DX導入を進める浜石製作所がやってきたこと・目指すこと

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Mitsuri|インタビュー

近年注目されているDX化。これはIT技術やデータを使ってビジネスモデルやサービスを変革し、高めていくことです。

愛知県豊川市にある浜石製作所も、DX導入をしている工場の一つ。工場の省人化を目指して日々挑戦を続ける製作所です。

今回は浜石製作所で行ってきた、DX導入に向けて現場がやっていること・やってきたことについて話を伺ってきました。

浜石製作所がDX導入をした経緯

DXを導入した経緯を教えてください。

梅本

私たちのミッションは、「未来の製造業をつくる」ことです。
この50年でIT革命がおこり、情報技術が民主化されていきました。情報を届ける費用がゼロになり、無料で文章や音楽、動画を楽しむことができて、私たちの生活はどんどん豊かになっています。これから30年のITは、デジタルだけでなくアナログの世界にも影響を与えていくことになるでしょう。たとえば、AIやロボットが移動や農業、医療など、進化が遅かった世界を良い方向に変えていきます。

私たちのビジョンは、その土台となる製造業をつくりかえて、全産業の限界費用をゼロにしていくことです。
私どものミッションである“未来の製造業をつくる”をモットーに、無人工場を作り、人類の生活水準を向上させることを目指すためにDX導入をするに至りました。

浜石製作所が目指す、工場省人化とは?

DX導入と言っても行う業務は幅広くあると思いますが、浜石製作所が目指している「工場の省人化」とは一体どういうものなんでしょうか。

梅本

今、浜石製作所が目指している工場の省人化は、今まで人が行っていた単純作業をコンピュータに任せ、できるだけ人間でしかできない仕事に注力してもらうことです。
そのためにさまざまなツールやソフトを用いて、今まで人が行っていた作業を徐々に移行していってます。

DX導入が決定した際、現場の方々の意向や意見の食い違いはありましたか。

梅本

浜石製作所の人たちはDX導入に前向きな方たちなので、導入に対する意見の食い違いみたいなものはありませんでした。
業務を進めていく上で最終的な目標がバラバラだと、どうしても一緒に作業することが困難になる場面が出てくると思います。浜石製作所ではそういった目標のすり合わせが序盤からスムーズに行えたので、現場の方々の新しいことを学ぶ姿勢には感謝しています。

DX導入の下準備と変えたこと

DX導入する上で、まずは何から始めたのでしょうか。

梅本

まずは社長の大石と現場加工者で工場内の現状ヒアリング調査から始めました。現場の状況を理解することで、どの工程を自動化できるか思索しやすくするためです。

具体的なヒアリング内容はどのような流れで行いましたか。

梅本

内容は、工具の種類、段取り、加工方法、検査、梱包、発送といった、製作〜納品までの細かい工程を一通り把握するための内容です。
これらの流れから、まずはどの工程が自動化できるかを思案し、DX導入が始まりました。

段取り:以前はバイスとハリの2通りの方法を使っていましたが、今はバイスがメインです。こちらは挟むだけなので加工範囲の制限がありますが、より簡単かつ時短で操作ができます。
現在は加工範囲の制限を広げるための治具を試行錯誤しながら作っています。
CAM:Catallaxy以前は手動で作成していました。浜石製作所にあるNC機械は3軸なので部品の加工面によって段取り数(材料の向きを変えること)が変わるのですが、自動で作成されたCAMとGコードを利用する場合、形状加工を一段取りで加工しなければいけないという制限があります。
現在は段取り数を減らすための治具作りを進めています。
検査:以前は加工ごとに図面通りになっているかヒトが紙の図面を目視で確認していました。このことにより、紙の図面を管理する手間や図面を探す時間が発生してしまいます。さらに図面と案件が紐づいていなかったため、記憶の範囲内でしか図面を出せませんでした。
現在は、
①mitsuriに案件が作成される(お客様が作成された図面)
②mitsuriのシステム内で二次元バーコードが作成されるので、それをプリントアウト

③材料にクリップで二次元バーコードを貼りつけして管理しています。

検査の際にスマートフォンで二次元バーコードを読み込むと、案件の詳細が閲覧できるページに遷移するので、ワンステップで図面や納期といった必要な情報が確認できるようになりました。
梱包:梱包に関しては、これから新たなシステムを導入していきたいと考えているところです。
現段階では、商品を緩衝材で巻きダンボールに入れています。箱に隙間ができるような小さい部品のときは、箱の中でズレが生じないよう、さらに開いたところに緩衝材を詰めています。
梱包は人の手で一から行っているので、いずれ自動化したいですね。大手ECサイトのような梱包が理想です。小さな部品もビニールでカチッと固定すればいいので、緩衝材を入れる手間が省けます。また、梱包材の削減をすることで部品の原価も削減できますし。

(大手ECサイト梱包例)

発送:以前までは住所、名前、電話番号といった配送に必要な情報を手動で入力していたため時間と手間がかかっていました。
現在は外部配送サービスを利用しています。先ほどの検査で出てきた二次元バーコードから送り状を印刷のためのcsvをダウンロードし、外部配送サービスにアップロードするだけで、納品先の必要情報が記載された送り状がプリントアウトできます。最後に印刷した送り状をダンボールにそのまま貼れば完了するので、納品先の情報記入の工数が省けました。

一つひとつの作業内容を細かくヒアリングをして、改善すべきところを最適化していっているんですね。ヒアリングの内容の他にもDX化した仕事内容はありますか。

梅本

現場のヒアリング調査の次に、CAD・CAMのソフトウェアの比較を行いました。自動でプログラム操作ができるかどうかを吟味し、それが可能なソフトを導入しました。
また、CAMの自動化も行っていて、形状に合わせた工具の条件を自動で設定しています。

あとは工場内の整理を行いました。使っていない工具や棚を処分して導線の確保をすることで、人がものを探す時間を減らし、一部品作るまでの人の動きを整理するためです。小さなことかもしれませんが、仕事場を整理して現場のみんなが働きやすくなってくれればよいです。

現在進めている取り組み

現在進めているDX導入はどのようなことでしょうか。

梅本

現在進めている作業は、人件費・機械の稼働時間の計測です。

なぜ人件費の計測を行っているのでしょうか。

梅本

そもそもDXは加工に関わる製造原価の低下を目的とするためであり、その中で最も大きな費用は人件費であると考えています。そのため部品一つにどのくらいの人たちが関わっているかを数値として知るために、まずは人件費の計測を実施することにしました。計測しないと、今のやり方で人件費が高くなっているのか安くなっているのかわからないからです。

梅本

具体的な計測方法は、先ほどお話しした検査作業でも使っている、二次元バーコードを使って計測しています。段取りを始める際には加工指示書を見ながら作業するのが基本ですが、浜石製作所では材料についている二次元バーコードをスマホで読み込むと表示されます。指示書にアクセスすると開いた時刻が自動で記録される仕組みになっているので、段取り〜加工終了までの時間のログが取れます。
さらに検査と梱包作業の際にも、二次元バーコードを読み取れば、それぞれ検査図面と配送情報にアクセスした時刻が記録されるので、段取り〜納品までにかかる時間が分かるようになりました。

(二次元バーコードを読み取ってアクセスすると↓)

(加工指示書・検査図面・発送先情報が記された画面が出る。)

普段の生活で使っている二次元バーコードを利用して人件費を計測しているんですね。マシン稼働時間の計測はどのように行っていますか。

梅本

自動化が進むと人の労働時間が減り、マシンの稼働時間が増えるはず。つまり、機械の稼働時間を測ることで、自動化が進んでいる過程がわかるんです。労働時間を短くし、機械稼働時間が長くなって売り上げも上がれば、自動化は成功といえるでしょう。
稼働中・完了・エラーをシステムが検知し、ランプを点灯させて、計測する仕組みを作りました。

(パトランプ)

梅本

この方法を導入してから、機械の加工時間はもちろん、段取りの時間も把握できるようになりました。1日のマシンの稼働時間から加工時間と検査時間を引けば、段取りにかかった時間がわかる仕組みですね。
現在は工場内にある4つのマシンのうち3つ導入していますが、今後は全てのマシンに導入する予定です。

DX導入開始から現在までにかかった時間

DX導入から現在までの作業に、大体どのくらいの時間がかかりましたか。

梅本

完全にDXの導入が完了したわけではありません。完成比率は10~20%程度ですかね。上記の工程を全て終えたのに大体9ヶ月ほどかかりました。
現在は切削・旋盤をメインで自動化を行っています。板金や溶接なども導入していきたいと考えていますが、どこまで自動化を導入していくかはまだ明確ではありません。材料によって加工の方法は変わりますし、やれることは無限にあると考えていますので。

DX導入を始めて変わったこと、成果の向上

DX導入を開始してから変わったことや、成果の向上など、日々の業務で感じることはありますか。

梅本

まず、反復作業が減りましたね。大きなところでいうと、先ほどお話した配送情報の入力の手間が省けました。
他にも、材料支給がある案件の場合、以前は材料がいつ届くかを生産管理画面で確認していましたが、その画面は手動で材料到着順に並び替えなければいけませんでした。
現在は当日届く物をチャットツールに通知するようにしたので、当日にどの材料が来るのか簡単に確認できるようになっています。

確認するための作業が減ると、業務の取り掛かりもよりスムーズになりそうですよね。人の労働時間や納品までの時間短縮などはありましたか。

梅本

労働時間や納品までの時間が短縮されているかどうかは現在検証中なので、具体的な数字はわかりません。今は自動で出力したCAMやGコードを試すために、あえて長い納期のものを受けているんです。そのため、自動化した結果、労働時間や納品までの時間の削減がわかるのはもう少し先になるかと思います。

DX導入する上で大変なこと、難しかった作業

DX導入をするにあたって、大変だったことや難しかったことはありますか。

梅本

僕の場合は、製造に関しての知識がほぼ0だったので加工技術の理解が大変でした。
また、実際の現場で加工をしている人たちの中には、パソコンを全く触っていない人たちも多いようなので、効率よくパソコン操作を行うのがむずかしいと感じる人も最初はいるかもしれません。

現場加工者の方たちが大変だったと感じたところはなんでしょうか。

梅本

現場の方たちで工具の選定は加工者同士で議論になることがあります。マシンに取り付けられている工具は加工内容によって、コーティングや刃物の種類を変えなければいけません。この工具の選定方法が人によって考え方が異なるため議論になってしまいますね。
新しい工具を使いたいという意欲旺盛な方(良いことです!)もいるので、意見をまとめるのに時間がかかるケースもあります。

その他には何かありますか。

梅本

自動でCAMを作る上で、毎回CAM作成ソフトの動き方を見ながら条件を指定することが難しいと感じています。自分がしたい削り方を自動で行えるように設定するのが特に難しいですね。
また、最近導入したNC旋盤のテンプレート作りにも難儀しました。テンプレートとは工具の設定をまとめたものなのですが、一から自動化のためのテンプレートを作ったので時間がかかりましたね。現在も不具合があるので都度直しながら進めています。

DXを導入する上で大切だと感じたこと

これからDX導入をする方に向けて、何かアドバイスなどありましたら教えてください。

梅本


一番大切だと感じたのは、
現状のヒアリングを丁寧にやっていくことですね。今行っている加工開始から納品までの流れが最適かどうか、最適であったら自動化できるところはないか、改善すべきところがあればどのように直していけば良いのか考えながら現場の調査をしていました。
また、ヒアリングしただけでは気づけないこともあるので、揮役と現場の人たちが同じ空間で一緒に作業することも大切です。現場で当たり前のように手作業で行っていた仕事が、実は自動化できることだったりしたので。さらに、一緒に仕事をしていく中で、こちらから自動化できる内容を提案したり、現場からも逆に提案してもらえたりできたら最高ですね。

今後の目標、DX導入のゴールとは?

浜石製作所の今後の目標を教えてください。

梅本

最終的には、浜石製作所のような無人工場が全国的に増えていくことが目標です。工場勤務は3Kと言われているように、世間的にはキツい仕事と思っている方もまだまだ多いかと思いますが、我々はそういったマイナスなイメージを払拭したいと考えています。自動化が進んだ工場が増えればもっと働きやすくなるので、製作工場に対するネガティブなイメージも少し改善できるかなと思っています。
そのためにはまず、浜石製作所で自動化に向けての施策を日々重ねていきたいですね。

工場を省人化したら働いている人たちはどうするのか、という疑問を持っている方もいるかと思います。現場の方々の今後についてはどのように考えていますか。

梅本

あくまで僕の希望ですが、今後自動化した工場が増えて全国展開した時に、浜石製作所にいる方たちは自動化の指導ができるような立場になっていて欲しいと考えています。そういった輪がもっと広まれば、日本中で自動化した工場がもっと広まっていくでしょうし。そうなれば最終的な目標である、無人工場を全国に増やすという目標達成にも大きく繋がっていけるのかなと思います。

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