樹脂製品に悪影響を与えません。金型以外にも自動車部品や精密部品等の出荷輸送間防錆、保管用防錆としてノンウェット防錆剤として用いられます。金属製品を防錆しないといけないが、次工程でのパーツフィーダーを通すので防錆油の使用が禁じられている場合や、溶接作業があり防錆油の使用が禁じられているときなど様々なシチュエーションで使用が可能です。VERZONEエコスーパーK気化性防錆剤(気化した防錆成分で金属を防錆する薬剤)鉄鋼や鋳鉄の他に、亜鉛やアルミニウムに対しても優れた防錆効果を発揮する防錆剤です。金属製品と同梱するだけで防錆が可能となります。さらに近年の環境規制にも対策済みで亜硝酸塩や、PRTR精度指定の化学物質を一切含んでいない、安全性の高い防錆剤です。毒劇法、消防法、労働安全衛生法をはじめとする法律の面から見ても極めて安全性が高い上、即効性が高く、長期間の防錆が可能。防錆油を使用しないため、クリーンな作業環境を保つことができます。金属製品と一緒に包装するだけで防錆が可能となる事から、出荷防錆だけではなく仕掛品や滞留部品、長期連休期間の防錆処置としても注目されています。VERZONE IFC-30特殊な防錆剤を配合した水溶性の防錆剤でプレス機、ダイカストマシン、樹脂成型機の循環冷却水に少量添加することで、高い防錆効果を発揮します。ごく少量の添加で防錆が可能であるため、ボイラーや熱交換器の製造後の水張試験(リーク試験)にもご使用いただく事が出来、試験水は下水道にそのまま排水が可能です。※上記商品に関するお問い合わせは、金属加工プラットフォーム「Mitsuri」を運営する株式会社Catallaxyより可能です。メール: info@catallaxy.me電話: 03-4405-6976担当: 経営企画責任者 木村

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    焼け取りとは?方法や必要性を解説

    焼け取りとは、金属を溶接などの加工を施したときに発生する焼け(スケール)を除去することを指します。焼けは、もとの金属素材の色から変色するため、美観性を損ないます。また、除去せずに使用すると、焼けの箇所から腐食が発生しやすくなるので、なるべく除去したいところです。この記事では、複数ある焼け取りの方法と、焼け取りを行う必要性についてご紹介します。焼け取りとは引用元:マコー株式会社 溶接後の焼け取り焼け取りとは、溶接・レーザー加工・ワイヤーカットなどで発生する焼けを除去することを指します。金属表面の焼けは、別名「スケール」とも呼ばれます。焼けは、上画像のように金属の表面に焦げたような跡が残るため、美観性が乏しくなります。また、ステンレスの場合は、腐食を防ぐのに有効な不働態皮膜を破壊してしまうので、腐食によるトラブルを招く要因にもなります。参考:【ワイヤーカット】加工のメリット・デメリットや価格について徹底解説!!参考:【レーザー加工】原理や種類、メリット・デメリットを専門家が紹介!!焼け取りの方法焼け取りの一般的な方法として、研削法(機械的方法)、酸洗法(化学的方法)、電解法(電気化学的方法)があります。●研削法(機械的方法)機械的な焼け取りの方法として、サンダー掛けやブラスト処理などがあります。物理的に研削を行い、焼け取りを除去すると、外観はキレイになります。しかし不働態皮膜のある金属だと、皮膜が破壊された状態になり、腐食の原因となります。機械的方法で焼け取りを行った際は、不働態化処理を施す必要があります。●酸洗法(化学的方法)酸洗いは、硫酸や塩酸などの強酸を用いて、鋼材を漬け込む手法です。焼けや錆び、汚れなどの不純物を除去できるほか、ステンレスの不働態皮膜を再形成させられる効果があります。ただし、酸洗いは仕上がり面が梨地になり、つや消しの状態になるので、光沢を求められる製品には適していません。●電解法(電気化学的方法)電解法は、使用する電流により交流法と直流法があります。また、使用する電解液の種類により、中性電解法と酸性電解法があります。・交流法交流法は、ステンレスに対する溶解力が低いほか、不働態皮膜を破壊してしまうため、不動態化処理が必要です。また、中性の電解液を使用した場合は、溶解力が低くなりやすい傾向にあります。・直流法直流法は、ステンレスが鏡面状に仕上がるだけでなく、不動態化処理の効果も得られます。交流法と直流法のほかにも、株式会社ケミカル山本の特許技術である、交直重乗方式があります。交直重乗方式は、直流に交流を適当量重ねた方式で、仕上がり状態の改善と不動態化処理も行えるほか、六価クロムの発生を抑制できるという特徴があります。・中性電解法中性電解法は、中性塩電解液を使用した手法で、安全性が高いメリットがあります。ただし焼け取り速度が遅く、ステンレスから人体に有害な六価クロムを溶出してしまいます。・酸性電解法酸性電解法は、酸性の電解液を使用した手法で、中性電解法に比べて焼け取り速度が早く、研磨力に優れています。また、六価クロムの発生が少ないのもメリットです。しかし電解液が酸性のため、安全性に乏しく、酸性液を十分に水洗しなければならないデメリットがあります。焼け取りの必要性焼けは、外観が焦げたような見た目になるほか、腐食しやすくなるため、焼けのある製品を使用していると事故を起こしてしまう恐れがあります。そのため、焼け取りにより、完全に焼けを除去しておくことが大切です。ステンレスの溶接時は、表面にあるスケール層だけでなく、その下にアンダースケール層と呼ばれるものが形成されます。スケール層とアンダースケール層は、肉眼では判断ができません。アンダースケール層では、溶接による加熱でクロムの含量が大きく低下しています。クロムの含量は、ステンレス特有の錆びにくい性質が発揮するとされる12%を下回り、耐食性を損なってしまいます。そのため、焼けを除去する際は、スケール層だけでなく、アンダースケール層まで除去する必要があります。

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    シルク印刷とは?方法、特徴、メリット・デメリット

    今回はシルク印刷の基礎知識や活用例などについて解説します。シルク印刷とは、布でできたスクリーンにインクを押し付けて、さまざまな製品に好みのデザインを印刷する手法のことです。印刷という言葉を聞くと、紙や布などに対応したものというイメージがあるかもしれません。しかしシルク印刷は、耐久性に優れていることから、電子機器や看板などにも採用されています。シルク印刷とは引用元:タカチ電機工業 インクジェット印刷・デジタル印刷・レーザーマーキング・シルク印刷・文字彫刻シルク印刷とは、スクリーンと呼ばれる板版の上からインクを押し付けて、下に配置している製品に文字やロゴマークなどを印刷する手法のことで、別名「シルクスクリーン印刷」とも呼ばれています。スクリーンには化学繊維の糸で織られた布が用いられており、印刷したいデザインの部分だけをインクが通るように設計されています。スクリーンの素材にはもともと絹(シルク)を用いていたことから、シルク印刷と呼ばれています。シルク印刷と似た手法として「オフセット印刷」がありますが、シルク印刷とオフセット印刷では方法や特徴が異なります。シルク印刷は、スクリーンを通して直接製品に印刷するのに対して、オフセット印刷は製品に直接印刷せずに、ブランケット胴と呼ばれるゴム版に転写させてから製品に印刷する仕組みです。オフセット印刷は、シルク印刷と比べて多彩な色の印刷に適している一方で、耐候性に劣ります。シルク印刷の方法シルク印刷の印刷工程は以下の通りです。1.原稿:印刷したい文字やロゴマークを作成。2.版下作成:原稿からスクリーン製作用のデータを作成。3.製版:版下からスクリーンを作成。4.インク調合:印刷に使うインクの色を調合。5.印刷:色が複数ある場合は、色ごとに印刷を行う。6.乾燥:インクを乾燥させて製品に定着させる。製品に印刷するインクは、依頼者が希望する色に調合する必要があります。正確な色を出すには、PCで作成したデータだと、モニターの違いにより色の見え方が異なる場合があるので、色のサンプル品やPANTONEカラーの指定などが必要になる場合があります。また、印刷に使うスクリーンは、色ごとに違うものを用いるため、使用する色が多いほど枚数が必要です。引用元:日本電気化学株式会社 シール印刷・シルク印刷シルク印刷の方法については、以下の手順で行われています。1.始めに印刷したい箇所にスクリーンをセット2.スクリーンにインクをのせる3.スキージを使ってインクを押し込む4.焼付窯で乾燥させて完成シルク印刷では、スムーズかつ正確な位置に印刷できるように、手順1にて製品やスクリーンをセットする際に、治具を用いて位置を固定する場合があります。また、印刷に不良が発生しないように、セット時は製品の汚れやホコリを落とします。このとき汚れなどが残ると、印刷が途切れたり、ピンホールができてしまいます。インクを押し込む際は、スキージと呼ばれるヘラを用います。スキージに与える力加減や、角度によって、製品へ落とし込むインクの量が変化するため、デザインなどによって細かな調整が必要になります。製品に印刷したあとは、焼付窯で乾燥させることで、製品にインクが定着しやすくなります。シルク印刷の特徴シルク印刷は、スクリーン上にある隙間から、直接インクを落とし込んで印刷する手法のため、製品にしっかりとデザインを表現できます。インクは厚く塗れるだけでなく、乾燥させて定着させているので、耐久性や耐候性に優れています。また、印刷は曲面や立体形状の製品にも対応できる場合があります。複雑な形状の製品にシルク印刷をしたい場合は、業者に問い合わせて対応してもらえるか確認してみましょう。一方で、線の細かなデザインや、グラデーションのかかった多彩な印刷は、印刷の仕組み上適していません。シルク印刷のメリット・デメリットメリット●単色またはロット数が多いほどコストが安くなるシルク印刷は、単色またはロット数が多いほど、コストが安くなります。シルク印刷は、始めに製品ごとや色別にスクリーンを作る必要がありますが、カラーが少ないと製作するスクリーンの数を抑えられます。また、ロット数が多いと、同じスクリーンを使って複数の製品に印刷ができるため、その分の初期コストが抑えられます。●耐久性に優れるシルク印刷で使われているインクは耐久性に優れています。これは、製品にインクを染み込ませるのではなく、インクを乗せたあとに乾燥させ、製品に定着させているためです。定着したインクは色あせにくく、剥がれにくい特徴があります。シルク印刷は、衣類に採用される場合もありますが、数回の洗濯では劣化することも少ないです。●幅広い素材に対応が可能シルク印刷は、紙・布・陶磁器・ガラス・看板・電子製品など、幅広い素材に対して印刷できます。スクリーンは柔軟性があるので、複雑な形状の製品にも印刷できる場合があります。●下地の色の影響を受けにくいシルク印刷は、インクを厚く塗れるため、下地の色の影響を受けにくいメリットがあります。インクの色調を損なわず、イメージ通りのデザインを表現できます。デメリット●少ロットの生産または色数が多いと割高になるシルク印刷は、一度スクリーンを製作すれば大量に印刷できるため、印刷するほどコストが割安になります。しかし逆を言えば、小ロットの場合に割高になってしまうので注意が必要です。また、色数が多いと、スクリーンも色数の分だけ用意しなければならないため、コストが多くかかります。●印刷に時間がかかるシルク印刷は、スクリーンの製作に時間がかかるほか、印刷後に乾燥する必要があるので、時間がかかってしまいます。コストメリットを得るために大量生産を依頼する場合、納期に余裕を持たせる必要があります。シルク印刷の活用例引用元:有限会社大石孔版 ステンレス板に印刷シルク印刷は、紙・布・陶磁器・ガラス・看板・電子製品などの、さまざまな製品に対して印刷が可能です。また、スクリーンは柔軟性があるので、平たい製品だけでなく、緩い曲面などの製品に対しても対応できます。インクは耐久性・耐候性が良好のため、屋外で使用する製品への印刷にも適しています。

  • 亜鉛めっきとは?特徴や種類を解説

    今回は、亜鉛めっきの特徴や種類について解説します。亜鉛めっきは、鋼材の表面に亜鉛の皮膜を形成し、耐食性を得ることを指します。しかし、一口に亜鉛めっきと言っても、大きく分けて「電気亜鉛めっき」と「溶融亜鉛めっき」の2種類があり、それぞれで特性に違いがあります。亜鉛めっきとは亜鉛めっきとは、電気の作用で亜鉛をめっきしたり、溶融させた亜鉛に浸漬させて、鋼材をめっきしたりする手法のことです。亜鉛めっきを施した鋼材は、表面が銀白色の外観になり、錆びや腐食を防止できるようになります。亜鉛めっきの特徴亜鉛めっきは、主に鉄製品に対して処理を行います。亜鉛めっきを施すと、めっきの表面に不働態皮膜が形成されます。不働態皮膜とは、めっき層と鉄の素地に空気や水が侵入を防止し、錆びを生じにくくする皮膜のことです。引用元:日本溶融亜鉛鍍金協会 溶融亜鉛めっきとは不働態皮膜があると、犠牲防食作用と呼ばれる反応が得られます。犠牲防食は、表面に傷が付いて素地の鉄が露出した場合でも、周囲の亜鉛が鉄より先に溶け出して電気科学的に保護し、鉄の腐食を保護します。亜鉛めっきの種類亜鉛めっきは大きく分けて「電気亜鉛めっき」と「溶融亜鉛めっき」の2種類があります。電気亜鉛めっき引用元:三和メッキ工業株式会社 亜鉛めっき電気亜鉛めっきは、鉄素地を亜鉛めっき液に浸してから、電気を通すことで亜鉛めっきを施す手法です。亜鉛めっき液中でプラス極にある亜鉛が電気の作用で溶解し、マイナス極である鉄に亜鉛皮膜を析出します。ただし、電気亜鉛めっきだけでは、亜鉛めっき皮膜が酸化し、腐食してしまう恐れがあります。そのため、一般的に亜鉛めっき皮膜の上にクロメート処理を施して、より亜鉛めっき皮膜の耐食性を向上させる場合が多いです。また、クロメート処理を施した場合は、導電性も高くなる傾向にあります。クロメート処理は、光沢クロメート(ユニクロ)・有色クロメート・黒色クロメート・三価クロメートなどがあり、種類によって異なる外観と特性が得られます。電気亜鉛めっきは、溶融亜鉛めっきに比べて膜厚が薄いため、自動車部品やコンピュータ部品のような精密機器に採用されることが多いです。参考:ユニクロめっきとは!?亜鉛めっき/クロメートとの違い参考:電気亜鉛めっきとは【3分でわかる】専門家がわかりやすく解説します!溶融亜鉛めっき引用元:マルコ工業株式会社 溶融亜鉛メッキ溶融亜鉛めっきは、高温で溶かした亜鉛の槽に鋼材を浸漬させた後、冷却することで亜鉛めっきを施す手法です。その手法の様子から、別名「ドブ漬けめっき」とも呼ばれています。溶融亜鉛めっきは、塗装や電気めっきと異なり、亜鉛と鉄素地から形成される合金層が、亜鉛と鉄素地を強く結合するため、めっきが剝がれにくく、長期間耐食性が持続します。このことから、建築物やガードレールなどの幅広い用途で活用されています。また、溶融亜鉛めっきは、電気亜鉛めっきのようにクロメート処理を必要としません。溶融亜鉛めっきは、大きな製品の処理に適していますが、高温のめっき液に浸漬させるので、材料が反りやすくなります。加えて、膜厚が電気めっきよりも厚くなるので、精密部品への処理には適していません。参考:溶融亜鉛メッキとは?特徴、規格、加工工程を解説

  • 無電解ニッケルめっきとは?原理、用途、特性、メリット・デメリット

    今回は、無電解ニッケルめっきの原理、用途、特性、メリット・デメリットについて解説します。無電解ニッケルめっきは、電気を使わずに化学的還元作用を利用してニッケル金属の皮膜を形成する手法を指します。似たものに電気ニッケルめっきがありますが、無電解ニッケルめっきと、処理の方法だけでなく、成分や特性についても違いがあります。参考:ニッケルめっきとは?種類や特徴、メリット・デメリット無電解ニッケルめっきとは?引用元:株式会社センショー 無電解ニッケル無電解ニッケルめっきとは、電気ではなく、化学的還元作用にて材料にニッケル金属の皮膜を形成する手法のことで、別名「カニゼンめっき」や「化学ニッケル(化学Ni)」とも呼ばれています。無電解ニッケルめっきは、一般的にリンを含有しています。膜厚を均一にしやすい特徴があり、複雑な形状や寸法精度を要する製品に適しています。無電解ニッケルめっきの原理引用元:アルファメック株式会社 無電解ニッケルめっきとは無電解ニッケルめっきにおける、ニッケルの析出には、めっき液中のニッケルイオンと電子が必要です。無電解ニッケルめっきは、主に還元剤である次亜リン酸塩が添加されており、分解された次亜リン酸から発する電子が、ニッケルの析出に利用されています。還元されて析出したニッケルは、還元剤の分解触媒として作用し、めっき表面で連続的に分解反応とニッケルの析出を行います。この仕組みを「自己触媒還元めっき」と呼びます。無電解ニッケルめっきの用途無電解ニッケルめっきは、以下のような用途で使用されています。<無電解ニッケルめっきの用途>使用目的製品耐食性、耐摩耗性反応槽、輸送管、パイプ、ポンプ、金型自動車部品、船舶部品、航空部品はんだ付け、耐食性、導電性付与接点、シャフト、抵抗体サーミスタ、ディスク耐食性、硬さ、精密性、耐摩耗性ピストン、軸、シリンダー測定装置、変速機耐食性、非磁性、硬さ時計、カメラ、電子顕微鏡等の部品耐食性、耐摩耗性、硬さ金型、事務機、船舶航空、原子力等の部品無電解ニッケルめっきの分類無電解ニッケルめっきは、還元剤の種類により、ニッケル-リン系とニッケル-ホウ素系があります。ニッケル-リン系は細かく分けると「低リンタイプ」「中リンタイプ」「高リンタイプ」の3種類があります。低リンタイプ低リンタイプは、1~4%程度のリンを含有する無電解ニッケルめっきです。他の種類に比べて700Hvと硬度が高く、耐摩耗性と耐アルカリ性に優れていますが、耐食性は劣ります。中リンタイプ中リンタイプは、5~10%程度のリンを含有する無電解ニッケルめっきです。一般的に採用されることの多い種類で、無電解ニッケルめっきと言えば中リンタイプを示す場合が多くあります。通常は非磁性ですが、熱により磁性を示します。また、耐食性・耐摩耗性や各物性のバランスも他の無電解ニッケルめっきと比べて良好で、汎用性に優れています。高リンタイプ高リンタイプは、11~13%程度のリンを含有する無電解ニッケルめっきです。耐食性に優れているものの、はんだ付け性に劣ります。また、結晶構造が非晶質で、通常時および比較的高温で熱処理した状態でも非磁性を示します。他のめっき種類に比べて光沢が少ないのも特徴です。無電解ニッケル-ホウ素めっき無電解ニッケル-ホウ素めっきは、ホウ素を0.2~1.0%程度含有する無電解ニッケルめっきです。はんだ付け性や硬度に優れています。また、400℃程度の熱処理では、変色しない特徴があります。ただし、めっき液が高価のため、他の種類に比べて処理コストがかかります。無電解ニッケルめっきのメリット●耐食性の向上無電解ニッケルめっきは、一般的に電気ニッケルめっきよりも耐食性に優れています。数%のリンを含有し、リンの含有率が多いほどピンホールが少なくなり、耐食性が向上します。●均一な膜厚が得られやすい電気ニッケルめっきは、めっきする製品に対して、電気が弱くかかる部分と強くかかる部分に分かれてしまうので、均一な膜厚になりにくい特徴があります。一方で、無電解ニッケルめっきは、電気を使わずに化学的還元作用にて材料をめっきする手法のため、膜厚が均一になりやすいメリットがあります。●非金属材料にも対応可能無電解ニッケルめっきは、電気を使わないめっきなので、樹脂やセラミックなどの不導体に対しても対応が可能です。●電気ニッケルめっきと比べて耐摩耗性に優れる電気ニッケルめっきの硬度は、ビッカース硬さで200Hv程度、熱処理で500Hv程度の値です。一方で無電解ニッケルめっきの硬度は500Hv程度あり、熱処理を行うと最高1000Hv程度までの硬さが得られます。無電解ニッケルめっきのデメリット●電気ニッケルめっきに比べてコストが高い無電解ニッケルめっきは、電気ニッケルめっきに比べて材料費が高いほか、めっきの析出速度も遅いので、コストが高くなる傾向にあります。●めっき液の管理が難しい無電解ニッケルめっきは、電気ニッケルめっきに比べて浴組成の変動が大きく、扱いが難しいので、技術や知識を要します。無電解ニッケルめっきの特性機械的特性無電解ニッケルめっきは、硬度が高く、耐摩耗性に優れています。また、ねじを締め付ける際に摩擦の熱で溶着してしまう「かじり」についても防止する効果が期待できます。無電解ニッケルめっきの種類ごとの硬度については以下の通りです。<無電解ニッケルめっきの種類別硬度>めっき種類低リン中リン高リンホウ素硬度Hv熱処理前700550500780400℃,2h10009509501000引用元:ヱビナ電化工業株式会社 無電解ニッケルめっきには、どの様な種類がありますか?化学的特性無電解ニッケルめっきは、種類によって良好な耐食性、耐酸性、耐アルカリ性の特性を有しています。以下の表は、リン含有量による化学的特性の違いを示したものです。<めっきのリン含有別化学的特性>めっき種類低リン中リン高リン耐食性(塩水噴霧)やや劣る良好普通~良好耐酸性劣る普通良好耐アルカリ性良好普通劣る引用元:アルファメック株式会社 無電解ニッケルめっきとは電磁気的特性無電解ニッケルめっきは、導電率(比抵抗)、接触抵抗、磁性(非磁性)、電磁波防止の特性を有しています。めっきの種類による磁性の有無と、比抵抗の値については以下の通りです。<めっきの種類別比抵抗(導電率)と磁気特性>めっき種類低リン中リン高リンホウ素比抵抗 μΩ・cm30~6060~75150~2005~6磁気特性熱処理前磁性非磁性非磁性磁性280℃,2h磁性磁性非磁性磁性引用元:ヱビナ電化工業株式会社 無電解ニッケルめっきには、どの様な種類がありますか?光学的特性無電解ニッケルめっきは、めっきの処理液の違いにより、光沢が出るタイプと出ないタイプがあります。光を反射させたくない医療機器や光学機器などでは、光の反射率が低い黒色無電解ニッケルめっきが採用されることもあります。熱的特性無電解ニッケルめっきは、良好な耐熱性、熱伝導性、はんだ付け性の特性を有しています。以下の表は、無電解ニッケルめっきの中リンタイプの融点、熱伝導度、膨張係数を示したものです。融点熱伝導度膨張係数890℃0.0105cal/cm/s/℃13×10-6cm/cm/℃引用元:アルファメック株式会社 無電解ニッケルめっきとは電気ニッケルめっきとの違い無電解ニッケルめっきと電気ニッケルめっきは、めっき方法、皮膜成分、物性に違いがあります。●めっき方法の違い電気ニッケルめっきは、名前の通り電気を使ってめっき皮膜を形成する手法です。浴管理は無電解ニッケルめっきに比べて比較的容易のため、金額も安価な傾向にあります。しかし、電流分布によりめっきの厚みが変わるので、無電解ニッケルめっきと違って均一にめっきを付けるのが困難です。無電解ニッケルめっきは、化学反応にてめっきを施すため、均一にめっきを付けることが可能です。複雑な形状の製品に対してもめっきしやすい特徴があります。ただし、めっきの析出速度が遅い、浴管理が難しいなどの難点もあり、コスト面で電気ニッケルめっきに劣ります。●皮膜成分の違い電気ニッケルめっきは、およそ99.5%以上がニッケルでできているので、純ニッケルめっきとも呼べます。一方で無電解ニッケルめっきは、ニッケル90~95%、リン5~10%程度の割合でできた合金めっきになります。そのため「ニッケル-リン合金めっき」と呼ばれることもあります。●物性の違い無電解ニッケルめっきと電気ニッケルめっきの物性の違いは以下の通りです。<無電解ニッケルと電気ニッケルの物性の違い>性質無電解ニッケル(Ni-P 中リンタイプ)電気ニッケル組織非結晶性(熱で結晶)微結晶性融点890℃(P;9%)1450℃電気抵抗60μΩ/cm(熱処理400℃で1/3に低下)約8.5μΩ/cm比重7.9(P;9%)7.7-8.7硬さHv500±50(析出状態)Hv900±100(400℃ 1Hr)Hv150-250(普通浴)Hv400-500(光沢浴)磁気特性非磁性強磁性耐食性電気ニッケルより優れるNi-Pより劣る引用元:アルファメック株式会社 無電解ニッケルメッキと電気ニッケルメッキの違い

  • バイブレーション研磨とは?用途、特徴、種類

    今回はバイブレーション研磨の用途や特徴について解説します。バイブレーション研磨とは、金属の表面にランダムに模様を付ける研磨です。主にステンレス材の表面仕上げとして使われており、ヘアライン研磨製品と同じく建築建材で幅広く活用されています。参考:ステンレスのヘアライン加工の種類や特徴について専門家が解説!バイブレーション研磨とは引用元:株式会社新光ステンレス研磨 研磨種類バイブレーション研磨とは、ヘアラインのような統一された方向に金属を研磨するのではなく、無差別の方向に小さな弧を描いたような研磨を施すことで、別名「ランダムヘアライン」や「パーマネントヘアライン」とも呼ばれています。さまざまな材質に対応していますが、ステンレス材(SUS304)の表面仕上げに利用されることが多いです。バイブレーション研磨は梨地研磨の一種で、鏡面仕上げのような光沢や映り込みが少なく、遠目から見ると落ち着いた雰囲気になります。研磨する粒度や形状を変化させることで、細かいものから粗いものまで自在に加工を行えます。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!バイブレーション研磨の用途と特徴バイブレーション研磨の特徴は以下の通りです。・光の反射が少ない・落ち着いた雰囲気と上質感がある・傷が目立ちにくいバイブレーション研磨は、ランダムな方向の模様が入るように、粗く研磨しています。手で触れても研磨の感触は少ないものの、見た目で分かるくらいの模様が施されています。光沢を抑えて研磨している分、光の反射は少なく、落ち着いた雰囲気を与えられるのが特徴です。また、鏡面仕上げやヘアライン仕上げと違って、キレイであったり規則性があったりする模様ではないので、傷が目立ちにくいのもポイントです。ただし、傷が目立ちにくいからといっても、研磨目の薄いバイブレーション研磨の場合は、傷や指紋が入りやすいので注意してください。バイブレーション研磨は、落ち着いた雰囲気と上質感があること、傷が目立ちにくいなどの特徴から、主にエレベーターやキッチン、建築建材の内外装などに採用されています。汎用的な研磨方法のため、材質はステンレス・チタン・アルミ・銅・真鍮と幅広いほか、角パイプ・丸パイプ・アングル・チャンネルなどの形鋼にも対応できます。バイブレーション研磨の種類ステンレスのバイブレーション研磨には、No.2B・BA・#400・#700・No.8などがあります。ここでは代表的な「2Bバイブレーション」と「BAバイブレーション」についてご紹介します。2Bバイブレーション2Bバイブレーションは、もっとも広く使用されているバイブレーション研磨のことで、やや光沢のある仕上がりが特徴です。2Bとは、「No.2B」の略で使われているステンレス材です。2Bは、冷間圧延後、焼鈍→酸洗で仕上げた「No.2D」の材料に、スキンパス圧延を施したものです。スキンパス圧延とは、冷間圧延後に焼きなましした鋼板に施される軽い圧延のことで、調質圧延とも呼ばれています。ステンレスの表面仕上げは、No.2以外にもNo.1~8までありますが、数字が大きくなるほど光沢のある仕上げになります。#400などについても、数値が大きいほうが、細かい目になり、光沢のある仕上げになります。参考:鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!BAバイブレーションBAバイブレーションは、2Bバイブレーションより少し光沢があるバイブレーション研磨です。BAとは、冷間圧延後に光輝焼鈍(無酸化焼鈍)を行ったステンレス材のことを指します。光輝焼鈍は、焼きなましを大気中ではなく、不活性ガスや中性ガスの中で行い、酸化皮膜の生成を防ぎ、光沢を維持しながら焼きなましをする手法です。

  • 三価クロメートとは?種類や特徴、六価クロメートとの違い

    三価クロメートは、ヨーロッパなどで使用禁止となっているクロメート処理の代替として採用されている表面処理です。主に亜鉛めっきの防錆性能の向上や外観の色調変化などが目的で、通常は亜鉛めっきとセットで行われています。自動車や電気・電子、建築など、幅広い分野で使用されており、身近な例では、青銀色や黄金色、黒色のネジ・ボルト・ナット類が挙げられます。この記事では、三価クロメートとは何かというところから、種類や特徴、類似の加工方法であるクロメート処理(六価クロメート)やクロムめっきとの違いについて解説していきます。三価クロメートとは三価クロメートとは、三価クロムを含むものの六価クロムは含まない溶液に金属を浸すことによって、金属表面で化学反応を起こし、金属表面に防食効果などを発揮する皮膜を形成する化成処理のことです。「三価クロム化成処理」や「クロメートフリー処理」「とも呼ばれます。詳しくは後述しますが、単にクロメート処理と言う場合、六価クロムで皮膜を形成する化成処理を指します。しかし、この六価クロムは、生体に有害で、欧州などで規制されていることから、現在はクロメート処理から六価クロムを含まないクロメートフリー処理へと移行が進んでいます。そのため、最近では、クロメート処理を「六価クロメート処理」と六価クロムを用いることを明示して呼称したり、記述したりすることが多くなっています。三価クロメートの適用対象は、主に亜鉛めっきや亜鉛合金めっきが施された鋼材や金属製品で、めっきの後処理として施されるのが三価クロメートです(上図参照)。具体的には、溶融亜鉛めっきや電気亜鉛めっきが施されたもの、ガルバリウム鋼、ガルタイト鋼(ガルファン鋼)が素材のものなどが挙げられ、これらのめっき製品には、六価クロメート処理と三価クロメートのどちらかが適用されています。なお、ガルバリウム鋼とガルタイト鋼は、下表のめっき浴成分によってめっき処理された鋼です。<ガルバリウム鋼(溶融55%アルミニウム-亜鉛合金めっき鋼)のめっき浴>構成成分AlSiAl, Si, Zn以外の元素Zn成分量 (%)50.0~60.01.0~3.05.0以下残部<ガルタイト鋼(溶融亜鉛-5%アルミニウム合金めっき鋼)のめっき浴>構成成分AlAl, Zn以外の元素Zn成分量 (%)4.0~5.51.0以下残部三価クロメートの用途は、亜鉛めっきや亜鉛合金めっきの用途とほとんど同じで、自動車や輸送機器、電気機器、建築部材、事務機などと幅広い分野に及んでいます。特に、自動車や電機などの輸出企業が取り扱う製品は、欧州市場などを考慮して、三価クロメートへの切り替えが進んでいます。しかし、建材・建築などの市場が国内中心の企業は、未だ六価クロメートが適用された製品を使用しています。三価クロメートの効果三価クロメートの主な効果は、耐食性の向上と外観の色調変化です。そもそも、その下地である亜鉛めっきには、以下のような優れた効果があります。▼鉄の表面を物理的に被覆して、腐食原因となる水と酸素を鉄の表面から遮断する。▼中性環境で酸化皮膜を形成し、良好な耐食性を発揮する。▼鉄の身代わりとなって錆びる犠牲的防食作用が働くため、亜鉛めっき皮膜にキズが生じて鉄素地が一部露出しても、防錆効果を発揮する。▼めっき処理の直後は、銀色(光沢のある灰色)を呈する。▼複雑な形状でも、均一な厚さでめっき皮膜を形成することができる。▼コストが低い。▼量産加工が容易。しかし、亜鉛めっきは、大気中で使用していると、時間経過とともに酸化皮膜が厚くなって光沢を失います。さらに、大気が汚染されていたり、湿度が高かったりするような腐食環境下では、亜鉛自身の腐食によって白錆を生成します。その点、亜鉛めっきの上に三価クロメートを施すと、その化成皮膜が空気に対して反応性のないバリヤー層として亜鉛めっきを保護する上、亜鉛の白錆発生も長期間防止するため、高い防錆効果が期待できます。また、三価クロメートの処理液や処理時間などを制御することによって、外観の色調をある程度変化させることが可能です。亜鉛めっき直後の銀色そのままの色調から、青白い色、淡い黄色、黒色というように、いくつかの色調を付与することができます。そのほか、三価クロメートには、以下のような効果もあります。▼塗料などの密着性向上。▼耐指紋性や防汚性が向上。▼亜鉛めっきのみよりも電気抵抗は高いが、導通性は維持される。三価クロメートの表記六価クロメートの表記がJIS規格(JIS H 8625:1993)にて定められているのに対し、三価クロメートの表記は、規定されていません。そのため、現状は六価クロメートのJIS規格に従って表記し、注釈として「三価クロメート」や「TC(Trivalent Chromate)」などと追記することが標準的となっています。例えば、電気めっきで鉄生地に8μm厚の亜鉛をめっきした後、淡黄色の三価クロメートを施す場合は、下記のように記述します。Ep-Fe/Zn 8/CM1B(三価クロメート)なお、「Ep」は電気めっきを表す記号で、クロメート処理(六価クロメート)の記号「CM」は色調によって下表のような種類があります。<クロメート皮膜の種類と表記・色合い>クロメート皮膜の種類記号代表的色合い光沢CM1A透明, 青味のある透明淡黄色CM1B淡黄色の干渉模様黄色CM2C黄色の干渉模様緑色CM2Dオリーブ, グリーン, ブロンズ, 褐色なお、三価クロメートと六価クロメートの双方に黒色のクロメート処理がありますが、これもJIS規格に規定されていないので、下記のように「三価黒クロメート」などと追記することになります。・Ep-Fe/Zn 8(三価黒クロメート)三価クロムめっきとの違い三価クロメートと類似した言葉に「三価クロムめっき」がありますが、三価クロムめっきはめっき処理を指すため、化成処理を指す三価クロメートとは全く異なります。三価クロムめっきは、三価クロムが安定的に存在するめっき浴に金属を浸し、電流を流すことで、金属表面にクロムのめっき皮膜を生成する表面処理法です。実際、三価クロムめっきと三価クロメートは、下表のように皮膜の化学組成が大きく異なります。ただし、下表の皮膜の化学組成は、一例であり、めっきはめっき浴に、化成処理は処理剤によって異なります。なお、三価クロメートの黒色以外の処理剤には、有機酸を含有する有機系とシリカを含有する無機シリカ系があります。<三価クロムめっきと三価クロメートの皮膜の化学組成>皮膜の種類三価クロムめっき皮膜三価クロム化成皮膜無機シリカ系有機系皮膜の化学組成Cr:91.3%C:2.7%O:2.0%S:4.0%Cr:20%O:55%Zn:20%Si:微量Co:微量Cr:22%O:55%Zn:18%C:5%Co:微量三価クロメートの種類と特徴三価クロメートは、色調の違いにより、大きく「三価白」と「三価黒」の2種類に分けられます。その色調の違いは、化成処理の処理剤や処理時間などによってコントロールされています。ただし、同じ色の処理剤でも、その成分や処理条件などは、処理剤によって異なります。そのため、処理剤のメーカーによって、色調も変わってくるので注意が必要です。三価白三価白は、銀色、青白色(青みを帯びた銀色)または淡黃色(黄みを帯びた銀色)の色調となるように調整された三価クロメートです。「三価白クロメート」や「三価ホワイト」とも呼ばれます。銀色となるのは、三価クロム化成皮膜が0.02~0.05μm程度と薄く、クリアー(透明色)で、亜鉛めっきの色調がそのまま現れるように調整された三価クロメートです。「三価無色クロメート」と呼ばれることがあります。青白色となるのは、三価クロム化成皮膜が0.05~0.3μm程度の厚みで、六価クロメートで青白色となる「ユニクロ」の代替となっている三価クロメートです。「三価ユニクロ」や「三価光沢クロメート」とも呼ばれています。淡黃色となるのは、三価クロム化成皮膜の膜厚を0.2~0.5μm程度とした三価クロメートです。「三価有色クロメート」とも呼ばれます。このように、三価白は、膜厚によって、銀色、青白色、淡黄色と色調が変化します。膜厚は耐食性にも影響し、皮膜が厚いほど、耐食性が高くなるという特徴があります。そのほか、三価白による化成皮膜は、損傷すると、皮膜中の成分と露出した亜鉛が反応し、自己修復する機能も備えています。三価黒三価黒は、黒色となるように調整された三価クロメートです。その処理剤に添加された硫黄とコバルトが反応し、黒味成分となる硫化コバルトへ変化することによって黒色が実現されています。「三価黒クロメート」や「三価ブラック」とも呼ばれます。三価黒による化成皮膜は、0.2~0.5μm程度の厚さです。この膜厚は、三価有色クロメートと同程度であることから、耐食性についても三価有色クロメートと同水準となっています。ただし、化成皮膜の表面は、微小な凹凸を形成するため、光が反射しにくく、光沢のないマットな仕上がりとなります。また、耐傷性が低いという欠点もあります。そのため、三価黒の化成皮膜には、多くの場合、三価黒の後処理としてクリアー塗装を施して、透明な塗膜でコーティングを行います。それにより、耐傷性を高めるとともに、光沢を付与して、光沢感のある美麗な黒色を実現しています。三価クロメートの種類と名称以上の三価クロメートの種類と名称をまとめると下表のようになります。<三価クロメートの名称と種類一覧>クロム化成処理の名称クロム化成処理の種類処理の名称色調三価クロメートクロメートフリー処理三価クロム化成処理三価白三価白クロメート三価ホワイト三価無色クロメート銀色三価ユニクロ三価光沢クロメート青白色三価有色クロメート淡黄色三価黒三価黒クロメート三価ブラック黒色三価クロメートと六価クロメートの違い三価クロメートと六価クロメートの違いは、六価クロムの有無です。六価クロメートの処理液や化成皮膜は、三価クロムと六価クロムの双方を含有する一方、三価クロメートの処理液や化成皮膜は、三価クロムは含むものの、六価クロムはほぼ含有していません。毒性の有無上述したように、六価クロムは人体に対して強い毒性を示す一方、三価クロムには、毒性はありません。六価クロムは、接触や吸引、摂取によって、皮膚炎や皮膚潰瘍、吐き気、嘔吐、下痢などを引き起こし、消化器系に対しては胃腸炎・胃癌・大腸癌・肝臓障害、呼吸器系に対しては気道炎・呼吸障害・肺癌の原因となります。従って、六価クロメートの処理液については、作業者への付着はもちろん、周囲への飛散も避けることが必要です。処理液から水分が蒸発し、粉末状となった六価クロムが空気中に浮遊することがあるからです。地下に浸透し、井戸水などを汚染する可能性もあります。一方、三価クロムには、全く毒性はなく、自然界の河川や海洋などにも存在している物質です。有毒どころか、人間にとっては必須ミネラルであると考えられており、欠乏症ともなると糖の代謝異常を起こすとされています。参考:クロムの毒性(三価・六価)を解説規制の有無六価クロムは、世界の多くの国で使用禁止となっていますが、三価クロムの使用を禁止している国はありません。六価クロムは、下表で説明しているELV指令やWEEE指令、RoHS指令が施行されて以降、欧州連合(EU)域内で規制されています。<欧州連合(EU)域内の六価クロム規制>法令名施行年月内容ELV指令2000年10月自動車の廃棄処分時、製造者は、鉛・水銀・カドミウム・六価クロムを含む部品は取り外して保管し、環境に影響を与えないよう、再利用または処理しなくてはならない。2003年7月1日以降、市場に流通する自動車および自動車部品は、鉛・水銀・カドミウム・六価クロムを含有してはならない。WEEE指令2005年8月電気・電子機器の廃棄処分時、製造者は、六価クロムなどの有害物質を環境に影響を与えないように廃製品から除去しなくてはならない。RoHS指令2006年7月電気・電子機器の製造段階での、六価クロムなどの6つの有害物質の使用を原則禁止。2019年7月4つの有害物質が追加されて、合計10つの有害物質の使用を原則禁止。つまり、EU域内では、六価クロメートが使用された自動車や電気・電子機器は販売できません。ただし、どのような物質でも完全にゼロにすることは不可能なので、上表の法令でも最大許容含有量が定められています。その中で六価クロムは、0.1wt%(1000ppm)が最大許容含有量です。参考:RoHS指令について詳細を解説!対象範囲についてもご紹介!そのほか、中国や韓国、タイ、ベトナム、米国カリフォルニア州などにも、RoHS指令と類似の規制が存在します。一方、日本では、六価クロムの使用が禁止されているわけではありませんが、下表のような法令および基準が存在するため、六価クロムの取り扱いには注意が必要です。なお、下表は国の法令・基準であり、自治体によっては、より詳細で厳しい基準を条例で定めている場合があります。<日本における六価クロム規制>法令名基準名対象基準値環境基本法環境基準公共用水域 (注1)0.05mg/L以下 (注2)地下水0.05mg/L以下水質汚濁防止法排水基準工場排水など0.5mg/L以下土壌汚染対策法土壌環境基準土壌0.05mg/L以下注1. 公共用水域とは、河川や湖沼、海域、用水路などの公共利用のための水域や水路のこと。注2. 2022年4月1日から0.02mg/Lに改正。ただし、三価クロメートについても、硫酸クロム・硝酸クロム・酢酸クロムといった三価クロム化合物、硫酸コバルトといったコバルト化合物、硫酸ニッケルといったニッケル化合物など、多様な化学物質を処理液に含みます。そのため、これらの化学物質を含有する排水には、適切な処理が必要不可欠です。そして、その結果生じるスラッジからは、有効活用できる物質は最大限リサイクルし、廃棄物の量を最小限化することが必須となります。また、これらの化学物質は、PRTR(化学物質排出移動量届出)制度に基づく第1種指定化学物質に指定されています。PRTR制度は、これらの化学物質の排出量などを規制するものではありませんが、公共用水域や土壌といった環境への排出量と廃棄物としての外部への移動量を国に届け出することが義務付けられています。さらに、届出データは国によって公表されることになっているため、事業者は、化学物質を適正に管理することが重要です。色調の違い三価クロメートと六価クロメートでは、実現可能な色調も異なります。下表は、三価クロメートと六価クロメートの実現可能な色調をまとめたものです。六価クロメートの色調には、三価クロメートの色調にはない緑色などが存在し、六価クロメートの方が色調のバリエーションが多くなっています。また、それぞれの色調も、六価クロメートの方が鮮やかだったり、光沢が強かったりするなど、六価クロメートの方が優れているとされています。しかし、近年では、三価クロメートでも六価クロメートの色調をほぼ実現できるようになっているほか、三価クロメートで下表の色調以外の色調も表現できるようになっています。<三価クロメートと六価クロメートの色調>クロム化成処理の名称クロム化成処理の種類処理の名称色調三価クロメートクロメートフリー処理三価クロム化成処理三価白三価白クロメート三価ホワイト三価無色クロメート銀色三価ユニクロ三価光沢クロメート青白色三価有色クロメート淡黄色三価黒三価黒クロメート三価ブラック黒色六価クロメートクロメート処理六価クロム化成処理光沢クロメートユニクロ銀色青白色淡黄色有色クロメート黄色黄金色虹色緑色クロメート緑色褐色黒色クロメート黒色耐食性の違い耐食性について、三価クロメートは、六価クロメートと比べて同等か、上回るとされています。下表は、三価クロム化成皮膜と六価クロム化成皮膜に対し、5%濃度の塩水を吹き付けたときの白錆発生までの時間を記載したものです。下表から、無色または光沢の化成皮膜では、三価クロメートの方が六価クロメートよりも耐食性が高く、有色や黒色の化成皮膜でも、三価クロメートは、六価クロメートと比べて同等以上の耐食性を示しています。<三価クロメートと六価クロメートの白錆発生にかかる時間>色調の種類塩水(5%濃度)噴霧時の白錆発生までの時間三価クロメート六価クロメート無色 (銀色), 光沢 (青白色)72〜120時間24〜72時間有色120〜360時間120〜240時間緑色ー240時間以上黒色120〜240時間120〜240時間また、三価クロム化成皮膜は、六価クロム化成皮膜に比べて、高温時の耐食性が高いという特徴があります。六価クロム化成皮膜は、約70℃以上の高温で皮膜にクラックが発生し、耐食性が著しく低下します。一方、三価クロム化成皮膜は、約200℃の高温でもクラックが発生しにくく、それ故に耐食性の低下が起こりません。自己修復機能の違い上述した三価クロム化成皮膜の自己修復機能は、六価クロム化成皮膜にも備わっており、六価クロム化成皮膜の自己修復機能の方が効果が高いとされています。六価クロム化成皮膜の自己修復機能は、六価クロムによって実現されます。六価クロム化成皮膜では、皮膜が傷付いた場合でも、六価クロムが溶出して露出した亜鉛めっきを被覆し、その部分を化成皮膜に変化させます。そのため、六価クロム化成皮膜では、色調に関わらず、自己修復機能が働きます。一方、三価クロム化成皮膜では、皮膜中の成分が亜鉛めっきと成膜反応を起こすことで、皮膜が再生されます。この成膜反応の反応性は、三価白クロメートの有機系で高く、無機シリカ系では低いために、有機系の方が自己修復機能の効果が高くなっています。なお、三価黒クロメートの化成皮膜には、自己修復機能はありません。コストの違い三価クロメートは、以下のような理由から、六価クロメートと比べると高コストになるとされています。●三価クロメートが六価クロメートよりも高コストになる理由・三価クロメートの処理剤が高価。・厳密なpH管理の必要性から処理液の管理が難しく、成膜反応が遅いことから処理時間も長くなるため、処理コストが高い。しかし、近年、六価クロメートから三価クロメートへの代替が進展したことで、三価クロメートのコストは低下してきており、需要が多い色調・性能の三価クロメートでは、六価クロメートと同程度のコストとなっています。ただし、需要の少ない色調の三価クロメートはまだ割高であり、トップコートなどで性能を高めた三価クロメートは、当然ながら高コストです。三価クロム化成皮膜からの六価クロムの溶出について以上のように、三価クロメートは、六価クロメートと様々な違いはあるものの、新たな処理剤の開発や処理方法の高度化、需要増によるコスト低下などにより、六価クロメートの代替としての役割を十分に果たしつつあります。しかし、三価クロム化成皮膜にコバルトを含有している場合、皮膜に六価クロムが含まれることがあります。これは、皮膜への水分の浸透などによってコバルトが不安定化して三価クロムを酸化し、六価クロムへと変化させることがあるからです。そして、三価クロム化成皮膜から六価クロムが溶出してしまう事例も発生しており、その対策が処理剤のメーカーなどにより進められています。ただし、注意点として、六価クロムが溶出した事例についても、その量はRoHS指令などで規定された最大許容含有量よりも微量であるため、特に規制に抵触したわけではなく、欧州などでの販売ができなくなったわけではありません。なお、このコバルトの不安定化は、以下のように不安定化の原因を排除することによって抑制することができます。●コバルトの不安定化を抑制する方法・三価クロム化成皮膜中のコバルト濃度の低減。・三価クロム化成皮膜のクラック発生の抑制。・三価クロム化成皮膜への水分の浸透を防止。そして、これらの実現には、以下のような対策が効果的です。・三価クロメートの処理液中のコバルト濃度を下げることで、皮膜中のコバルト濃度の低減が可能。・三価クロメートの処理時間を短くし、処理温度を下げることで、皮膜中のコバルト濃度の低減が可能。・三価クロム化成皮膜の乾燥温度を低くすることで、皮膜のクラック発生の低減が可能。・高温多湿環境下での保管や使用を禁止することで、皮膜への水分の浸透を防止することが可能。・三価クロメートの処理液にコバルトの酸化抑制剤を加えることで、コバルトの不安定化の抑制が可能。三価クロメートの処理剤の各メーカーは、これらを元に処理剤の改良を進めているほか、コバルトを含まない処理剤やクロム自体をも含まない処理剤の開発にも着手しています。

  • 円筒研削とは?種類やメリット・デメリットを解説

    金属加工の中でも高速で回転する研磨砥石を用いた加工方法のことを研削加工と呼んでいます。工具を用いて金属を削り取っていく切削加工や、工作物に研磨工具を押し当てて削っていく研磨とは異なる方法として分けられています。研削加工の中には平面研削や内面研削など、さまざまな種類がありますが、その中でも円筒状の工作物を制作するのに用いられる「円筒加工」についてご紹介します。円筒加工の種類やメリットについても詳しく解説していくので、円筒状の工作物を制作したい方は、ぜひ参考にしてください。円筒研削とは?円筒研削は、回転する研削砥石に対し、反対方向に回転する工作物を当てて外面を研削する加工方法のことで、一般的に円筒状の工作物を加工する際に用いられます。仕上がりの寸法精度が、旋盤やフライスによる加工に比べてはるかに高い特徴を持っています。高速回転する研削砥石に対し、工作物を押し当てるだけで、全体的に整った寸法の製品が出来上がります。主に、円筒軸や段つき軸、テーパ軸などの加工に用いられます。円筒研削の種類円筒研削は、大きく3種類に分けられます。それぞれの特徴を解説します。トラバース研削トラバース研削は、砥石を工作物の軸方向に平行移動させながら研削を行います。何度も往復することで表面を均等に整える加工方法です。長さが砥石よりも長く、段差がないものを加工するのに適しています。また、重量が重く移動させるのが難しい工作物に対しては、砥石台を移動指せるタイプのトラバース研削も使用されるようになっています。●トラバース研削のメリットトラバース研削の魅力は加工面の仕上がりの美しさ。非常に精度が高く、鏡面加工が施された円筒を作ることが可能です。●トラバース研削のデメリット加工物が長くなると、中央がたわみやすくなるため加工精度に注意が必要です。また、シャフトが回転するときに摩擦抵抗が大きくなり、シールが切れて油漏れに繋がるトラブルが比較的高い頻度で起こります。プランジ研削回転している加工物に対し、砥石を垂直に押し当てていく加工方法です。砥石や加工物をスライドさせずに研削するため、工作物や砥石の幅よりも短いものや長いものの一部を削るのに適しています。また、切削効率が良いため、量産部品の加工に向いています。●プランジ研削のメリット左右に動かず、砥石に対して工作物をしっかりと押し当てることができるため、力が強く伝わり、効率よく研削できる点が大きなメリットです。また、動力効率が良いため機械へのダメージが少なく、耐久性が高い点も魅力的です。●プランジ研削のデメリット砥石の幅を超えるワークの切削はできません。また、深い穴などの加工をする際、チップが詰まってしまうことがあるため、切り屑の排出方法を検討する必要があります。アンギュラ研削アンギュラスライド、アングルスライドとも呼ばれる加工法で、砥石に対して斜めの位置から研削を行う切削方法のことを言います。●アンギュラ研削のメリット斜めの角度に設定されていることにより、工作物の円筒部だけでなく、端面も同時に加工することが可能です。さらに、平面だけでなく、段付きのワークも効率的に削ることができ、部品全体の加工を短時間で終えることが可能です。●アンギュラ研削のデメリットトラバース研削のような鏡面の美しさや、高精度の製品に仕上げることは難しく、凹凸の加工も高い制度や細かい凹凸を実現することはできません。加工には一般的にNC装置が用いられますが、動きのプログラムが複雑になる上、経年劣化による補正値も考慮に入れなければならないため、大量生産時には注意が必要です。円筒研削のメリットとデメリットそれぞれの研削方法によっても異なる特徴があり、それぞれに違ったメリット、デメリットがありますが、総じて円筒研削は、数ある研削の中でも精度が高く幅広い素材の加工に適応します。また、溝などがあっても加工が可能です。一方で、動きや加工範囲には制限があり、一定以上に自由度を高めようとすると精度や仕上がりの質が下がってしまいます。また、時間がかかる加工ということもあり、生産性がなかなか上がらないため、大量生産には向いていない点もデメリットと言えます。

  • 粉体塗装とは?特徴、種類、メリット・デメリット

    粉体塗装とは、パウダー状の塗料を金属に直接付着させて加熱し、乾燥させて固めることで塗膜とする塗装法です。一般的な塗装に用いられる有機溶剤を全く使用しないため、環境や人体への影響が小さく、環境保全や健康増進への取り組みが強化されている現在、注目が集まっています。また、省資源性にも優れるほか、自動化しやすいという特徴もあります。これらの理由から、溶剤塗装からの転換が進んでおり、その市場は拡大しています。この記事では、粉体塗装とは何かというところから、その方法や種類、特徴、メリット・デメリットまで、詳しく解説していきます。粉体塗装とは粉体塗装とは、パウダーコーティングとも呼ばれる、粉末状の塗料を用いる塗装のことです。細かく粉砕して粉状にした塗料(粉体塗料)を、塗装対象物に直接付着させ、高温で溶かしてから、乾燥させて固めることで塗膜を形成します。加熱して固化させることで塗膜を形成することから、焼付塗装の一種でもあります。参考:焼付塗装ならMitsuri!1コ〜お受けいたします!粉体塗料には、エポキシやポリエステルなどを含む熱硬化性のものと、ポリエチレンやナイロンなどを含む熱可塑性のものがあります。粉体塗料は、これら樹脂のほか、顔料、添加剤をパウダー状にしたものから構成されており、溶剤塗料や水性塗料の成分である有機溶剤や水などの溶媒は含みません。なお、ここでの添加剤とは、硬化剤や乾燥剤、消泡剤、フィラー(充填剤)などで、塗料の流動性・湿潤性の調整や塗料の脱気(空気を除去すること)などの機能を持ちます。粉体塗装は、他の種類の塗装と同じく、塗装対象物の防錆や着色、耐候性向上、美観向上、機能性付与などが目的です。また、溶剤塗装に比べて、環境汚染や健康被害、火災などのリスクが低いため、溶剤塗装からの転換が進んでいます。参考:溶剤塗装とは?特徴や粉体塗装との違いについて専門家が解説!粉体塗装の方法粉体塗装の方法には、静電粉体塗装法と流動浸漬塗装法があります。●静電粉体塗装法参照元:粉体塗装とは? > 粉体塗装の紹介「塗装工程と塗装法」日本パウダーコーティング協同組合静電粉体塗装法は、アースに繋げてプラスに帯電させた塗装対象物へ、スプレーガンにてマイナスに帯電させた粉体塗料を噴射することで、塗料を静電的に対象物へ付着させる方法です。この塗装法では、一般的に熱硬化性粉体塗料を使用し、加熱によって架橋と呼ばれる化学反応を誘起することで硬い塗膜を形成します。一度硬化した塗料は、再度加熱しても硬いままで、軟化・流動することはありません。この塗装法では、以下の工程に従って塗装を行います。1. 前処理…油脂成分を除去するアルカリ脱脂処理や錆を落とす酸洗処理、薬液などを洗い流す水洗処理を実施する処理工程。塗装の密着性向上を目的としており、素材によっては、塗膜のさらなる品質向上のために化成処理なども行う。2. 水切り乾燥…乾燥炉で塗装対象物に付着した水分を完全に除去する処理工程。ブリスター(塗装膜下に残存した水分によって生じる気泡)と呼ばれる外観不良の発生を防止する。3. 粉体塗装…粉体塗料を静電引力によって対象物に付着させる処理工程。4. 焼付乾燥…塗装対象物に付着した塗料を180~200℃の高温に加熱した焼付炉で焼き付け乾燥させる処理工程。5. 冷却…冷却して塗膜を形成する処理工程。静電粉体塗装法は、流動浸漬塗装法と比較すると、以下のような特徴を持ちます。・塗装対象物の形状やサイズに対してあまり制約がない。・均一な膜厚が得やすい。・膜厚の調節が可能(30〜150μm)。・電気を通さない素材には塗装できない。参考:塗装前処理とは?目的や工程の流れについて専門家が解説!●流動浸漬塗装法参照元:粉体塗装とは? > 粉体塗装の紹介「塗装工程と塗装法」日本パウダーコーティング協同組合流動浸漬塗装法は、事前に加熱した塗装対象物を、粉体塗料を圧縮空気によって流動させた流動浸漬槽と呼ばれる容器に入れることで、塗料を対象物の熱で溶かして付着させる方法です。この塗装法では、一般的に熱可塑性粉体塗料が使用されます。熱可塑性粉体塗料は、加熱によって軟化・溶融して形状を変えることができ、冷却によって固化して塗膜とすることができる塗料です。化学変化を伴わないため、再度加熱して冷却すると、再び軟化・溶融して固化します。この塗装の工程は、以下の通りです。1. 前処理…塗装の密着性向上を目的に、脱脂処理や酸洗処理、化成処理、水洗処理などを行う処理工程。2. 予備加熱…塗装対象物を塗料の融点以上の温度に予熱する処理工程。3. 流動浸漬…予熱した対象物を流動浸漬槽に入れることで、粉体塗料を対象物に接触させて溶かし付着させる処理工程。4. 後加熱…塗膜の平滑性向上を目的に、塗装対象物に付着した塗料を融点以上の温度に加熱する処理工程。5. 冷却…冷却して塗膜を形成する処理工程。流動浸漬塗装法は、静電粉体塗装法と比べて、以下のような特徴を持ちます。・塗装対象物のサイズが流動浸漬槽のサイズ以下に制限される・塗装対象物が複雑な形状である場合、膜厚が不均一になりやすい。・厚膜が一度の塗装で得られる(200〜1500μm)。・厚膜の塗装が容易。・粉体塗料の回収装置が不要。・予熱を必要とする。・膜厚の調節が難しい。・電気を通さない素材にも塗装できる。粉体塗装の用途粉体塗装は、金属素材の製品を中心に、様々な分野で採用されています。その使用分野は、下図に見られるように、金属家具や電気機器、建設・産業機械、機械・器具の割合が大きくなっています。粉体塗装の具体的な使用例は、下表の通りとなっており、特に工業塗装に多く採用されています。<粉体塗装の分野別使用例>使用分野使用例金属家具机, 椅子, 陳列棚, 書架, ロッカー, 業務用ワゴン, ベッド電気機器分電盤, 配電盤, ラジエーター, 柱上トランス, 電力計, 発電機, モーター, ガス給湯器建設・産業機械パワーショベル, フォークリフト, FA機器, 工作機械, 包装機, ボンベ, 農業機械機械・器具医療用品, 現像機, 精密機器, IT機器, 事務機家電製品レンジ, レンジフード, エアコン, 冷蔵庫, 洗濯機, 暖房機, ミシン, 照明器具, 電話機道路資材ガードレール, ガードパイプ, 橋梁手摺り, 欄干, 標識用ポール, 信号機, 照明柱水道資材鋼管, 鋳鉄管, 異形管, ニップル, 仕切弁, 継ぎ手, 水栓金具, メーター建築資材フェンス, 門扉, 手摺り, 面格子, 住宅鉄骨, シャッター, カーテン, ウォール, パーテーション, 雨樋金具, 鉄筋バー自動車部品ボディー, ワイパー, バンパー, スプリング, ホイール, ブレーキドラム, ブレーキパッド, オイルフィルター, エンジンブロック, ルーフレール, ドライブシャフト, トラック荷台部分, その他農業資材, 家庭用品, 消火器, ガーデニング用品粉体塗装の特徴粉体塗装には、様々な特徴があります。ここでは、溶剤塗装や水性塗装と比較したときの粉体塗装の特徴について説明します。参考:金属加工の板金塗装の見積りについて解説!塗装の種類ごとについてもご紹介!塗膜の強度と耐久性が高い粉体塗装は、塗膜の強度および耐久性が高いという特徴があります。粉体塗装では、一度の塗装で厚膜の塗膜を形成することができます。その膜厚は、静電粉体塗装法で最大150μm、流動浸漬塗装法では最大1500μmにも達します。それは、一度の溶剤塗装による塗膜の厚さ約20μmと比較すると、数倍から数十倍の厚みに相当します。また、焼付塗装の一種であることから、塗膜自体の強度が高く、柔軟性にも優れます。つまり、粉体塗装では、高強度で柔軟な分厚い塗膜が得られるのです。従って、粉体塗装の塗膜は、傷が付きにくい上、温度・湿度変化が激しい環境でも、伸縮しやすいことにより、ヒビ割れや剥離などが発生しにくくなっています。それは、耐久性に優れ、寿命も長くなることを意味します。塗膜の性能が高い粉体塗装の塗膜は、耐食性や耐候性、耐薬品性などの性能にも優れます。粉体塗装では、その塗装方法から、塗装ムラが起きにくく、ピンホール(塗装面に生じる小穴)も発生しにくい塗膜となります。さらに、塗膜が分厚く、高い強度と耐久性を持つことも相まって、塗膜下の金属が空気に触れにくく、降雨なども塗膜下に浸透しにくくなっています。そのため、粉体塗装の塗膜は、防錆性能をはじめとする塗装対象物の保護機能を高いレベルで発揮するのです。塗料に溶媒を含まない参照元:粉体塗装について「粉体塗装(パウダーコーティング)とは?」有限会社シリウス粉体塗料は、溶媒を含まないという特徴があります。溶剤塗装や水性塗装の塗料は、顔料・樹脂・添加剤といった塗膜を形成する成分以外に、これらの成分を溶解または分散させるシンナーなどの有機溶剤や水分を含んでいます。これらの溶媒は、塗料を塗装対象物に接着する役割を持っており、焼き付けや乾燥などの過程で揮発します(上右図参照)。一方、粉体塗料は、塗膜を形成する成分のみから構成されています。そして、塗装の際には、溶媒の代わりに電気や熱の効果を利用することで、塗装対象物に付着させているのです(上左図参照)。塗料の回収・再利用が可能粉体塗装では、塗装時に塗装対象物に付着しなかった塗料を回収して再利用することが可能です。粉体塗料は、溶剤塗料の有機溶剤や水性塗料の水のような揮発成分を含まないため、熱影響を受けなければ、変質することはほとんどありません。そのため、静電粉体塗装で噴射した塗料も、流動浸漬塗装法で流動させた塗料も回収すれば、再度使用することができます。その点、溶剤塗料や水性塗料は、溶媒が揮発すると塗料が変質してしまうことがあり、多くの場合、変質してしまった塗料は再度使用することはできません。しかし、塗料を調整して揮発性を低下させても、乾燥して硬化するまでの時間が長くなり、作業性が下がってしまいます。塗料に揮発性有機化合物(VOC)を含まない引用元:低VOC塗料の現状と今後「塗料からの溶剤(VOC)の蒸発」経済産業省 近畿経済産業局粉体塗料は、大気汚染や健康被害の原因となる揮発性有機化合物(VOC)を全く含みません。VOCは、揮発性を有し、大気中で気体状となる有機化合物のことで、溶剤塗料には20~60%、水性塗料には0~10%含まれている物質です。溶剤塗料には、塗料に対して5~50%がさらに投入され、希釈溶剤(シンナー)として使用されます(上図参照)。その種類は、下表のように多様で、溶解する樹脂や用途に応じて塗料に混合されています。<溶剤塗料や水性塗料に含まれる代表的なVOCの種類と性質・用途>VOCの分類VOCの種類性質・用途アルコール系メタノール, エタノール, イソプロピルアルコール(IPA), イソブタノールラッカー塗料や添加剤などの溶解ケトン系アセトン, メチルエチルケトン(MEK), メチルイソブチルケトン(MIBK), シクロヘキサノン樹脂を強力に溶解エステル系酢酸エチル, 酢酸ブチル樹脂を比較的強く溶解エーテル系ブチルセロソルブ, ブチルカルビトール焼付塗料の仕上り向上・水性塗料にも使用炭化水素系脂肪族系ミネラルスピリット樹脂を比較的弱く溶解芳香族系トルエン, エチルベンゼン, キシレン多種類の樹脂を溶解、溶解性と乾燥性のバランスが良い混合系ソルベントナフサ焼付塗料用しかし、VOCは、以下のように大気汚染の原因となり、人体にも有害です。●大気環境への影響VOCは、大気中に拡散されると、光化学反応などを起こして変質します。変質したVOCは、光化学スモッグの原因となるほか、浮遊粒子状物質(SPM)を生成して、目や呼吸器などに悪影響を及ぼし、喘息やアレルギー疾患のリスクを増大させることが知られています。●室内環境における人体への影響VOCは、住宅の建材などから発生して、室内の空気を汚染し、シックハウス症候群や化学物質過敏症を引き起こすことがあります。●作業環境における人体への影響VOCは、塗装に従事する作業者に下表のような様々な症状を引き起こすことが報告されています。ただし、近年においては、毒性の高いVOCの使用が制限されており、以前よりも塗料の安全性は確保されています。<毒性の高いVOCによって引き起こされる症状>VOCの種類急性毒性慢性毒性メタノール粘膜刺激, 麻酔作用咳, めまい, 頭痛, 嘔吐, 脱力感, 眠気, 不眠, 視力障害, 神経系障害IPA皮膚刺激, 粘膜刺激眠気, 頭痛, 協調運動不能, 皮膚炎, 神経系障害, 腎臓障害, 血管障害, 肝臓障害, 脾臓障害MEK皮膚刺激, 粘膜刺激, 麻酔作用呼吸器刺激, 咳, 息切れ, 頭痛, めまい, 視野狭窄, 嘔吐, 下痢, 意識喪失, 神経系障害, 腎臓障害酢酸エチル粘膜刺激呼吸器刺激, 眠気, めまい, 咽頭痛, 咳, 頭痛, 意識混濁トルエン皮膚刺激, 粘膜刺激, 麻酔作用咳, 咽頭痛, めまい, 意識混濁, 頭痛, 嘔吐, 意識喪失, 神経系障害, 腎臓障害, 肝臓障害エチルベンゼン皮膚刺激, 粘膜刺激咳, めまい, 意識混濁, 頭痛呼吸器障害, 神経系障害キシレン皮膚刺激, 粘膜刺激, 麻酔作用めまい, 意識混濁, 頭痛, 嘔吐, 呼吸器障害, 神経系障害塗装に器具・設備が必要粉体塗装は、静電粉体塗装法と流動浸漬塗装法の双方について、いくつかの器具・設備が必要です。<静電粉体塗装法の器具・設備>・浸漬方式の洗浄設備(洗浄槽など)・粉体塗装ブース・静電粉体塗装機(静電ガン、静電コントローラー、ホース類など)・粉体塗料回収装置・焼付乾燥炉・防塵マスクや防塵ゴーグル、静電服、静電靴などの保護具・換気装置(塗装ブース用と建屋全体用の装置設置を推奨)<流動浸漬塗装法の器具・設備>・浸漬方式の洗浄設備(洗浄槽など)・流動浸漬槽・加熱炉・防塵マスクや防塵ゴーグル、静電服、静電靴などの保護具・換気装置(建屋全体用の装置設置を推奨)なお、静電服と静電靴は、静電気による粉体塗料の着火によって発生する粉塵爆発の防止に必要な保護具です。粉塵爆発を防止するため、機器類の接地が必須であり、静電気対策床の設置なども推奨されます。現場施工が困難粉体塗装は、以下の理由から、工場などで施工しなくてはならず、現場での施工は現状の方法ではできません。・据え置き型の設備が必要・前処理に確実な洗浄や乾燥が必要・塗装処理時に粉塵対策が必須・焼き付け温度が高く、炉での加熱や乾燥が必要塗装作業の機械化・自動化に適している粉体塗装は、工場での施工が標準的であることもあり、機械化や自動化に向いた塗装法です。粉体塗装は、浸漬洗浄、炉での乾燥・加熱、静電引力や空気流動を利用した静電粉体塗装や流動浸漬塗装など、主要な処理工程の人手を排することが可能です。そのため、塗装対象物をフックに吊り下げるなどして、順番に洗浄槽、乾燥炉、塗装ブース、焼付乾燥炉と流していくことで、主要工程を完了させることができます。粉体塗料の種類粉体塗装では、様々な塗料が用いられますが、その塗料は、含有樹脂の熱に対する反応性から、熱硬化性粉体塗料と熱可塑性粉体塗料の2種類に分類されます。熱硬化性粉体塗料熱硬化性粉体塗料は、加熱によって架橋反応を誘起することで、硬化する塗料です。一度硬化した塗料は、再度加熱しても硬いままで、軟化・流動しないという特徴があります。主に静電粉体塗装法で用いられる粉体塗料です。熱硬化性粉体塗料は、含有する樹脂の系統によって特徴や塗装条件が異なるため、用途に応じた塗料を選ぶことができます。下表は、代表的な樹脂系ごとの塗装条件や特徴、用途をまとめたものです。<代表的な熱硬化性粉体塗料の樹脂系ごとの塗装条件・特徴・用途>樹脂系焼付温度焼付時間特徴用途エポキシ系130~200℃5~50分高耐食性, 高耐薬品性, 高密着性, 高耐水性, 高硬度, 絶縁性低耐候性家電, 自動車部品, 上下水道管, 電気部品, 重電機器, 船舶, エポキシポリエステル系150~200℃10~50分高耐食性, 高作業性, 高加工性, 高経済性低耐候性鋼製家具, 家電, 自動車部品, 建築資材, 事務機器, 家庭用品, 電気部品ポリエステル系140~230℃5~60分高耐候性, 高耐水性, 高作業性, 高加工性, 高経済性家電, 自動車部品, 道路資材, 建築資材, 鋼製家具, 重電機器, 建設機械, 農機具, 家庭用品アクリル系150~200℃8~50分高耐候性, 高耐汚染性, 高鮮映性, 低温硬化性家電, 自動車部品, 道路資材, 建築資材フッ素系160~360℃15~30分高耐候性、高耐光性、高耐薬品性, 高耐摩耗性、高耐熱性高層建築外装, 工業用部品, 家電, 厨房器具熱可塑性粉体塗料熱可塑性粉体塗料は、加熱によって軟化・溶融して変形し、冷却によって固化する塗料です。化学変化を伴わないため、再度加熱して冷却すれば、再び軟化・溶融して固化するという特徴があります。主に流動浸漬塗装法で用いられる粉体塗料です。熱可塑性粉体塗料もまた、下表のように、いくつかの樹脂系があります。<代表的な熱可塑性樹脂の樹脂系ごとの塗装条件・特徴・用途>樹脂系予熱温度後加熱温度特徴用途塩化ビニル系230~290℃200~320℃高耐候性, 高耐薬品性, 高耐食性, 高耐水性, 被覆性, 厚膜美装性道路資材, 建築資材ポリエチレン系260〜320℃200〜320℃高耐食性, 高耐候性, 高耐水性, 高耐久性, 高耐摩耗性, 被覆性家電, 上水道管, 建築資材, 道路資材, 重電機器, 家庭用品ナイロン系340〜430℃340〜370℃高耐油性, 高密着性, 耐摩耗性, 高耐衝撃性, 耐熱性, 絶縁性, 被覆性家電部品, 自動車部品, 配管, 機械部品, 鉄道部材, 家庭用品, 医療機器, 飲料水容器粉体塗装のメリット上述したように、粉体塗装には他の塗装法とは異なる多様な特徴がありますが、ここではその中でもメリットとなる特徴について紹介します。<塗膜について>・塗膜の強度が高い・塗膜の耐久性が高い・塗膜の性能が優れる・厚い塗膜の形成が可能・錆が発生しにくい<方法について>・一度の塗装で厚い塗膜を形成可能・塗料の回収・再利用が可能・塗装環境(温度・湿度など)の影響を受けにくい・塗料の焼付処理が短時間で済む・塗装の機械化・自動化が容易<塗料について>・塗料に有機溶剤(VOC)を含有しない・臭気がない(有機溶剤は臭気を放つ)<経済性について>・塗料を無駄なく使用できる・耐用年数が長い(15~20年)<安全性について>・VOCによる大気汚染や健康被害については考慮不要・VOCによる火災の発生リスクがない粉体塗装のデメリット一方、粉体塗装には、以下のようなデメリットがあります。<方法について>・薄い塗膜の形成が困難(一般に30μm以上)・焼付温度や予熱・加熱温度が高い・塗装後に色の調整ができない・色の微調整が難しい・現場施工が困難・塗り替えが困難<経済性について>・塗装設備が必要であるため、初期投資が掛かる<安全性について>・粉塵による健康被害のリスクがある・粉塵爆発の発生リスクがある

  • バフ研磨とは?用途、種類、メリット・デメリット

    バフ研磨とは、金属や樹脂などの表面を磨き上げて、滑らかに仕上げる研磨加工の一種です。例えばグレードの高いステンレス製品は、ピカピカに磨かれているものがありますが、このような製品の研磨はバフ研磨が採用されています。バフ研磨は、使用しているバフや研磨剤によって対応できる材質や用途が異なります。ここでは、バフ研磨の用途や種類、メリット・デメリットなどについて詳しく見てみましょう。参考:研磨加工とは?種類と加工手順、除去加工まで専門家が解説!バフ研磨とは引用元:日東金属工業株式会社 バフ研磨とはバフ研磨とは、金属の表面を研磨する手法の一種です。バフ研磨に使われる「バフ」とは、綿やウールなどの素材でできたホイール状の研磨道具を指します。バフは研磨剤を付けて高速で回転させ、ワークに接触させると研磨できます。バフは、磨いて輝かせるという意味を持つ英語の「buff」が由来です。バフ研磨の用途バフ研磨は、ワークの表面を磨いて凹凸を少なくし、滑らかにするために使われます。製品の表面が滑らかになるほどキレイになり、良好な精度や外観が得られます。研磨後は表面がツルツルになっているわけではなく、表面に微細な傷がついた状態になっています。細かい目で研磨すれば、ワークの表面に光沢が生まれるのも特徴です。また、ワークの表面に付いたホコリや汚れを除去したい場合にもバフ研磨が使われます。そのため、めっきや塗装加工前に、製品表面をバフ研磨して平滑にすることが多いです。バフ研磨を必要とする製品は、タンク・配管・装飾品・半導体部品・真空チャンバー・精密機械などが代表的です。バフ研磨の種類バフは数字で「○○番」または「#○○」と種類分けされていて、数字が大きいほど目の粗さが細かく、キレイに仕上がります。細かい目で研磨する場合は、基本的に粗磨きとして目の小さいもので研磨し、徐々に大きな番手を使って仕上げます。最終的に800番や1000番の目で研磨すると材料の表面に光沢が得られます。また、バフは番手以外にも材質により特徴が異なります。バフの材質は、麻バフ・綿バフ・ウールバフ・スポンジバフなどがあります。●麻バフ:主に粗研磨に使用するバフ。●綿バフ:麻バフに比べて当たりが柔らかく、中研磨や仕上げ研磨に使用するバフ。●ウールバフ:素材のキメが細かく、厚みがあるバフ。研磨力が高く、表面を均一に磨くことが可能で、表面の傷などを目立たなくするコンパウンドやツヤ出し、仕上げ研磨に使用。●スポンジバフ:ウールバフよりも研磨力が小さく、磨き傷がつきにくいバフ。車やバイクなど、塗装した箇所の仕上げやワックス用として使用。バフ研磨剤は、油脂類とアルミナや酸化クロムなどの研磨材を配合したものです。研磨剤の種類によって、金属用・非金属用・樹脂用などがあります。研磨剤の種類については、固形研磨剤と液状研磨剤のものがあります。引用元:サンライズ研磨材 青棒 BM840固形研磨剤は、白棒・赤棒・青棒などと呼ばれるものが代表的です。白棒は中研磨から仕上げ研磨まで幅広く使われています。赤棒は粒度が粗いので粗研磨にぴったりです。青棒は主に鏡面仕上げに適しています。液状研磨剤は、主に粘度の高いエマルジョン性が採用されています。液状研磨剤は、水分を含んでいるため、固形研磨剤に比べて研磨力は劣る傾向にあります。バフ研磨のメリット・デメリットメリット・製品表面の凹凸を少なくしてバリや傷の除去できる・製品表面を高精度かつ美しくするバフ研磨は、加工した製品にある表面の凹凸を少なくして平滑化できるほか、バリや傷、溶接ビードなどを除去できます。微細な加工を行うと、製品表面の精度が高くなり、美しい外観が得られます。デメリット・手作業で行うため、他の表面仕上げ処理に比べてコストがかかる・微細な傷の隙間に研磨剤が付着する・加工技術の差によりバラツキが出るバフ研磨は手作業で行うため、他の表面仕上げ加工と比べるとコストが高くなる傾向にあります。高度な処理を行う場合、作業者の加工技術の違いにより、仕上がりにバラツキが出る点もデメリットです。また、製品のバリや傷は除去できても、微細な傷の隙間に研磨剤が付着してしまいます。付着した研磨剤は、研磨後に洗浄を行っても完全に除去できるわけではないので注意が必要です。バフ研磨可能な材質バフ研磨は、各種金属や樹脂に対して研磨できます。ただし使用する研磨剤などにより、適した材質が異なるので注意が必要です。代表的な材質は、鉄・ステンレス・アルミ・チタン・プラスチックなどが挙げられます。生活のなかでよく見るステンレスは光沢がありますが、ステンレスの光沢は材質そのものの特性ではなく、バフ研磨により得られたものになります。

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    話題の防錆剤とは?種類や成分、おすすめ商品を紹介

    この記事を監修する専門家オフィス村元合同会社代表 村元弘和 氏(元 ㈱村元工作所 タイ地域責任者)錆とは、金属が酸素や水と反応し、生成される腐食物。金属製品を在庫保管する際、海外へ輸出する際など、製品劣化を防ぐために防錆は必須条件です。これまでの一般的な防錆対策は、グリースや防錆油を金属製品の表面に塗布する方法でしたが、作業コストの低減、環境負荷の低減といった観点で見直しが図られているテーマでもあります。さらに、金属製品の精密化、高度化によって、フィルムやシート状の防錆剤のみならず、気化性の防錆剤やノンウェットのスプレー防錆剤など、新たな防錆剤も開発されています。そこで今回は、さまざまな種類がある防錆剤を詳しくご紹介します。防錆剤とは?金属製品の錆を防ぐ防錆剤は、主に鉄に用いられる薬剤のことを指します。鉄以外の金属に対する薬剤は、錆ではなく腐食を防ぐという意味から腐食防止剤、防食剤と呼ばれます。防錆剤には、用途や製品などに応じて使用法が異なるため、さまざまな種類があります。最も多い種類としては、金属の表面に皮膜を形成するもの。一般的に市販されている防錆スプレーなどもこの系統になります。それ以外にも還元剤や酸素を除去する補足剤など、さまざまな種類があります。防錆剤の種類錆の発生を防ぐのは、水や酸素による影響をいかに遮断するかにかかっています。一般的に金属製品の錆を防止するために施されるコーティングの方法としてメッキを用いた金属皮膜、合成処理などを使った無機皮膜、油やゴム、プラスチックなどでコーティングする有機皮膜の3種類に大別されます。いずれの処理を用いても、永久的に錆を防ぐことは困難で、あくまでも一定期間、錆びにくい環境を作り出しているにすぎません。そのため、防錆の良し悪しによって金属部品の防錆期間が決められ、一定期間を経過すると再度防錆処理を行わなければ錆が発生してしまいます。錆止め油錆止め油は、金属の表面に油や添加剤で防護膜を形成することで、酸素や水を遮断する防錆剤のこと。めっき加工以外の手段では最も広く浸透している防錆方法です。JISK2246には、指紋除去形防錆油、潤滑油形防錆油、溶剤希釈形防錆油、防錆ペトロラタム及び気化性防錆油の5種類に分かれています。錆止め剤油以外に用いられる防錆剤として、気化性、水溶性を持つものを錆止め剤と呼んでいます。気化性防錆剤には、鉄鋼や鉄合金以外に、銅や銅合金、他の非鉄金属にも用いられます。鉄鋼用として代表的なものはジシクロヘキシルアンモニュームナイトライトやジイソプロピルアンモニュームナイトライトなどがある。それ以外に、さまざまなアミンのカプレート、ラウレート、カーボネートなどがあります。銅用はベンゾトリアゾールやアルキルベンゾトリアゾールなど、鉄とは異なるものが用いられます。錆止め紙・錆止めフィルム錆止めの中には、錆止め紙や錆止めフィルムが用いられることがあります。金属を防虫剤のように紙やフィルムでコーティングすることで錆から防ぐことができます。防錆油などを使用しなくても、紙やフィルムで包むだけで高温多湿・結露の心配のある金属製品を錆から守ってくれるので、製品の輸送などに主に用いられます。一般的に、時間経過によって防錆性能が落ちることはありませんが、使用方法や保存方法を誤ると防錆効果を発揮できない場合があるので、取り扱いには注意が必要です。その他の錆止め剤上記3種類以外にも、可剥性プラスチックスや、シリカゲルをはじめとする乾燥剤や脱酸素剤、インヒビターやキレート化合物なども防錆剤として活用されます。中でも可剥性プラスチックスには浸漬またはスプレーでコーティングする塗装形や、加熱溶融してコーティングする熱間浸漬形の2種類があります。防錆剤の成分防錆剤にはさまざまな成分が使用されます。揮発性の防錆剤として用いられる吸着型の防錆剤は、アミン系の有機化合物、アミン類の亜硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩などが用いられます。循環冷却水などの密閉水中環境において用いられる防錆剤として、リン酸塩やケイ酸塩、メタケイ酸塩などが使用されます。また、銅にはベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカトベンゾチアゾール等があります。配管系の炭素鋼に使われる不動態型の防錆剤は、亜硝酸塩やモリブデン塩酸、タングステン塩酸などが用いられます。酸素を除去することで防錆効果を発揮する脱酸素型の防錆剤はヒドラジン、亜硫酸塩などが使われます。その他、湿気を取り除くことで腐食の発生を抑える手段として、生石灰やシリカゲル、塩化カルシウムやシリカアルミナゲル、デシクレイ、合成ゼオライト、水酸化ナトリウムなどがあります。おすすめの防錆剤を紹介防錆剤はニッチな業界、且つ製造の技術障壁が高く、世界的にも防錆剤メーカーは限られます。その中でも網羅的な製品ラインナップのある大和化成株式会社の製品を3種類、ご紹介します。一般的な防錆油による処理と比較してトータルコストが廉価で、自社工場内が清潔に保たれるだけでなく、納入先での洗浄や組み直し作業が発生しないため、取引先に喜ばれる防錆剤です。VERZONEメタシードKメタシードは、気化性防錆剤を溶剤に溶かしたスプレータイプの防錆剤。べたつきのない防錆剤で主に油分を嫌う金型や計測器、ジグ等、工具に用いられる防錆剤で、金型においては使用時に樹脂による熱で成分が気化するため、金型に使用しても樹脂製品に悪影響を与えません。金型以外にも自動車部品や精密部品等の出荷輸送間防錆、保管用防錆としてノンウェット防錆剤として用いられます。金属製品を防錆しないといけないが、次工程でのパーツフィーダーを通すので防錆油の使用が禁じられている場合や、溶接作業があり防錆油の使用が禁じられているときなど様々なシチュエーションで使用が可能です。VERZONEエコスーパーK気化性防錆剤(気化した防錆成分で金属を防錆する薬剤)鉄鋼や鋳鉄の他に、亜鉛やアルミニウムに対しても優れた防錆効果を発揮する防錆剤です。金属製品と同梱するだけで防錆が可能となります。さらに近年の環境規制にも対策済みで亜硝酸塩や、PRTR精度指定の化学物質を一切含んでいない、安全性の高い防錆剤です。毒劇法、消防法、労働安全衛生法をはじめとする法律の面から見ても極めて安全性が高い上、即効性が高く、長期間の防錆が可能。防錆油を使用しないため、クリーンな作業環境を保つことができます。金属製品と一緒に包装するだけで防錆が可能となる事から、出荷防錆だけではなく仕掛品や滞留部品、長期連休期間の防錆処置としても注目されています。VERZONE IFC-30特殊な防錆剤を配合した水溶性の防錆剤でプレス機、ダイカストマシン、樹脂成型機の循環冷却水に少量添加することで、高い防錆効果を発揮します。ごく少量の添加で防錆が可能であるため、ボイラーや熱交換器の製造後の水張試験(リーク試験)にもご使用いただく事が出来、試験水は下水道にそのまま排水が可能です。※上記商品に関するお問い合わせは、金属加工プラットフォーム「Mitsuri」を運営する株式会社Catallaxyより可能です。メール: info@catallaxy.me電話: 03-4405-6976担当: 経営企画責任者 木村

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    焼け取りとは?方法や必要性を解説

    焼け取りとは、金属を溶接などの加工を施したときに発生する焼け(スケール)を除去することを指します。焼けは、もとの金属素材の色から変色するため、美観性を損ないます。また、除去せずに使用すると、焼けの箇所から腐食が発生しやすくなるので、なるべく除去したいところです。この記事では、複数ある焼け取りの方法と、焼け取りを行う必要性についてご紹介します。焼け取りとは引用元:マコー株式会社 溶接後の焼け取り焼け取りとは、溶接・レーザー加工・ワイヤーカットなどで発生する焼けを除去することを指します。金属表面の焼けは、別名「スケール」とも呼ばれます。焼けは、上画像のように金属の表面に焦げたような跡が残るため、美観性が乏しくなります。また、ステンレスの場合は、腐食を防ぐのに有効な不働態皮膜を破壊してしまうので、腐食によるトラブルを招く要因にもなります。参考:【ワイヤーカット】加工のメリット・デメリットや価格について徹底解説!!参考:【レーザー加工】原理や種類、メリット・デメリットを専門家が紹介!!焼け取りの方法焼け取りの一般的な方法として、研削法(機械的方法)、酸洗法(化学的方法)、電解法(電気化学的方法)があります。●研削法(機械的方法)機械的な焼け取りの方法として、サンダー掛けやブラスト処理などがあります。物理的に研削を行い、焼け取りを除去すると、外観はキレイになります。しかし不働態皮膜のある金属だと、皮膜が破壊された状態になり、腐食の原因となります。機械的方法で焼け取りを行った際は、不働態化処理を施す必要があります。●酸洗法(化学的方法)酸洗いは、硫酸や塩酸などの強酸を用いて、鋼材を漬け込む手法です。焼けや錆び、汚れなどの不純物を除去できるほか、ステンレスの不働態皮膜を再形成させられる効果があります。ただし、酸洗いは仕上がり面が梨地になり、つや消しの状態になるので、光沢を求められる製品には適していません。●電解法(電気化学的方法)電解法は、使用する電流により交流法と直流法があります。また、使用する電解液の種類により、中性電解法と酸性電解法があります。・交流法交流法は、ステンレスに対する溶解力が低いほか、不働態皮膜を破壊してしまうため、不動態化処理が必要です。また、中性の電解液を使用した場合は、溶解力が低くなりやすい傾向にあります。・直流法直流法は、ステンレスが鏡面状に仕上がるだけでなく、不動態化処理の効果も得られます。交流法と直流法のほかにも、株式会社ケミカル山本の特許技術である、交直重乗方式があります。交直重乗方式は、直流に交流を適当量重ねた方式で、仕上がり状態の改善と不動態化処理も行えるほか、六価クロムの発生を抑制できるという特徴があります。・中性電解法中性電解法は、中性塩電解液を使用した手法で、安全性が高いメリットがあります。ただし焼け取り速度が遅く、ステンレスから人体に有害な六価クロムを溶出してしまいます。・酸性電解法酸性電解法は、酸性の電解液を使用した手法で、中性電解法に比べて焼け取り速度が早く、研磨力に優れています。また、六価クロムの発生が少ないのもメリットです。しかし電解液が酸性のため、安全性に乏しく、酸性液を十分に水洗しなければならないデメリットがあります。焼け取りの必要性焼けは、外観が焦げたような見た目になるほか、腐食しやすくなるため、焼けのある製品を使用していると事故を起こしてしまう恐れがあります。そのため、焼け取りにより、完全に焼けを除去しておくことが大切です。ステンレスの溶接時は、表面にあるスケール層だけでなく、その下にアンダースケール層と呼ばれるものが形成されます。スケール層とアンダースケール層は、肉眼では判断ができません。アンダースケール層では、溶接による加熱でクロムの含量が大きく低下しています。クロムの含量は、ステンレス特有の錆びにくい性質が発揮するとされる12%を下回り、耐食性を損なってしまいます。そのため、焼けを除去する際は、スケール層だけでなく、アンダースケール層まで除去する必要があります。

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    シルク印刷とは?方法、特徴、メリット・デメリット

    今回はシルク印刷の基礎知識や活用例などについて解説します。シルク印刷とは、布でできたスクリーンにインクを押し付けて、さまざまな製品に好みのデザインを印刷する手法のことです。印刷という言葉を聞くと、紙や布などに対応したものというイメージがあるかもしれません。しかしシルク印刷は、耐久性に優れていることから、電子機器や看板などにも採用されています。シルク印刷とは引用元:タカチ電機工業 インクジェット印刷・デジタル印刷・レーザーマーキング・シルク印刷・文字彫刻シルク印刷とは、スクリーンと呼ばれる板版の上からインクを押し付けて、下に配置している製品に文字やロゴマークなどを印刷する手法のことで、別名「シルクスクリーン印刷」とも呼ばれています。スクリーンには化学繊維の糸で織られた布が用いられており、印刷したいデザインの部分だけをインクが通るように設計されています。スクリーンの素材にはもともと絹(シルク)を用いていたことから、シルク印刷と呼ばれています。シルク印刷と似た手法として「オフセット印刷」がありますが、シルク印刷とオフセット印刷では方法や特徴が異なります。シルク印刷は、スクリーンを通して直接製品に印刷するのに対して、オフセット印刷は製品に直接印刷せずに、ブランケット胴と呼ばれるゴム版に転写させてから製品に印刷する仕組みです。オフセット印刷は、シルク印刷と比べて多彩な色の印刷に適している一方で、耐候性に劣ります。シルク印刷の方法シルク印刷の印刷工程は以下の通りです。1.原稿:印刷したい文字やロゴマークを作成。2.版下作成:原稿からスクリーン製作用のデータを作成。3.製版:版下からスクリーンを作成。4.インク調合:印刷に使うインクの色を調合。5.印刷:色が複数ある場合は、色ごとに印刷を行う。6.乾燥:インクを乾燥させて製品に定着させる。製品に印刷するインクは、依頼者が希望する色に調合する必要があります。正確な色を出すには、PCで作成したデータだと、モニターの違いにより色の見え方が異なる場合があるので、色のサンプル品やPANTONEカラーの指定などが必要になる場合があります。また、印刷に使うスクリーンは、色ごとに違うものを用いるため、使用する色が多いほど枚数が必要です。引用元:日本電気化学株式会社 シール印刷・シルク印刷シルク印刷の方法については、以下の手順で行われています。1.始めに印刷したい箇所にスクリーンをセット2.スクリーンにインクをのせる3.スキージを使ってインクを押し込む4.焼付窯で乾燥させて完成シルク印刷では、スムーズかつ正確な位置に印刷できるように、手順1にて製品やスクリーンをセットする際に、治具を用いて位置を固定する場合があります。また、印刷に不良が発生しないように、セット時は製品の汚れやホコリを落とします。このとき汚れなどが残ると、印刷が途切れたり、ピンホールができてしまいます。インクを押し込む際は、スキージと呼ばれるヘラを用います。スキージに与える力加減や、角度によって、製品へ落とし込むインクの量が変化するため、デザインなどによって細かな調整が必要になります。製品に印刷したあとは、焼付窯で乾燥させることで、製品にインクが定着しやすくなります。シルク印刷の特徴シルク印刷は、スクリーン上にある隙間から、直接インクを落とし込んで印刷する手法のため、製品にしっかりとデザインを表現できます。インクは厚く塗れるだけでなく、乾燥させて定着させているので、耐久性や耐候性に優れています。また、印刷は曲面や立体形状の製品にも対応できる場合があります。複雑な形状の製品にシルク印刷をしたい場合は、業者に問い合わせて対応してもらえるか確認してみましょう。一方で、線の細かなデザインや、グラデーションのかかった多彩な印刷は、印刷の仕組み上適していません。シルク印刷のメリット・デメリットメリット●単色またはロット数が多いほどコストが安くなるシルク印刷は、単色またはロット数が多いほど、コストが安くなります。シルク印刷は、始めに製品ごとや色別にスクリーンを作る必要がありますが、カラーが少ないと製作するスクリーンの数を抑えられます。また、ロット数が多いと、同じスクリーンを使って複数の製品に印刷ができるため、その分の初期コストが抑えられます。●耐久性に優れるシルク印刷で使われているインクは耐久性に優れています。これは、製品にインクを染み込ませるのではなく、インクを乗せたあとに乾燥させ、製品に定着させているためです。定着したインクは色あせにくく、剥がれにくい特徴があります。シルク印刷は、衣類に採用される場合もありますが、数回の洗濯では劣化することも少ないです。●幅広い素材に対応が可能シルク印刷は、紙・布・陶磁器・ガラス・看板・電子製品など、幅広い素材に対して印刷できます。スクリーンは柔軟性があるので、複雑な形状の製品にも印刷できる場合があります。●下地の色の影響を受けにくいシルク印刷は、インクを厚く塗れるため、下地の色の影響を受けにくいメリットがあります。インクの色調を損なわず、イメージ通りのデザインを表現できます。デメリット●少ロットの生産または色数が多いと割高になるシルク印刷は、一度スクリーンを製作すれば大量に印刷できるため、印刷するほどコストが割安になります。しかし逆を言えば、小ロットの場合に割高になってしまうので注意が必要です。また、色数が多いと、スクリーンも色数の分だけ用意しなければならないため、コストが多くかかります。●印刷に時間がかかるシルク印刷は、スクリーンの製作に時間がかかるほか、印刷後に乾燥する必要があるので、時間がかかってしまいます。コストメリットを得るために大量生産を依頼する場合、納期に余裕を持たせる必要があります。シルク印刷の活用例引用元:有限会社大石孔版 ステンレス板に印刷シルク印刷は、紙・布・陶磁器・ガラス・看板・電子製品などの、さまざまな製品に対して印刷が可能です。また、スクリーンは柔軟性があるので、平たい製品だけでなく、緩い曲面などの製品に対しても対応できます。インクは耐久性・耐候性が良好のため、屋外で使用する製品への印刷にも適しています。

  • 亜鉛めっきとは?特徴や種類を解説

    今回は、亜鉛めっきの特徴や種類について解説します。亜鉛めっきは、鋼材の表面に亜鉛の皮膜を形成し、耐食性を得ることを指します。しかし、一口に亜鉛めっきと言っても、大きく分けて「電気亜鉛めっき」と「溶融亜鉛めっき」の2種類があり、それぞれで特性に違いがあります。亜鉛めっきとは亜鉛めっきとは、電気の作用で亜鉛をめっきしたり、溶融させた亜鉛に浸漬させて、鋼材をめっきしたりする手法のことです。亜鉛めっきを施した鋼材は、表面が銀白色の外観になり、錆びや腐食を防止できるようになります。亜鉛めっきの特徴亜鉛めっきは、主に鉄製品に対して処理を行います。亜鉛めっきを施すと、めっきの表面に不働態皮膜が形成されます。不働態皮膜とは、めっき層と鉄の素地に空気や水が侵入を防止し、錆びを生じにくくする皮膜のことです。引用元:日本溶融亜鉛鍍金協会 溶融亜鉛めっきとは不働態皮膜があると、犠牲防食作用と呼ばれる反応が得られます。犠牲防食は、表面に傷が付いて素地の鉄が露出した場合でも、周囲の亜鉛が鉄より先に溶け出して電気科学的に保護し、鉄の腐食を保護します。亜鉛めっきの種類亜鉛めっきは大きく分けて「電気亜鉛めっき」と「溶融亜鉛めっき」の2種類があります。電気亜鉛めっき引用元:三和メッキ工業株式会社 亜鉛めっき電気亜鉛めっきは、鉄素地を亜鉛めっき液に浸してから、電気を通すことで亜鉛めっきを施す手法です。亜鉛めっき液中でプラス極にある亜鉛が電気の作用で溶解し、マイナス極である鉄に亜鉛皮膜を析出します。ただし、電気亜鉛めっきだけでは、亜鉛めっき皮膜が酸化し、腐食してしまう恐れがあります。そのため、一般的に亜鉛めっき皮膜の上にクロメート処理を施して、より亜鉛めっき皮膜の耐食性を向上させる場合が多いです。また、クロメート処理を施した場合は、導電性も高くなる傾向にあります。クロメート処理は、光沢クロメート(ユニクロ)・有色クロメート・黒色クロメート・三価クロメートなどがあり、種類によって異なる外観と特性が得られます。電気亜鉛めっきは、溶融亜鉛めっきに比べて膜厚が薄いため、自動車部品やコンピュータ部品のような精密機器に採用されることが多いです。参考:ユニクロめっきとは!?亜鉛めっき/クロメートとの違い参考:電気亜鉛めっきとは【3分でわかる】専門家がわかりやすく解説します!溶融亜鉛めっき引用元:マルコ工業株式会社 溶融亜鉛メッキ溶融亜鉛めっきは、高温で溶かした亜鉛の槽に鋼材を浸漬させた後、冷却することで亜鉛めっきを施す手法です。その手法の様子から、別名「ドブ漬けめっき」とも呼ばれています。溶融亜鉛めっきは、塗装や電気めっきと異なり、亜鉛と鉄素地から形成される合金層が、亜鉛と鉄素地を強く結合するため、めっきが剝がれにくく、長期間耐食性が持続します。このことから、建築物やガードレールなどの幅広い用途で活用されています。また、溶融亜鉛めっきは、電気亜鉛めっきのようにクロメート処理を必要としません。溶融亜鉛めっきは、大きな製品の処理に適していますが、高温のめっき液に浸漬させるので、材料が反りやすくなります。加えて、膜厚が電気めっきよりも厚くなるので、精密部品への処理には適していません。参考:溶融亜鉛メッキとは?特徴、規格、加工工程を解説

  • 無電解ニッケルめっきとは?原理、用途、特性、メリット・デメリット

    今回は、無電解ニッケルめっきの原理、用途、特性、メリット・デメリットについて解説します。無電解ニッケルめっきは、電気を使わずに化学的還元作用を利用してニッケル金属の皮膜を形成する手法を指します。似たものに電気ニッケルめっきがありますが、無電解ニッケルめっきと、処理の方法だけでなく、成分や特性についても違いがあります。参考:ニッケルめっきとは?種類や特徴、メリット・デメリット無電解ニッケルめっきとは?引用元:株式会社センショー 無電解ニッケル無電解ニッケルめっきとは、電気ではなく、化学的還元作用にて材料にニッケル金属の皮膜を形成する手法のことで、別名「カニゼンめっき」や「化学ニッケル(化学Ni)」とも呼ばれています。無電解ニッケルめっきは、一般的にリンを含有しています。膜厚を均一にしやすい特徴があり、複雑な形状や寸法精度を要する製品に適しています。無電解ニッケルめっきの原理引用元:アルファメック株式会社 無電解ニッケルめっきとは無電解ニッケルめっきにおける、ニッケルの析出には、めっき液中のニッケルイオンと電子が必要です。無電解ニッケルめっきは、主に還元剤である次亜リン酸塩が添加されており、分解された次亜リン酸から発する電子が、ニッケルの析出に利用されています。還元されて析出したニッケルは、還元剤の分解触媒として作用し、めっき表面で連続的に分解反応とニッケルの析出を行います。この仕組みを「自己触媒還元めっき」と呼びます。無電解ニッケルめっきの用途無電解ニッケルめっきは、以下のような用途で使用されています。<無電解ニッケルめっきの用途>使用目的製品耐食性、耐摩耗性反応槽、輸送管、パイプ、ポンプ、金型自動車部品、船舶部品、航空部品はんだ付け、耐食性、導電性付与接点、シャフト、抵抗体サーミスタ、ディスク耐食性、硬さ、精密性、耐摩耗性ピストン、軸、シリンダー測定装置、変速機耐食性、非磁性、硬さ時計、カメラ、電子顕微鏡等の部品耐食性、耐摩耗性、硬さ金型、事務機、船舶航空、原子力等の部品無電解ニッケルめっきの分類無電解ニッケルめっきは、還元剤の種類により、ニッケル-リン系とニッケル-ホウ素系があります。ニッケル-リン系は細かく分けると「低リンタイプ」「中リンタイプ」「高リンタイプ」の3種類があります。低リンタイプ低リンタイプは、1~4%程度のリンを含有する無電解ニッケルめっきです。他の種類に比べて700Hvと硬度が高く、耐摩耗性と耐アルカリ性に優れていますが、耐食性は劣ります。中リンタイプ中リンタイプは、5~10%程度のリンを含有する無電解ニッケルめっきです。一般的に採用されることの多い種類で、無電解ニッケルめっきと言えば中リンタイプを示す場合が多くあります。通常は非磁性ですが、熱により磁性を示します。また、耐食性・耐摩耗性や各物性のバランスも他の無電解ニッケルめっきと比べて良好で、汎用性に優れています。高リンタイプ高リンタイプは、11~13%程度のリンを含有する無電解ニッケルめっきです。耐食性に優れているものの、はんだ付け性に劣ります。また、結晶構造が非晶質で、通常時および比較的高温で熱処理した状態でも非磁性を示します。他のめっき種類に比べて光沢が少ないのも特徴です。無電解ニッケル-ホウ素めっき無電解ニッケル-ホウ素めっきは、ホウ素を0.2~1.0%程度含有する無電解ニッケルめっきです。はんだ付け性や硬度に優れています。また、400℃程度の熱処理では、変色しない特徴があります。ただし、めっき液が高価のため、他の種類に比べて処理コストがかかります。無電解ニッケルめっきのメリット●耐食性の向上無電解ニッケルめっきは、一般的に電気ニッケルめっきよりも耐食性に優れています。数%のリンを含有し、リンの含有率が多いほどピンホールが少なくなり、耐食性が向上します。●均一な膜厚が得られやすい電気ニッケルめっきは、めっきする製品に対して、電気が弱くかかる部分と強くかかる部分に分かれてしまうので、均一な膜厚になりにくい特徴があります。一方で、無電解ニッケルめっきは、電気を使わずに化学的還元作用にて材料をめっきする手法のため、膜厚が均一になりやすいメリットがあります。●非金属材料にも対応可能無電解ニッケルめっきは、電気を使わないめっきなので、樹脂やセラミックなどの不導体に対しても対応が可能です。●電気ニッケルめっきと比べて耐摩耗性に優れる電気ニッケルめっきの硬度は、ビッカース硬さで200Hv程度、熱処理で500Hv程度の値です。一方で無電解ニッケルめっきの硬度は500Hv程度あり、熱処理を行うと最高1000Hv程度までの硬さが得られます。無電解ニッケルめっきのデメリット●電気ニッケルめっきに比べてコストが高い無電解ニッケルめっきは、電気ニッケルめっきに比べて材料費が高いほか、めっきの析出速度も遅いので、コストが高くなる傾向にあります。●めっき液の管理が難しい無電解ニッケルめっきは、電気ニッケルめっきに比べて浴組成の変動が大きく、扱いが難しいので、技術や知識を要します。無電解ニッケルめっきの特性機械的特性無電解ニッケルめっきは、硬度が高く、耐摩耗性に優れています。また、ねじを締め付ける際に摩擦の熱で溶着してしまう「かじり」についても防止する効果が期待できます。無電解ニッケルめっきの種類ごとの硬度については以下の通りです。<無電解ニッケルめっきの種類別硬度>めっき種類低リン中リン高リンホウ素硬度Hv熱処理前700550500780400℃,2h10009509501000引用元:ヱビナ電化工業株式会社 無電解ニッケルめっきには、どの様な種類がありますか?化学的特性無電解ニッケルめっきは、種類によって良好な耐食性、耐酸性、耐アルカリ性の特性を有しています。以下の表は、リン含有量による化学的特性の違いを示したものです。<めっきのリン含有別化学的特性>めっき種類低リン中リン高リン耐食性(塩水噴霧)やや劣る良好普通~良好耐酸性劣る普通良好耐アルカリ性良好普通劣る引用元:アルファメック株式会社 無電解ニッケルめっきとは電磁気的特性無電解ニッケルめっきは、導電率(比抵抗)、接触抵抗、磁性(非磁性)、電磁波防止の特性を有しています。めっきの種類による磁性の有無と、比抵抗の値については以下の通りです。<めっきの種類別比抵抗(導電率)と磁気特性>めっき種類低リン中リン高リンホウ素比抵抗 μΩ・cm30~6060~75150~2005~6磁気特性熱処理前磁性非磁性非磁性磁性280℃,2h磁性磁性非磁性磁性引用元:ヱビナ電化工業株式会社 無電解ニッケルめっきには、どの様な種類がありますか?光学的特性無電解ニッケルめっきは、めっきの処理液の違いにより、光沢が出るタイプと出ないタイプがあります。光を反射させたくない医療機器や光学機器などでは、光の反射率が低い黒色無電解ニッケルめっきが採用されることもあります。熱的特性無電解ニッケルめっきは、良好な耐熱性、熱伝導性、はんだ付け性の特性を有しています。以下の表は、無電解ニッケルめっきの中リンタイプの融点、熱伝導度、膨張係数を示したものです。融点熱伝導度膨張係数890℃0.0105cal/cm/s/℃13×10-6cm/cm/℃引用元:アルファメック株式会社 無電解ニッケルめっきとは電気ニッケルめっきとの違い無電解ニッケルめっきと電気ニッケルめっきは、めっき方法、皮膜成分、物性に違いがあります。●めっき方法の違い電気ニッケルめっきは、名前の通り電気を使ってめっき皮膜を形成する手法です。浴管理は無電解ニッケルめっきに比べて比較的容易のため、金額も安価な傾向にあります。しかし、電流分布によりめっきの厚みが変わるので、無電解ニッケルめっきと違って均一にめっきを付けるのが困難です。無電解ニッケルめっきは、化学反応にてめっきを施すため、均一にめっきを付けることが可能です。複雑な形状の製品に対してもめっきしやすい特徴があります。ただし、めっきの析出速度が遅い、浴管理が難しいなどの難点もあり、コスト面で電気ニッケルめっきに劣ります。●皮膜成分の違い電気ニッケルめっきは、およそ99.5%以上がニッケルでできているので、純ニッケルめっきとも呼べます。一方で無電解ニッケルめっきは、ニッケル90~95%、リン5~10%程度の割合でできた合金めっきになります。そのため「ニッケル-リン合金めっき」と呼ばれることもあります。●物性の違い無電解ニッケルめっきと電気ニッケルめっきの物性の違いは以下の通りです。<無電解ニッケルと電気ニッケルの物性の違い>性質無電解ニッケル(Ni-P 中リンタイプ)電気ニッケル組織非結晶性(熱で結晶)微結晶性融点890℃(P;9%)1450℃電気抵抗60μΩ/cm(熱処理400℃で1/3に低下)約8.5μΩ/cm比重7.9(P;9%)7.7-8.7硬さHv500±50(析出状態)Hv900±100(400℃ 1Hr)Hv150-250(普通浴)Hv400-500(光沢浴)磁気特性非磁性強磁性耐食性電気ニッケルより優れるNi-Pより劣る引用元:アルファメック株式会社 無電解ニッケルメッキと電気ニッケルメッキの違い

  • バイブレーション研磨とは?用途、特徴、種類

    今回はバイブレーション研磨の用途や特徴について解説します。バイブレーション研磨とは、金属の表面にランダムに模様を付ける研磨です。主にステンレス材の表面仕上げとして使われており、ヘアライン研磨製品と同じく建築建材で幅広く活用されています。参考:ステンレスのヘアライン加工の種類や特徴について専門家が解説!バイブレーション研磨とは引用元:株式会社新光ステンレス研磨 研磨種類バイブレーション研磨とは、ヘアラインのような統一された方向に金属を研磨するのではなく、無差別の方向に小さな弧を描いたような研磨を施すことで、別名「ランダムヘアライン」や「パーマネントヘアライン」とも呼ばれています。さまざまな材質に対応していますが、ステンレス材(SUS304)の表面仕上げに利用されることが多いです。バイブレーション研磨は梨地研磨の一種で、鏡面仕上げのような光沢や映り込みが少なく、遠目から見ると落ち着いた雰囲気になります。研磨する粒度や形状を変化させることで、細かいものから粗いものまで自在に加工を行えます。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!バイブレーション研磨の用途と特徴バイブレーション研磨の特徴は以下の通りです。・光の反射が少ない・落ち着いた雰囲気と上質感がある・傷が目立ちにくいバイブレーション研磨は、ランダムな方向の模様が入るように、粗く研磨しています。手で触れても研磨の感触は少ないものの、見た目で分かるくらいの模様が施されています。光沢を抑えて研磨している分、光の反射は少なく、落ち着いた雰囲気を与えられるのが特徴です。また、鏡面仕上げやヘアライン仕上げと違って、キレイであったり規則性があったりする模様ではないので、傷が目立ちにくいのもポイントです。ただし、傷が目立ちにくいからといっても、研磨目の薄いバイブレーション研磨の場合は、傷や指紋が入りやすいので注意してください。バイブレーション研磨は、落ち着いた雰囲気と上質感があること、傷が目立ちにくいなどの特徴から、主にエレベーターやキッチン、建築建材の内外装などに採用されています。汎用的な研磨方法のため、材質はステンレス・チタン・アルミ・銅・真鍮と幅広いほか、角パイプ・丸パイプ・アングル・チャンネルなどの形鋼にも対応できます。バイブレーション研磨の種類ステンレスのバイブレーション研磨には、No.2B・BA・#400・#700・No.8などがあります。ここでは代表的な「2Bバイブレーション」と「BAバイブレーション」についてご紹介します。2Bバイブレーション2Bバイブレーションは、もっとも広く使用されているバイブレーション研磨のことで、やや光沢のある仕上がりが特徴です。2Bとは、「No.2B」の略で使われているステンレス材です。2Bは、冷間圧延後、焼鈍→酸洗で仕上げた「No.2D」の材料に、スキンパス圧延を施したものです。スキンパス圧延とは、冷間圧延後に焼きなましした鋼板に施される軽い圧延のことで、調質圧延とも呼ばれています。ステンレスの表面仕上げは、No.2以外にもNo.1~8までありますが、数字が大きくなるほど光沢のある仕上げになります。#400などについても、数値が大きいほうが、細かい目になり、光沢のある仕上げになります。参考:鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!BAバイブレーションBAバイブレーションは、2Bバイブレーションより少し光沢があるバイブレーション研磨です。BAとは、冷間圧延後に光輝焼鈍(無酸化焼鈍)を行ったステンレス材のことを指します。光輝焼鈍は、焼きなましを大気中ではなく、不活性ガスや中性ガスの中で行い、酸化皮膜の生成を防ぎ、光沢を維持しながら焼きなましをする手法です。

  • 三価クロメートとは?種類や特徴、六価クロメートとの違い

    三価クロメートは、ヨーロッパなどで使用禁止となっているクロメート処理の代替として採用されている表面処理です。主に亜鉛めっきの防錆性能の向上や外観の色調変化などが目的で、通常は亜鉛めっきとセットで行われています。自動車や電気・電子、建築など、幅広い分野で使用されており、身近な例では、青銀色や黄金色、黒色のネジ・ボルト・ナット類が挙げられます。この記事では、三価クロメートとは何かというところから、種類や特徴、類似の加工方法であるクロメート処理(六価クロメート)やクロムめっきとの違いについて解説していきます。三価クロメートとは三価クロメートとは、三価クロムを含むものの六価クロムは含まない溶液に金属を浸すことによって、金属表面で化学反応を起こし、金属表面に防食効果などを発揮する皮膜を形成する化成処理のことです。「三価クロム化成処理」や「クロメートフリー処理」「とも呼ばれます。詳しくは後述しますが、単にクロメート処理と言う場合、六価クロムで皮膜を形成する化成処理を指します。しかし、この六価クロムは、生体に有害で、欧州などで規制されていることから、現在はクロメート処理から六価クロムを含まないクロメートフリー処理へと移行が進んでいます。そのため、最近では、クロメート処理を「六価クロメート処理」と六価クロムを用いることを明示して呼称したり、記述したりすることが多くなっています。三価クロメートの適用対象は、主に亜鉛めっきや亜鉛合金めっきが施された鋼材や金属製品で、めっきの後処理として施されるのが三価クロメートです(上図参照)。具体的には、溶融亜鉛めっきや電気亜鉛めっきが施されたもの、ガルバリウム鋼、ガルタイト鋼(ガルファン鋼)が素材のものなどが挙げられ、これらのめっき製品には、六価クロメート処理と三価クロメートのどちらかが適用されています。なお、ガルバリウム鋼とガルタイト鋼は、下表のめっき浴成分によってめっき処理された鋼です。<ガルバリウム鋼(溶融55%アルミニウム-亜鉛合金めっき鋼)のめっき浴>構成成分AlSiAl, Si, Zn以外の元素Zn成分量 (%)50.0~60.01.0~3.05.0以下残部<ガルタイト鋼(溶融亜鉛-5%アルミニウム合金めっき鋼)のめっき浴>構成成分AlAl, Zn以外の元素Zn成分量 (%)4.0~5.51.0以下残部三価クロメートの用途は、亜鉛めっきや亜鉛合金めっきの用途とほとんど同じで、自動車や輸送機器、電気機器、建築部材、事務機などと幅広い分野に及んでいます。特に、自動車や電機などの輸出企業が取り扱う製品は、欧州市場などを考慮して、三価クロメートへの切り替えが進んでいます。しかし、建材・建築などの市場が国内中心の企業は、未だ六価クロメートが適用された製品を使用しています。三価クロメートの効果三価クロメートの主な効果は、耐食性の向上と外観の色調変化です。そもそも、その下地である亜鉛めっきには、以下のような優れた効果があります。▼鉄の表面を物理的に被覆して、腐食原因となる水と酸素を鉄の表面から遮断する。▼中性環境で酸化皮膜を形成し、良好な耐食性を発揮する。▼鉄の身代わりとなって錆びる犠牲的防食作用が働くため、亜鉛めっき皮膜にキズが生じて鉄素地が一部露出しても、防錆効果を発揮する。▼めっき処理の直後は、銀色(光沢のある灰色)を呈する。▼複雑な形状でも、均一な厚さでめっき皮膜を形成することができる。▼コストが低い。▼量産加工が容易。しかし、亜鉛めっきは、大気中で使用していると、時間経過とともに酸化皮膜が厚くなって光沢を失います。さらに、大気が汚染されていたり、湿度が高かったりするような腐食環境下では、亜鉛自身の腐食によって白錆を生成します。その点、亜鉛めっきの上に三価クロメートを施すと、その化成皮膜が空気に対して反応性のないバリヤー層として亜鉛めっきを保護する上、亜鉛の白錆発生も長期間防止するため、高い防錆効果が期待できます。また、三価クロメートの処理液や処理時間などを制御することによって、外観の色調をある程度変化させることが可能です。亜鉛めっき直後の銀色そのままの色調から、青白い色、淡い黄色、黒色というように、いくつかの色調を付与することができます。そのほか、三価クロメートには、以下のような効果もあります。▼塗料などの密着性向上。▼耐指紋性や防汚性が向上。▼亜鉛めっきのみよりも電気抵抗は高いが、導通性は維持される。三価クロメートの表記六価クロメートの表記がJIS規格(JIS H 8625:1993)にて定められているのに対し、三価クロメートの表記は、規定されていません。そのため、現状は六価クロメートのJIS規格に従って表記し、注釈として「三価クロメート」や「TC(Trivalent Chromate)」などと追記することが標準的となっています。例えば、電気めっきで鉄生地に8μm厚の亜鉛をめっきした後、淡黄色の三価クロメートを施す場合は、下記のように記述します。Ep-Fe/Zn 8/CM1B(三価クロメート)なお、「Ep」は電気めっきを表す記号で、クロメート処理(六価クロメート)の記号「CM」は色調によって下表のような種類があります。<クロメート皮膜の種類と表記・色合い>クロメート皮膜の種類記号代表的色合い光沢CM1A透明, 青味のある透明淡黄色CM1B淡黄色の干渉模様黄色CM2C黄色の干渉模様緑色CM2Dオリーブ, グリーン, ブロンズ, 褐色なお、三価クロメートと六価クロメートの双方に黒色のクロメート処理がありますが、これもJIS規格に規定されていないので、下記のように「三価黒クロメート」などと追記することになります。・Ep-Fe/Zn 8(三価黒クロメート)三価クロムめっきとの違い三価クロメートと類似した言葉に「三価クロムめっき」がありますが、三価クロムめっきはめっき処理を指すため、化成処理を指す三価クロメートとは全く異なります。三価クロムめっきは、三価クロムが安定的に存在するめっき浴に金属を浸し、電流を流すことで、金属表面にクロムのめっき皮膜を生成する表面処理法です。実際、三価クロムめっきと三価クロメートは、下表のように皮膜の化学組成が大きく異なります。ただし、下表の皮膜の化学組成は、一例であり、めっきはめっき浴に、化成処理は処理剤によって異なります。なお、三価クロメートの黒色以外の処理剤には、有機酸を含有する有機系とシリカを含有する無機シリカ系があります。<三価クロムめっきと三価クロメートの皮膜の化学組成>皮膜の種類三価クロムめっき皮膜三価クロム化成皮膜無機シリカ系有機系皮膜の化学組成Cr:91.3%C:2.7%O:2.0%S:4.0%Cr:20%O:55%Zn:20%Si:微量Co:微量Cr:22%O:55%Zn:18%C:5%Co:微量三価クロメートの種類と特徴三価クロメートは、色調の違いにより、大きく「三価白」と「三価黒」の2種類に分けられます。その色調の違いは、化成処理の処理剤や処理時間などによってコントロールされています。ただし、同じ色の処理剤でも、その成分や処理条件などは、処理剤によって異なります。そのため、処理剤のメーカーによって、色調も変わってくるので注意が必要です。三価白三価白は、銀色、青白色(青みを帯びた銀色)または淡黃色(黄みを帯びた銀色)の色調となるように調整された三価クロメートです。「三価白クロメート」や「三価ホワイト」とも呼ばれます。銀色となるのは、三価クロム化成皮膜が0.02~0.05μm程度と薄く、クリアー(透明色)で、亜鉛めっきの色調がそのまま現れるように調整された三価クロメートです。「三価無色クロメート」と呼ばれることがあります。青白色となるのは、三価クロム化成皮膜が0.05~0.3μm程度の厚みで、六価クロメートで青白色となる「ユニクロ」の代替となっている三価クロメートです。「三価ユニクロ」や「三価光沢クロメート」とも呼ばれています。淡黃色となるのは、三価クロム化成皮膜の膜厚を0.2~0.5μm程度とした三価クロメートです。「三価有色クロメート」とも呼ばれます。このように、三価白は、膜厚によって、銀色、青白色、淡黄色と色調が変化します。膜厚は耐食性にも影響し、皮膜が厚いほど、耐食性が高くなるという特徴があります。そのほか、三価白による化成皮膜は、損傷すると、皮膜中の成分と露出した亜鉛が反応し、自己修復する機能も備えています。三価黒三価黒は、黒色となるように調整された三価クロメートです。その処理剤に添加された硫黄とコバルトが反応し、黒味成分となる硫化コバルトへ変化することによって黒色が実現されています。「三価黒クロメート」や「三価ブラック」とも呼ばれます。三価黒による化成皮膜は、0.2~0.5μm程度の厚さです。この膜厚は、三価有色クロメートと同程度であることから、耐食性についても三価有色クロメートと同水準となっています。ただし、化成皮膜の表面は、微小な凹凸を形成するため、光が反射しにくく、光沢のないマットな仕上がりとなります。また、耐傷性が低いという欠点もあります。そのため、三価黒の化成皮膜には、多くの場合、三価黒の後処理としてクリアー塗装を施して、透明な塗膜でコーティングを行います。それにより、耐傷性を高めるとともに、光沢を付与して、光沢感のある美麗な黒色を実現しています。三価クロメートの種類と名称以上の三価クロメートの種類と名称をまとめると下表のようになります。<三価クロメートの名称と種類一覧>クロム化成処理の名称クロム化成処理の種類処理の名称色調三価クロメートクロメートフリー処理三価クロム化成処理三価白三価白クロメート三価ホワイト三価無色クロメート銀色三価ユニクロ三価光沢クロメート青白色三価有色クロメート淡黄色三価黒三価黒クロメート三価ブラック黒色三価クロメートと六価クロメートの違い三価クロメートと六価クロメートの違いは、六価クロムの有無です。六価クロメートの処理液や化成皮膜は、三価クロムと六価クロムの双方を含有する一方、三価クロメートの処理液や化成皮膜は、三価クロムは含むものの、六価クロムはほぼ含有していません。毒性の有無上述したように、六価クロムは人体に対して強い毒性を示す一方、三価クロムには、毒性はありません。六価クロムは、接触や吸引、摂取によって、皮膚炎や皮膚潰瘍、吐き気、嘔吐、下痢などを引き起こし、消化器系に対しては胃腸炎・胃癌・大腸癌・肝臓障害、呼吸器系に対しては気道炎・呼吸障害・肺癌の原因となります。従って、六価クロメートの処理液については、作業者への付着はもちろん、周囲への飛散も避けることが必要です。処理液から水分が蒸発し、粉末状となった六価クロムが空気中に浮遊することがあるからです。地下に浸透し、井戸水などを汚染する可能性もあります。一方、三価クロムには、全く毒性はなく、自然界の河川や海洋などにも存在している物質です。有毒どころか、人間にとっては必須ミネラルであると考えられており、欠乏症ともなると糖の代謝異常を起こすとされています。参考:クロムの毒性(三価・六価)を解説規制の有無六価クロムは、世界の多くの国で使用禁止となっていますが、三価クロムの使用を禁止している国はありません。六価クロムは、下表で説明しているELV指令やWEEE指令、RoHS指令が施行されて以降、欧州連合(EU)域内で規制されています。<欧州連合(EU)域内の六価クロム規制>法令名施行年月内容ELV指令2000年10月自動車の廃棄処分時、製造者は、鉛・水銀・カドミウム・六価クロムを含む部品は取り外して保管し、環境に影響を与えないよう、再利用または処理しなくてはならない。2003年7月1日以降、市場に流通する自動車および自動車部品は、鉛・水銀・カドミウム・六価クロムを含有してはならない。WEEE指令2005年8月電気・電子機器の廃棄処分時、製造者は、六価クロムなどの有害物質を環境に影響を与えないように廃製品から除去しなくてはならない。RoHS指令2006年7月電気・電子機器の製造段階での、六価クロムなどの6つの有害物質の使用を原則禁止。2019年7月4つの有害物質が追加されて、合計10つの有害物質の使用を原則禁止。つまり、EU域内では、六価クロメートが使用された自動車や電気・電子機器は販売できません。ただし、どのような物質でも完全にゼロにすることは不可能なので、上表の法令でも最大許容含有量が定められています。その中で六価クロムは、0.1wt%(1000ppm)が最大許容含有量です。参考:RoHS指令について詳細を解説!対象範囲についてもご紹介!そのほか、中国や韓国、タイ、ベトナム、米国カリフォルニア州などにも、RoHS指令と類似の規制が存在します。一方、日本では、六価クロムの使用が禁止されているわけではありませんが、下表のような法令および基準が存在するため、六価クロムの取り扱いには注意が必要です。なお、下表は国の法令・基準であり、自治体によっては、より詳細で厳しい基準を条例で定めている場合があります。<日本における六価クロム規制>法令名基準名対象基準値環境基本法環境基準公共用水域 (注1)0.05mg/L以下 (注2)地下水0.05mg/L以下水質汚濁防止法排水基準工場排水など0.5mg/L以下土壌汚染対策法土壌環境基準土壌0.05mg/L以下注1. 公共用水域とは、河川や湖沼、海域、用水路などの公共利用のための水域や水路のこと。注2. 2022年4月1日から0.02mg/Lに改正。ただし、三価クロメートについても、硫酸クロム・硝酸クロム・酢酸クロムといった三価クロム化合物、硫酸コバルトといったコバルト化合物、硫酸ニッケルといったニッケル化合物など、多様な化学物質を処理液に含みます。そのため、これらの化学物質を含有する排水には、適切な処理が必要不可欠です。そして、その結果生じるスラッジからは、有効活用できる物質は最大限リサイクルし、廃棄物の量を最小限化することが必須となります。また、これらの化学物質は、PRTR(化学物質排出移動量届出)制度に基づく第1種指定化学物質に指定されています。PRTR制度は、これらの化学物質の排出量などを規制するものではありませんが、公共用水域や土壌といった環境への排出量と廃棄物としての外部への移動量を国に届け出することが義務付けられています。さらに、届出データは国によって公表されることになっているため、事業者は、化学物質を適正に管理することが重要です。色調の違い三価クロメートと六価クロメートでは、実現可能な色調も異なります。下表は、三価クロメートと六価クロメートの実現可能な色調をまとめたものです。六価クロメートの色調には、三価クロメートの色調にはない緑色などが存在し、六価クロメートの方が色調のバリエーションが多くなっています。また、それぞれの色調も、六価クロメートの方が鮮やかだったり、光沢が強かったりするなど、六価クロメートの方が優れているとされています。しかし、近年では、三価クロメートでも六価クロメートの色調をほぼ実現できるようになっているほか、三価クロメートで下表の色調以外の色調も表現できるようになっています。<三価クロメートと六価クロメートの色調>クロム化成処理の名称クロム化成処理の種類処理の名称色調三価クロメートクロメートフリー処理三価クロム化成処理三価白三価白クロメート三価ホワイト三価無色クロメート銀色三価ユニクロ三価光沢クロメート青白色三価有色クロメート淡黄色三価黒三価黒クロメート三価ブラック黒色六価クロメートクロメート処理六価クロム化成処理光沢クロメートユニクロ銀色青白色淡黄色有色クロメート黄色黄金色虹色緑色クロメート緑色褐色黒色クロメート黒色耐食性の違い耐食性について、三価クロメートは、六価クロメートと比べて同等か、上回るとされています。下表は、三価クロム化成皮膜と六価クロム化成皮膜に対し、5%濃度の塩水を吹き付けたときの白錆発生までの時間を記載したものです。下表から、無色または光沢の化成皮膜では、三価クロメートの方が六価クロメートよりも耐食性が高く、有色や黒色の化成皮膜でも、三価クロメートは、六価クロメートと比べて同等以上の耐食性を示しています。<三価クロメートと六価クロメートの白錆発生にかかる時間>色調の種類塩水(5%濃度)噴霧時の白錆発生までの時間三価クロメート六価クロメート無色 (銀色), 光沢 (青白色)72〜120時間24〜72時間有色120〜360時間120〜240時間緑色ー240時間以上黒色120〜240時間120〜240時間また、三価クロム化成皮膜は、六価クロム化成皮膜に比べて、高温時の耐食性が高いという特徴があります。六価クロム化成皮膜は、約70℃以上の高温で皮膜にクラックが発生し、耐食性が著しく低下します。一方、三価クロム化成皮膜は、約200℃の高温でもクラックが発生しにくく、それ故に耐食性の低下が起こりません。自己修復機能の違い上述した三価クロム化成皮膜の自己修復機能は、六価クロム化成皮膜にも備わっており、六価クロム化成皮膜の自己修復機能の方が効果が高いとされています。六価クロム化成皮膜の自己修復機能は、六価クロムによって実現されます。六価クロム化成皮膜では、皮膜が傷付いた場合でも、六価クロムが溶出して露出した亜鉛めっきを被覆し、その部分を化成皮膜に変化させます。そのため、六価クロム化成皮膜では、色調に関わらず、自己修復機能が働きます。一方、三価クロム化成皮膜では、皮膜中の成分が亜鉛めっきと成膜反応を起こすことで、皮膜が再生されます。この成膜反応の反応性は、三価白クロメートの有機系で高く、無機シリカ系では低いために、有機系の方が自己修復機能の効果が高くなっています。なお、三価黒クロメートの化成皮膜には、自己修復機能はありません。コストの違い三価クロメートは、以下のような理由から、六価クロメートと比べると高コストになるとされています。●三価クロメートが六価クロメートよりも高コストになる理由・三価クロメートの処理剤が高価。・厳密なpH管理の必要性から処理液の管理が難しく、成膜反応が遅いことから処理時間も長くなるため、処理コストが高い。しかし、近年、六価クロメートから三価クロメートへの代替が進展したことで、三価クロメートのコストは低下してきており、需要が多い色調・性能の三価クロメートでは、六価クロメートと同程度のコストとなっています。ただし、需要の少ない色調の三価クロメートはまだ割高であり、トップコートなどで性能を高めた三価クロメートは、当然ながら高コストです。三価クロム化成皮膜からの六価クロムの溶出について以上のように、三価クロメートは、六価クロメートと様々な違いはあるものの、新たな処理剤の開発や処理方法の高度化、需要増によるコスト低下などにより、六価クロメートの代替としての役割を十分に果たしつつあります。しかし、三価クロム化成皮膜にコバルトを含有している場合、皮膜に六価クロムが含まれることがあります。これは、皮膜への水分の浸透などによってコバルトが不安定化して三価クロムを酸化し、六価クロムへと変化させることがあるからです。そして、三価クロム化成皮膜から六価クロムが溶出してしまう事例も発生しており、その対策が処理剤のメーカーなどにより進められています。ただし、注意点として、六価クロムが溶出した事例についても、その量はRoHS指令などで規定された最大許容含有量よりも微量であるため、特に規制に抵触したわけではなく、欧州などでの販売ができなくなったわけではありません。なお、このコバルトの不安定化は、以下のように不安定化の原因を排除することによって抑制することができます。●コバルトの不安定化を抑制する方法・三価クロム化成皮膜中のコバルト濃度の低減。・三価クロム化成皮膜のクラック発生の抑制。・三価クロム化成皮膜への水分の浸透を防止。そして、これらの実現には、以下のような対策が効果的です。・三価クロメートの処理液中のコバルト濃度を下げることで、皮膜中のコバルト濃度の低減が可能。・三価クロメートの処理時間を短くし、処理温度を下げることで、皮膜中のコバルト濃度の低減が可能。・三価クロム化成皮膜の乾燥温度を低くすることで、皮膜のクラック発生の低減が可能。・高温多湿環境下での保管や使用を禁止することで、皮膜への水分の浸透を防止することが可能。・三価クロメートの処理液にコバルトの酸化抑制剤を加えることで、コバルトの不安定化の抑制が可能。三価クロメートの処理剤の各メーカーは、これらを元に処理剤の改良を進めているほか、コバルトを含まない処理剤やクロム自体をも含まない処理剤の開発にも着手しています。

  • 円筒研削とは?種類やメリット・デメリットを解説

    金属加工の中でも高速で回転する研磨砥石を用いた加工方法のことを研削加工と呼んでいます。工具を用いて金属を削り取っていく切削加工や、工作物に研磨工具を押し当てて削っていく研磨とは異なる方法として分けられています。研削加工の中には平面研削や内面研削など、さまざまな種類がありますが、その中でも円筒状の工作物を制作するのに用いられる「円筒加工」についてご紹介します。円筒加工の種類やメリットについても詳しく解説していくので、円筒状の工作物を制作したい方は、ぜひ参考にしてください。円筒研削とは?円筒研削は、回転する研削砥石に対し、反対方向に回転する工作物を当てて外面を研削する加工方法のことで、一般的に円筒状の工作物を加工する際に用いられます。仕上がりの寸法精度が、旋盤やフライスによる加工に比べてはるかに高い特徴を持っています。高速回転する研削砥石に対し、工作物を押し当てるだけで、全体的に整った寸法の製品が出来上がります。主に、円筒軸や段つき軸、テーパ軸などの加工に用いられます。円筒研削の種類円筒研削は、大きく3種類に分けられます。それぞれの特徴を解説します。トラバース研削トラバース研削は、砥石を工作物の軸方向に平行移動させながら研削を行います。何度も往復することで表面を均等に整える加工方法です。長さが砥石よりも長く、段差がないものを加工するのに適しています。また、重量が重く移動させるのが難しい工作物に対しては、砥石台を移動指せるタイプのトラバース研削も使用されるようになっています。●トラバース研削のメリットトラバース研削の魅力は加工面の仕上がりの美しさ。非常に精度が高く、鏡面加工が施された円筒を作ることが可能です。●トラバース研削のデメリット加工物が長くなると、中央がたわみやすくなるため加工精度に注意が必要です。また、シャフトが回転するときに摩擦抵抗が大きくなり、シールが切れて油漏れに繋がるトラブルが比較的高い頻度で起こります。プランジ研削回転している加工物に対し、砥石を垂直に押し当てていく加工方法です。砥石や加工物をスライドさせずに研削するため、工作物や砥石の幅よりも短いものや長いものの一部を削るのに適しています。また、切削効率が良いため、量産部品の加工に向いています。●プランジ研削のメリット左右に動かず、砥石に対して工作物をしっかりと押し当てることができるため、力が強く伝わり、効率よく研削できる点が大きなメリットです。また、動力効率が良いため機械へのダメージが少なく、耐久性が高い点も魅力的です。●プランジ研削のデメリット砥石の幅を超えるワークの切削はできません。また、深い穴などの加工をする際、チップが詰まってしまうことがあるため、切り屑の排出方法を検討する必要があります。アンギュラ研削アンギュラスライド、アングルスライドとも呼ばれる加工法で、砥石に対して斜めの位置から研削を行う切削方法のことを言います。●アンギュラ研削のメリット斜めの角度に設定されていることにより、工作物の円筒部だけでなく、端面も同時に加工することが可能です。さらに、平面だけでなく、段付きのワークも効率的に削ることができ、部品全体の加工を短時間で終えることが可能です。●アンギュラ研削のデメリットトラバース研削のような鏡面の美しさや、高精度の製品に仕上げることは難しく、凹凸の加工も高い制度や細かい凹凸を実現することはできません。加工には一般的にNC装置が用いられますが、動きのプログラムが複雑になる上、経年劣化による補正値も考慮に入れなければならないため、大量生産時には注意が必要です。円筒研削のメリットとデメリットそれぞれの研削方法によっても異なる特徴があり、それぞれに違ったメリット、デメリットがありますが、総じて円筒研削は、数ある研削の中でも精度が高く幅広い素材の加工に適応します。また、溝などがあっても加工が可能です。一方で、動きや加工範囲には制限があり、一定以上に自由度を高めようとすると精度や仕上がりの質が下がってしまいます。また、時間がかかる加工ということもあり、生産性がなかなか上がらないため、大量生産には向いていない点もデメリットと言えます。