ヘリサート及びスプリューとは、樹脂やアルミ材のような柔らかい素材にねじ込むコイル型のインサートのことです。
どちらも同等の性能を有していますが、メーカーによって名前が異なります。株式会社ツガミのインサートを「ヘリサート(新モデル名:E-サート)」、日本スプリュー株式会社のインサートを「スプリュー」と呼びます。
今回は、ヘリサート(スプリュー)の母材への挿入方法と抜き取り方、挿入工具の使い方について解説します。
ヘリサート(スプリュー)の挿入工程
ここではヘリサート(スプリュー)の挿入工程について解説します。挿入工程には、ヘリサートに合ったサイズの下穴開け用ドリル、タップ、挿入工具、下穴寸法をチェックするためのプラグゲージ、タングの折取工具が必要です。
タップ下穴を開ける
まずはヘリサートおよびスプリューを挿入するための下穴を開けます。
下穴を開けるときはヘリサートのサイズに合う寸法のドリルを使用し、真っ直ぐに穴を開けましょう。
ヘリサートタップ加工時の下穴径と深さ
ヘリサートタップは止まり穴の場合、以下の計算式を使ってドリル穴のもっとも浅い深さを算出してください。
ドリル穴の最小深さ算出式
S=Lb+2.5P
S:ドリル穴のもっとも浅い深さ
Lb:インサートの呼び長さ
P:ねじのピッチ
例:M10-1.5×2DNS(標準インサート・ノッチあり・ステンレス製)のE-サート(旧ヘリサート)を使用する場合は、Lb=10×2=20。P=1.5のため、S=20+2.5×1.5=23.75となり、止まり穴の場合、この寸法以上の深さが必要です。
算出式の参考:株式会社三友精機 Eサート(旧ヘリサート)挿入方法
下穴のサイズはヘリサートとスプリューの製品サイズ一覧に記載されている通りです。参考にヘリサートのサイズ一覧表を以下に掲載します。スプリューのサイズ一覧については、日本スプリュー株式会社の【スプリューサイズ表】をご確認ください。
・メートルねじのE-サート(ヘリサート)サイズ一覧
・ユニファイねじ・カメラ三脚・左ねじ、ユニファイ8山シリーズ・内燃機関用スパークプラグのE-サート(ヘリサート)サイズ一覧
引用元:株式会社三友精機 E-サート(ヘリサート)サイズ一覧
タップを立てる
下穴を開けたあとは専用のタップを使ってめねじを切ります。このとき、ヘリサートを使う場合はヘリサート専用のタップを、スプリューを使う場合はスプリュー専用のタップを使用してください。また、タップを立てるときは、傾いたり芯が外れたりしないように注意してください。
ヘリサートゲージで下穴寸法のチェック
タップを立てたあとは、一般的なめねじをチェックするのと同様に、プラグゲージを用いて下穴寸法をチェックします。
ヘリサートの下穴寸法が正常に切られていないと、ヘリサートの挿入後にトラブルが発生する恐れがあるので、プラグゲージでの確認を行うようにしましょう。
プラグゲージに搭載されている通りゲージが無理なく通り、止まりゲージが2回転を超えてねじ込めないようなら合格です。
ヘリサートの挿入
ヘリサート(スプリュー)のそれぞれに合った専用工具を用いてヘリサート(スプリュー)を挿入します。このとき、トラブルがないように必ずサイズに合った専用工具を使うようにしましょう。挿入状況は専用工具の案内めねじすり割り部から確認できます。
挿入が完了したら、工具を真上に抜きます。各製品の専用工具の使い方については後述します。
タングの折り取り
ヘリサート(スプリュー)の挿入後、専用工具を用いてタングの折り取りを行います。このとき、タングレスインサートを使用していてタングがない場合、止まり穴などでボルトがタングに当たらない場合は、タングを折り取る必要はありません。
タングの折り取りを行う際も、ヘリサートはヘリサート専用の折取工具を、スプリューはスプリュー専用の折取工具を使うのが原則です。
・E-サート(ヘリサート)タング折取工具
・スプリュータング折取工具(マグネット付き)
どちらも専用工具の先端をタングに当て、頭部をハンマーで短打することで折ることができます。
ヘリサートの挿入工具と使い方
ここでは代表的なヘリサートの挿入工具と使い方について解説します。
電動挿入システム(SANYU INSERTER SYSTEM)
電動挿入システムは、挿入工具・電動ドライバー・垂直アームをセットにする事で、
誰でも簡単にヘリサートの挿入が行える工具です。
使用範囲は下表を参照ください。
種類 | 使用サイズ | 適用ピッチ |
SANYU INSERTER SYSTEM | M3~M6 | 並目 |
SANYU INSERTER SYSTEM | M6~M16 | 並目 |
挿入工具の先端にヘリサートを取り付け、挿入工具を母材のねじ穴にあてがいながら、電動ドライバーのスイッチレバーを握ることで、ヘリサートが挿入できます。一定の位置まで挿入すると、工具が自動で反転し、ねじ穴から抜けるように設計されています。
P型挿入工具、P2型挿入工具、P3型挿入工具(ねじ式挿入工具)
P型、P2型、P3型の特徴や適用サイズについては下表の通りです。
挿入工具の種類 | 特徴 | 適用サイズ (ねじの呼び) |
P型挿入工具 | 初心者でも容易に挿入できる一般的な挿入工具 | M2.5~M52(並目、細目) |
P2型挿入工具 | 大型の細目用 特にM16以上の細目、極細目ねじの挿入に最適 | M14~M52(細目) |
P3型挿入工具 | P型挿入工具のマンドレル先端形状を、ねじ状にした挿入工具 ピッチ飛びなどのトラブルを防止できる | M3~M12(並目、細目) |
P型、P2型、P3型は、工具の軸であるマンドレルを引き上げてから、タング側を先端にした状態のヘリサートをスリーブの窓にセットして使います。
この状態で挿入工具をタップ穴に垂直にあてがい、ハンドルを時計回りに回すと、ヘリサートをタップ穴に挿入できます。
このとき、マンドレルを押すとピッチ飛びの原因になるので注意してください。
S型挿入工具
S型挿入工具は、案内ねじの無い簡易挿入工具で、M6以上の並目ねじの挿入に使用します。
ヘリサートのタング側を先端にしてマンドレルの溝に挟み、次に工具をタップ穴に垂直にあてがいながら、ハンドルを回すことでヘリサートを挿入できます。
スプリューの挿入工具と使い方
ここではスプリューの挿入工具と使い方について解説します。工具の使用方法は概ねヘリサートの専用工具と同じです。
INP型挿入工具
INP型挿入工具は、本体にアルミ素材を採用した、軽量かつ丈夫な挿入工具です。上図の(1)にガイドめねじがあり、初心者の方から慣れた方まで使いやすい特徴があります。
INP型挿入工具の使い方は以下の通りです。
1.ガイドめねじ側にタングが来るようにスプリューを(2)の窓にセットします。
2.(3)のマンドレル先端のすり割り部分にタングをはめ込み、ハンドルを時計回りに回します。
3.スプリューがガイドめねじ部に絞りこまれたら、挿入工具をタップ穴に垂直にあてがいます。
4.ハンドルを時計回りに回して、ヘリサートをタップ穴に挿入します。
始めの2、3個は注意しながら挿入し、深さが決まったらストッパー(4)の位置を固定しましょう。ストッパーを固定すると、次から挿入するスプリューの深さを一定にすることができます。
INS型挿入工具
INS型挿入工具は、M6以上の並目ねじに使用する挿入工具です。
INS型はガイドめねじがなく、スプリューを直接母材に挿入するため、簡易挿入用として使えますが、安定して挿入するには慣れが必要です。
INS型挿入工具の使い方は以下の通りです。
1.スプリューのタングがあるほうを下にして挿入工具のスリーブにセットします。
2.タングをマンドレルの先端スリワリ部に挟み、めねじにあてがいます。
3.スプリューがめねじに食い込んだ状態で挿入工具のハンドルを回すと、スプリューが母材に挿入されます。
SET-400電動挿入工具
SET-400電動挿入工具は、マンドレルがねじ式機構になっている挿入工具です。
ピッチ飛びがなく、スピーディーに作業を行えます。
SET-400電動挿入工具の使い方は以下の通りです。
1.タングを先端方向に位置した状態でスプリューをポケットに挿入し、母材にガイドめねじをあてがいます。
2.挿入工具を垂直にした状態で本体上部にあるレバーを操作し、スプリューを挿入します。
スプリューの適用サイズについては以下の通りです。
M2.5-0.45
M2.6-0.45
M3-0.5
M4-0.7
M5-0.8
M6-1.0
小径サイズ挿入工具
小径サイズ挿入工具は、その名前の通り、小径サイズのスプリューを挿入するのに使用する工具です。
マンドレル先端の切り欠き部を両端に加工しており、一方が磨耗したら逆に入れ替えて使用することもできます。
小径サイズ挿入工具のモデルの種類は、M2-0.4とU#2-56があります。
ヘリサートの取り外し方・抜き方
ヘリサート(スプリュー)は、一度挿入したら基本的には抜き取ることはありません。しかし、挿入を失敗した場合など、何かしらの理由で抜き取らなければならない場合は以下の手順を参考にしてみてください。
工具を挿入
ヘリサート、もしくはスプリューを抜き取りたい場合、それぞれのメーカーの抜取工具を使用します。
まず、抜取工具の刃をヘリサート(スプリュー)に強く押さえつけるように挿入します。
ヘリサートを抜き取る
抜取工具を反時計回りに回してヘリサート(スプリュー)を抜き取ります。
再度挿入する際は、タップを通す
同じ穴位置にヘリサート(スプリュー)を挿入する場合は、再度タップを通します。このとき、バリなどがないことを確認してから、新しいヘリサート(スプリュー)を挿入するようにしてください。
ヘリサート(スプリュー)は、先細ペンチで反時計回りに回して取り外すことも可能です。しかし、基本的に専用工具以外での抜き取りは、ねじ山を潰す原因となるので避けてください。